第29話「異世界研究所だよ」
「ここがそうなのかな……あ、書いてあるわ。『異世界研究所』って、堂々と」
恥ずかしげもなく。
たぶん、ご近所ではわけのわからないヤバい集団として認知されてるのよ、って、セラが馬車のなかで言ってた。
ママもうんうん言ってた。まゆげつながりせんせーは、まだ、しんらいされてないよ。
「きたよー!」
「きたよー!」
わたしとミリナちゃんはもうとっくにピキーンってなってたから、このお家の中にいるやつらとか、まゆげつながりせんせーももうたぶんピキーンってなってたから、きたことがバレてる。でも、ちゃんときたよーって言うよ。
そしたらママがドンドンってやって、その途中でドアがあいた。
若いイケメンになった、まゆげつながりせんせーがでてきた。
「いらっしゃい! 待ってましたよ、さあユキ━━じゃなくてユフィちゃんとミリナちゃんも入って入って……懐かしい人間もいるはずだよ」
ふーん、じゃあ入ろう。
ミリナちゃんと一緒に、まゆげつながりせんせーの家にぶっこみをかけた。
「わー、しらない人だらけ……」ミリナちゃんがキョロキョロキョロって、キョロってる。
でも、ほんとに見たことない人しかいないね。誰が誰だかわかんねー。
「この子たちがそうですか……やっぱり女子生徒だけは何故か同一の時期に生まれてますね。これはもう間違いありませんよ」
変なメガネかけた変な男が言った。メガネめずらしー。だいたいみんな目が悪くなっても魔法でよくできるから、よっぽどのしっぱいしたよっぽどしっぱいマンか、よっぽど手遅れになったよっぽど手遅れマンくらいしか必要としないって、ママに教えてもらったことある。だから、あの変な男の人はよっぽどしっぱいマンかよっぽど手遅れマンなんだね。
たぶんしっぱいマンかなぁ。メガネ変だから。
「ええ、ぼくもそう考えますね。原因はわかりませんが、もはや偶然の域は越えている。間違いないでしょう」
「あとは、生徒だけじゃなく、他の女性━━女性の先生方がどうかというところですが、まだ一人も見つかっていませんからね」
「彼女たちも同時期に転生したと考えれば、この子たちの年代に混じっていても不思議ではない。とにかく、この調子で捜索をつづけるしかないでしょう」
まゆげつながりせんせーと変なメガネのよっぽどしっぱいマンがずっと話してるから、ママは黙ってあきれていた。セラもあきれていた。
「あ、すみません……どうぞこちらのソファーにお座りください」
ママはちょっとためいきをついて、ソファーに座った。その隣にセラも座ったから、わたしとミリナちゃんも隙間にねじこんだ。おのれのからだを。
ぐりぐりぐりぐりーって。ママとセラのあいだにねじこんだ。
「紹介します。こちらはフィゲルくんといいまして、ここでは副所長として働いてもらっています。それで、ユフィちゃんとミリナちゃんには別の紹介の仕方をするね。前の世界での名前は━━」
「シゲルでした。三年二組の副担任をしていた磯浜田茂類、キミたちの一つ上の学年だから知らないかもだけど、間違いなく一千万本桜高校の人間だったんだよ。あの日はそう……数学の授業中だった……突然空が暗くなって━━」
フィゲルくんという変なメガネのよっぽどしっぱいマンはなにか思い出したように暗くなった。空が暗くなってとか言って、暗くなった。きっと、前の世界のいちばんさいごのところを思い出したんだね。
わかるぅー。
すごい、わかる。共感する。
あれは思い出すと暗くなるやつだから。
「あの時、あの瞬間のことはぼくたち"転生者"全員が等しく持っている、前世での恐怖ですからね。思い出したくもないものです」
そーゆうふうに、まゆげつながりせんせーはママとセラにせつめーした。
「他の仲間も紹介しましょう。まあ、お母さんがたにとっては、この近所に住む女の子としか思えないでしょうけれど」
そう言って、まゆげつながりせんせーは「きみたち、おいで」って、誰か呼んだら誰かきた。
わたしとミリナちゃんと同じくらいのちびっこだ。しかも、三人もいる。これだけいると、ピキーンってなったのが、何人分かわかんないから、何人いるかわかんないんだね。
まとめてピキーンだから、見るまでは、前の世界の人がいるってことしか、わかんないんだ。
「右からカーラちゃん、フィノミちゃん、タバサちゃん。それぞれ前の世界の名前がカナちゃん、ヒロミちゃん、ツバサちゃんだね」
へー。やっぱり、ちょっと似てるね、前の世界のお名前と。
でも、一人もしらねー。
「誰もしらねー」ミリナちゃんも言った。はっきり言った。
「ま、まあ同じ学年じゃないみたいだしね。カナちゃんとヒロミちゃんは当時一年生で、ツバサちゃんは三年生だったみたいだから、きみたちとは面識もないかもね。でも、間違いなくぼくらと同じ世界からきた、仲間なんだよ」
「こいつむかつくー」
確か、ツバサちゃんだったタバサちゃんがミリナちゃんにけんかをうった。
ミリナちゃんはお金もないのに、それをかった。そく、こうにゅうしたね。
「なんだよー、ブス!」
タバサちゃんはブスじゃないんだけど、ミリナちゃんはけんかをかったおきゃくさまだから、そう言う。うりことばに、おかいあげことばだ。
「ブスって言ったほうがブスなんだよ、だからお前のほうがブスー!」
わー、すごーい、子供のけんかだー。子供だから。だって、子供だから大人のけんかしないからね。
でも、こんなに子供だったかなーって、ちょっと思った。なんとなく、ベイビーズのころのほうが、もっと大人だった気がする。
だんだん、おっきくなってきたら、子供になった気がする。
前はもっと、なんか、いろいろ考えてたはずなのになー。
おかしいなー。なんでかな?
