【閲覧注意?】恋の色、虹の色
初めまして、いらっしゃいませ。数ある作品の中から『恋の色、虹の色』を選んでいただいて誠にありがとうございます。ようこそ月見積木ワールドへ。
初投稿となります、正真正銘処女作です。生暖かい目で見守りください……
閲覧注意かどうかは読者様によって変わります。二次元に嫁が居る、二次元が居場所、などの方は閲覧が注意かもしれません。
あ、私、僕、当てはまるから無理かも…………そんなあなたは、ブラウザバックせずその画面のまま近くにいる誰かに読ませてあげて下さい。本当に閲覧注意かどうかその人が計ってくれます。
『芳晴、アンタ今日どうだったの?』
「まだ結果来てないんだから分かんないって…………まあ、どうせ面接官のあの様子だとまた不採用かな」
『アンタはすぐそうやって悲観するんだから、まだ分からないでしょ?』
「分かんなくねえの、俺みたいに何十社も受けてればなんとなく空気感とかが掴めちまうんだよ」
俺、片岡芳晴は自嘲気味に笑って一人、夜の街道を歩きながら片手に握るスマホの向こう側の母親に告げる。
母親は恐らくそんな俺に怒るどころか、まったく呆れたと言うように、あからさまな溜息を漏らした。
『こっちだってねえ仕送り送るのも精一杯なのよ? さっさと内定貰ってもらって自立してくれないと、何のために一人暮らしをさせたのか分からなくなっちゃうんだから』
「もう聞き飽きたよその話、何回目だよ」
『アンタ、もうこっちに帰ってきたら? どうせ東京に居たってやることなんてないんでしょ?』
「は? 帰ってどうすんだよあんなクソ田舎」
『お見合いでもして家庭を持てばいいんじゃないの? 家庭を持てばアンタももっとしっかりするだろうし、この際、婿養子とかどうかしら? お屋敷のお嬢様みたいな娘と結婚して籍入れればお金の事は――――』
「頭の中お花畑か! あんたは!」
俺はスマホを耳から離して画面に向かって叫ぶなり、乱暴に通話を一方的に切った。
俺は二十五歳の絶賛就活中の就活生だ。
通販サイトも届くのが遅いクソみたいな田舎に嫌気が刺して都会の代名詞、東京に両親の反対を押し切って一人暮らししに来た。
そりゃ、東京にはそれなりの憧れやら希望を持ってやってきたわけだが、現実は残酷なものでかれこれ内定をもらうために何十社も受けてみたが、全滅。そんなに甘くないと言うものを思い知った。
だが、あのクソ田舎よりはマシだ。東京の方が便利だし、何よりも一人で暮らすと言うのが新鮮でいい。親に小言を言われ続けることも滅多にない。
「あ…………」
夜の道を夜食のコンビニ弁当の入った袋を下げながら歩いていると、いつの間にか俺の住む、アパートに辿り着いてしまった。
俺の部屋は二階に上がった先の一番奥、二〇五号室だ。そこに向かうのに勿論階段を利用するわけだが、その階段脇にそれぞれの部屋番号の書かれた投函ポストがある。
部屋に向かう前にポストの中身を確認するのだが、自分のポストを開けた時、中に大き目の封筒が一番に目に入った。
「…………」
俺は何も言わずに取り敢えず封筒と、その他の投函物をまとめて取り出すなり二階に上がる階段を昇って自室に入った。
「ただいま」
玄関に入るなり、なんとなくぽつりと零れるように帰宅した言葉を漏らすが、俺は一人暮らしで、もっと言えば独身、万年彼女無しの人間だ。返答が帰ってくるはずはない。
はあ、と溜息を漏らしながら俺は後ろ手で玄関の扉の鍵を掛けて、ついでにチェーンも掛ける。
息苦しいスーツの襟を緩めてから、一息吐くと、手元の封筒を見やった。
「どうせダメだろうけど」
封筒の表面には会社の名前が書いてある。分かっている。十中八九前に受けたどこかの会社の面接の結果だ。
