第15話「おじいちゃんです」
とんとんとん、と、わたしのおうちのドアがノックされて「こんにち……ごほんっ!」というしわがれたお声がしました。
「はーい、今でまーす」と言ったママが、急いでドアに向かっていきます。「あっ、会長! どうも、おひさしぶりです」って、ごあいさつしてました。
驚いた様子のママの、どうやらお知り合いの人みたいですね。かいちょーさんです。
「いや、わしもう会長じゃない……おご、ごほんっ……もう、ただのじじいじゃよ」
「聞きましたよ、ご退任なされたって━━さあ、どうぞお入りくださいな」
わたしが横目でかくにんすると、ちょっとお腰が曲がりぎみのおじいちゃんが、ママと一緒におりました。
おじいちゃんはお椅子に座ろうとしましたが、その前にわたしがいることに気づいて、こっちに歩いてきました。
ぶっちゃけ、ちょっとキョーフです。
のそり、のそりと近づいてきます……きゃー、です。でも失礼なので、わたしは泣きも喚きもしないんですよ。えらいでしょ。
「ほう……この子がダンナとの子供か」
「ユフィっていいます。ベリキャワ……いえ、なんでもないです」
「ふーむ……この子は……見た目に騙されてはいかんな━━生きた年齢だけが精神を作るわけではないからのぉ……わしらのこと、よぉく観察しておるぞ」
おじいちゃんは、わたしがわたしのピンク色の脳ミソの中で、けっこういろいろ考えていることがわかったみたいでした。
だからわたしも、おじいちゃんに頭の中で『こんにちは、ユフィだよ』ってご挨拶してみたんですけど、おじいちゃんは「なんぞ聞こえたような……」と言っただけで、はっきりとは伝わらなかったみたいです。
猫のネロさんや、前の世界のお友達なんかとは、やっぱりちがうんですね。
「それってどーゆーことですか? ユフィの観察力が優れている?」
「というよりは、精神的に大人じゃという話」
「えー、でも生まれてからそんなに経ってないですし……この年齢でそこまでの自我なんて……わたしはなかったけどなぁ」
「んまあ、端的に言って才能があるということじゃな……この子は、そなたを超える存在になるやもしれんぞい」
おじいちゃんは、たぶんちょっとお話をはしょりましたね。わたしがわたしのピンク色の脳ミソの中ですごくいろんなことを考えてるってことを、なにもしらないママに説明するのがめんどーになったのかもしれません。
ちょっとガッカリです。
「それは━━わたしとしても期待してます。この子はきっとすごくなる。そんな気がしているんです」
「ほっほ、まあ期待しておくのがよかろう」
「あ、お茶だしますんで、お座りになって」
「ほい、どーも」
「ところで、なぜうちに?」
「なぜもなにも、暇だからじゃが━━正直わしも、退任後がこんなに暇だとは考えておらんでのぅ……そなたの顔が見たくなって、ついフラフラ~っと」
ぞくに言う、うろちょろろーじんさんなのですね!
わたしは前の世界のちしきがあるので、そういう言葉もしっているんですよ。
ママはちょっと苦笑いでしたけど、わたしはうろちょろろーじんさんがきてくれて、けっこう楽しめましたのよ。
「ほっほ━━こんな子供を生むとはなぁ……さすがは<戦女神>と呼ばれた者よ」
なんて言って、わたしのほうをほそーいシワシワお目々でチラ見するのでした。わりとパパにひってきするくらいきもいかもしれません。さすがはうろちょろろーじんさん、すごいですねー。