海に入っていいですか?
高台からおりて、先ほどの貝殻やさんに行く。
お互いに自分が思う海の色を選んで交換した。
私の宝物がまた増えた。
胸元のネックレスをぎゅっと握る。
そのあとギルド依頼任務場所に向かった。
なんと海には浜辺というサラサラの砂でできた場所があるらしい。
手からこぼれ落ちるくらいサラサラなんだって。
ワクワクする。
浜辺についたとき、私はまたまた感動した。
高台から見下ろす海とはまた違う。
波がざざん、ざざんとなんども寄せてくる。
今日のギルド依頼は薬草採集というくくりだが、実際は海にいる亀のたまごの殻だそうだ。
海亀は海の中を泳ぐ亀らしい。
赤ちゃん海亀が卵から出たら殻をもらいにいくという。
ディオさんと二人で少し離れた海辺で過ごす。
赤ちゃん海亀は夜に海にかえるので、それまで浜辺で過ごすのだ。
海に沈む夕日はとても綺麗だった。
夕日の赤が海に写って、オレンジ色の海がゆらゆら揺れる。
おひさまが夕日になるまでの時間の色がディオさんの髪の色にとっても似ていると思った。
私はだまって夕日を見つめていると、突然ディオさんがローブをぬいで海に進みはじめた。
「あ、危なくないですか?」
「大丈夫大丈夫~!ランランもおいでよ~」
そういってディオさんは裾をめくってひざ下まで海につかる。
ディオさんはとっても楽しそうだ。
イフーをみるが、水は嫌いなようで近寄っては来なかった。
私はローブをぬいで裾を膝したまでめくり、足先をそっとつける。
「つ、つめたい!」
「ふふっ、海だからね~」
おそるおそるかかとまでつける。
足先の砂浜のサラサラした感覚と打ち付けては返す波の感覚がなんだか不思議だ。
もう片方の足もそっとつける。
「わっ!」
頬に水しぶきがかかる。口元にはいった水がしょっぱい。
ディオさんが海の水を手ですくって私にかけていた。
「ふふ~!海の定番だよね~!ほら、ランランもやって!」
「えぇ?いいんですか?」
「いーの、いーの!海の定番だから!」
「そう、ですか?」
ディオさんの服が濡れないようにちょこっとだけ海の水をすくってかける。
「ランラン~!そんなんじゃだめ!もっと思いっきりかけなきゃ!」
こんな風に!!
そういうとディオさんは裾を持っていた手をはなし、両手を大きく海の中に沈める。
そのときいままでよりちょっと大きな波がきて、ディオさんはバランスを崩したようにお尻から転んでしまった。
私はあわててディオさんのそばに走る。
でも、海の中はうまく進めない。不思議な感覚だ。
「やっちゃった~」
ディオさんはびしょ濡れになったのに、明るく笑っている。
「こんな風に、ですね?」
私はそういってディオさんと同じように転んでみる。
「えっ?!ランラン、何やってるの?」
「え?違いましたか?楽しそうだったから・・・。」
「あはははは!合ってるよ!」
「えへへっ」
ディオさんがあまりにも楽しそうだったので、私もなんだか楽しくなって笑う。
ディオさんは私の手をとって立ち上がる。
「誰にも見られなくてよかったね~」
「海亀さんは見てたかもしれませんよ?」
「ふふ、たしかに~」
少し離れた海亀の産卵場所の浜辺からは、小さな赤ちゃん亀が海に向かって泳いでいた。
二人で笑い合いながら、そのまま浜辺に戻る。
「風魔法で洗濯ものを乾かすなんて久しぶりだね~」といいながら、ディオさんが風魔法で乾かしてくれる。
赤ちゃん亀が海にかえったことを確認して、卵の殻をあつめる。
「ねぇ、ランラン。」
「なんでしょうか、ディオさん。」
「さっきの貝あるでしょ?貝にもたくさん種類があってね、白くて丸くて綺麗に輝く真珠という宝石をもっている貝もあるんだよ。」
「えっ、そうなんですね!あんなに美味しいのに、宝石もつくれるなんてすごいですね!」
「ふふ、そうだね。人間もね、明珠っていうフラグメンタをみんな持ってるの。自分で気づいてそれを磨けば、明るい輝きを放つの。」
「明珠が目に見えたらきっとみんな一生懸命磨くんでしょうね。」
「どうしてそう思うの?」
「キラキラしているのが目にみえたら嬉しいし、曇ってるのがみえたら悲しいし、一生懸命磨くと思いませんか?」
「ふふ、そうかもね。」
「えっと、でも見えなくてもあるものだって教えてもらったから、女神の修行を頑張ります!」
「そうだよ。見えなくてもその手の中に明珠はすでにあるんだよ~。」
そういってディオさんの手のひらが私の手のひらに重なる。
手のひらごしに感じる温かさが私の胸にじんわりと広がる。
ディオさんと同じ立場に立てる人になりたい。
そのためにもたくさんのことを教えてもらえるように、しっかり学んで行きたい。
私は暗くなった海に明るく照らす月をみながら、誓った。
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・同事といふは不違なり
・明珠在掌