目覚め - 1
強い衝撃と共に覚醒した私の意識は未だ朦朧としたものであり、視界はぼやけたものだった。なんとか現状を把握するべくあちらこちらへと目線を動かすとどうやら私は生命維持ポッドから投げ出されたように地面に這いつくばっていることが判明した。
人体とは不思議なもので、それまでは平気だったのにもかかわらず現状を理解した途端思い出したかのように全身に貫かれるような痛みが走り出した。
内臓が傷ついているのか、口からは絶えず血が流れ出ていた。
あぁ、私は死ぬのだろう。
自然とそう思った。仮に我が身が生命維持ポッドの中にあれば生き残る可能性はあったのかもしれない。しかしその機械も今は無残な姿となり自身の近くに横たわっていた。
ノウズ一匹と刺し違えたと考えれば悪くはないだろう。しかし一つの命として、生きたいという願いは今も確かにあった。
死にたくない。
死にたくないよ……。
いつのまにか降り出した雨は目にあたり涙のような流れ落ちた。
短い一生だったと、目を閉じようとしたその時、そこに二足歩行の生き物が甲高い声を喚き飛び出してきた。自分を見つけるとビクリと立ち止まり、後方へとまた喚き出す。仲間を呼んだのだろう、その証拠にまた一つ新たな影が現れた。先ほどとは違うゆったりとした格好だったが、それも私を見ると立ち止まりなにやら話し合い始めた。
感じをみるに、恐らくはこの星の原生生物しかも知的生命体と思われる。それを認識した私は心の中で苦笑いを浮かべた。良くて連れ去られて解剖か、悪くてこの場で殺されるのか。いや、良いも悪いも私はどちらにせよもうすぐ死ぬ運命にあったのだった。どの程度の文化体系を持っているのかはのか定かではないが、この死は免れようのない事実なのである。
せめて、私が意識を失っている間に殺すのであれば殺して欲しいと目を瞑ると片方が私に手のひらを向けた。
私は死ぬ前の温もりをふと感じると、そのまま意識を手放した。
セシルが先に到着した場所へと遅れて辿り着くと、そこには轟々と燃え盛る炎と傍に投げ出されるように落ちていた謎の生物が血を流し倒れる光景だった。
その生物はまるで赤ん坊のそれよりもさらに未熟な姿をしていた。手足は出来ておらず大きな頭印象的で目玉がギョロリと動いている。まるで金属の卵のようなものから投げ出されたようだったことから考えるに、何かの幼体なのかもしれない。
周りには見たこともないものが散乱しており、セシルの言う通りこれはギルドに持ち帰るべき事態なのかもしれない。
「ライラ、こいつ様子が変だよ!多分もうすぐ死んじゃう!」
私がつい考え込んでしまっていると、血をごぽりと吐き出した生物は目を閉じようとしており、おそらくは力尽きようとしていた。私は一瞬、逡巡してしまったがセシルの声に後押しされるように未知の生物に対してヒールをかける。
見た目的には傷も塞がったが、どうやらこれは相当に身体が弱っているらしく定期的にヒールを掛け続けなければ死んでしまうようだった。
「セシル、遅い時間だけど今から宿に帰ろう。このままじゃ危ない。多分時間がかかればここに獣も集まってくると思う。」
セシルは一も二もなく頷くと撤退の用意を始めた。
私はとりあえずこれを抱き、清潔な布で包んだ。一応口も確認出来たのでこれも塞がないように気をつけて街まで運んだ。
これがどういう結果になるのか今の私にはわからない。
でも、恐らくは悪い結果にはならないと何故か感じていた。これから始まるであろう何かが、私にそれを確信させていたのだった。




