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王美麗

命乞いもしないで祖父に刺し殺された母。

娘の写真を手渡す。最後の思いを込めた瞳。

拒否できない一念を受け取ってしまった祖父。


祖父はその思いを一生握り締めて死を迎えた。

免罪符。今ここに全てを水に流すことが

できるのだろうか?


静江は人の多さにペンダントを双橋川に捨

てるのをやめて引き返した。足は自然と

染物作業場へ向かっていた。


かめに入った大きな酒蔵の隣に染物工場が

あって手作業で反物ごと染め上げ天空に

何枚も日干ししている。


さっきは団体と一緒だったが今一人ゆっくりと

染め工場をながめ歩いた。一部屋ごとに染めの

手順が展示してある。


一番奥に庭があって、さらにその奥には人が住

んでいる。いい匂いがする夕食の支度だろうか。


軒下でおばあさんが編み物をしている。そっと

近づいてロケットの写真を見せた。

おばあさんは微笑んで、


「可愛いね、娘さんかい?」

と言った。静江は遊覧券の裏に大きく、


『王美麗』

と書いた。おばあさんは笑みながら文字を見つめ、

そのままうなづいて奥の部屋を指差した。


『まさか?』

ゆっくりと静江は奥の部屋に入った。台所で中年

のおばさんが炊事をしている。静江に気付いて、


「なに?ちょっとまってね」

とおばさんは言って、手を拭きながらこちらに出

てくる。間違いない王美麗さんだ。


静江の眼からどっと涙があふれてきた。声にならない。

「どうしたの娘さん?日本人?」

うなづきながら静江はロケットを手渡した。


美麗さんはじっと中の写真を見る。顔を近づけて

じっと見つめる。静江は遊覧券の裏に書いた

王美麗の字を指で示した。


今度は美麗さんの瞳が潤んできた。外に出て、

姉さん来てと叫んで二人で写真をのぞき込んだ。

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