祖父の死
静江の祖父が亡くなった。
今年30歳になる静江は一人娘の死後、
重度のうつ状態になり離婚して旅に出た。
中国の雲南省を中心に半年ほど、
何も考えずに大自然の中を歩き回った。
雪をいただく山々をボーっと眺めながら
素朴な人々と触れ合った。やっと傷が癒えて
実家にたどり着いた時、母の第一声は、
「おじいちゃんが亡くなった。もうすこし
早ければ、死に目に会えたのに」
母はそう言って古びた茶封筒を静江に
手渡した。表に毛筆で静江と書いてある。
「おじいちゃんから静江にだって。小さい頃
ずいぶん遊んでもらったからね。お前が孫達
の中で一番可愛がってもらえた」
静江は頑丈にガムテープで包装された茶封筒を
かなりの力を入れてこじ開けた。母がじっと
手元を見ている。古ぼけた手帳とロケット
ペンダントが一つ出てきた。ロケットを開くと
セピア色の幼い子どもの写真が貼ってある。
母と二人で覗き込む。王美麗と書いてあった。
「王美麗?知ってる母さん?」
「知らないわ。中国の人ね。2歳くらいかしら?
あなたこそ心当たりはないの?おじいちゃんが
あなたにと指定した形見なのよ」
「そうだよね。この手帳に手がかりがあると思うわ」
「そうだね。私は夕飯の支度で忙しいから、
ゆっくり上で読んで後で教えてね」
「分かった。そうする」
静江は2階の自分の部屋に上がっていった。
『何故、母ではなくて私なのかしら?』
そう思いながら静江は手帳を広げた。