第3話 飛び火
それは再び起こった。
「父様!!」
「焦るなケイル!!大丈夫だ魔力が足りれば収まる!!」
泣きじゃくるケイルの手を掴みしっかりさせようとマーレはケイルに対して怒鳴るgがその表情には焦りが見える。
クレアが六歳となり、5ヵ月後に少し遅れながらも神族の一次成長が訪れた。けれども、それは中途半端でありクレアの一次成長に必要な魔力が足りておらずそのせいで、1週間、目を覚まさないでいた。
息はある。それはまだ生きているということであるが時々、訪れる苦痛にもがく姿にケイルは焦り、不安を抱く。
もしかしてこのまま目を覚まさないのでは?死んでしまうのではないのか?
そんな恐怖を振り払うようにケイルはクレアの傍から動こうとはしなかった。それに対してマーレは自身の体を壊す気なのかとケイルを叱るもののケイルもまた頑として傍を離れようとはしなかった。
「また・・・また失うのは嫌なの!!」
髪を振り乱し泣きながら言うその言葉にマーレもそれ以上強く言えなかった。
詳しくは聞けなかったもののケイルの夫は病死だとマーレに伝えてはいるが、その病気が何の病気までは言わなかった。
「魔力が足りればクレアは・・・私の子は起きるの?」
「あぁ・・・あの子が眠っているのは生命を維持する分の魔力を維持しようとしている自己防衛みたいなものだろう」
「なら・・・なら私の魔力をあの子に与えれば!!」
「馬鹿を言うな!!クレアを一人にするのか!!」
「父様がいてくれる!!あの子が生きてくれるならあの子に恨まれたって!!」
パシッ
乾いた音が1階に響く。
息を切らしながらもまっすぐにケイルを見つめるマーレに対し、じんわりと痛みと熱が頬に訪れようやく自分がマーレに叩かれたのだと理解したケイルは顔を手で覆い泣き出す。
「お前が・・・そんな事を言うんじゃない・・・」
「だって・・・だって!!ほかに手が無いじゃない・・・」
「・・・」
子を持つ母の悲痛な声にマーレは答えを持たない自分自身に苛立つ。もし、この状況がケイルならばマーレも迷わず己の命を差し出すだろう。けれどもその後、子はどうなる?親の命で助かったと知って喜ぶだろうか?否、多くの者は自分自身を嫌うだろう。
自分がいたから、自分の魔力が無いからと自身を責め続けるだろう。
「魔力を一時的にでも回復できれば・・・死ぬ心配は無いのだが・・・」
マーレの言葉に階段を1階に下りようとしていたアルスの耳に届いた。
*+*+*+*+*
「よし・・・」
クレアのベットの端っこに座り先ほど聞こえた魔力の回復をしようと構える。
「何したら回復するだろう・・・」
何か良い案がないか少し考え、
「・・・とりあえず・・・魔法使う感じで良いのかな」
思いついた事を実践しようとクレアの手を掴み魔法を使う時のように集中する。
自身の魔法は想像の具現化。想像できれば発動できる。
とりあえず、思いっきり魔力を流すイメージをすればとクレアの手を強く握り目を閉じる。
「アホか馬鹿」
「あいたっ!?」
唐突に感じた強烈な痛みに目を開ける。そして驚愕する。
先ほどまでクレアの部屋にいたはずなのに視界に映っているのは灼熱の砂漠に爛々と輝く太陽であった。
「ど、こ・・・ここ?」
「我の世界じゃ」
声が聞こえてきた方に視線を向ければそこにいたのは褐色肌の青年。ケイルさんやマーレさんと同じはずの金髪は太陽の光で輝きまぶしく、思わず目を細める。
「そうじろじろ見られると恥ずかしいの」
「はわぁ!?」
金の瞳を細めながら言う言葉にどう反応すれば正解なのか当たりなのかわからずに視線をさまよわせれば、青年は息を漏らし笑う。
「ハハハ、今回の愛し子は面白いの。まぁいい、今は時間が無い」
「何の時間?」
「愛し子が助けようとしているもののじゃ」
「え?」
青年の言葉に思わず息を呑む。
「愛し子が取ろうとしていた方法はほぼほぼ正解じゃが、量が違う。量が大きければそれは毒となりその者を壊す」
「っっ!!」
「じゃがまぁ、少量ずつ慣らしながら量を増やすのなら大丈夫じゃ」
「少量ずつ・・・」
呟きながら自身の手を見る。自信がない・・・。
自分は魔力のコントロールがあまり出来ない為に、先ほどのようなことしか考え付かなかった。
そんな不安を感じたのか、青年は少し苦笑を漏らし自分の手を掴む。
「我が手本を見せる。その感覚を覚え、その者にやるのじゃ」
「お前ならできる」そう言って手から感じる魔力に意識を集中させる。
最初は蛇口を軽く捻った時に出てくるチョロチョロした量が、しばらくするとその量が増えていく。
「よし、覚えたか」
「ん・・・」
ゆるりと首を縦に振る。
「自信を持て、大丈夫じゃ。お前はやれば出来る子じゃからな」
「あなたは・・」
青年に視線を向ける。
だが、視界が揺れる。
まるで貧血を起こしたように感覚に襲われる。その時何か音が聞こえたがそれは言葉としてアルスの耳に届く事はなかった。
「っあ・・・」
視界が正常に戻ったとき、視界に映ったのは不思議な青年がいた砂漠ではなくクレアの部屋に戻っていた。
「・・・夢・・・?」
キョロキョロとあたりを見渡せば視界に映るのは自分にとって難しい本が並べられている本棚や机、そしてベッド。
「くっ・・・あっ・・・」
「クレア!!」
視線を慌ててベッドへとのりクレアの表情を確認すればその表情は苦痛に歪め、汗が流れていた。
「やらないと・・・」
夢なのか妄想なのか分からないけれども確かに手に青年の魔力を覚えていた。
息を整え、そっとクレアの手を掴み魔力を流し込む。
ゆっくりとゆっくりと。そう心で呟きながら魔力の量を一定に流し込み。大丈夫そうなら少しずつ少しずつ量を増やしていく。
「・・・ア・・・ルス・・・?」
魔力に集中していたせいでどれぐらい時間が経ったのか分からない。もしかしたら数分、数十分、はたまた数時間、だけれども今はそんな事はどうでも良かった。
「クレア!!」
嬉しさのあまりに、ようやく意識を取り戻したクレアに飛びつき抱きしめる。いきなりの行動にクレアは驚きながらも「あ・・・うん、何かごめんね」と照れたように言った。
その後、アルスの声に2階に上がってきたケイルとマーレはクレアが起きている事に驚愕するもののその奇跡に不安そうな表情ではなく微笑みえて変っていた。
.
2018.11.17 本文修正