第7話「はじめてのお友だちです」
暖かな午後、四度寝をしていたわたしのところに、なにかがきました。どうやらそれは、開いていたドアのすきまから入ってきてしまった、近所の猫さんのようです。
ママは気がついていません。気がついていたら、きっとすぐに追い出すはずです。ママはわたしがいちばんなので、動物とかには近づけません。お外を歩くときだって、お犬がいたらはなれて歩くくらいなんです。
『ねえねえ』
と、確かに声が聞こえます。
でも、わたしのふんわりやわらかベッドに飛び乗ってきた猫さんは、鳴いていません。でも、声はどうやら猫さんのもののようです。わたしにはそれがわかるのでした。
しゃべらないでしゃべっている。とても不思議な会話をします。
『なんですか、猫さん?』
『ぼくネロだよ』
『わたしはユフィだよ』
『いつ生まれたの?』
『この前だよ』
『ぼくもこの前だよ』
『ネロさん、遊びたいの?』
『もっと大きくなったら遊ぼうね』
『うん、遊ぼう!』
『もう行くね』
『うん、またきてね』
ネロさんはそっとベッドからおりると、まだ開いたままの扉から静かにお外へ出ていきました。
お友だちができた、とわたしは喜びました。生まれてはじめてのお友だちです。ネロさん、また遊びにきてくれるでしょうか。楽しみです。
「ん……げっ! えっ、えっ、なんで? いつの間に……うそぉ」と、わたしのところにやってきたママが、なにかを摘まんで叫びます。どうやらネロさんが落としていったネロさんの毛を見つけたようです。
「あっ、ドア開いてんじゃん! わたしのアホー」急いでドアを閉めたママが、またわたしのところに戻ってきます。とっても心配そうにして、わたしのお顔を確かめます。
「ユフィ、大丈夫かな……なんもされてない……よね……うん、大丈夫だ。はぁぁぁ、焦った~」
わたしのふんわりやわらかベッドの前に持ってきた椅子にどさっと座ると、ママはぐったりんこで下を向きます。とても疲れた感じです。
ママこそ、大丈夫?
「ごめんねユフィ、ママの不注意だわ。もう二度とこのようなことがないようにします」
そう宣言したママですが、わたしとしてはまたこのようなことがあってほしいので、とても複雑な気持ちです。このようなことがなくなってしまうと、ネロさんに会えなくなるのではないでしょうか。
それは嫌です。ネロさんはお友だちなので、また、なんかいでも会いたいです。お話したいです。でもママがダメって言ったら、ダメになります。きっと、そうなります。
わたしはどうしていいかわからなくなって「あまむぅ」とうめいてから、お漏らしをしました。
たぶんそれは、ママに対するはじめての反抗だった気がします。