第2話 酒場
そこは冒険者ギルドの酒場。
クエストをクリアして報酬で豪華な食事を楽しむ者や、失敗をしてやけ酒を飲む者まで様々だ。
ギルド内は昼間とはまた違った賑わいを見せている。
そんな中である4人組の会話は少し変わったものだった。
「本当なんだって!」
「おいおい……グレン、ちょっとは落ち着けよ」
「あはは……」
「久々にクエストクリアできたからって酔っぱらい過ぎよ~?」
グレンと呼ばれた男は興奮冷めやらぬ様子で仲間たちに何かを言っていた。
それを聞いた仲間たちは少し引きながら男に言い聞かせるように口を開いた。
「え~と、グレン? あなたの話をまとめると……スキルを貸し借りするお店があったのね?」
「そうだ! 街から離れたところにスキル屋ってのがあったんだ!」
「なるほどなるほど……」
それを聞いて赤い髪色をしたシーフの少女アイラが話を何度もかみ砕くように頷く。
そうしてしばらく頷いて―――「ぷっ」と、堪えきれなくなったように吹き出した。
「あははははははっ!」
それに合わせてグレンと同じような軽戦士の格好をした男も笑いだす。
控えめではあったが杖を脇に置いた僧侶の少女も苦笑していた。
「な、なにがおかしいんだよ!」
「くくくっ、いやいや、おかしいことだらけだろ……ぷくく」
グレンは馬鹿にされたことに腹を立てて顔を赤くしているが、内心ではどこかでその反応を予想していた。
それもそのはずスキルとはその人間の持つ技能、才能、努力の結晶だ。
グレンの話はまるで夢物語の中の出来事だ。
荒唐無稽。
グレンは自分でもそう思っていた。
例えるなら100mを9秒で走れる人間が足の遅い人間に「僕の足の速さを貸してあげるよ」と、言っているようなものだ。
譲渡なんてできるはずもない。
だが―――グレンはそれでも昨日の出来事は夢ではないと主張する。
「本当なんだよ! マジなんだって!」
仲間たちはひとしきり笑い終えた後で「じゃあ」と、質問をした。
「じゃあそのスキル屋ってのがマジであったと仮定しよう、お前はそこでスキルを借りたのか?」
「ああ、借りた!」
「どんなスキルを借りたの?」
「斧術の上級を借りた!」
「ぶははははははははっ!!」
再度あがる笑い声。
グレンが全く信じようとしない仲間たちに声を荒げる。
「いや、待て待て、だって、上級スキルって言ったら……それこそ中級を持ってたとしても取得には何年の修行が必要だ? お前だって自分に才能がないことは分かってるだろ?」
スキルは5段階の階級が存在する。
初級、中級、上級、帝級、神級だ。
上級スキルは一つ持っているだけでも重宝される。
才能無しで上がれる限界値。
それが上級スキルだ。
冒険者でも壁を超えたCランク以上にならないと持っている人間は少ないだろう。
「だ、だけど……本当なんだよ! 半日の契約だったから今は中級になってるけど、確かに昼前までは上級だったんだよ!」
んー……と話を聞いていた男アレイは腕を組む。
グレンの話は確かに荒唐無稽だ。
だが、彼と付き合いの長い彼としてはグレンが意味のない嘘をつくとも思えなかった。
しかし、だからと言ってやはりスキル屋なんてものの存在は信じることが出来ない。
「あ、あのっ、それならそこに行ってみるというのはどうでしょう?」
薄緑色の髪をした僧侶の少女ニーナはそう提案する。
何かの間違いだとは思うが、ここまでグレンが間違いないと断言するということは何かしらの幻でも見たのかもしれない。
幻を見せる植物型の魔物という可能性だって捨てきれない。
ならば冒険者として調査は必要だろう。
「あー……分かった分かった。じゃあ明日の朝に門の前で集合だな、グレン、何もなかったら酒くらい奢れよ?」
「1週間の食事代全部奢ってやるよ」
さすがにそこまで言い切られると簡単に嘘だと断ずるわけにもいかない。
何かの間違いだったとしても真相は気になる。
そうして冒険者たちの夜は更けていく。
グレンはその間もずっとその『スキル屋』という謎の店の存在を主張し続けていた。