第47話「二年生の先輩に訊いてみた」
売店と、そこから帰る途中にもネロさんに確認しましたが『こっちには、いないよ』という答えがあっただけだった。
わたしたちは再び二年のD組前へと戻ってきたわけなのだが、中を覗き見ても、やはりそれらしい生徒の特定は困難だった。そもそも見た目でそれとわからないのであれば、探しようもないんだよね……。
「ダメね……どうしようか?」ファリスちゃんも困り顔だ。
「ネロさん、やっぱりここで間違いない?」
『……多分、もういなくなってるよ』
というのが、現時点でのネロさんの見解らしい。つまり?
「売店でもなくて、他の場所でもない。さっきまではいて、今はいない……。早退した生徒でもいれば、もしかしたら━━」と、ファリスちゃんが顔を上げたところに、知らない女生徒が近寄ってきた。
「ねえ、あなたたち“転生者クラス”の子たちでしょう? このクラスになにか用事でもあるの?」
綺麗な黒髪のロングヘアで、ウルフの髪留めが似合う女の子……たぶん先輩が話しかけてきました。
「あ……はい、えっと、まぁ、ちょっと……」ファリスちゃんにしては珍しく、きっとなんて言えばいいのかとっさに思いつかなかったのだろう、歯切れ悪く返事を返す。
「なに、偵察みたいなかんじ?」
少し楽しそうに、その先輩は言います。人当たりの良さそうな雰囲気は、けして他意を感じさせない。ほんとに世間話程度の感覚で話しかけたみたい。
「いえ、そういうわけではなくて……あの、あなたはこのクラスの先輩でしょうか?」
ファリスちゃんの質問に、女生徒は「ええ、そうよ。わたしは二年D組のリナーテ・リルフェール。一応、クラスリーダーをしているわ」と答えた。
なんと、クラスリーダーの方でした。わたしと同じです。
「そうでしたか、あ、わたしたちは━━」
ファリスちゃんはあわてて、自分の名前とそしてわたしとリーリカちゃんの分まで紹介してくれました。わたしの役割も含めて、しっかりと。
「へぇ、あなたが一年D組のリーダーか。噂は聞いてるわよ、わたしの一年前よりも、確実に上を行っているわ」と、リナーテ先輩はぶっちゃける。
そんな風に言われても、わたしはなんて言っていいかわからないから、黙っていよう。「そんなことないですよ~」なんて嘘の謙遜をしたって意味はないのだし。
「他学年との接点があまりないから、お話をするいい機会かと思って、話しかけさせてもらったの。まあ、体術大会(とは言うものの、要は運動会)まで待てば話す機会はできるでしょうけど、売店で焼きショバパン片手に面識のない下級生に話しかけるのも、ね」と言った彼女の右手には、よく見たら焼きショバパンがありました。ちょっと食べかけのやつが。
「気にしないので、気軽に話しかけてください先輩!」
「ありがとう、これからはそうするわ」言って、片目を閉じるリナーテ先輩。
うん、すごくチャーミングないい先輩だ。
「わっ、かわいい人がいるじゃない?」
というリナーテ先輩の視線は、わたしの足元を向いています。当然そこにいるのは、小さくてかわいいネロさんです。
「ニャ~ン」ネロさんの肉声が鳴った。
と同時に、わたしたちの頭の中には『よろしくね、リナーテちゃん』という声が聞こえているんだけど、もちろんリナーテ先輩本人には聞こえていない。
「声もかわいい! この子も確か、一年D組のメンバーなのよね?」
「はい、そうです。ネロさんは正式なクラスメイトになります」ファリスちゃんがはっきりと告げます。
「前代未聞だけど、わたしはおもしろくていいと思うわ。魔術が使えるってことよね?」と、リナーテ先輩は尋ねた。
「魔術は、ええと……」ファリスちゃんが困ってしまい、わたしの方に視線をよこす。
なので、これにはわたしが答えます。というか、わたししか答えられないのだが。
「使えます。えっと、防御魔術? みたいなやつが、使えるんです! それで、わたしが小さいころに守ってもらったことがあるんです」と説明した。
エピソード自体はファリスちゃんもすでに知っているはずなのだけど、やはり実際に見たわけではないからか、自分の口で断言することをしなかったようだ。
実はあの時以来、わたしもネロさんの魔術を見たことがない。でも、ネロさん本人に確認したところ『使えるよ』ということだったので、使えるのでしょう。ただ、その機会がないというだけで。
「すごいわね……なにかしら……神の化身かなにか、それともネコにされた大魔術師とか?」想像力を働かせて、リナーテ先輩は推理する。
ぜんぶ間違ってるけど。ネロさんは前世のネコさんで、今もネコさんなネコさんだから。いや、しかし神の化身でないと誰が言えようか……もしかしたら、あるいは……。
なんて、わたしも考えてしまっていた。
「ところで、リナーテ先輩にお訊きしたいことがあるんですが、よろしいですか?」と、ファリスちゃんがいよいよ本題を切り出す。
「ええ、なにかしら?」
「ええとですね、たとえば午前中の段階で早退したクラスメイトの方なんていうのは、いらっしゃったりしないですか?」
「あら、もしかしてタコデヒィくんに用があったのかしら?」
いた! なんとまあ、ファリスちゃんの予想が的中したかたちで、早退者の存在とその名前が発覚してしまった。
「あ、いえ……そういうわけでも……あるんですけど」次の言葉を考えている表情を隠しきれていない、ファリスちゃんの目が泳いでいる。「そのタコデヒィ先輩というのは、男性ですか?」
「え? ええ、男の子だけど……どういうこと?
あなたたち、タコデヒィくんを知らないのにタコデヒィくんを探しているわけ? なにか事情がありそうだけど━━」
「あ、そんなたいした用事じゃないっすよー」と、いつの間にかフランシスコパンを食べ終えたリーリカちゃんが、本当にたいした用事ではないと思い込ませられるような口調でアシストを繰り出す。ナイスですね!
「そう? でもまあ、明日も登校してくるでしょうから、あなたたちも明日また来れば会えると思うわよ」
リナーテ先輩の言う通り、そうするしかなさそうです。
なのでそれ以上なにか追及される前に、わたしたちはお礼を言って、そそくさと退散したのでした。




