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第7話 休業





「はー……休業か」


 リクトは困ったように頬を掻いた。

 それは数日前にやってきたギルドマスターを名乗るソフィアという女性の言葉を聞いたからだ。

 助かる人間がいる一方で、ギルドの職員たちは激務に追われているらしい。

 さすがに他人に迷惑かけていることを知ったのに、知らんぷりというわけにもいかない。

 そんなわけで一定期間の休業をすることにしたのだ。

 しかし、手がないわけでもない。

 ギルドと手を組めば何かしらの対策も取れるだろう。

 具体的な案もいくつか思い浮かんでいる。

 リクトとしてもここでの稼ぎがなければ食べていけないので、この日は店を空けて近くの街リムルのギルドへと足を運ぼうとしていた。

 

「え!? スキル屋やってないの!?」


「ごめんなさい、しばらく休業するんですよ」


 休業中の文字を見て声をあげた女冒険者。

 わざわざ足を運んでくれた女性に頭を下げる。

 数日前からやってきた冒険者たちに伝えてはいるのだが、それでもそれを知らない者も何人かいる。

 自分の貸し出すスキルをアテにしてくれている冒険者たちに対して申し訳なく思いながら休業中と書かれた看板を扉にかける。

 そんなところへずんずんと大股で一人の男が近づいてきた。


「おいッ! ふざけんなよ! ここのスキルがないとクエストができねーだろーが!!」


 長身ではげ頭の大男。

 2m近くあるだろうか。

 背中に背負った大槌はそれだけで威圧感を与える。

 男は冒険者たちを押しのけてリクトに掴みかかった。


「えーと?」


「スキルが貸せねえなら賠償金払えよ! それともてめえのスキル寄越すか? あ?」


 リクトはグレンから教えてもらった冒険者についての情報を思い出す。

 クエストの中断は違約金がかかる。

 もしこの男が自分のスキルを頼りにしてクエストを大量に受けていたのだとしたら違約金は馬鹿にできない金額になるだろう。

 それを聞くと男はそうだとニヤニヤと口の端を上げながらリクトを睨んだ。


「あの? ギルドにも言っておいたんですけど。聞いてないですか?」


 しかし、リクトもそれは予想していたので予めギルドに頼んでおいたのだ。

 ギルドとしてもスキルを貸し出すリクトの存在は無視できなかったためその頼みを承諾する。

 ここへやってきた冒険者たちはクエストを受ける前に来た少数の者たちだ。

 クエストを受けてから来ようとした者たちはギルドからスキル屋のことで説明を受けているためここへは来ていなかった。

 なのにこの男はクエストを受けているというではないか。

 それなのにこの店のことを知らない。

 リクトはどこかで情報の伝達ミスでもあったのかと首を傾げた。


「ふむ……それなら僕がギルドに伝えておきますよ。違約金が必要ならそれも払います。あなたの名前は?」


 違約金は生活の痛手になるだろうが、自分のミスなのだと言い聞かせて男を宥める。

 男の代わりにギルドに説明しておく。クエスト中断の違約金が必要ならそれも払うと。

 すると男は―――


「そ……それは……と、とにかくスキル寄越せ!!」


「いや、だから違約金が必要なら払いますよ? スキルの貸し出しは今日は休業なので無理ですけど」


「貸すじゃねーよ! 寄越せって言ってんだよ!」


 リクトの掴みかかりながら、要領を得ないことを口にする男。

 男の大声に周囲の冒険者たちが顔をしかめる。

 だが、そこでリクトは何かおかしいぞと疑問符を浮かべた。


「あなたの受けたクエストについてギルドに確認を取りたいんですけどお名前は?」


 そこでリクトはギルドに確認を取ることにする。

 しかしそれを聞いて焦ったのは男の方だ。

 というのも男はクエストなど受けていないからだ。

 スキルを貸し出せるスキル屋のスキルに目が眩んで、難癖をつけているだけだったのだから。

 勿論休業のことも知っていた。 

 だが、これは上手くいけばスキルを借りるどころか自分のものにできるかもしれないと考えての行動だった。

 けれどもそれは穴だらけの理論なのであっさりリクトに見破られる結果になった。

 しかも、確認なんてとられたらギルドの規定違反で金を払うのはこちらになる。

 それに焦った男は慌ててリクトの肩を掴んだ。


「うるせえッ!! いいからさっさとスキルを―――」


 次の瞬間、何かの衝撃を男が感じた時には既に彼は宙を舞っていた。

 「おー……」と、リクトが感心したような声を出して男に一撃を入れた人物を見る。

 周囲にいた数名の冒険者は何が起こったのか理解できていなかった。

 リクトの目から見てもかなり洗練された一撃に見える。

 鳩尾を抑えて苦しむ男を見下ろしてその人物は言う。

 

「今のは明らかな恐喝です、冒険者の名を貶めるような方は私が許しませんよ」


 コバルトブルーの髪色に、澄んだ湖面のような蒼の瞳。

 リクトと同じくらいの年だろうか。

 騎士のような鎧を見に纏った美少女だ。

 彼女は背筋を伸ばして凛とした態度でリクトを見た。


「初めまして、あなたがスキル屋の店主リクトさんですね?」


「はい、えーとあなたは?」


「私の名前はレイア、Aランク冒険者のレイアと言えば分かるでしょうか?」


 リクトはそれを聞いて「ふむ……」と、顎に手を当てる。

 そんなリクトに優しく微笑むレイアという美少女。

 自信満々なレイアを前にリクトは悩む。

 どうしよう……分からない。とは言いづらいリクトであった。






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