冒険者デビューをしていいですか?
私の冒険者デビューの日がやってきた。
ディオさんがギルドで依頼された任務について行ってお手伝いする。
ちゃんと役に立てるかドキドキする。
私のデビューは薬草採集の任務だった。
ディオさんは基本的に希少な薬草を採取する任務依頼が多いそうだ。
ロッドをプレゼントしてもらったが、ディオさんは魔道士としての依頼を取る予定はいまのところないと話してくれた。
ちょっと残念だけど、薬草採集なら二人で森などの採取場所に行けばいいので、ダンジョン依頼などのように他の冒険者と顔をあわせずにすむのでほっとする。
今回は西にある泉が採取場所だ。
鬱蒼とした沼だがある時期だけは夕日がとても綺麗に差す場所だ。
夕日に照らされたときに咲く蓮から取れる種をとりに行くのだ。
移動魔法はドアからドアに限られているので、移動はディオさんが仲良くしている大きな鳥に頼んでくれた。大きな鳥はとても朱くて綺麗でうっとりする美しさだった。
「チュエ、いつもありがとうね~」
泉についてディオさんがお礼をいうと五色の美しい翼を広げてぐるっと頭の上を飛んだあとどこかにいった。
チュエさんは帰りにまた迎えにきてくれるそうだ。
まだ夕日が差すには遅い。
依頼があった薬草のほかにも使える草花を採集するといってディオさんは出かけた。
私はまだ使えるものをちゃんと探せる自信がないので、沼の蓮をじっとみていた。
ふと足元に温もりを感じる。
白くてふわふわした小さな獣が足元にいた。
「赤ちゃん猫・・・?」
私は猫をみたことがない。
でも、ディオさんがローブのフードについている三角を猫の耳だといっていた。
少なくともこの獣はディオさんのフードについているうさぎの耳よりは、猫の耳に近い。
私の足に目をとじながらすりすりと頬をつけてる姿はなんだか胸がきゅーっとする。
ふわふわな毛並みが可愛い。
手を伸ばしてちょっとだけ触ってみる。
やっぱりふわふわしてとっても気持ちいい。
赤ちゃん猫が目を開いてじっと私に向ける。
とっても綺麗な碧い瞳だ。
白の毛並みはよくみると薄い茶色で縞模様があった。
目をあわしたまま、そっと手を伸ばすと赤ちゃん猫が額を擦り付けてきた。
ディオさんがいつもしてくれるみたいに頭を撫でてみたらとっても気持ちよさそうにぐるぐると鳴いた。
「ランラン?その子はどうしたの?」
戻ってきたディオさんが私と赤ちゃん猫をじっと見る。
「ディオさん!これ、猫の赤ちゃんですよね?初めて見たんですけどとっても可愛いですね!」
赤ちゃん猫はディオさんをみると私の影に隠れる。
「猫の赤ちゃん・・・?ふふ、ランランにとても懐いてて可愛いのは確かだね~」
そのとき、ちょうど夕日が沼を照らした。
たっぷり夕日をあびた蓮が綺麗に咲いた。
無事、依頼とおりに蓮の実の薬草をとることができた。
ついでだからということで蓮の根もとった。蓮根というそうだ。
ディオさんに薬草の洗い方を教えてもらった。
いままでは水魔法でしていたそうだが、自分の手で作業をすることも修行だからということで二人で少し離れた小川まで行って手入れをした。
赤ちゃん猫は私の足元をぐるぐる回りながらついてきてとっても可愛くてきゅーっとした。
「これはね、内果皮の付いた種子なの。内面が黄白色の充実してて、緑色の芽を取り除いたものは高く売れるから別にわけてね~」
そういってディオさんが手際よく作業する。ディオさんはなんでも知っていてとても器用だ。
蓮には泥がたくさんついていて、綺麗にするのが大変だった。
蓮は手入れせずにそのまま渡してもいいが、手入れした方が買取報酬が良いため、余裕があるときは作業するようにしていると教えてくれた。
「こんなに汚れた泥の中で育つのに、泥に染まらずに綺麗な色で咲く蓮ってすごいよね~」
ディオさんがのんびり話す。
私の顔はすでに泥で汚れている。ずっと泥がたくさんある沼の中にいるのに、綺麗に咲くことができる蓮は本当にすごいと思う。
私は花よりも不器用なんだと思うと少しシュンとする。
ディオさんみたいに細かい作業が綺麗にできるようにたくさん練習しなきゃいけない。
「ランランがいてくれたおかげで助かったよ~。ありがとね~」
ディオさんが明るく笑う。
少しでも役に立てたようでほっとする。
無事に任務を達成できたということで、帰る準備をする。
私がいなくなることに気付いたのか赤ちゃん猫が鳴き始めた。
「・・・あらあら、寂しいのかな~?あなた、お母さんは?」
ディオさんが赤ちゃん猫に話しかける。
赤ちゃん猫が私の足元にきて頬を擦り付ける。
「うーん、ランランがお母さんだと思ってるみたいだねぇ。どうする?」
どうするってどういう意味かな?