俺は口で漏らしながら落胆した様子で封を開けるも、心のどこかで期待しているような気がしない訳でもなかった。
ごくりと生唾の飲み込みながら、封筒の中からゆっくりと結果の用紙を取り出して細かく刻まれた長い文字を目で追った。
――――慎重に検討いたしました結果
――――残念ながら今回は貴意に沿いかねる結果となりました
――――貴殿の今後のご活躍をお祈りしております
「があああああ! クッソおおおお! やっぱりか!」
分かっていた。変な期待を少しでも抱いてしまった自分が悪い事は重々承知だ。
こんなの何十社も受けていれば日常茶飯事と言うものだろう。だから気負うことはない。次だ、次に期待すればいい。
「そう割り切れればいいけどな……」
流石にそんなポジティブさは生憎と持ち合わせてはいない。いくら何十社を受けて落ちている就活スペシャリストの俺でも毎回これだけは心を抉られる思いがする。
「ふざけんなよ! どいつもこいつも俺の今後の活躍お祈りしやがって! 今後活躍する見込みがあるって思ってんなら採用しろよ!」
いや、まあ、社交辞令なのは重々承知しているのだが、酒が弱くて逃げることも出来ない俺にはそんな理不尽な怒りを虚空に向かって叫ぶくらいでないとやってられない。
もう、流石に心が折れかけてきた。母さんとさっき電話で話していた内容をふと思い出す。
「いっそ、田舎に帰るか」
なんだか、一瞬あの田んぼに囲まれた光景が恋しくなって、ちょっとしたホームシックを味わったが、俺は、ぶんぶんと力強く首を振ってその思考を振り払う。
いやいや、何のために無理を押し通してまで東京でひとり暮らしをし始めたんだ。あの代わり映えのしないクソ田舎とおさらばするためだろう。
それにだ、今帰れば、お見合いだの結婚だの言われるに決まってるのだ。
あのバカ母はお金持ちのお嬢様の婿養子になるとか、どこのギャルゲーだよって提案をしてくる始末だし、いよいよ内定を取らないとまずい。
「お嬢様と結婚……」
以外と悪くない? なんて一瞬頭を惑わせたが、そもそもそんなの現実に起こりうるわけがない。それに今は就活で忙しい、とてもじゃないが家庭を持とうなんて心の余裕も無い。
まあ、そんなお嬢様が居たとしても俺には見向きもされないんですけどね……。
「だって」
俺は玄関で靴を脱いでちょっとした通路を歩いて六畳間の自室に入って電気を付ける。
「これだもんなあ」
俺は電気の明かりで照らされた六畳間の実態を見下ろして深く溜息を吐いた。
服がはだけて半裸状態の美少女のイラストが描かれた抱き枕が二つほど転がり、床には漫画やライトノベルなんかの本が乱雑に散らばっていて、壁一面には見渡す限り隙間を見せないほど密集して張り付けられた美少女ポスター。
我ながらいつも思うがこれは酷い。
そう、何を隠そう、俺はれっきとした二次元オタクだ。いつからそうだっただろうか、記憶は曖昧だが、確か、中学二年の時に友人に深夜アニメなるものを勧められて観はじめたのが切っ掛けだった気がする。
それから気づけば二十五のおじさんと言われてもおかしくないかもしれない年齢まで来てしまった。
別に好きなことで趣味でやってることなので、この歳にもなってなどと思うつもりも言うつもりも毛頭ないが、美少女お嬢様との結婚は難しいのかもしれない。無職だし。
「ま、まあ、いいさ。俺は独立主義者なんだ。一人の方が気楽でいい。両親から解放して清々してるくらいなんだ。今更一人が寂しいなんて言うつもりはないね」
おいおい声が震えてるぞ片岡芳晴。そして誰に向かって言い訳してるんだ俺は。
なんか、虚しくなってきた。腹も減ったし、さっさと買ってきた弁当食っちまおう。
