償い
日記はここで終わっていた。
頁をめくると今度はひらがなで、最近のものだ。
「その時からずっと、このまぶたに焼きついた瞳と
この写真を持ち続けてきた。免罪符のように。
もうすぐ私は死ぬ。静江は一人娘を事故で亡くして
落ち込んで、離婚して、今一人で中国を旅してると
お母さんに聞いた。苦しい旅だったろう。何とか
立ち直って欲しい。静江が立ち直れたら、是非この
写真と首飾りを烏鎮の双橋から川の中に捨てて来て
くれまいか。心残りはそれだけだ。そしてこれが
私にできる唯一の償いなのだと思う」
階下で母の声がした。
「静江、ごはんよ!」
静江は笑みながらも思いつめた眼差しでテーブルに着く。
「で、なんて書いてあったの?」
「うん、とても一言では言えない。私又明日中国へ旅立
つからお父さんにそう言っといて」
「ええっ?」
「心配しないで、おじいちゃんの償いを果たして帰って
くるだけだから」
「おじいちゃんの償い?」
「うん、償い。そこから又私の新しい人生が始まるって
感じ。おじいちゃんに感謝してます」
「感謝?さっぱり分からないわ」
「それでいいの。とにかくいい事だから心配しないで」
「分かったわ、心配しない」
「オーケー。じゃあ、いただきます」
「元気が何より、いいことね」
「うん、とってもいいこと。フフフ」
静江は満足そうに笑った。
食事を終えると静江は荷をほどくまもなく
再び中国へ向かった。