「やっちゃえタバサ、よそものをこらしめろー!」
ヒロミちゃんだったフィノミちゃんも、ひでーやつだなー。
でも、カナちゃんだったカーラちゃんは大人しい子だから、けんかにはくわわらない。
すばらしい。わたしといっしょだ。
気が合う気がするから、合う気がする気がする。気のせいかもだけど気のせいじゃないかも合うかも。合わさるかもしれない。
「こら、きみたち喧嘩なんてよしなさい!」
「まったく……ツバサ━━じゃない、タバサってそんなやつじゃなかったはずなんだけど。転生したら性格も変わったみたいなんだよね」フィゲルくんが、わたしにせつめーした。
なんだか、あんましよくない空気だけど、そのあとはミリナちゃんもけんかしなくなったから、こどもはおとなしくなった。おとなじゃないのに、おとなしくなった。こどもなのに、おとなしくなった。
そうしたら、まゆげつながりせんせーとフィゲルくんとかが、ママとセラにいろいろ見せてた。紙を。紙切れを。
「こんな感じで、前世での記憶をできる限りすべて、思い出せる限りのものを書き出して、記録しているんです。前の世界の、当時一千万本桜高校に在籍していた人間を、ぼくたちが覚えている人に関しては名簿を作りました。タバサちゃんたちや、ユフィちゃんミリナちゃんのように、すでにこちらの世界で存在が確認されている人は、現在の名前なども併せて記載されてます。ただ、残念ながらすべての生徒を網羅することができませんでしたので、ユフィちゃんたちにも、クラスメイトや同学年だった生徒の記憶を聞かせてもらえればと思っているんです」
「すごいわね……どれも、見たことも聞いたこともない……本当にあるのかしら、異世界なんて。この、ニホン、ニッポン(日本)っていうのが、ユフィが前世で暮らしていた世界の名前なわけ?」
「はい。世界というか、国の名前ですね」
「これ、2つの国?」
「あ、いえ、それは呼び方が複数あるというだけで、同じ国を示してます」
「ほーん、よくわからん。これは? 『ヘダチキマジウマキチ』っていうの。なにかしら、邪悪なものを感じるわね……異世界の魔王の名前かしら?」
「それは別に邪悪でも魔王でもありませんよ……ヘンダーソンというコンビニ━━お店で売っているヘダチキという焼きピリカラのような食べ物が本当に美味しくて、気が違ってしまうほど美味しいのよマジでっていう意味の、若者言葉です。みんなよく使ってました」
「ほーん……まったくわからん…………」
わたしもまったくわからん……なんか、誰かが言ってたよーな気はするかもだけど、わたしとか、ミナちゃんだったときのミリナちゃんとかは、たぶん言ってない。
はやってても、言うやつと言わねーやつがいる。わたしは、言わねーやつだった。
「まあいろいろと、多項目にわたってはいますが━━どれも、この世界にはないものばかりですね。それゆえに証明する術もないのですけど、前世での仲間には通用するわけだし、これらの情報をまとめて整理することで、なにかしら答えのようなものにたどり着ければと考えています。以前の世界でぼくたちが死んだ意味、そして、この世界に転生した意味を知りたい。それが、ぼくらの願いなんです」
「……そうですか。ええ、ユフィはいい子だから、きっと協力すると思いますし……わたしも、あなた方が悪い人間でない限りは、まあ、できることは協力します」
さすがママだ。理解力がある。
わたしはまゆげつながりせんせーの仲間だから、もちろんきょーりょくするよ。でも、ママがダメって言ったらしなかったかもしれないから、やっぱりママはえらい。すごい。かわいい。つよい。好きー。
「セラはどうする? 別に協力しなくちゃいけない理由はないし、めんどくさいといえばめんどくさい話だし」
さすがママだ。はっきりとものを言う。
えらい。すごい。かわいい。つよい。好きー。
「わたしは……うん、わたしもミリナ次第って感じかな。あくまでもミリナの母として、ミリナに対して協力するということで」
「ありがとうございます! ぼくたちとしてもお母さん方の了承がなければ、無理にユフィちゃんやミリナちゃんに協力をお願いしたりはいたしませんから、助かります」
「一歩でも先に進むためには、一人でも多くの仲間が必要だから、これでまた一歩前進ですね」
フィゲルくんはうれしそうだが、メガネが段々ずれてきている。
サイズが合っていないよ。
これでナシがまとまったので、まゆげつながりせんせーとバイバイした。またくるよーって言って、お昼ごはんを食べてから、バイバイしたよ。
今度くるときに、前の世界のお友達で、覚えているやつの名前を書いてきてねって言われて、紙切れと汚いペンをお土産にもらったから、馬車のなかでさっそく書こうとしたけど、馬車はごっとんがたたんってなるから、こりゃ書けねーやって、あきらめた。
お家いかないと、書けねーや。




