第44話「テストなんて余裕です」
学期末にテストがある。と言っても、ここは魔術師学校。あくまでもそこは、魔術のテストなんです。
極端な話をすれば、一般的なお勉強がほとんどできなくたって、魔術さえしっかり使えるなら進級も卒業もできます。
一年を前期、中期、後期にわけて学ぶわけなのですが、魔術師学校の生徒として最初のテストである前期のものこそ、やや苦戦したクラスメイトもいたんだけど、今回の中期テストの結果は、ほとんどみんな楽勝だったみたい。
テストの直前に転入してきたイーメちゃんですらそうだったのだから、テストに向けて学んできたわたしたちにとっては、本当に難なくこなせるものでした。
ただしこれは、わたしたち転生者に限ったことで、他のクラスの一年生にとっては話が違います。
噂では二桁ほども再試験になった生徒がいたらしいのですが、もちろん個人の特定はできません。ただ、わたしたちにとっては信じられないようなことでした。
口にこそ出さないけど「あんなに簡単だったのに」と思ったクラスメイトは間違いなくいたことでしょう。
「フツーの子たちって、あんな簡単な試験でも難しいんだねー」と、リーリカちゃんが口に出しました……。
クラスの中だからいいけど……他のクラスの人がいるところでは、絶対に言わないでね。お願いだから。
とは言え、リーリカちゃんの言う「フツーの子たち」でさえ、ある程度以上の才能があると認められたからこそ、この学校に入学できたわけで。
やっぱり、わたしたち転生者の能力が異常だねって結論するしかありません。
しかも、日を追うごとに日進月歩の勢いで上達してゆくので、最近なんだかバックマン先生の態度がおかしくなりつつあります。言葉にはしていないけど、多分言葉にすると「このままでは在学中にわたしを追い抜く可能性が……」みたいなことを考えているのは明白です。つまり先生に焦りが見えはじめているわけだ。
まだ一年生の段階で……。
でも、先生には悪いけど、わたしたちは止まらないし止まれない。ものすごく大きな、そして大事な目標があるから。
先生はもちろん、クラスメイトのほとんどにもまだ伝えていないことだけど━━わたしは誰の目も気にせずに、いけるところまでいこうと決心していた。つまり、在学中に大魔術師クラスの実力をつけられるのならば、つける。あるいはそれ以上まで到達できるのであれば、到達する。上限は決めない。だって、わたしは魔王を倒すのだから!
この話は、ミリナちゃんとファリスちゃんにはしていた。二人とも、わかってくれた。一緒にがんばろうと言ってもくれた。とても心強い仲間たちだ。
そんでもって、リーリカちゃんはそーゆー話の時も、片時も離れなかったりするのでもちろん聞いてるししっている。
ちなみにリーリカちゃんの意見は「我、すなわちユフィたんなり」という意味不明なものだったけど、なんとなく肯定意見なのだけはわかったよ。ありがとう……。
「けっこう噂になってるわ」
トイレから戻ってきたミリナちゃんとイーメちゃんが、わたしたちのところにきました。
「転生者クラスの結果が、よすぎるって」ミリナちゃんいわく、それは生徒間だけのものではなく、教師たちですらそうだということです。
「ま、最初っからある程度、話題にはなってたんだけどな。そのおかげで、あたしのところにも情報が入ったわけだし」と、イーメちゃん。
クラスの外だと“お姫様の演技”をする彼女も、ここでは素のままです。身分が高いのもたいへんだね、としか言えないよ。ご苦労様です。
そして、そんなイーメの国までギリギリ噂が届いていたというわたしたち“転生者クラス”だけど、ここにきてその噂の強度はさらに高まったといえよう。
一年生の中期とはいえ、ただでさえ難度の高いテストで有名な学校で、クラス全員一人残らず楽勝で合格したのだから、当然といえば当然のことかもしれない。少なくとも学校はじまって以来の快挙であることは間違いない。
初歩的なものではあっても、アルスベルグ系の魔術も含む中でのことなので、普通、一人もなんのミスもないなんてことはあり得ない。と、バックマン先生なんかは驚いてた。
元から得意なイーメちゃんなんかはノールック小指動かしからの砂粒大爆散をやってのけて、先生の誰かが絶叫したとかなんとか……アルスベルグ試験は、わたしは違うグループだったから見てないんだけど。凄かったらしい。見たかったな。
さすが姫様とかいう賛辞はもとより、男子女子学年すら問わずに百人からのファンを獲得したとか……これはほんとにただの噂に過ぎないし、そもそも姫様という時点でみんなの憧れの的なんだけどね。
そんな姫様がものすごい魔術の素養があるってことがはっきりわかって、学園長もなにかを納得したような顔をしていた。学園長先生もランダムで試験場をうろつくのだ。はっきりいって目障り……もとい、邪魔……じゃなくて、気になるからやめてほしいんだけどね。わたしだけじゃなくて、多分それは先生すら含めた学校全体の意見だと思うから。
「ほやや~」
と、突然聞きなじみのある「ほや」が聞こえたので、わたしは教室の入り口に視線を向けた。
「あ、ほやぼいさんだ」と、リーリカちゃん。
変なアダ名をつけたものですが、彼女の言うとおり、そこにいたのはイリス・フォアヴォイさんでした。
でも、休み時間とはいえ用務員であるイリスさんがここにくるのは違和感があります。
「イリスさん? どうしたんですか?」
わたしたちはイリスさんのところまで行きます。すると、なんだか視点の定まっていないイリスさんが「お手紙ですぅ~」と紙切れを差し出すと「それでは~」と言ってすぐに帰ってしまった。
「んー、なんのお手紙だ~?」
この間、わたしに届いたラブレター(?)の件があったからか、真後ろのリーリカちゃんが暗黒のオーラを発散しながら恐ろしい笑みを浮かべた。
「あの人、なんかおかしくなかったか?」と、イーメちゃんが言います。
「確かに、なんかキメてたかんじ」ミリナちゃんはイリスさん薬物使用疑惑を提唱します。
イリスさんに限って、それはないと思うけど……。




