第1話「わたし死にました」
まゆげ繋がりセンセイの授業が退屈だったわたしが、ふと窓の外に視線を向けたときでした━━
空が暗くなって━━とは言っても、それはどうやら学校の上だけのようで、町の景色は明るいままです。
なんだろう? なにかが学校の上空に浮かんでいて、それが影をつくっているのかな?
そう思ったわたしは窓から顔をだして、空を見上げます。するとそこには、真っ黒な雲があったのです。
「えっ、えっ、なにこれ、どうして?」同じく窓から顔をだしたミナちゃんが、その光景を目撃して、驚いた表情をしています。
「すげー、なんでここだけ黒雲発生してんのよ?」
ボーイッシュなメイちゃんは、みんなのアイドル的な存在。うちは元々女子高だから、男の子の代わりにされている、モテモテな女の子。残念なことに、数少ない男子生徒がみんな、メイちゃんよりもかっこよくないというのも理由なのだけど……。
「ユキ、外出てみない?」
メイちゃんに手を取られて、そのまま引っ張られたわたしは、教室の出口へと向かいました。
まゆげ繋がりセンセイは「ほわっつ……」と呟いて外を見ていたために、わたしたちの行動には気づいていません。
「待って、わたしも行く!」
そう言って、ミナちゃんも追いかけてきました。
急激に下がった体感温度が、事の異常さを伝えています。
竜巻かなにか、そのような突発的事象が起こりうる可能性を、わたしは考えました。
校庭に出ると、不安な気持ちは更に増します。なにかよくないことが起こりそうな、強い気配が漂う空間。
学校の真上だけに滞留した暗黒の雲は、中心へ向かい渦を巻くようにして存在しています。他は晴天なのに、そこにだけ存在する雲なんて、不気味で不吉なものでしかありません。
「おいおい、なんなんだよアレって」
「なんだか怖い……これ、逃げたほうがいいんじゃないの?」
わたしもミナちゃんの意見に賛成でした。
しかも、一刻も早くに、この場から退避することが望ましいと、そう、強く思いました。
教室の窓から顔をだした、学校中のみんなも不安そうな顔をしています。
センセイの「戻りなさい」という声が聞こえたけれど、結果として、その言葉に従うことが、わたしたちにはできませんでした。
上空の黒雲から異様な、異常な轟音がとどろきます。そして、渦を巻く速度が増すと、超音波のような音が、わたしの鼓膜を痛いほどに震わせました。
悪寒は最大限にまで膨れあがり、感じる肌寒さは今やもう凍える冷気と化しています。初夏の気象では、あり得ませんでした。
「なんだアレっ!」メイちゃんが叫びます。
黒雲の中から、なにかがゆっくり、現れます。
ゆっくり、ゆっくりと━━それは、とても大きな、とてつもなく巨大で邪悪な"黒い片足"でした。
雲の中から現れたものが、学校の敷地を上回るほど大きな"足"だと気づいたわたしたちの上に、それは猛烈な速度で迫りました。
現れた時とは違い、明らかに意思をもって下ろされたような速度で━━もちろん、そんなものから逃げられる人なんて誰もいなくて……。
わたしたちは学校ごと、その黒くて巨大な足に踏み潰されて、死んでしまったのです。
それが、わたしの短い前世での、最後の記憶となりました。