俺はコンビニの袋から弁当を取り出すと、レンジで温めるべく、小さいキッチンに向かった。
向かう途中、コツ、と何かが俺の足の指先を小突いた。
「いた」
反射的にその場に立ち止まり、視線を足元に落とす。
まあ、こんだけ乱雑に本が散らばっているのだ、それのどれかを蹴飛ばしたんだろう。なんて思いながら見ると、それは漫画でもライトノベルでもなかった。
「これ…………」
俺は、それを見るなり、思わずしゃがんで足元の物を拾い上げた。
手元のそれは、文庫本より少し大きいくらいの四角く薄い箱だった。箱の表面には茶髪でロングの髪をした美少女のイラストが施されており、こちらに笑みを向けている。
その女の子の下に被せるようにかわいらしいフォントで、『恋の色、虹の色』とタイトルが刻まれている。
「うっわ、懐かしい」
『恋の色、虹の色』は俺が初めてプレイした、言わば恋愛シュミレーションというジャンルのゲームだ。
ノベル形式で小説のように文字が流れて行き、それを読むのが基本的なのだが、ストーリーの最中に選択肢が現れる。プレイヤーは主人公となって選択肢を選びこのパッケージの女の子を恋に落としていくというゲームなのだが、
そんな単純なゲームでも当時プレイしていた時の俺は夢中になってこのゲームに縋り付いていたものだ。
確か、ネットの評判だと、このゲーム、ストーリーがテンプレだの、簡単すぎるだの、クソゲーだの言われていたはず。
「それでもお構いなしにプレイしてたんだよな」
周りにいくらクソと貶されようと、当時の俺にはそれを無視してプレイしていたのをよく憶えている。
別にクソと批判されているのに流されたくないとかそう言う感情でやってたわけでは無かったはず、もっと単純でアホらしい理由。
「神崎梨沙、だっけ? 確か」
俺は、パッケージに描かれる茶髪の美少女の名前をうろ覚えながらも呟いてみる。
そうそう、梨沙ちゃんだ。当時中学生だった俺はこの娘に恋していたのだ。
二次元に恋? そんなの馬鹿馬鹿しいと思う人は居るかもしれない、だが、好きと言う気持ちはコントロール不可だ。それがたとえ二次元でも当時の俺は本気でこの梨沙ちゃんと結婚したいとまで思った。
恋は盲目、なんて言うが、まさにそれに近い。批判をものともしなかった訳ではない。批判がそもそも見えていなかっただけだ。
神崎梨沙ちゃん、つまり、この『恋の色、虹の色』に出てくる恋に落とす対象、攻略対象なのだが、今見ても可愛いと思わせるこのキャラクターデザイン。そして主人公を一途に思ってくれるその謙虚な性格、声、笑顔、彼女の全てが当時の俺を魅了させるには十分な要素を持ち合わせていた。
あれからもう十年。流石にストーリーもうろ覚えになってしまっているのだが、
「久々にやってみるか」
なんか童心に帰ったような気がして、無性にプレイしたくなった。幸い、このゲームは今のパソコンのスペックでも動くことは分かっている。
思ったら即行動、ではないが、俺は弁当をレンジに放り込むなり、スーツを脱ぎ捨てて中のワイシャツのボタンをいくつか外してラフな格好になるなり、パソコンの前に座ってパッケージからゲームディスクを取り出してパソコンに入れる。
凝った肩を揉みほぐしながらインストールが終わるのを待っていると、あっという間にインストールが終わった。
よし、と俺は無駄に意気込んでマウスを握ってカーソルを動かすとゲームアイコンをクリックして起動させた。
しばらくしてウィンドウが開き、タイトルロゴと共に可愛らしい女の子の声でそのタイトル名を読み上げる音声が流れる。
そうそう、この甘ったるい声が当時の俺には刺さったんだっけか。
