サガワンタクロース(準備という区分け編)
ジングルベール ジングルベール
鈴が鳴る~
ピンポーン
そう。鈴の音は確かに鳴るのである。
「あの、すいませーん。宅配でーす」
冬の夜空の中。そこにはちゃんと、物を届ける配達員がいる。
白い息と共に呼びかけをし、温かい家から出てくる熱風を待ち、中身はとーっても重たく、割れやすいビン類をようやく降ろせると、相反して元気が出てくる声だった。
ピンポーン
「ご希望の商品を届けにしましたー」
けれども、待っても。家の中から聴こえてくるのは、テレビかパソコンかは知らないが、映画でも流しているかのような音ばかり届く。家族団欒、温かい家庭。
それはそう。リア厨。穏やかな幸せに包み込まれ、子供が3人もいらっしゃる。幸せ家族。そーいう他人の幸せがムカついて、しょーがなくて。
ドガアアァァッ
「商品届けに来ましたーー!!家族全員でスター○ォーズのシリーズ見てんじゃねぇぞーー!!」
爆発しろって。モノホンで。山口兵多は家の施錠を爆破し、玄関から声をかけるのであった。とんでもない事をやっているが、それでも構わないという許可が降りているので、彼はやっている。こんな事、受取人の許可が降りてなければ、やってはいけない。当然、兵多も許可がなければやっていない。
「お父さんとお母さん、寝ちゃったよ。兵多さーん。あと、鍵はまたつけてくださいって」
「うがーーーー!!これは判子だけで良いから!!玄関前に置いておきます!!それと、シリーズだからって6時間の長編映画を観るなって言っただろーが!社蓄がそんなの観ようとしたら、寝るわ!」
◇ ◇
もうすぐクリスマス。そして、年越し。
その前にお歳暮なども含めれば、宅配業者達にとっては大忙しの月である。
「いや、毎日忙しいんだけどね。こちとらサガワンタクロースは、毎日営業してるんだよ」
「愚痴愚痴言わないの、兵多」
「お前もこの時期、優しくないよな!夜も優しくしろ!」
「終わってからでも良いでしょ」
さっき幸せ家族をマジで爆破させておいて、自分自身も奥さんがいて、一緒に仕事をする仲。
山口兵多は配達員というか、職員という立場上。全ての業務を請け負う仕事人。一方、山口夏目は短期アルバイトで区分け業務をしている人である。
ウザイとか思われるが、配達員でない人に仕事の話をすると愚痴ばかりである。
「サンタの時期だからってな。その時期だけ働いていると思ったら大間違いだ。佐川も郵便も、黒猫も、西濃も、赤帽も、色々な。お互いすれ違って思う事は」
あ、今日もあいつが仕事してるんだー。あはははは。俺と同じだー。
「だからな!!休みなんてないからな!むしろ、サンタとか12月23日と24日に働いているクズだからな!なめんなぁ!この時期でもうな、残業なんて250時間で収まってれば良い方なんだ!サービス残業なんて毎日2時間はやってんだよ!!繁忙期は朝6:00には職場に来て、夜22:00に家に帰ってるの!でもね、俺はこれでも職場ではマシなの!!こんな業務を3週間やってる人もいるんだよ!!」
「それ、あんたの愚痴かな?」
こーやって愚痴を吐くなり、書くなりが、ストレスの解消である。
頭の整理ができてホッとする。
「契約内容にもよるが、(毎日働く代わりに、一月丸々休むとかあるらしい)忙しいんだ。俺達」
「はいはい」
夏目がこの短期バイトをするのは、微力ながら兵多を助けてあげるためである。そして、これには兵多も助かっている。こいつ等も中々に良い家庭である。
「まったく、配達が終わってから区分けとはな。繁忙期はこいつがあるからな」
「しょーがないでしょ。みんなこの時期は頼んじゃうものよ」
山口達が今やっている区分けとは、届けられた荷物を地域事に振り分ける作業の事である。山口達は末端の中でも最重要な、お客様にお届けるところである。お客様と最も接する場所であり、この区分けをしなければそもそも配達はできないのである。(ちなみに、作者もここが担当)
「あ、これは2年前に越した奴だ。去年と同じ奴。差出人に新住所を伝えておけよ」
「そーいうの分かるんだ」
業者によっては対応は異なるが、
「……ま、そんなに遠くねぇから、届けてやるか」
とりあえず、受取人の電話番号が商品に記載されてあれば、ご連絡するのが通常と思われます。
住所の間違いやアパートの部屋番号漏れ、間違い。あるいは差出人からの印字ミスなどで、送られることは決して珍しくないです。
ですが、そーいうお客様のミスにも対応するのが、我々配達員の勤めです。
「午前中は上の棚。午後と指定なしは下に入れたわ。夜間はあっちに」
「ほとんど午前と夜間なんだよなぁ。夜に偏り過ぎ」
