第38話「なんかできちゃいました」
一般教養のお勉強は、正直あまり得意ではなかった。ジュニアスクールの時は、努力でなんとかなっていたのだけど、さすがに上のスクールとなると、そうもいかないんだよね。
主席で入学したわたしだったけど、最初のテストでもう学年三位になっていたのだから。
あー、ママがっかりするかなぁ。
それだけが心配。
でもね、その代わりと言ってはなんですが、魔術の授業はハナっからトップを走って、今もダントツで一番の成績を保持しています!
「さすがはわたしのユフィたん! リーリカちゃんは一生あなたに守られたいっ!」
「あ……うん、まかせてー……」気の抜けた返事を、わたしはする。ごめんね。
魔術の勉強も、いちばん最初の最初は座学が多かったのだけど、徐々に実技が増えていった。
みんな━━魔術がほとんど使えない子も含めて━━お勉強するような、初歩の初歩からはじまったのだけど、そもそも魔術師学校に入学してくる生徒たちは、みんな初歩的な魔術はとっくにマスターしている。だから、あんまり時間は割かないようだった。
すぐに、もっと上の構成や、使い方を学んだ。
わたしはうまくやっていた。
というか、できてしまう。自分で言うようなことではないけど、わたし、ほんとの天才っぽい。うん、恥ずかしいし自分で言うべきことじゃないね。でも、これは明らかにママのおかげ。ママからもらった遺伝ってゆう宝物。
火の精霊・ドラグマギアの力を使った授業で、ユーリくんが失敗して髪に引火した時には、先生よりも早く、わたしが消火しました。
構成を省略して出せる、簡易なミズレイン━━水の精霊━━の力で桶の水をかぶせるような、そんな魔術で頭を濡らした。
ユーリくんの髪は焦げたけど、ゲーハー☆ボーイズにはならなくて済んだからよかった。
昔からゲーハー☆ボーイズは精力と関連付けられる風習があって、つまり、えっちぃ人だって思われがちだから。ユーリくんもこの若さでえっちぃ人だって思われたら、モテなくなるからかわいそうだし。ほんとよかった。学級長としての役目を果たせたよ。
「うち、ダメだぁ。うまくできないかも」
フラパちゃんは火の魔術が苦手っぽい。
わたしもそれは、見てて気づいた。他の精霊と違って、明らかに相性が悪い。でもこれは完全に個人差に由来するものだから、仕方ないといえば仕方ない。相性の良し悪しは生まれ持ったものだから、あとは苦手なものとのつきあい方を試行錯誤するしかない。ぶっちゃけ、がんばって慣れるしかない。
アドバイスはもちろんするし、バックマン先生も工夫して教えたりしている。でも苦手なものは苦手だから、フラパちゃんはうまくできない。
諦めるのは簡単だけれど、ここは魔術師学校だから、がんばって慣れなくちゃいけない。がんばれフラパちゃん!
「ユフィ・カムラキ、術の構成が早いな」
バックマン先生に指摘されちゃった。確かに、わたしの構成は早いし、術にもよるけど、簡単なものなら即座に展開することができる。
ジュニアスクール時代からの、いいえ、もっと言えば生まれてからずっとママに師事してきたことの成果が、それなのです。
けして鍛練もなにもなくできるようになったことじゃなくて、努力の積み重ねなの。ということをしっておいてほしくて、わたしはそのように説明した。
「難しい魔術は、もちろんこれからがんばらなくちゃですけど、ジュニアスクールレベルの魔術なら今みたいな感じでやれます」
「……そうか、うむ。さすがだな。だが驕りは禁物だぞ。高度な魔術ともなれば、そう簡単にゆくものではない。たとえば今、ユーリ・シフォンがしくじった魔術の応用で、眼前にこのような火の輪を作ることもできる」
右手の人差し指を立てた先に、ドーナツ状の炎が現れる。バックマン先生が指の間接を曲げると、それに合わせて回転をはじめた。
すごい、なんか、おもしろい!
