思い出の墓場
アルバムを開くと、懐かしい高校生活が蘇ってきた。ああ、佐々木は今何してるかな。宮部も元気でやってっかな。友達の顔が次々に頭に浮かんだ。輪矢が横からアルバムを覗き込む。
「これがー!お父さん!?」
「そうだよ〜。これがお父さんだよー。」
「全然違うー!」
「お前もいつか俺みたいなおっさんになるんだぜー!」
「いやだー!」
容赦のない輪矢の言いようにくすっと笑ってしまった。このやろう。
ふと、交通事故で亡くなったクラスの委員長の事が思い出された。青春の真っ盛り。いつも友達と遊んでいたようなあの頃に、彼は若くして死んだ。何やら、子供を庇ったなどと聞いている。善良な人間程早く死が訪れるというのは、あながち間違いでもないのかもしれない。
どこに載っているだろうか。パラパラとページをめくる。ああ、いた。
写真を見ると委員長、草生が、時間の止まった笑顔で写っていた。あいつ、向こうで元気にやってるかな。
ふと、墓参りにでも行こうかと考えた。
「なあ、輪矢。墓参りに行かないか?父さんの古い友達なんだけどさ。」
「んー?いいよー、どの人ー?」
「これだよ。」
輪矢は在りし日の草生をじーっと見つめる。なにか思うところがあったのだろうか?
「どうしたんだ?」
「んー?いや、この人うれしいだろうなって。」
「なんでだい?」
「だって、お父さん。この人の事、覚えてるじゃん。」
「まあ、そりゃあ普通に仲良かったし。」
「誰だって、人に忘れられたら悲しいよ。」
その言葉を言った輪矢の顔が、なんだか別人みたいでハッとした。大人っぽくなったのか。いや、そんなものでは無くてもっと宗教的な…
「って、お母さんが良く言ってるじゃん!」
「ん、え?、ああ。」
なんだ、そういうことか。嫁さんはワンピースが好きだからなぁ。
車で10分。その霊園に彼は眠っている。道中で花を買い、線香は輪矢が得意げに倉庫から持ち出してきた。水道の脇に置いてある柄杓を手に取り、蛇口をひねる。構えたバケツの水は、みるみるいっぱいになり、重くて持てなくなったために少し水を捨てることになった。
「もーちーたーいー!」
「うーん。まあ、いいだろう、一回だけな。」
ぷるぷると歯を食いしばって輪矢は上に力を込めていたが、俺でもようやく片手で持てるくらいなのに、持てるわけもなく、早々諦めていた。
「お父さん、すごいねー、力持ち、!」
少し息を切らしながら輪矢が言う。
「そりゃあな、大人になったら輪矢も持てるようになるさ。」
草生の墓に行くと、隣にすでに先客がいた。白髪のおばあさんだ。墓を水で洗う姿はとても若々しく、外見は70代ほどかと私に思わせた。
「こんにちは。」
隣に行くところで軽く挨拶する。
「ああ、こんにちは。」
「毎日来られているんですか?」
にこやかに挨拶を返してくれたので、続けてみる。
「ええ、私は年寄りだからねぇ。」
「はあ、でも、年寄りだからってどうして?」
「なんでって、忘れないようによ。私の中で、まだこの人は生き続けている。そうも思っていたいしねえ。」
そう言うおばあさんの顔になんだかデジャヴュを感じた。そうだ。さっきの輪矢の顔となんだか雰囲気がそっくりじゃないか。
ふっと、視線を輪矢に移す。しかし、彼はこちらに背を向けて熱心に草むしりに勤しんでいたため、表情は分からなかった。
「そっちの子はあんたの友達かい?」
「はい、事故で…」
「そうかいそうかい。あんたも年寄りには見えんし、若かったろうにねぇ。」
「残念です。」
「忘れずに、一ヶ月に一回は来ておやりよ。」
そう言って、おばあさんは蛇口のある方へと帰っていってしまった。いつの間にやら雑草は無くなっており、輪矢が墓石をゴシゴシやっていた。
「わー!輪矢、ごめんよ。おばあさんと話し込んじゃっててね。」
「もーう、あとはお父さんやってよ!」
「わーったわーった。」
そうこうして、帰路につく。
「お父さん、楽しかったね!」
「えぇ、楽しいって…お墓で…」
そりゃないだろと軽く思いつつ、ガレージに車を収めた。
「あら。おかえりなさい。どこ行ってきたの?」
「お墓参り。草生のな。」
「誰それ?」
あれ、妻と俺は高校で出会ったから知っているはず。忘れたのかな。
「ほら、事故で死んだ。一回話題になったろ?」
「うん?覚えてないなぁ。卒アル出してくるから見せてよ。」
「ん、ああ。」
卒アルなら俺の部屋のが早いと思うのだが。しかし妻は割と熱心に探しているようなのでそっとしておく。
「あった!」
「お、おっけおっけ。えーっとね。」
そこで俺はありえない物を見た。草生が居ない。写真に。どこにも。
「っれ、おかしいなぁ。」
「やっぱあなたの考え違いだったんじゃない?」
「いやいや、そんなはずない。絶対居た。俺仲良かったもん。」
「はぁ。じゃあ見つかったら教えて。夕飯の準備してくる。」
今度は自分の卒アルを見てみる。いる。しっかり。おかしい。じゃあなんで妻の卒アルには草生が居ないんだ…
そこで、お墓のおばあさんの言った事が浮かんだ。
「私の中で、この人は生き続けている。そう思いたいしねぇ。」
なんだ。そういうことか。
妻はもう草生を殺したんだ。
最近短編にハマっています。プロットも楽でいいし、長編は筆が重いし…
それはさておき、今回のテーマは死です。人の死とその人の存在の死って第一人者側からしてみれば、どうなのか、まだ私は死んだことが無いので分かりかねますが、幽霊や葬式や墓参りといった概念があり続ける以上、第三者視点では、死んでもまだ記憶の中で死にきっていないのではないでしょうか。
そういう意味での「思い出の墓場」。いかがだったでしょうか。




