将棋がやりたい
小雨でもお構いなしにやってくる隣のじーさん。もはや日課となっている将棋の対局のお時間だ。
「佐々木のじーさん! 今日もやるべ!」
「今日も来よったな山下のじーさんめ!」
安い将棋盤に駒を並べ、脇には煎餅と緑茶を置く。もはや当たり前と化した日常だ。じーさん二人はこの時間の為に毎日生きていると言っても過言では無い。
「佐々木のじーさんよ……駒が足りんぞ?」
並べ終わった二人の駒は、飛車と角と王の部分だけがポッカリと穴が空いている。これでは将棋は出来そうに無い。
「しまったぞい。この前孫が来たときにガチャガチャにされたから、その時無くしてしまったか!?」
慌てて辺りを探し始めるも、駒は見付かる気配が無い。
「……仕方ないのぅ」
佐々木のじーさんは孫が忘れていった小さなブロックの玩具の箱をガサゴソと漁り始めた。
「ほれ」
飛車の位置に置かれたターバンを巻いた男の玩具。角の位置に置かれた忍者。そして王の位置に置かれたウニの玩具。山下のじーさんはその見慣れぬ光景に違和感しか感じなかった。
「もうちょっとマシなモン無かったのか?」
「龍になったら頭にヘルメットを着けるべ。忍者は馬になったら手裏剣握らせるから」
そして始まる不思議な将棋。インド人と忍者を捌いて相手のウニを取れば勝ち。駒は奇抜だがいつもの将棋には間違いは無い。
「なんだっぺ、また熊さんかえ?」
山下のじーさんは将棋盤の隅へとウニを動かし銀で蓋をした。隅っこでひっそりと佇むウニは鉄壁の守りに囲まれ誰の手にも触れることが出来ない。居飛車穴熊と呼ばれる一昔に絶対的な猛威を揮った戦法である。今は居インド人穴ウニ戦法となっているが……。
一方の佐々木のじーさんは飛車を真ん中に構えゴキゲン中飛車と呼ばれる戦法を取っていた。まぁ今はゴキゲン中インド人戦法だが……。
序盤にお互い忍者を交換し、隙あらば敵陣に忍者を忍び込ませようとする。守りで多くの駒を使っている居飛車穴熊に対する佐々木のじーさんの狙いだ。
山下のじーさんのインド人を銀桂で防ぎ、そして敵陣中央突破を狙う佐々木のじーさんのインド人。
「むむっ! インド人め……!」
山下のじーさんの敵陣を突破し『龍』に成った佐々木のじーさんのインド人は頭にヘルメットを被り虎視眈々とウニを狙う。
「隙あり」
ところが今度はお留守になった佐々木のじーさんの陣地に忍者が忍び込んだ!!
「アイエエエエ!」
次々と駒を食い尽くす忍者。そしてヘルメットインド人と手裏剣忍者が佐々木のじーさんのウニへあと一歩のところまで迫った!!
「終盤の混戦で穴熊の絶対に王手が掛からない安心感に絶望するが良いぞ!」
佐々木のじーさんのウニはあっと言う間に丸裸にされ、後は実を食べるのみとなった。
「―――じぃじ!」
その時、小さな乱入者が戦場へと現れた!
鼻水を垂らしアホ面をした幼い孫は将棋盤のインド人を素早く奪い取り盤面を破壊し尽くした!
「こ、コラ!」
「ひょひょ、コレじゃあ勝負はお流れじゃのぅ……」
「佐々木のじーさんめ! ズルいぞ!」
「ひょひょひょ! 何とでも言えい」
今日もじーさん二人は幸せに過ごしたという…………
読んで頂きましてありがとうございました!!