第2話「胎児なのに笑います」
その世界の天使は小さな女の子の姿をしていて、わたしが生まれ落ちる先を選ぶことができない存在なのだと教えてくれたの。
違う世界からやってきたわたしには、もうすでに母親となるべき女性が決まっていて、そのひとの子供としてしか生まれることができないのだと言いました。
『あなたは、あのひとの子供になるです』
女ながらに剣術の才能に恵まれて、魔法剣士として数々の功績をあげた麗人が、なんの取り柄もなさそうだけど、優しそうな男性とお話する様子を見せられて、わたしは、ああ、あのひとたちの子供になるのだな、と実感してしまいました。
そんなの、おかしいのに━━わたしにはパパとママがいるのに、また違うパパとママのところに生まれなくちゃいけないなんて。
そんなことがあるなんて、考えもしなかった。
でも、生まれなくちゃいけない。
それだけは確か。
生まれなくちゃ、なにもできない。考えることしかできない今の状態では、どうにもならないのだから。
わたしは天使さんに「はい、わかりました」と伝えると、天使さんはにっこりと微笑んで『大丈夫です。うまくいくです』と、なんだかわからないけれど、なにか根拠のありそうな感じで声をかけてくれました。
だからわたしも、うん、大丈夫と思えたの。
天使さんに導かれて、わたしは新しいママのところへ向かったのです。
*
『男の子かな、女の子かな。なあ、きみはどっちだと思う?』
『うふふ、なによ、そんなのどっちだっていいじゃない。あなたはどちらをご希望なのかしら?』
『いや、どっちってことも……でも、そうだな、できれば女の子のほうが、その、きみに似て美人になるだろうし、いいんじゃないかと思うんだ』
『わからないわよぉ。女の子だからって、わたしに似るとは限らないじゃない。あなたに似ることだって━━』
『ダメだ! それはダメだよ、女の子だったらぼくに似てはいけない! うん、それだけはよくないよ。子供がかわいそうだ!』
『あはははっ、なに言ってるのよ、バカねぇ。いいじゃない、どちらに似たって。どちらにしても、かわいいことに変わりはないわ』
『そうかなぁ……でも、うん、まあそうだよね。どっちに似たって、ぼくたちの子供なんだ、かわいくないはずがない!』
『そうよ━━どうしても気になるのだったら、判定魔術で調べてもらう?』
『いや、それはいいよ。きみが使えるのだったら調べていたかもしれないけど、わざわざ他人に教えてもらおうとは思わない。それに、男の子でも女の子でも、かわいいのは一緒なんだろ?』
『うふふ、そうね。生まれるまでのお楽しみ━━でも』
『でも?』
『うーん、これはわたしのカンだけど』
『うん』
『なんとなく、女の子かなって気はしているの』
そんな会話を、ママのお腹の中で聞いているわたしは、まだ表情も作れないはずなのに心はにこにこ笑顔なのでした。