旅立ってもいいですか?
短編投稿しましたが、連載を目指してみることにしました・・・!
「家から出てけ!もう帰ってこなくていい!」
それが私の母の口癖だ。
今日ももうすぐ日が暮れるというところで追い出された。
父も兄弟も私の存在は無視しているので、私を庇う人はいなかった。
母が怒っている理由は仕事から帰ったときに、竈の火がおこせていなかったこと。
私は魔力がないから一人で竈の火を起こすことができないのはわかっているはずなのに・・・。
(仕事に行く前は洗濯しとけって言ってたのに…)
私は心の中で呟く。
魔力がない私は洗濯に必要な水魔法も使えないから、川と家を往復してなんとか洗濯を終え、乾いたものから取り込んで畳むのに一日かかった。
ようやく一息ついたところに母が帰ってきてさっきのセリフ。
母の激昂はとまらない。
「なんなの、その不満そうな顔は!!だいたい、本当だったらもう働きに出て稼いでるはずの年齢だっていうのに。魔力もなければ愛想もないせいで家事も仕事もできない!あんたはいらない子なんだから家から出て行って!もう帰ってこなくていい!」
そういって家の外に追いだされたあと、ガシャリと扉の鍵が締まる音がした。
もうすぐ春とはいえ、まだ寒いのに上着を羽織る暇さえなく追い出された。
「冷たい…」
そう呟いた声は白い息にそまる。
こんなことはいつものことだし、母が言っていることはもっともだ。
私の魔力がなく、生活魔法が使えないせいで家事も仕事もろくにできず、迷惑をかけているのは事実なのだから。
「…そうはいっても行くところなんてないし、どうしよう。」
いつもどおり、母の怒りがおさまれば鍵があいてるときに家に入ればまた日常に戻れるだろう。
「なんだか疲れたな…」
頑張っても頑張ってもうまくいかない。
本当に家に帰らなかったらどうなるかな?
心配してくれるかな?
少し想像してみるが、私がいない方が喜ぶだろうしか思えず、なんだか何もかもどうでも良い気分になる。
「そもそも帰りたいとも思わないな…」
とりあえず、森の入口付近で茸でもとって時間をつぶそう。
食べるものを持って帰れば怒られないかもしれない。
…もし本当に家に帰らないなら、自分で食べてもいいし。
それに森なら木が風を遮ってくれるから寒さがましになるかもしれない。
そう思って私は森に向かうことにした。
*********
森の入口できのこを採っていると、声をかけられた。
「もう日が暮れてるよ。お家に帰ったら?」
優しい声音に振り返ると綺麗なお姉さんがほほ笑みかけてくれた。
「あら、とっても可愛い~!あなたみたいな子が遅い時間に一人でいたら悪い魔獣さんに襲われちゃうよ?」
おひさまみたいな綺麗な髪。ゆるっとしたウェーブがとても似合う綺麗な人だった。
お花みたいな優しい色の瞳が私を覗き込む。
「ふふっ、遅くまでお手伝いして偉いね。」
そういって私の頭を柔らかな手が撫でる。
「・・・偉い?私が?」
びっくりして聞き返すと、女の人は楽しそうに笑った。
もう12歳なのにろくに仕事もできなくていつも怒られてばかりの私が?
