第3話「赤ちゃんなのに考えます」
無事に生まれたわたしでしたが、目が開くまでには、さすがに時間がかかりました。
生まれることがわかっていたし、その状況を理解していたわたしは、一切泣くことをしませんでした。
その状況を見たパパが「変だな、大丈夫かな」と言い、ママが「大丈夫よ。こんな子だっているわ」と理解を示し、知らない女の人が「悪魔の子供よ!」と叫んで、ママになにかを投げつけられたうえ、部屋を追い出されたようでした。
やさしいママのにおいと、バブバブママミルクに包まれたわたしは幸せな気持ちでいます。
お腹がすいたときと、お漏らししちゃったときだけは「あーううー、あうーん」とか言って気づいてもらう必要があったのですが、それ以外はなんでもママがやってくれます。
わたしはまだ歩けないから、ずっとママにくっついているか、やわらかベッドに埋もれていることしかできません。
正直、この上なく暇です。
やることないです。
あまりにも暇なので、ママとパパがお話するのを聞いているしかありません。
「この子の名前、もう決めた?」
「ああ、もちろんだとも」
わたしの名前?
その会話にわたしは、焦りを感じました。なぜならば、わたしの名前はユキだったからです。でも、ママもパパも、そのことをしりません。
わたしはなんとか、伝えようとします━━が。
「うーあー」と、未発達なお口では、しっかりとした発音ができませんでした。早く喋れるようにならなくちゃ、と思って、必死で練習しましたが「あーううー、あばぶっ、あばぶっ」と言っていたら、ママが心配するのでやめました。
「ユフィ、バブバブママミルクの時間よ。さあ、お腹すいたでしょう?」
わたしの名前はユフィと、パパが決めてくれたようです。
驚くべきことに、わたしの元々の名前だった"ユキ"と、少し似ています。偶然だとは思うんですけど、なんだか、神様の意志みたいなものを感じずにはいられません。
ママのふんわりやわらかおっぱいをチューチューして、至福のミルクたいむです。バブバブママミルクと呼ばれる、授乳のことです。
味は━━ちょっぴり塩気の効いた、だからこそ甘味の増したやさしいお味で、正直、クセになります。
「ぷはーっ!」と、朝の一杯をひっかけたわたしは満足なのでした。そして、ママにやさしくトントンされると、「けぷっ」と空気を出しました。幸せな満腹感は、この店にまたこよう、と思わせるものがあります。まあ、ママはお店じゃありませんし、すぐにまた、同じミルクを飲むのですけどね。
たまに仕事から帰ってきたパパも、なぜかバブバブママミルクをしているようでしたが、そこはもちろん、見てみぬフリです。
ママは仕事を引退しているようでしたが、パパは働いています。
聞くところによると、どうやら魔術師協会というところで、お仕事をしているようです。わたしはもちろん、まだ見たことがなかったので、いつかパパの職場を見てみたいなぁと、そう思っていました。
そしてその希望はあっけなく、思いの外すぐに叶えられることとなるのでした。