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第3話 真相は






「あったな……」


「あるわね……」


「ありますね……」


 三者が共に同じような反応を示す。

 斧戦士のグレン、軽戦士のアレイ、シーフのアイラ、僧侶のニーナの4人は件のスキル屋へとやってきていた。

 

「だろ!? だから言ったんだって!」


 それをどうだ見たことかと自慢気にしているのは前日の酒場で仲間たちにスキル屋の存在を言い続けたグレンだった。

 3人の目の前には確かにボロいが汚い文字で書かれた『スキル屋』の看板が。

 さすがにここまで手の込んだ悪戯はしないだろう。

 何にしてもこんなところに得体の知れない未知がある。

 冒険者としてか人としての好奇心故か……彼らは店の扉を開けた。


「いらっしゃいませー」


 店の中はこざっぱりしていたが飲み食いができる席がいくつか置いてあった。

 カウンター席に4つほどのテーブル。

 清掃は行き届いてるらしく、汚れは少ないがやはり店の建築に使われた木材の劣化が激しい。

 埃などはないが、テーブルに軽く手を置くとぎしり……と、音が出た。


「あ、グレンさん、また来てくれたんですね。ありがとうございます」


 そして、店の中にいたのは一人の若い男だった。

 歳は20にも行ってないくらいだろうか。

 最年少のニーナと同じくらいか少し上くらいにしか見えない。

 この辺りでは珍しい黒髪黒目だ。

 全体的に細身だが痩せすぎているというわけではない。

 この少年がこの店を作ったのだろうか? その疑問はさておき、アレイは少年に話しかける。


「すいません、スキルの貸し借りをやっていると聞いたんですが……」


「はい、やってますよ」


 あまりにもあっけなく答えは返ってきた。

 答えはイエス。

 少年は何でもないことのように笑みを浮かべた。


「その……すまないが、ちょっと信じられないんですが」


「わ、私も……」


 ニーナとアレイが疑心を口にする。

 アイラは少し目を鋭くして少年を睨んだ。


「あなた……名前は?」


「リクトです」


 リクト……この辺りでは聞かない名前だ。

 自分の名を名乗った少年にアイラはさらに目つきを鋭くして睨むように言った。


「冒険者だからって馬鹿にしてるの? グレンは騙せても私は騙せないわよ」


「ん?」


 リクトはきょとんとした顔で首を傾げた。

 そんなリクトを見て苛立ったようにアイラがカウンター席をばん! と叩いた。


「スキルの貸し借り!? そんなことできるわけないでしょ! グレンに一体何をしたの!? 本当のことを言うなら衛兵には黙っててあげるわ」


「お、おい、アイラ……どうしたんだ」


「私はね! こんな詐欺まがいのことをしてまでお金が欲しいって連中が許せないの!」


 アイラの父親はとある商人に騙されたせいで多額の借金を背負ったという過去があった。

 まだ若い彼女が冒険者なんて危険な職業を選んだのにもその理由が大きかった。

 少しでも騙された家族を助けたいという思いで日々魔物を倒したり、ダンジョンに潜っていた。

 そんなアイラから見てこのリクトという少年のやり口はひどく気に食わないものだった。

 アイラは詐欺をする類の人間が大嫌いだった。

 グレンのことを大切な冒険者仲間だと思っていたのもある。

 グレンは確かに弱いが、それでも駆け出しの自分に声をかけてくれた優しい男なのだ。

 あの出来事がどれだけ駆け出しの自分にとって嬉しかったか。

 それを思い出すとグレンを騙したリクトの言動は許せなかった。


「あー……やっぱり怪しいです?」


「やっぱりってことは……本当にっ」


「ああ、いやいや、誤解させるようなことを言ってすみません。スキルの貸し借りは本当です」


 だけど、とリクトは補足する。


「まあ、自分でもこのお店は怪しいなーと思ってたんですよ、見た目も胡散臭いですし……ははっ」


 リクトは柔和な笑みと共に頬を掻いた。

 その様子に少し毒気を抜かれながらもアイラは詰め寄る。


「スキルの貸し借りしてもいいかしら?」


「はい、いいですよ」


「出来なかった時は」


「その時は詐欺罪で衛兵になりなんなり連れていってください」


 アイラはリクトの自然体な姿に違和感を感じた。

 

(隙を見て逃げられるとでも思ってるの……? でもいいわ。もし嘘だったらその時は絶対に逃がさないから)


 アイラはアレイとニーナに目配せをする。

 いざという時は逃さないようにという合図だ。

 二人は気付かれない程度に重心を動かし出口を塞ぎ、いざというときの動きをするために溜めを作った。

 そんな冒険者たちの様子に気付いているのか気付いていないのか、リクトは一枚の紙を取り出した。

 紙の表面には透明なフィルムのようなものが貼ってあり傷付いたり汚れないようになっていた。

 どこの加工技術かは分からないが、珍しい物にアイラは目を見開く。


「これは?」


「スキルのメニューです、1日で大まかには初級で1000G、中級で3000G、上級で5000G、帝級で3万G、神級で10万Gです。ただしレア度が高いスキルは少し高めですけどね」


「……随分手が込んでるのね……」


 探るようにリクトを見る。

 ニコニコしているだけで裏は見えない。

 何を考えているのかも分からなかった。

 アイラは黙ってスキルの一つを指差す。

 仲間たちもアイラとリクトのやり取りを見守っている。


「じゃあ、この遠視スキルの初級を頼むわ」


 比較的取得しやすいスキルの初級。

 それでもすぐに取得できるようなものではない。

 今朝自分のスキルは確認済みだし、アイラは目の前の男がどうやって自分を騙そうとするのかを油断なく見ていた。


「はい」


 そうして頷いたリクト。

 挙動の一つすら見逃さないぞとアイラはリクトをジッと睨む。



 ………………………



 …………………



 ……………



「……? ちょっと、早くしなさいよ」


 アイラの言葉を聞いてリクトは―――


「ん? ああ、もう終わりましたよ」


「は?」


 アイラは何を言われたのか分からなかった。

 ニーナとアレイも同様に呆けている。

 リクトは変わらずニコニコ笑っている。

 その姿を見てアイラが再びカウンターを叩いた。


「ちょっと! こっちに来なさい!」


「あの……あんまりバンバン叩かないでほしいんですけど……ボロいので壊れちゃいます」


「いいからこっち来なさい! 衛兵につき出してやるわ!」


 リクトの腕を掴んで引き寄せようとしているアイラをそれまで静観していたグレンが止めた。


「アイラ、落ち着けよ」


「グレン……なんで……っ」


 するとグレンは一枚の鑑定紙を取り出した。

 こんなこともあろうかと街に売っていた自身のスキルを調べるための紙を何枚か購入していたのだ。

 アイラは何なんだと指先を軽く噛んで血を滲ませると、鑑定紙に押し当てる。

 すると―――



 ――――――――


 アイラ



 開錠(中)、罠(小)、短剣術(中)、肉体強化(小)、遠視(小)


 ――――――――



 そこには確かに持っていなかったはずのスキルが記されていた。


「………っは!?」






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