「うん、偉い偉い。」
そのまま何度も私の頭を撫でてくれる。
私はなんだかとても気持ちよくて、知らない人に触られているというのに思わず目をとじてしまう。
「・・・本当に可愛い。」
そういったあと、女の人は私をぎゅっと抱きしめてきた。
「私の名前はディオッサっていうの。22歳よ。あなたは?」
「・・・ランって言います。12歳です。」
「あら!敬語も使えるのね。すごい!」
ディオッサさんがにこにこ褒めてくれる。
「私なんて全然すごくないです・・・。」
私は褒めてもらえるような人間なんかじゃない。
何もできなくて親にさえ嫌われている存在だ。
「ううん、すごいよ!ランちゃんは可愛くてすごい!」
そういってまた抱きしめられる。
なんだか不思議な人だ。
実の親とでさえ、うまくコミュニケーションがとれないのに。
人と会話が続くなんてどれくらいぶりだろう。
「そんな可愛いランちゃんはここで何してるの?」
「えっと、追い出されて行くとこがなくて・・・。」
「まぁ!ひどい奉公先ね。こんな可愛い子を追い出すなんて信じられない!」
奉公先じゃなくて、実の母ですとはなんだか言いづらい。
仕事につけていない上に実の母にも大切にされないなんて恥ずかしい・・・。
「でも、こんな時間に女の子一人じゃ危ないよ。一人で帰るのが怖いなら一緒に謝りにいってあげようか?」
「・・・帰りたくない、です。」
だって、いま帰っても怒られるだけだ。
それにきのこもまたほんのちょっとしか採れてないから、機嫌をとることもできない。
「うーん・・・行くところがないなら、とりあえず私のテントに来る?」
「・・・いいんですか?」
本当は暗いのは怖いし、嫌いだから一緒にいてくれる人がいたら嬉しい。
私がもっと小さいときは押入れに閉じ込められるのがお仕置きだったから。
暗いところで一人でいるのは苦手だった。
「送っていってもいいんだけど、奉公先は謝ったら許してくれるところじゃないんでしょ?」
「・・・なんでわかるんですか?」
「わかるよ」
こんな格好で外に出すなんて、そういってディオッサさんは自分の外套を私にかけてくれた。
「うぅ・・・っ」
私の目からポロポロと涙がこぼれるのを感じた。
ディオッサさんは黙って私の背中を撫でてくれる。
「わ、私のこと要らないって。もう帰ってくるなって・・・。もうずっと何年も言われてるの・・・。」
「そっか。」
「も、もう帰りたくない。あそこは私の家じゃないの・・・。」
ディオッサさんは何も言わずに私が泣き止むまでずっと背中を撫で続けてくれる。
そうか、私は帰りたくなかったのか。
あの家を自分の家だと思ってなかったのか。
自分の言葉にひどく納得したのだった。
******
ディオッサさんのテントに一緒にいった。
ディオッサさんの魔力でテントの中は快適な空間が作られている。
ディオッサさんはミルクを取り出すと火魔法を使って温めてくれた。
ミルクなんて珍しいものではないが、役に立たない私はもうずっと飲み物は井戸水だけだった。
「ランちゃんって、とても美味しそうに飲んでくれるから嬉しい~」
そういってディオッサさんはにこにこ笑う。
「・・・晩ご飯食べてなかったから。」
本当は昼ご飯も食べてない。私は役に立たない家族だから、朝と晩に余り物を食べる程度なのだ。それも余り物だから冷たくなったものばかり。
温かいものを口にいれるなんてどれくらいぶりだろう。
「え、そうだったの?そんな時間からあそこにいたんだ。寒かったでしょ。」
そういってまた頭を撫でてくれ、保温魔法をかけたブランケットをかけてくれた。
温かいパンとスープも出してくれた。
「私ね、一人でいろんなところを旅してるんだ~。帰るところがないならランちゃんも一緒に来る?」
「・・・私、魔力もないし何にも役に立たないですよ?」
「ランちゃんがいたら楽しいし、十分だよ!一人ぼっち同士だし、仲良くしよ!こんなに可愛いランちゃんと一緒に旅ができるなんて私ってばラッキー!」
「可愛くなんか・・・。ディオッサさんの方が可愛くて綺麗で優しいです!あの、ディオッサさんが良ければ、ついていってもいいですか・・・?」
「・・・可愛いー!!!!もちろんだよー!!よろしくね、ランラン!」
「ラ、ランラン?」
「ランラン!可愛いでしょ?私のことはディオって呼んでね。」
そういってぎゅーっと抱きしめてくれた。
たくさんの家族といてもいつも寂しくて孤独だった。
でも、ディオさんといたら全然寂しくない。
もう、あの家に帰らなくていいんだ・・・。
ディオさんの腕の中で私はひどく安心した。
「今日は私のベッドで一緒に寝よ!明日はランちゃんに必要なものを揃えようね!可愛いお洋服も用意しなきゃ!明日が楽しみだね~」
「・・・はい!」
明日が楽しみなんていつぶりだろう。
毎日つらくて、何もできない自分が情けなかった。
家族の役にたちたくて必死に頑張っても結果がでなくてつらかった。
でも、今日からは何もできない私と一緒にいるだけで嬉しそうにしてくれる人がいる。
私は生まれて初めてとても幸せな気持ちで眠りについたのだった。
連載、がんばります・・・!