差出人、あるいは受取人から出ている指定時間。要望にもなるたけ応える。繁忙期はホントに忙しいんで、無理な時が結構あります。
特に夜間がこれに該当します。遅くなることもありますが、大抵早めにやってきちゃうと思います。その原因が、
「19~21時の希望が多すぎ……。20:00~もだけど」
会社関係が多い地域では、午前に集中しますが。住宅関係は19:00以降の希望がメチャクチャ多いです。一方で午後の、(13:00~18:00)頃の希望が少ないんです。(たぶん、どこもそう)
「道順に並べるの?」
「早めに行っても怒られないとこ選ぶ。18:00頃でも平気な家があるし。不在票を入れなきゃ良いんだよ。いなければまた来ればいい。ムカつくのは頼んでるのに、居ないこと。もっとムカつくのは居留守にすること!最大でムカつくのは、居なかったくせに明日必要だからって、クレームで挙げやがって、22:00にクレームを出した張本人が風呂から出てくるまで、外で待っている仕打ちを受けたこと!!夜間はちゃんと配達になれば、あとはどーでもいい」
配達員のくだけた本音と暗いマジ的な事を言ってますが。80%はそれです。
ついでに言うと、夜間の荷物を夜間の時間で配達を開始すると、絶対に間に合わないので、1時間か30分前くらいに夜間配達を始めます。もちろん、一言謝罪して渡すのが普通です。
「中には時間を守れっていう客もいるから、そーいう奴はしょーがないから19:01とか20:57とか、ちゃんと指定時間内を守ってる時に行くのが、俺と作者流だ(他もだいたいそう)。大抵、出て来ないから不在票になるがな~」
「全然、時間守ってない!!最低だ、こいつ等!」
「19:00に頼んでるんだったら、30分前には家にいるもんだよ。そーいう基準で再配達の依頼をしろって思ってるからな!それと夜間で時間守れって言う奴は大抵、19:00に在宅してねぇから!」
再配達のクレームで多いのは、在宅不在と配達しに来る時間が早すぎるや遅すぎるとかだと思います。
映画観ていてまったく出て来ないや、風呂入ってるお客様とか結構あります。早めに配達しにいけば、もう一度訪れる機会も作れるので、こーいうのはご了承願います。
「まー。俺が結構気にするのはな……」
長い長い愚痴と豆知識から、よーやく始まる本編。(というか、さらなる愚痴)
「クリスマスプレゼント頼み過ぎだろーが!!」
兵多はメチャクチャ叫ぶ。山の如く詰まれる荷物の数々に。
「ふざけんなよ!ゲームとか玩具、フィギュアなどが多すぎなんだよ!こっちは車で配達するけど、小さいもんを運ぶのはすげー腹立つの!そーいうのに限って、判子が必要とか面倒なの!!」
本気で多いです。
「ちゃんと包装してるんだよな!?下積み厳禁とか、雨濡れ厳禁、逆さま厳禁、折り曲げ厳禁、加圧厳禁とか色々あるけど、こんなに物が多いと守れるもんも守れないの!!区分けの時点で下積み厳禁とかほぼ守れてねぇし!!下積み厳禁が50件以上も来ていて、なおかつでかくて重たいと、できないの!ホントなの!」
ネット通販の発展によって、物流業界は本気で人手不足です。若い人達が車離れしている現状も含め、全体的にヤバイです(特に車)。1人辞めたら、その地域の配達が完全にストップするレベルです。
「でも、頼んでるから在宅してるんじゃない?」
「馬鹿野郎!クリスマスの配達は辛いんだよ!差出人はな、希望している日に届けるよう指示をするけれど。受取人がいるかどうかは分かっていないんだ(コレ重要)!クリスマスなんて、カップルやガキを始めとした連中が外出してる事も多い日!ライブとかに行ってるんだぞ!いないの分かってて、デカくて重い荷物や、小さくて判子がいる荷物(ゲーム機や書籍)を届けに行く気持ちを考えてくれ!不在票だけ持って行きたいわ!」
いちお、不在票だけ入れることはしません。ただ、休日でも在宅している事はあまりないですね。特に昼間……。待っている人もちゃんといますけれども、割と不在になりやすい時期なんですよね。
「つーか、なんだよこれ!」
「要望だね。12月23日指定の」
『コンサート行くんで、8:00までにチケットを届けてください』
『家族全員9:00には外出するんで、8:00頃に配達をお願いします』
『彼女へのプレゼントなんで、8:00までに届けてください!』
「今年異常だろ!?午前配の限界突破(さらに前希望)がもう3件もあんのかよ!?テメェ等が来い!!基本は9:00からが配達なの!応えられるわけねぇだろ!上も何勝手に引き受けてんだ!?なら前日受け取れよ!」
「まー……しょーがないでしょ」