データは無いので、最初から始めるを押す。
早速主人公の名前を入力する画面が出る。
「さてどうするか」
当時は確か本名でやっていた気がする。なんか本名にしてやるのは気恥ずかしい感じがするが、他にいい名前も浮かばないので、妥協して本名でプレイする。
名前を決めると、ピコーンという電子音とともにゲームが始まった。
梨沙『あ、おはよう芳晴くん、こんなところで会うなんて奇遇だね!』
来た来た。早速メインヒロインのお出ましだ。
茶髪ロングの髪をした美少女がにこりと笑顔をこちらに向けて立っている。彼女の下にはウィンドウと言って、テキストが表示されるものがある。
このゲーム、何がすごいって、名前を呼んでくれるという事だ。今は名前のパターンをいくつも収録して名前を呼んでもらうというのが出来て、名前を呼んでもらうという技術はそんなに珍しくないらしいが、当時としては画期的なものだった。
芳晴『奇遇って、梨沙、ここは通学路で僕たちは隣の家に住む幼馴染同士なんだぞ。会っても驚くようなことじゃない』
そう、このヒロイン、神崎梨沙は主人公とは幼馴染という設定だ。小学生からの付き合いで何故か梨沙は主人公のことが好きなのだ。この設定のおかげで、最初から堕ちてるやつを恋愛に落としてもつまらんとクソゲーの烙印を押された要因なのだが。
それに相まってこの主人公、プレイヤーの分身なのだが、空気読まないわ恋愛にトラウマ持ってるわ、梨沙の気持ちに終盤にならないと気付かないわで散々なものになっている。
「確かにクソゲーって言われるかもな……」
俺は苦笑いを漏らしながらマウスをクリックしてテキストを進める。
梨沙『うん、そうなんだけどさ…………あなたと一緒に登校したかったから待ってた……なんて言えるわけないよね』
芳晴『ん? 梨沙何か言ったか?』
梨沙『う、ううん、なんでもない! さっ、一緒に学校まで行こうよせっかくここで偶然、会ったわけだし』
芳晴『ん? それは良いけど、梨沙なんか顔赤いぞ?』
「芳晴ううううう! 鈍感すぎるにもほどがあるだろうが! お前いっぺん通学路脇のドブに顔突っ込ませんぞ!」
いや、まあ、こいつ俺なんですけどね……。
流石にこんなのいくら女馴れしていない俺と言っても気づくぞ普通。この主人公、プレイヤーの分身と言うが、終始こんな感じなので感情移入がまったく出来ない。
よくもまあ中学の俺は盲目になるほどのめり込んだものだと逆に関心する。
ゲームは着々と進み、登校イベントが終わると、学校に入った。
なんともまあよくできてるもので、主人公と幼馴染の梨沙は同じ学校の同じクラス。更に席が隣同士とかいうファンタジー設定が繰り広げられている。これには思わず俺も苦笑いを零す。
梨沙『ねえ、芳晴くん、昼休み少し時間あるかな? 二人きりで話したいことがあるんだけど』
おっと、ここでヒロインからお誘いか。記憶が正しければ、ここで選択肢が現れるはずだ。
――――一、『分かったいいよ』
――――二、『昼食は友人のたかしと食べる約束があるから』
――――三、『やだ』
ほら出た。
この選択肢でストーリーに変化が起きたり、梨沙の態度が変わったりするのだ。
こんなの一、一択だろうが…………なんだ三の『やだ』って、製作者セリフ考えるの放棄してんじゃねえよ。
記憶が正しければ中学時代の俺も一を選んだはずだ。まあ、仮にも恋してたわけだしな、断るわけがない。
他の選択肢を選んだらどう転ぶのかちょっと興味あったが、まあ、無難に一で。
芳晴『分かったいいよ』
梨沙『ほんと! ありがとう! じゃあお昼ご飯持って屋上に集合ね!』
芳晴『(梨沙の頬がまた赤い……熱でもあるんだろうか)』
「ああ、思い出した、昼食イベントか」
