プロポーズ
列車の扉が閉まりゆっくりと動き出した。
列車が見えなくなるまで手を振って、
静江は左手の指輪をじっと見つめた。
白い封筒を開けてみる。もしかして別れの
手紙か、それとも・・・・。
「静江さん、ほんとにありがとう。今から
渡米の準備と論文の完成とでとても忙しく
なります。65年前の祖母と祖父の不幸な
出会いが今こうして新しい時代を開く運命
的な出会いを生みました。静江さん、私と
一緒にアメリカへ行きませんか?必ず幸せ
にして見せます。開かれた自分に自信を持
って、一度しかない人生です、私と一緒に
駆け抜けてみませんか?6月30日に逢源
双橋で、あなたが来るまで待ち続けていま
す。もし万が一、その気がなければ来ては
いけません。
静江様 王孔明 」
『いつ書いたんだろう?』
ホームのベンチに腰掛けて、静江はまず
そう思った。
指輪は前もって買ってあった。サイズは何とか
分かるだろう。が、封筒は?便箋は?いつ用意
したのだろう?綺麗な日本語で書いてある。
ということは、やはり前もって決意して書いて
おいた手紙だ。静江はそう確信した。と同時に、
嬉し涙が人目もはばからずにどっと噴出した。
「おじいちゃん、ありがとう」
祖父の形見の茶封筒とペンダント、セピア色の
写真が一瞬、写し重なった。
家に帰ってこの手紙を見せるとは母は、左手の
指輪をうらやましそうに見つめてばかりいる。