ユーリくんは失敗しちゃったけど、今やっている授業は小さな火球を作るっていうだけのものなんだけど、危ないからジュニアスクールではあまり授業に取り入れない。それが理由で、まだ習得していない人も少なくない。
でもわたしは━━実はもう習得していて、中型の火球くらいまでなら簡単に作れてしまう。
それを輪っかにしたことはないし、しようと考えたこともなかったから、こんなこともできるのかぁと、素直に感心してしまった。
「先生のプライドが仄見えるから、ユフィたん同じことやっちゃったらいいと思うよ。あの無愛想ガンくれ教師の鼻っ面に、くらわせちゃおうよぉ、ねー、ねー」
って、リーリカちゃんはなにを言うか……。この子、先生のこと嫌いみたいなんだよね。わからなくもないけど、まだまだお世話になる先生だから仲よくしたほうがいいと思うんだけどな。
なんて考えていたら、考えごとをしながらだったけど、わたしの作った火球がいつの間にやらドーナツ状に変化していた。見よう見まねどころか、ほとんど意識することもなくあっさりとやってのけてしまった……。
これは……気まずいぞ。
「やった! さすがわたしのユフィたん! へっへっへー、どうだ先生、見なさい先生!」
あー、リーリカちゃんが報告したぁ。気づかれる前に消すこともできたはずなのに……もう手遅れだ。みんなに見られてる。
「ほぅ……」
バックマン先生は努めて無感動を装っている。内心では少なからず驚いているはずなのに。それがバレバレだから、なおさら気まずい。
炎の輪っかを回転させることもできたけど、わたしはそのまま火を小さくしていって、消してしまった。
「な、なんかできちゃいました……」と、申し訳なさそうに言いながら。
「すごいです、さすがです、やはりカムラキさんはわたしたちのリーダーに相応しいです!」スーパー瓶底メガネのクラスメイト・ヒカリちゃんが興奮している。この子は前世での名前がヒカルちゃんなので、一番、ほとんど変わらない名前で生まれてきたことになる。特注の信じられないくらい分厚い眼鏡は、かなり重そうだ。
「メガネたん、わかってるぅ! これがわたしのユフィちゃんなの。すごいでしょ」
わたしってもう、いつの間にか無許可でリーリカちゃんの所有物な感じみたい……。まあ、いいんだけど。付き合って長いし。いや、そういう意味じゃなくて。お友達としての付き合いだから。
「ユフィ・カムラキは感覚に優れたところがある。この程度の応用は、すでに会得しているということだ。他の者も遅れを取らないよう、必死になってやりたまえ」
先生は先生の威厳を保つべく、とりあえずわたしのことは置いといて、他のクラスメイトたちに向けて話しはじめた。
「まずは簡単な応用が利かなければ、その先にある魔術には届かない。将来、前線へ配属される者も出るだろう。そうなった時、防壁を維持するため、あるいは魔物と戦うために必要な魔術を扱えなければいけない。そのためには、まずは簡単な魔術の応用からだ。ここをしっかり覚えるかどうかで、将来が決まるぞ」
わたしも先生の言葉を頭のなかに刻み込む。ちょっとできるくらいで、調子に乗ってはいけない。リーリカちゃんに乗せられてもいけない。魔術には先がある。そのことをしっていたから。
火の輪っかくらいじゃ、魔物なんて倒せないし。
ともあれわたしは優等生として改めて認められ、そのせいで先生の右腕みたいに扱われることとなる。
えっと、つまり、生徒なのにクラスメイトたちを指導するみたいな、そんな役割をさせられることになった。わたしは先生じゃないから、できることはアドバイス程度のことでしかないんだけど、みんなにも頼られた。
火の精霊との相性が悪いフラパちゃんが、わたしのアドバイスで火球を維持できるようになった段階で、わたしの立場は決定したように思う。
このクラスの、真のリーダーになったのだ。




