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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

骨女は偽装結婚した先で出会う。

作者: おふとぅん

毎日食べている。

来る日も来る日も油で揚げた芋や砂糖をまぶしたドーナツ、乳脂で作ったクリームをたっぷりつけたケーキやバターを混ぜ込んだ野菜。

間食も忘れず、寝る前には必ず砂糖菓子と飴入りのお茶を飲んでいる。

普通なら完全に肥え太る生活を送っているというのに、一向に私の身体はどうしても太らない。何をしても太らない。

ガリガリな手足にアバラの浮いた腹。今年で18にもなる私はデビュタントもすませた立派なレディだ。

侯爵令嬢……それが私の肩書であるにもかかわらず、未だ婚約者もいないのは、この不細工といっていいほどの顔と体、あまりに高すぎる肩書が原因だった。

貴族の娘というのは他家に預け渡されることが存在意義としてある。

預け渡すというのは、正妻になるか、愛人になるか、どちらにしろ身分や安全等を保証され、契約に基づいてその肉体で尽し、その見返りに実家に利益を運ぶ役割がある。

だからこそ貴族の女は、健康な体と精神を育み、無礼でないよう礼儀作法を学び、主の意向のままに行動できるよう識力を得る。


であるから、私はどう贔屓目に見ても”渡されたくない”女であった。

顔はいくら化粧をしても隠し切れない隈とたるみがある。

髪は綺麗に整えてもらっているから美しくはあるかもしれないが、同じ色の眉毛が他人と同じサイズである為、太く見えてしまう。剃ると眉毛から顔に焦点が移動して残念さが際立つ。出っ歯はチャームポイントにもならない。

少しぶつかれば軽く転んでしまいそうになり、下手に支えると折れそうな不安がある。事実何度か折れた事がある。

何より子を授かっても産める可能性が薄い。月のものは来ていても、私の体は出産に耐えられないだろう事は自他ともに理解するところであった。

公爵や王族等の上位のものは美姫にしか興味がなく、下位のものは侯爵の娘を誤って殺してしまっては外聞が悪いどころの話ではない。

幸いであったのは、貴族にしては異例な程両親の仲が良く、子にも愛を注いでくれる人たちであったという事だろうか。

結婚などせずとも家にいてよいと彼らは言ってくれている。

デビュタント以前も以降も外に出ず、病弱と発表されている私は確かにもうどうしようもなく処女(家から出ない女)として生きていくしかないのだろう。

だからと言って努力を怠っていいわけではない。自堕落に生活しては、両親に目さえ合わせられなくなるだろう。

私は食べる。食べて太り、せめて折れない体になることを目指す。

筋肉も鍛えるが、あまりやりすぎると倒れたり折れたり嘔吐したりするので少しだ。それでもないよりはいい。


そんな事をして生活していると、なんと私に第4王子との婚約の話が舞い込んできた。

一も二もなく頷きたがったがあまりにも都合のいい内容に、両親も私も怪しんで調べると、どうやら愛した女性が平民のようである。これは確かに子もいらないし奉仕もいらない。いるだけで良いというのは虚言ではなく本当のようだ。いわば偽装結婚という事だろう。

なにより上位からの話だ。断りようもない。


そういう訳で私は第4王子のタルステート・ヴィラルド・メヒロス様、愛称タール様と婚約後結婚を致しました。スピード婚でしたので怪しむ貴族も多い中、私は実家の役に立てたと安心し、新たな家の中での関係を構築すべく、侍女らに積極的に話しかけました。旦那様のご両親は国王とその側妃ですので結婚式以降会うことはありません。なにより私は病弱設定。謁見する事も出来ない無力な存在でなければならないのです。

自室は正妻のために誂えられた部屋で、本当の奥様は客室が宛がわれているがほとんど旦那様の部屋で過ごしているそう。

不足なく愛し合っているようで何よりだと私もニコニコする毎日です。


今日も私は食べます。流石に実家の頃ほどではありませんが、砂糖菓子等の贅沢は許してもらっています。

私の食事はなるべく重いものを用意してもらい、時折庭に出て散歩をする日々。

趣味の詩集を東屋で読み、隣の薔薇園を見れば、恋人たちが逢瀬を楽しんでいる。旦那様とリーズ様だ。

リーズ様は平民ではあるが、旦那様の実質の正妻であるので私も敬意を払う。彼女はそんなことをしなくてもいいというが、これをしなければタール様からの心象が悪くなり、そのまま家の関係まで悪くなってはことであると納得してもらっている。