記憶だと、この後二人きりで屋上に上がりお弁当をつつくんだった。そこであーんとか、オカズ交換とか甘酸っぱいイベントがあるはずだ。
俺の学生時代なんて屋上は鍵締められて一般人を封鎖していたのにこのゲームの中の学校では屋上解放していてしかも他にだれも居ないとかどういう運命が重なったらそういう人生になれるんだよ。
いや、ゲームに言っても仕方い事か……。
芳晴『ん? でもどうして弁当持参なんだ? 話しなら弁当持ってくる必要ないんじゃ』
梨沙『せっかくだし一緒に食べようよ』
芳晴『え、なんで?』
梨沙『一緒に食べたいからだよ、分かってよ……』
芳晴『? 分かったよ、でもなんで顔赤いんだ?』
梨沙『もう、相変わらず鈍感なんだから』
芳晴『何か言ったか? 梨沙』
「………………」
もう死ねよ。
ゲームの中では時間が進むのも早い。
嫌だと思う授業だって、ゲームにしてみれば二、三秒で終わる。
そんなこんなで授業が一通り終わりチャイムが鳴ると、お昼休みがやってきた。
芳晴『そういえば、梨沙と屋上に行く約束してたな』
そういえばじゃねえよ忘れてんじゃねえ…………。
一瞬画面がブラックアウトすると、次にはもう背景が屋上のそれになっていた。
芳晴『えっと、梨沙は』
どうやら屋上を見渡して梨沙を探してるようだ。
屋上って開放的な空間なんだから屋上入れば居るかいないかなんて一目瞭然だろうが……というツッコミは流石に野暮だと思ったので俺はそっと心に仕舞った。
しばらくして主人公は梨沙を見つけたようで、梨沙を呼ぶと、画面中央に梨沙の立ち絵が浮かび上がった。
芳晴『ゴメン、遅れちゃって』
梨沙『ううん、全然大丈夫だよ。むしろ来てくれたことがすごく嬉しいよ』
「おお」
思わず声が漏れてしまった。やっぱりだが、こういう梨沙の一途なところは可愛いものがある。
梨沙『じゃあ、一緒にお弁当食べよう?』
芳晴『うん』
そこから、俺の記憶通り物語は進行していく。主人公のほっぺに付いたご飯粒を梨沙が取ってそれを食べてみせたり、梨沙のハンバーグを主人公が取ったことに梨沙が怒って、でも結局主人公のから揚げと交換という形で収まったり、恋人の真似とか言ってあーんをし合ったりして、ものすごく青春していた。
いつの間にかそのいちゃいちゃを見てると、俺のマウスをクリックする指が止まらなくなるほどのめり込んでいた。
梨沙の笑顔、声、仕草、なにもかもが洗礼されていて大人の俺もすっかり魅了されていた。
さっきまでの落ち込みはどこへやら、心が洗われるように忘れきっていた。
「ああ、やっぱ二次元は最高だな……」
現実を忘れられると無性にこの言葉が癖のように漏れ出す。
二次元に行けたらどんなに楽しいだろうか。こんな何十社受けても内定は取れない、恋人も一人として出来ないこんなくそったれな世の中よりはましなはずなのは間違いない。
芳晴『そういえば、梨沙話しってなに?』
昼飯タイムが終わると、主人公は話題を切り替えるようにして梨沙に訊ねた。
そう言えば俺自身も忘れていた。そもそも弁当は二の次で梨沙の話しってのが本題のはずだ。
そういえば、この後どういう話するんだったっけ、まったく記憶にない。
というかそもそもこんなイベント合ったか? 弁当一緒に食べようってだけのはずだたが。
梨沙『うん、話しあるんだけどね』
芳晴『うん、何?』
梨沙『芳晴くんにじゃないんだ』
芳晴『え?』
「ん?」
どういうことだ、こんなシーン無かったはずだぞ。
なぜか、ゲームの中で流れえていた軽快なBGMもピタリと止まる。
梨沙『いや、芳晴くんではあるんだけど、きみの方じゃないの』
芳晴『え? 梨沙、一体何を言って』
