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眼鏡

作者: 小林今昔

右側のレンズ、斜め45度放射状のひび割れ確認

鼈甲の縁取り、重破損


ボンドでつけても治りはしまい。


ようするに


我が輩は壊れてしまったのだ。



眼鏡は思った。


【眼鏡】



「あらお気の毒様、鼈甲縁の眼鏡さん。あんなに偉そうにご主人様の鼻の上にふんぞり返っていたのが運の尽きって奴かしら。明日は丁度ゴミの日よ。汚らしい生ゴミと一緒に捨てられっちまいなさい」

「馬鹿を言うな、我が輩は眼鏡だ。鼻の上にいなければどこの上にいるというのだ。おちゃらけたサングラースでもあるまいし、我が輩の祖先が生まれた頃から眼鏡の定位置は主人の鼻の上と決まっているのだ。」



固い大理石に転がっている眼鏡に最初に声をかけたのは主人の机にある赤い万年筆だった。詰め替え式のそれは主人の胸元にいつも潜んでいる愛用品だ。

本来物言わぬ物体は嘲笑に混じったため息をついて机の上から眼鏡を見た。


「長年の付き合いだったのにねえ。残念だわ。大切に扱われてりゃあ、神、とまではいかなくたって九十九神までにはなれたかも知れない逸品だったのに。壊れてしまやあ、おしまいって言うのは物の悲しい性よねえ」

おほほ、笑う万年筆

しかし眼鏡は崩れた自分の姿を気になどしていないようだった。

割れた破片を主人が踏んで傷がつかないか、そちらの方が余程気がかりだ。


「壊れてしまうのは致し方ない。我が輩を作った職人も、我が輩を主人に売った販売者もいつか死んでしまうというのに創造された我が輩が死なない、と言うのはいささかおかしい話ではないか。それに主人は我が輩をいたく気に入って下さっていた。幸せな事だ。」


平然と答える眼鏡は目を、いや目もないが、目を閉じるような行動をした。


おもひでが浮かぶ。

主人と一緒に見た物

主人と一緒に感じた感情

視界を封じた眼鏡の意識に万年筆の甲高い声が響く


冷たくて

勝者の奢り



「あんた、物の鏡ね。私ならそんな風に思えはしないのに。最後まで大切にしてもらう事、最後までお側にいる事。それが物の一番の幸せと私は思うけれど」



万年筆は女性的な考えの持ち主だった。

眼鏡が自分の持ち場について主人の為に働いていてもポケットから顔を出して騒ぎ立てる。

自分は顔に触れた事もないのにと怒鳴り散らし、挙げ句の果てに丸い自分の体を根性で動かして


眼鏡を殺した。




右側のレンズ、斜め45度放射状のひび割れ確認

鼈甲の縁取り、重破損


ボンドでつけても治りはしまい。


眼鏡は壊れた。


主人の性格だ、壊れた我が輩を見て嘆き


壊れた眼鏡と同じ物を馴染みの店に注文するだろう


我が輩もそうやって

誰かの代わりになり

誰かが生を受ける為に

ゴミ箱の中に捨てられる

墓標もなく


ダイオキシンを撒き散らすそんな刹那的な生き物だ


元気な時は

誰かの為になっていたとゴミ箱で囁きながら


眼鏡は無くなる


役に立たなくなった

眼鏡はそれでも

きちんと言った。


朗々と万年筆を見上げて高らかに


「我が輩は眼鏡である。主人の役に立ち、役に立たなくなればお払い箱になるのである。だが何がおかしいというのだ。 永遠に使えてしまうお前こそ 、いつか主人をなくすお前こそ我が輩は可哀そうだと思うがね。 何がいいだとか、何が悪いだとか、役目も立場も違うお前に何の本質が解ると言うのだ。」


我が輩は主人が我が輩を使って視界が良好になった。

眼鏡の幸せを頂いた。

これ以上の幸せなどいるものか。



人気のいない書斎に


声なき声が響いた日


ゴミ箱に捨てられた眼鏡がゴミ箱から消えた日や

新しい眼鏡が届いた日



人間は知らないが

眼鏡は知っている


残された万年筆は

しょんぼり


月日は流れても

主人は知らない

月日は流れても

眼鏡の気持ちは伝わらない


壊れた眼鏡が自分を

とても愛していた事を


それでも

いいのだ


解らない愛に

包まれて

解る愛に

騙されて

あなたはうんと

生きていけばいい

生きていけばいい。


【眼鏡】完


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― 新着の感想 ―
[一言] 「たてがき」で読みました。行頭に読点がくるなど、文章的ルールに問題があるように思えました。  物の擬人化ですね。僕はこのサイト上で、数ヶ月の間、同じ手法の小説をたくさん見かけました。つまり、…
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