穏やかだ。家にいた時はどこか焦りがあった。誰の役にも立てない自分に憤りもした。

それが今やお二方の生活を守る事が出来て、家の負担にならず、寧ろ王家に繋ぎが出来るまでになった。

なんと幸福な事だろう。

それを思うと、お二方にはこのまま幸せに過ごしてもらう事を願わずにはいられない。

よく本には3年目に飽きるとか、ふとした瞬間に愛が冷めるといった不穏な事が書かれているが、そうならない事を神に祈ってしまう。

どうかどうか、お二方が愛し愛され、幸福であるように……。



「奥様、あまり外に出られていてはお身体が冷えてしまいます。」


遠くから歩いてきた筋骨隆々な騎士団長が影を伸ばして跪く。

精悍な顔立ちと逞しい体躯は私とは正反対だ。3倍……いや、5倍は肉体差があるだろうか。

彼だ。彼だけが今の私の生活を脅かす。

事あるごとに私の前に現れ、体を慮っては強い目力で私を見てくる。

生きる力の強い目だ。私とは正反対の目。思わずそこに吸い込まれるような、そんな目を彼はしていた。

彼に見られると私の喉は乾いてしまい、喋るだけでも体力を使う。それほど圧倒的なのだ。故に彼から見た私はすぐに死んでしまいそうで不安なのだろう。


「……ええ、そうですね。そろそろ自室に戻ろうかと思っていたところです。ありがとうございます、ガランド騎士団長。」

「とんでもございません。奥様の憩いのお邪魔をしてしまい申し訳ございませんでした。」


そうして頭を下げる姿は、相手がリーズ様や美姫であれば絵になるだろうと思うと、自分がとても場違いな人間なのだと思ってしまうから不思議だ。それが容姿に対しての劣等感だとは分かっているのだが、どうしても頭に過ぎってしまう。私はすぐに心の整理をつけ、冷静に立ち上がって「室に戻ります。」と侍女に本を持たせて跪く彼の横を過ぎる。後ろで立ち上がる気配がすると、私が見えなくなるまで見ている。

第4王子につけられた騎士団は、国王の近衛騎士団から抜粋したもの数名と、国軍からなっている。

騎士団長は勿論、元近衛騎士だ。

近衛騎士とは貴族の子弟がなるもので、平の近衛騎士は指揮する力があれば肉体的実力がなくても良い名誉職である。肉体まで鍛えている者は稀であり、そういった者は王の護衛で近くに侍るからガランド様が第4王子につけられたのは本当に名誉な事だ。

勿論第1、第2、第3王子にも同等の者はつけられている。実力の高い者は国王の元だとしても、最高でもガランド様は5本の指に入る実力者なのだ。

旦那様は私と結婚の際、国王直轄の領地を貰って引きこもる……程ではないが、権力闘争から逃れて過ごしている。領地は辺境ほどではないがそこそこに魔物が出る土地。

つまるところ、国王様はリーズ様との事をご存じなのであった。

そして彼女が身重である事も。

子どもは私の子とは認められない為、飼い殺しか、引き取りか、落とし胤として子とするか……。まあ落胤でしょうね。引き取るには子が優秀な上に他家を盥回しにする必要がありますから不確定要素にすぎます。

その場合、他の貴族につけ入る隙を与えないようにしなければなりません。王族から落ちたとはいえ、それでも王族の血が平民ととはゴシップ好きが大いに煽るでしょう。

子が産まれる予定は私の誕生日と同じ月。

うまくすれば隠すことができるでしょう。



とか思っていたら私の誕生日と同じ日にリーズ様が産気づきました。

旦那様はそちらにかかりきりになりますので、プレゼントなどの対応は全て私が行う事になります。

侍女も侍従も大忙しで対応です。

ようやっと終わった頃にはとっぷりと日も暮れて、子も無事に産まれたとの報告があり、安心しました。

次は誕生日のお祝いです。それは勿論私のではなく、生まれた子の誕生祝いです。

リーズ様はお疲れでしょうし、お子様も生まれたばかりなので一瞬しか見れないでしょうが、それでも喜ばしい日です。

疲れている従者たちを全て使ってお花を飾り、料理人には食べやすいリーズ様用のお夕飯と、旦那様のために歓びの食事を頂いてもらわなければ。

プレゼントの用意が楽な日にご出産なされて、私は歓喜に湧きました。


「奥様。」


「……ガランド騎士団長?いかがいたしましたか?」


「お誕生日おめでとうございます。」


「ええ、ありがとうございます。」


私はニッコリと笑って返しました。

ガランドはお世話したい系男子です。

無力な女に欲情する性癖ですが、本人は種無しです。

そんなお話です。

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