何だこれ、バグか? と思ったが、こんなバグ見たことない。それに不穏な空気がゲームから伝わってきてるような気がする。
「いったい誰に言ってるんだ」
この屋上は主人公と梨沙しか居ないはずだ。
梨沙『きみだよきみに言ってるんだよ』
どくんと、一瞬心臓が跳ねた。
その衝撃の反動でマウスから手を離し、後ろに椅子ごと引く。
画面いっぱいに梨沙の顔が映し出され、テキストがその下に表示されてる。まるで、画面を通して俺に話しかけたような感覚がした。
「いやいや、そんなバカな」
取り敢えずテキストを進めよう。
そう思って、震える手でマウスを握る。
刹那。
「ッ!」
ぷつりと
まるでテレビの電源を消すように意識が途切れた。
………………………………。
「ん…………」
「あ、やっと起きた。おはよう。現実世界の片岡芳晴くん」
俺が目を覚まして意識を覚醒させたとき、最初に視界に映ったのは、女の子の覗き込むような顔面だった。
「う、うわああああああ!」
いきなりの光景に驚いて俺は勢いを付けて身体を起こした。
その反動で、覗き込んでいた少女の頭と俺の頭がすごい鈍い音を内側から鳴らしてぶつけ合った。
「があ!」
「いったー!」
頭の鈍痛に苛まれながら、上半身を起こしたままの俺は、首を振って鈍痛を追いやる。
ちかちかした視界もようやく慣れてきて、やっと辺りを見渡す余裕ができた。
「ここは……」
そこは観たことある。だけど、実際に見たことない場所だった。
一言で表すのなら学校の屋上。
俺はついさっきまで自室でゲームをやっていたはずだ。それがどうしてこんな場所にへたり込んでいるのか。
「いたたた、いきなり起き上がらないでよ……」
俺が困惑した様子で思考を巡らせると、目の前の方から女の子の声がした。
そうだ、女の子といま頭をぶつけたんだった。
「ごめん、大丈…………」
大丈夫?と言って尻もちをついた少女に手を伸ばして立ち上がらせようとすると、その少女の姿を目に捉えて絶句した。
「だ、大丈夫気にしないで。一人で立てるから」
少女は見たことある制服に身を包んでいて、見たことある茶髪、見たことある顔、聞いたことある声でぶつけた頭を撫でながら立ち上がった。
「…………神崎梨沙……」
そう、まさしく俺の目の前に居るのは、先程ゲームをやっていた時に画面の中にいた少女、そのヒロインである神崎梨沙が間違いなくいた。
「そうだよ、はじめまして…………いや、お久しぶりかな? 十年ぶりだね片岡芳晴くん。ようこそ『恋の色、虹の色』の世界へ」
「は? そんな」
そんなバカな。今、『恋の色、虹の色』の世界と言ったか? それは俺がさっきまでプレイしていたゲームだぞ。それに神崎梨沙なんて存在するはずない少女が俺の目を見て俺に話しかけている。
夢か? そう考えるのが得策なんだろうが、しかし、さっきの頭を打ったときの鈍痛がそれを否定する。
「どうなってんだ、現実か?」
「困惑するのも当然だよね……勝手に呼び出してしまってごめんなさい。ここはあなたが今しがたプレイしていたゲームの世界。ゲームの世界だから現実でも夢でもないかな」
ますます訳が分からない。どういう原理が働けばゲームの中に入れるってんだ。
まさか、あまりにも現実を逃避した過ぎて幻覚でも観ているのだろうか。
「ごめんね、お話しがあって呼び出しちゃった。でもすぐ終わるから。そうすればすぐに帰れるよ」
俺の困惑をものともせず、神崎梨沙はお得意の笑顔をこちらに向ける。
その見慣れてるはずの笑顔に一瞬どきっとさせられてしまう。
「えっと、話し? 俺に?」
幻覚でもなんでもいい、今神崎梨沙は話しが終われば元に戻れるという。ここで混乱していてもしょうがないし、彼女の言う通りにするしかない。