私がじっと続きを待ってると、ディオさんがにこっと笑う。
「一緒に帰る?うちの子にしてもいいよ。でも、この子はランランになついてるから面倒みるのはランランになると思うけど、どうする?」
ディオさんが優しく聞いてくれた。
私は屈んで、赤ちゃん猫の瞳をじっとみる。
「・・・一緒に来たい?」
すると赤ちゃん猫がまるで返事をするように嬉しそうに鳴いた。
「この子も一緒に帰ってもいいですか?」
「いいよ~。あ、でもたぶんチュエが触れるのを嫌がると思うから、家につくまで抱っこできる?」
「・・・抱っこ、わかる?」
赤ちゃん猫に手を広げると、おとなしく寄ってきたので抱き上げる。
「ちょっと重いけど、大丈夫そうです」
ちょうど私の腕におさまるサイズだったのでよかった。
毛がふわふわしていてとっても気持良い。
「よし、じゃぁチュエを呼ぶね~。あ、その子の名前はどうする?」
「名前・・・どうする?」
じっと目を合わせる。
「・・・イフー?」
なんだか頭に浮かんだ名前で読んでみると返事をするように鳴いた。
「じゃ、その子の名前はイフーね。よろしくね!」
ディオさんがイフーと目を合わせようとするが、イフーはふいっと視線をはずす。
「あらら、イフーはランランじゃないとダメなのね~」
明るく笑うディオさん。
チュエさんが迎えにきてくれたけど、ディオさんがいったとおり、イフーに触れるのを嫌がった。
イフーもあまりチュエさんに触れたくないようなのでずっと抱っこして運んでもらった。
ギルドにつくと、ディオさんはすぐに扉から扉への転送魔法を使って私とイフーを家に送ってくれた。
私とイフーの二人でディオさんがギルドで報酬と換金している間はお留守番だ。
イフーに家の中や庭を案内してあげた。
イフーはちゃんと私の言葉がわかるようで、ついて歩いてくれた。
ときどき抱っこをせがむように鳴くので、抱っこしてあげたらぐるぐると鳴いて喜んでいた。
そうこうしているうちにディオさんが帰ってきた。
ディオさんを待っていても不安にならず、楽しい気持ちでお留守番ができたのは初めてだ。
イフーが一緒に住んでくれてよかった。
「二人共いい子でお留守番して偉い!みて、予想以上の金額で採集できたよ~」
とっても嬉しそうなディオさんの笑顔をみて、私も嬉しくなる。
「ランラン、なにかほしいものはある?」
ディオさんに言われて私は考えるけど、何も思いつかなかった。
ふるふると首をふる。
「じゃ、食べたいものは?なんでも買ってあげる!」
「えと・・・いつも作ってくれるスープが食べたいです。」
「いいけど、ほかのものでもいいんだよ?」
ほかのものを考えてみる。
ディオさんが市場で買ってきてくれる見たことのない食べ物も美味しい。
でも、やっぱり食べたいものディオさんが最初に出してくれたあの温かいスープなのだ。
なので、私はふるふると首をふる。
ディオさんは私の気持ちを聞いてくれている。
ディオさんが求めている答えと違っても怒らない優しい人だ。
それなら、私は自分の気持ちを伝えていいと思う。
「いまあるもので十分です。いつものごはんが美味しくて好きです。」
ちゃんと伝わったかな。
ドキドキしながら返事を待つ。
「ランラーン!本当に可愛いんだから!!」
ぎゅーっと強く抱きしめられる。
「ランランはすでに満ち足りていることを知っているんだね」
私はきょとんと首をかしげる。
「人はね、すでにすべて持ってるんだよ。でも、何も欲しがらなくていい事実を忘れちゃうの。でも、ランランは欲しいものはもう持ってるってことがわかってるんだなーと思って。」
よしよしと優しく頭を撫でてくれる。
「そんなこと、ないです・・・」
ディオさんに買ってほしいものがないだけだ。
欲しがっているものならある。
ずっとずっとディオさんと過ごすこの日々が続けばいいと思ってる。
一緒にいてほしいって思ってる。
私は欲だらけだと思う。
こんな私のことを知ったらディオさんはどう思うかな。
「ふふっ、そっか。足ることを知るというのは難しいものだよねぇ~」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。
私はきっとずっとディオさんと一緒にいたいっていう欲をおさえることなんてできないと思う。
修行っていうのは難しいものだなぁと思いながら、ディオさんの優しい手つきに身をゆだねる。
自分も撫でてほしい、というようにイフーが私の足元に頭を撫でつけた。
なんだか幸せだなぁとほわっとした気持ちでおわったデビュー日だった。
「譬如高原陸地不生蓮華。卑濕淤泥乃生此華。」
「知足」
今日はこの二つをテーマに書きました♪
初めてランちゃんとディオさん以外の名前のあるキャラクターが登場しました!!
評価が100PTを超えたので、お礼に番外編を書きたいな~と思ったものの・・・。
二人以外のキャラクターがいないので、どう書いても本編になるな・・・と思いまして。
登場させるかどうか悩んでいた新キャラを登場させることにしました!
ということで今日は朝と夕方の二回更新で番外編を書きます!
楽しんでもらえると嬉しいです♪
いつも本当にありがとうございます!