第8話「こちらの世界がわかってきます」
水明の日の午後に、おっかな大きいお顔のおじさんが遊びにきました。
「よう、フィレーナ。調子はどうだ?」
ものごっついヨロイをきた、お顔もからだもとても大きいおじさんは、ママのお友だちのようです。わたしははじめて見る人でしたが、ママにはおじさんのお友だちもいるんだなぁって思って、感心していました。
「アビゲイル。珍しいじゃない、あんたが遊びにくるなんて。なんかあったの?」
「なにかなきゃきちゃダメなのか、オレは━━まあ、なにかはあったんだが」
アビゲイルおじさんはよっこらせっと椅子(パパの席)に座ると、椅子がギギギって鳴って壊れてしまいそうです。壊れるかも━━と心配でしたが、壊れませんでした。うちのお椅子はがんじょうなのでした。
「魔王軍の前線がさらに後退した。これは、お前が解放したヘルバレーの拠点があったからこその成果だ。上の連中も感謝している━━まあ、直接伝えはしないだろうがな。だから、オレがその代わりだ」
おじさんはママのお出ししたお紅茶をぐびりんこと飲んで「うまい」とほめてくれます。いい人です。
「ほーん、そうなんだ。別に、わざわざ報告にこなくたっていいのに、そんなこと」ママは言いながら、おじさんのカップにお紅茶をつぎたします。おじさんはすぐに飲みます。ひとくちで。
「それに、ダンナから聞こえてくるかもしれないしさ」
「あいつは部署が違う。戦闘部署の成果はしらないだろう。ただでさえ不必要な情報は伝わらないんだ。前線が下がった程度のことでは、公にされることなんてない」
「確かにね。みんな平和で幸せに暮らしてるのに、わざわざ魔王軍の動向なんてしりたくもないか」
ママたちのお話は、わかりません。でも、この世界にはどうやらまおうぐんというものがあるらしいです。パパの仕事とも関係がありそうですし、ママもそれに関するお仕事をしていたのでしょう。
だから、まおうぐんは、わたしとも無関係ではないはずです。わたしはまおうぐんと発音してみようと、挑戦しました。
「あやーうう!」
「おっ、どうしたユフィ。お腹ちゅきましたか~? ママミルクほしいのかな~?」
「なにっ! まさか、授乳か! よし、ここは任せた。オレにはどうすることもできないからな。さあ、はじめるといい」
「ふざけんなこのエロ岩石、出てけ!」
「うお━━冗談だ、本気にするな!」ママになにかを投げつけられたアビゲイルおじさんはお顔を守りました。「しかし、お前の子供が見れる日がくるなんてな━━女の子だったか?」
「そうよ。かわいいでしょ、わたしに似て。今からもう、将来が心配なのよね。かわいすぎて、そこら中の男が寄ってくるわけでしょ。わたしみたいに強くなるかもわからないし、ずっと守ってあげなくちゃ」
「安心しろ、お前の子供ならきっと強くなるさ。さあ、それよりも授乳の時間なのだろう? オレのことは気にするな。ここで座って━━」
「ないでとっとと出てけーっ!」
ママはわたしを持ったまま、アビゲイルおじさんを家から追い出してしまいました。なんとなくかわいそうで、またきてねって思います。