「うん、そこで話そうか」
俺と神崎梨沙は屋上のフェンスにもたれるようにして寄り掛かって座り込んだ。
「あのね、芳晴くんには忠告するためにここに呼んだんだ」
「忠告?」
神崎梨沙は少し寂しげな表情でうんと頷いた。
「もうね、このゲーム、『恋の色、虹の色』をプレイしないで欲しいの……」
「え、なんで」
「私は酷い女だから……」
俯いたまま神崎梨沙は呟いた。
「ひどいってなにが」
「私はね、芳晴くんを騙していたんだよ」
騙していた? どういう事だろうか。そんなことされた記憶ないし、忘れかけるがそもそもこの娘はゲームのキャラ、二次元、存在しない。騙すも騙さないもないだろう。
「芳晴くん、このゲーム十年前にプレイしたよね」
「え、うん」
俺が中学生の頃だ。盲信的にこのゲームにのめり込んでいた時だ。
「あの時、芳晴くんは私に恋、してくれてたでしょ……?」
ちょっと淀んだ言い方をしながら神崎梨沙は頬を染めてこっちを見ながら言った。
俺もなんかその反応に気恥ずかしくなってそっぽを向きながら首肯して見せた。
「芳晴くんは見事このゲームをクリアして私を恋人にしたよね。そして私も好きってあなたに言った」
「うん…………」
正確には画面の中の主人公にだが。
「それ、嘘なの」
「え」
急に神崎梨沙に言われた事実に唖然とする。
嘘? 嘘ってどういうことだ。そもそもゲームのキャラが嘘なんて吐く訳……。
「ううん、嘘じゃない好きと言うのは本当でもね、私はそういう風にできてることを知った」
「どういうこと?」
神崎梨沙の不穏な言い方に思わず俺も深刻な雰囲気を醸し出して聞き返してしまう。
「芳晴くんは勿論承知の上だろうけど、私は二次元、ゲームのキャラクター、創られた存在なの」
「うん……」
そんなの分かりきっている。だがそんなことはゲームをやっている時は関係ないはずだ。
「でね、このゲーム、『恋の色、虹の色』はね、バッドエンドにはならないようになってるの。どの選択肢を選ぼうが私と恋人になるように出来てる」
「え」
それは知らなかった。わざと変な選択肢を選んで他のエンドを見てみようと思ったが、何を選んでもハッピーエンドになるなんて……。
「そう、プレイすればいずれは私はあなたを好きになるようになっているの」
「そ、それがゲームを辞めろってのとどう繋がるんだ」
「十年前のあなたは私に恋をした。でも私は好きになるようになってるんだから本気で恋をしたあなたを裏切った事になるでしょ? それがすごく申し訳なくて、でも、いつか芳晴くんは私の事もこのゲームの事を忘れてくれて、罪悪感は無くなって来たの。ああ、芳晴くんも自分の世界で頑張ってるんだって」
でもね、と続けて
「今日、こうしてあなたはこのゲームをプレイしてしまった。それで、あなたは忘れていたはずの記憶を蘇らせてしまったんじゃないの? 当時の記憶と共に思いも」
「それは」
確かにそうだ、偶然見つけていなかったら記憶の隅にも置いていない。それにプレイしていく度に当時に戻ったような感覚を思い出した。
「だからまたあなたを裏切りたくないの。だから忘れて欲しい、ゲームは処分してもらって構わない。そして私の事もきっぱり忘れて」
そういうことか、と納得した。
俺は当時の自分を思い返していた。
そして寸分の迷いもなく答えを決めた。
「断る」
「え」
今度は神崎梨沙が放心したように唖然とした。
「君がどう作られていようと関係ないよ。俺は確かに君に恋をした。ここで君を忘れてしまったら俺の恋心はない事になってしまう。あの気持ちは初めて味わった感覚なんだ。忘れたくない」
「でも、それじゃああなたは…………」