「この時期、早め希望も多いんだよ!極端に!普段、朝早く行ったら寝てましたーとか、やりやがるくせして!なんでこーいう時は起きてやがるんだよ!俺は少しでも寝たいんだ!」
午前配の前希望は、業者によります。とはいえ、8:00はおそらくどこもできないと思います。できても、8:30。兵多の言うとおり、9:00頃からです。(作者は3度やってますが、上との兼ね合いがあります)
「こんな要望もあるわね。指定なしで」
『クリスマスケーキですけど外は寒いので、玄関前に置いてください。一日中外出してます』
「できるかーーーー!!なんで頼んだーーー!?いくら寒いからってな!ケーキ(?)を玄関前に置いておけって、どーいう事だ!?そりゃ、冷蔵庫並に外は冷えてるけどな!冷やしてないからってクレームも上がってきたの!黒猫でも、郵便でも起きたの!!いくら受取人の希望だからって、そんなことはできないし!配達をキャンセルする事もできないの!チルドは持っていきますよ!」
「お客さんによって、感覚が違うのね」
チルドは無理ですが、それ以外の荷物は受取人の要望次第で可能だったりします。その荷物が入りそうな箱が玄関前にあると嬉しいですね。ただ玄関前配達などの荷物は、無くなっても保障できませんので、あまり注意してください。
「あー、うぜー。もう。客の要望って本気で面倒だ」
『インターホン、壊れてます。電話してください』
「連絡先を携帯にすんなよ。非通知は出ない設定とかあるし、向こうにこっちの電話番号を知られるし。出て来ないで不在票入れたら、電話かけてきやがって、細かく自分の都合で時間指定されるし。忙しい時期に今すぐ持ってこいは止めろ!コンビニ行ってたじゃねぇーよ!」
「そんな些細な事でもイライラしちゃうのね」
「大事なんだよ!ホント!こーいうところが!……おっ。理香ちゃん」
『☆山口兵多さんの配達希望☆どんな服でお迎えしましょうか?電話待ってまーす』
ピリリリリリ
「あ、理香ちゃん?サンタコスチュームで!できれば、ミニスカサンタ!」
「兵多!何、客に電話してるの!?プライバシーの侵害とかあるでしょ!」
「いや、コスプレ好きのお譲ちゃんで。配達に来る俺にいろんなコスプレを見せてくれるんだ。夏場は全部水着にしてもらった。ちなみに荷物は正月の晴れ着のようだな。ちゃんと配達しよう」
こんな夢みたいな事は一度たりともなかったです。兵多が羨ましい。夏場によくある事ですが
「あのな、おっさんのパンツ一枚姿とか、婆の上半身裸状態で荷物渡す時の絶望感やべぇからな」
「ぎゃーーーー!それはヤバイわ!」
「でも、1人暮らしのお姉さんの下着姿もあるぜ。そこには朝早く行く」
真面目に業務を行なうこともあれば、こーやって雑談したりしながらする事もある。黙っていた方が早いですが、楽しいのは好きに話していた方ですかね。
『子供が受け取るので、サンタさんの格好で来てくれませんか?』
「な、なんて無茶ぶりな。宅配業者にサンタさんを希望するとか……」
「別にできなくねぇぞ。それぐらい」
「!?いつからサンタの衣装を用意したの!?」
「去年、さっきの理香ちゃんに作ってもらった。というか、そーいう縁もある」
ピザ屋さんとかではやっているそうですし、自分の知っている方はこれで一回やったそうです。
『えんとつから入ってくるのがサンタさんと、子供に信じ込ませたので、我が家にえんとつを作り、そこから入って来てくれませんか?』
「シチュエーションまではさすがにできねぇよ!つーかお前ん家、アパートじゃねぇか!!」
「こっちは一軒屋みたい。裏口から来て、だって!」
「それ泥棒と勘違いされそうだぞ!?悪いが、いつも通りに行くぞ!」
『12月24日、0:00頃の配達を希望しているのですが、午前配達か夜間配達なのか分かりません。近所の子供達にサンタさんが届けにきましたーみたいなノリくらいはできませんか?』
「どっちもちげぇーし!配達員、なんだと思ってんだよ!?」
『注:近所の事もあるので、車やバイクは離れて停めてから来てください。トナカイと橇なら可』
「ご近所に気を利かせる前に、配達員に気を利かせろ!!トナカイと橇の方が周辺に迷惑だろうが!?」
あーー、もーーーっ
「やれる気がしねぇーーー!」
「まー……」
そー言いながら、毎日お客に対応していく兵多であることを知っている夏目ではあった。
お客様のプライバシーを多少出したような気がして、すみません。虚実は交えていますけど。
あまりこーいう作品って良くないんですが、いずれは自分が勤める会社のお話も作ってみたいですね。
愚痴のいっぱいって感じです。
時間がとれたら配達編も投稿したいです。




