第4話「ママのお友達と仲良しです」
その日、うちにお客さんがやってきました。ママのお友だちだそうです。
そのお友だちは、わたしの顔を見ると「うっわ、ベリキャワ!」と、変な言葉で、たぶんほめてくれました。
「わたしはミレーニアっていうの、ママの親友なんでちゅよ~、よろちくね~、ユフィた~ん」
赤ちゃんのわたしにもちゃんと自己紹介をしてくれたミレーニアさんは、ほっぺをツンツン、すりすり、なでなで、ちゅっちゅっちゅっと、あらゆる方法でわたしをさわってくれました。
あんまりにもくすぐったくて、わたしはキャッキャッとよろこびました。するとなおさら、ミレーニアさんはツンツンすりすりなでなでちゅっちゅっをしてきます。
「ちょっとミレーニア、やり過ぎ」
「ごめんフィレーナ、ユフィたんマジでかわいすぎて、つい……あー、わたしも子供ほしいかも。ねえ、ダンナ貸してくれない?」
「お前……なにをほざくか」じと目のママはミレーニアさんをわたしから離すと、毛布をかけなおしてくれました。
「ごめんねユフィ、ねんねしててね」やさしくなでられると、わたしはフワァっと眠くなるのです。きっと、赤ちゃんだからなのでしょう。すぐに寝てしまうのでした。
*
お花畑がぐるぐる、ぐるぐる。
目がまわりそうなトンネルを抜けると、ママとパパが立っています。
今の、ママとパパではありません。前の、本当の━━という表現が正しいのか、わかりませんが━━ママとパパです。
桂木鶴と、桂木神贈。桂木雪━━わたしの両親が、やさしい眼差しで、こちらを見ていたのです。
「ママ……パパ…………」
でも、ふたりはなにも答えてはくれませんでした。ただじっと、こちらを見て、わたしに微笑んでいるだけです。
近づくこともできません。
「ママ……わたし…………」
ぐんっ、と、なにかすごく強い力に引っ張られたわたしは、またお花のトンネルに引き込まれてしまい、元の世界へ戻されます。
そんな夢を、ときどき見ました。
目が覚めると、ママとミレーニアさんがまだお話をしている最中でした。
とてもいい、お紅茶の香りがするのだけど、わたしはまだ飲ませてはもらえません。ママミルクだけで生きている人間なんです。
「セルゲイン会長が退任なさるって話、本当みたいよ」魔術師協会で働いているミレーニアさんは、ときどきこうして、ママに情報を伝えにくるみたいです。
世間話なのか、秘密のお話なのか、わたしにはわかりません。
仕事をやめてしまっているママは、どの話にも興味深そうに相づちをうちます。わたしもミレーニアさんのお話は楽しかったので、おとなしく聞いているのです。
しゃべれるようになったら、なにを話そう。どんなことを尋ねよう。そんなことを考えながら生きる毎日は、意外とおもしろくて、いつでもときめきを感じられる生活でした。
わたしはお漏らしの気配を感じて、泣くための準備をはじめます。