涙目になりながら何かを言おうとする神崎梨沙をその場を立ちあがって手で制した。
皆まで言うなと言わんばかりに、最高に格好つけて。
「俺の永遠な片思いになるって事だろう? そんなの俺の確かな恋心からしたら些細な問題さ。好きなキャラは全力で追いかける。それがオタクだ」
精一杯の俺なりの笑顔を浮かべて神崎梨沙に思いをぶつけた。
神崎梨沙は嗚咽を漏らしながら泣きはじめた。
「そっか、オタクってかっこいいんだね」
「最高に気持ち悪くて、最高にカッコいいがオタクの理想像だしな」
胸張って俺が言うと、神崎梨沙は涙を拭って立ち上がり、俺と対面して立った。
そしていつもよりも輝いた笑顔で。
「私を愛してくれて本当にありがとう」
その笑みを最後に眩い光が俺の身を包んだ。
………………………………………………。
軽快なBGMのメロディーが耳に届く。
キーボードの上に突っ伏していた俺は、意識を覚醒させてからゆっくりと身体を起こして辺りを見渡した。
間違いなく、六畳間の俺の部屋だ。二次元の美少女ポスターたちが俺を出迎える。
目の前に目を向けるとそこにはまだプレイ中の『恋の色、虹の色』が映っていた。
画面には茶髪ロングの美少女、神崎梨沙が微笑みながらこちらを見ている。
なにか彼女は話したようで、テキスト表示するウィンドウにはセリフが書かれている
梨沙『私のこと、好き?』
――――一、僕は梨沙のこと好きだ
――――二、別に梨沙に興味は無い
俺は手汗まみれの手でマウスを強く握り、ゆっくりとカーソルを動かす。
カチ
芳晴『別に梨沙に興味なんてないよ…………』
梨沙『…………………』
芳晴『(落ち込んでいる、流石に言いすぎたか)』
梨沙『私は芳晴くんのこと大好きだもん! 絶対に私に興味持ってもらうようになって見せるから、覚悟してよね!』
芳晴『なんだよそれ、自分勝手だなあ』
梨沙『えへへ』
―――――梨沙の好感度が+3されました。
「ははは…………」
なんだよこれ
「なんだよこのクソゲー…………」
失恋すらさせてくれないなんて、本当に……。
画面の中の俺の初恋のヒロインはチャームポイントの笑顔を振りまいて立っている。
これは究極の片思いだ。どんなに君を愛しても君は俺を好きだという機械のようだ。
それでも…………。
それでも俺は……。
「君を愛している」
チンというレンジのなる音が六畳間に響いた。
了
初めまして前書きに改めまして月見積木と申します。
このあとがきを見てるという事はおそらく本文を最後までスクロールして読んで頂けたという事だと思っております。
読みにくかったであろう文章をここまで追ってくれた読者様、誠にありがとうございました。そして、「ごめん、読んでないけど適当にスクロールしたらあとがき見てるわ」ってそこのあなた、よろしければ本文も見てやってください、ツミキは喜びます。
今回は初投稿、初小説執筆で右も左も分からないけど、取り敢えず出しちゃえー!と思って投稿したのが本作となります。
本作は『二次元のキャラとの恋』をテーマにしてるわけですが、何分私ツミキも恋したことある一人。だから書きやすかったというのが素直な感想です。そして書き終わった後の虚しさもよく憶えています。
もしかしたら同じ感想を持った読者様がいらっしゃるかも……なんて思って閲覧注意という単語を入れさせて頂きましたが大丈夫でしょうか?不安です。
もしお時間がよろしければ、批評、思った事の感想などを書いてくれると泣いて喜びます。次作への勉強にもなりますので!
長くはなりましたが、改めて、本文及びこのあとがきを読んでくださってありがとうございました。あなたに心からの感謝を。
月見積木




