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第6話 ギルドマスター







「粗茶ですが」


「ありがとうございます」


 コップに入ったお茶を一口。

 ソフィアは少し驚いたように笑みを浮かべた。


「とても美味しいですね、どこの茶葉ですか?」


「日本の……って言っても分からないですよね。遠い異国にあるものを使っています」


 微笑ましい会話……に見えるが実は違う。

 ソフィアからは相変わらず時折鋭い殺気が飛んできているし、リクトはリクトでそれを涼しい顔で受け流している。

 店の奥の部屋にはすさまじい圧を感じるほどの緊張感が漂っていた。

 

(帰りたい……)


 そこになぜかグレンは同席させられていた。

 後悔しながらリクトの隣で縮こまっていると、ソフィアが「それで……」と本題を切り出した。


「スキル屋、でしたっけ? 良いお店ですね、あなた以外にはできないと思いますけど画期的で素晴らしい考えだと思います」


 リクトがぺこりと照れ臭そうに頭を下げた。 

 相変わらず何を考えているのか分からなかったが、ソフィアはコップに口をつけてから一息。

 「ふう……」と、息をつくと、次の瞬間には一際濃厚な殺意がリクトにぶつけられた。


「……ッ!」


 グレンは思わず息を呑んだ。

 自分へ向けられたものでもないのに、この重圧。

 もしソフィアがその気なら自分なんて瞬殺されるだろう。

 そう思わせるのに十分なもの。

 グレンが恐る恐るリクトを見る。

 さすがのリクトも……と思っていると。


「あ、何か食べます? つまめるものを用意しますよ」


 しかし、リクトは全く気にしていない様子だった。

 さすがにこれにはグレンだけでなくソフィアも驚いた様子で目を見開く。

 リクトを試したかったのだろう。

 ここで委縮するようなら相手ではないと思っていたのだが……と、ソフィアはリクトの評価を上方修正する。

 ソフィアはこほんっと咳払いを一つすると気を取り直したように口を開いた。


「お気になさらず、すぐに終わりますので」


 では―――と、続ける。


「このスキル屋によってギルドは滅茶苦茶です」


「あー……それに関してはすみません。僕の考えが浅かったです。ごめんなさい」


 あっさり非を認めたことに内心驚きながらもソフィアは提案をする。


「まず結論から話します。あなたのとれる選択肢は3つあります」


 ほうほう、と能天気にリクトは頷いた。

 そんなリクトを見てグレンは大丈夫か……? と心配になるのだが、ソフィアが怖かったので成り行きを見守る。


「まず一つ、ギルドと手を組むことです」


「というと?」


「スキルが簡単に借りれることは問題ですが、逆の見方をすれば戦力が充実したとも取れます。ギルドとしてもまったく得がないとも言いきれないんですよ。なのでランク試験、クエストの見直し、貸し借りをする人間の厳選をすることで問題をなくしていこうという提案です。勿論問題は出てくるでしょうがその都度解決していければなと」


 次に二つ目。

 それを言う前にソフィアはお茶を口に含んだ。

 何気に気に入ったらしい。

 喉を潤し提案する。


「あなたのスキルを私たちが買い取ります」


 魔法袋の中から布袋を取り出す。

 その中からはじゃらりと硬貨が擦れ合う音が聞こえる。

 

「勿論報酬は弾みます」


「んーでもそれって借りるとかじゃないですよね」


「そうですね、スキルを譲ってくれという提案です、次に3つ目ですが……」


 「え―――!?」と、グレンが驚きの声をあげる。

 それもそのはず、いつの間にかリクトの首元には剣が押し当てられていたのだから。


「私に逆らって店ごと消えるか」


 どうします? と可愛らしくソフィアは笑った。

 こんな状況でなければそれなりに癒される笑顔だったのだろう。


「んー……答えれませんね」


 グレンは答えを保留にしたリクトにぎょっとした。

 ここで下手な答えは本当に殺されるぞと内心で冷や汗をかく。


「理由をお聞きしても?」


 僅かに視線を強くするソフィア。

 そのソフィアの問いにリクトは―――


「ギルドマスターに聞けばわかるんじゃないですか?」


「―――ッ!」


 ここで初めてソフィアが明らかな動揺を見せた。

 リクトが初めてニコニコと浮かべる笑み以外の表情を見せる。

 目を細めて少し険を混ぜた様子のリクト。

 しかし、グレンは何のことなのか分からない。

 リクトは何を言っているんだと首を傾げる。


「……分かりました。こちらが不作法だったようですね……後日またお伺いします」


 ソフィアは剣を納める。

 それを見てグレンはドッと疲労が押し寄せた。

 安心感で思わず大きく息を吐く。

 そして、最後に部屋を出るところでソフィアが一言。


「あなたとは敵対しないほうがよさそうですね」













 ギルドマスターの執務室にて。

 ソフィアはこんこんと扉をノックして返事を待つ。

 中から声が聞こえるとノブを回して部屋へと入った。


「おかえりなさい。どうでしたか?」


 そこにはソフィアと瓜二つの顔をした美少女が机の書類を整理していた。

 ソフィアと名乗っていた少女は顔に手を当てて魔法を解除した。

 顔の形が霧のように歪み、違う人物の顔が現れた。


「姉様……ごめんなさい、失敗したわ」


「……あなたの魔眼で見た感じはどうだったの?」


 すると先ほどまでソフィアと名乗っていた少女は答えた。


「見えなかった……底のない穴を覗き込んでる気分だったわ」


 相手の思考の流れを読むことができるはずの魔眼。

 読心の魔眼と呼ばれるそれを持った少女は数刻前に話していた少年を思い出して小さく体を震わせた。

 絶対の自信を持っていた魔眼。

 自分より強い人間なんてそれこそ数えるほどしかいないと思っていた。

 エルフとしての自信もあったし、魔眼の力への信頼もあった。

 しかし――――


「あれは駄目……ハッキリ言って、化け物よ」







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