鴨川土手
「すばらしいお母さんですね」
「おじいちゃんの一人娘。おばあちゃんは
3年前に亡くなって、おじいちゃんは去年」
「静江さんは一人娘?」
「いえ、兄が東京にいます」
「そうですか」
二人は鴨川土手を静かに歩む。向こう岸の
桜も散り終えて柳の緑が映えている。
孔明は川面へ下りた。手で水に触れて
すぐ戻ってきた。
「綺麗な水ですね。私の古里はあまり
綺麗な水ではありません」
そう言って孔明は微笑んだ。
「9月にアメリカに?」
「ええ、シリコンバレーに住みます。
たぶん、永住すると思います」
「お母さんは悲しみませんか?」
「それは大丈夫です。親戚がたくさんいますから」
「そうですか」
「それに、これからは中国とアメリカは益々親密
になって行き来も容易になるでしょう。私も毎年
帰ってきますし、親戚もどんどんアメリカに遊びに
来れるよう、アメリカに地盤を築くつもりです。
もう、そういう人たちが一杯います」
「日本は飛び越えて?」
「ええ、そうですね。でも私の付き合っていた人は
アメリカは遠くて永住するのはいやだといいました。
開かれた人だと思っていたのですが」
「開かれた人?」
「そう、もちろん日本に限らずどの国でもあるとは
思いますが、色んなしがらみの中で、それを乗り越
え開いていく人と、どうしてもそれができない人と」
「ええもちろん。いろんなタイプの人がいるとは思
いますが。そのしがらみの程度にも・・・・」