風に吹かれてもいいですか?
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
ディオさんと出会って、イフーという友達ができて。
私は私という存在について考えることが増えた。
でも、思い出すのは母や父、兄弟に疎まれていたことばかり。
ディオさんと一緒にいて、ふわっとした優しい気持ちになったり、ほわっと嬉しい気持ちになったり。
そういう温かい感情を知ってしまい、私は本当に家族に疎まれ、嫌われていたんだなと改めて感じるようになってしまった。
そして、いつかディオさんも私のことを疎んで、嫌いになってしまうんじゃないかと怖くなる。
そんな感情に振り回されたくないのに、ふと思い出してつらくなる。
「明日、気分転換にでちょっと遠出の薬草採集の依頼にでかけよっか~」
私が一人で落ち込んでいるとディオさんが優しく声をかけてくれた。
「はい。」
「ふふ、じゃぁ今日は準備運動ということで湖に夜のピクニックにでかけましょ~」
すでに準備をしていたらしく、ディオさんがバスケットを持って家を出る。
私はイフーに出かけると声をかけ、ディオさんについていく。
ディオさんが黙って歩くので、私も黙ってついて歩く。
手をつなぎたいな、と思っていたらディオさんが手を握ってくれた。
とても嬉しくていつもよりぎゅっと力をこめて握り返す。
月明かりは足元を照らし、風は優しく頬を撫で虫の音を運んでくる。
湖につくとディオさんが温かいラベンダーティーをいれてくれる。
とても優しい香りと味がする。
「なんだか元気がないようにみえるけど、どうしたの?」
「・・・。」
なんていったらいいんだろう。
私はディオさんをじっと見上げる。
ディオさんのお日さまの色をした優しい瞳に私がうつっている。
私の言葉を待ってくれるディオさん。
そうだ、こんな優しくて素敵な人なのに。どうして私は怖がってしまうんだろう。
「ディオさんに嫌われたらどうしようと思ってしまって・・・。」
ディオさんは目をまるくする。
「ふふっ、ランランってば可愛いね~。そんなことあるわけないじゃん!」
そっと頭を撫でてくれる。
心がほわほわするのに、自分が情けなくて涙がでてくる。
「そんなことないって思うのに、ぐるぐると考えてしまう自分も嫌なんです。」
「心が揺れるのは誰にでもあることだから大丈夫だよ。その揺れた心をどうするか、が大切なの~」
「揺れた心をどうするか・・・ですか?」
「そう。揺れた心をすぐにもとの落ち着いた状態に戻すことが大切なんだよ。」
そしてディオさんは8つの風について教えてくれた。8つの風は全て心の中にあるクレーシャのこと。
クレーシャはフラグメンタを曇らせるものであるため、その都度払う必要があるそうだ。
こういう風が吹いて欲しい、と願う風が4つ。
1つめは利の風で、自分の利欲だけを願う心、2つめは誉の風で、誉められることに執着する心、3つめが称の風で人々から称賛されたいと願う心、4つめは楽の風で楽をしたいと願う心だそうだ。
ディオさんは私と出会うことで楽の風に囚われていたことに気付いたと話してくれた。魔法でなんでもかんでもしていたが、自分の手足を使って生活する大切さを思い出させてくれてありがとうと言ってくれた。
こういう風が吹かないでほしい、と願う風が4つ。
1つめは衰の風で気力、活力が衰えること、2つめは毀の風で他の人からけなされること、3つめは譏の風で他人からそしられること、4つめが苦の風で人生の苦難にさらされること。
私はこういう風が吹かないでほしい、と強く願っていたんだなと気づく。
ディオさんが続ける。
嬉しければ嬉しいと感じ、心をもとにもどす。
悲しければ悲しみ、心をもとにもどす。
怒るときは怒り、心をもとにもどす
「いつまでも感情を引きずると、クレーシャが生まれて、フラグメンタにも悪い影響があるからね~。それはよくないから、常に心をリフレッシュするのが大事なの~」
そういってディオさんがアロマキャンドルに火をつける。
このキャンドルに火をつけるとほのかに甘い香りがする。
「キャンドルの火をみて。どんな風が吹いてもふわりと揺れるでしょ。でも少ししたらまたもとの大きさに戻りはじめる。8つの風はね、自然の風と同じ。み~んなにフラグメンタがあるように、クレーシャもある。勝手に吹いてきちゃうの。でも、ろうそくの火と同じですぐにもとに戻れるから。振り回されちゃだめだよ。」
なんとなくだけど分かった気がする。
こくりと頷くと、ディオさんはにっこり笑う。
「嬉しいときは喜んで、悲しければ泣いて、腹がたつときは怒ってもいいの。大事なのはね、その感じている感覚を引きずらないことなの。ずっと浮かれてもいけないし、ずっと落ち込んでもだめってこと。心をコントロールする精神をちゃんと持てるように一緒に修行を頑張ろうね~」
「はい!おねがいします。」
私はぺこりと頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします」
ディオさんもぺこりと頭を下げる。
強い風が吹いて、キャンドルの火が消え、草木が揺れる。
湖にうつる月も水面が揺れてみえなくなる。
だけど、お月様は爛々と輝いている。
どんな風が吹いても変わらず輝くお月様のようになりたい、私はそう思うのだった。
「八風吹不動天辺月」をもとにしたエピソードです。
ちなみにクレーシャ=煩悩、です。
この話をどう書くか、いままでで一番悩み、難産でした・・・。
気分転換に全然関係ない短編を書いて、仕切りなおして生み出すことができました笑
よろしければ短編もご覧下さいませ♪
「百合ゲーのモブに転生したと歓喜していましたが、どうやら乙女ゲーのヒロインのようです・・・。」
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