2-2
「じゃぁ、気をつけて帰るんだよ」
午後からギルドでの予定が入っていたマーレは、そこでマーレと別れた僕らは行きと同じルートで学園へと戻る為に、大通りを歩いていれば、道行く人々に視線が向けられる。
その原因はわかっていた。
「ねぇ、リーベさん」
「は、はい!!」
後方を歩くリーベへと視線を移せば、嬉しそうに、フラッグを抱きしめる形で持ち運んでいた。
「その、魔石とか持ってないの?」
僕の言葉に、首をかしげるリーベ。
「さっきからよろけたり、ぶつかりしそうになってるし、魔石があるならそっちに入れていた方が安全だよ」
「あ、あ、あ!!わ、私っっっ!!すいません、少々お待ちを!!」
顔を赤面させながら、少し行った先にある路地へと逃げ込んだ。
そんなリーベの反応に思わず、
「この場でやればいいのに…」
とこぼせば、先程までリーベの横で歩いていた、藤井が乾いたような笑いをこぼし、
「ははは、でもあんな浮かれたリーベ見るの始めてだな…」
どこか嬉しそうにそう答えた。
「そうなの?」
「あ…はい、そうなん…です」
敬語を使いたいのだろうが、不慣れさを感じさせた。
「僕らに敬語はいらないから」
「え、あ、あー、それならありがたいな…」
と頭をかきながら、そう零した。
「で、さっきの言葉の意味はどういうこと?」
「それは、何ていうかここに来る前は無理に笑っているように見えたんだけど、ここにきてから何か解放されたって感じが、して、」
「まぁ、僕の勝手な思い込みかもしれないけど」と苦笑を零しながら藤井は、付け加える。
「そういえばクレア、さん?は何で魔石を使用することを進めたんだ?」
「クレアで良いよ。何でって、邪魔でしょ?」
僕の言葉に藤井は理解できないという意味でか首を傾げた。
そのしぐさ僕もつられて首をかしげる。
「え?だって魔石って消耗品なんだろう?」
その、言葉で藤井が浮かべた疑問がはっきりした。
「そういえば、そうだったねぇ、アッ君」
「忘れていたねクーちゃん」
ふざけあう僕らにさらに蓮は首をかしげる。
「藤井君。魔石にもランクがある事を知ってる?」
「え…君って?ていゆうかランク?」
僕が君付けで呼べばどこが怪訝そうな表情を浮かべ、質問を質問で返してきた。
「魔石には色々な審査によってランク分けされているんだ。一番は硬度。硬度によって使用回数が決まるからね」
魔石のランクはS~Eランク存在する。
Eランクは一回しか使用できず、尚且つ収容サイズも小型の物だけだが、銅貨10枚ぐらいである。
C、Dは中型、大型と収容できるも数度使えばEランク同様に壊れてしまう。
このランクは市民達でも手が届く銀貨数枚で取引されているが、これからの上のランクはそうはいかない。
Bランクから一つの物(大きさは問わず)を収容する事が可能な硬度となるも、それなりのメンテナンスが必要とし、扱いが雑であれば使用から一年か二年で砕けてしまう。そのため、Bランクの値段は金貨2~5枚ぐらいである。
Aランクもまた同じだが、ここからは使用を大事にすれば次世代まで受け継ぐことが出来る耐久性がある。
そのためBランクよりもお高め金貨10枚あたりの値段であった。
だがSランクは別格の硬度となり二つ収納可能となり、尚且つ耐久性は他のランクよりも別格であると同時に、値段も他のランクよりも桁違いとなり最低でも大金貨で取り扱われる。
「僕が使ってる魔石はよくわからないけど、アルスが使ってるのはAランクの魔石だし、彼女が持ってると思う魔石もたぶんそれぐらいはあるんじゃない?まぁ、間違ったら今度、プレゼントでもしてあげればいいよ」
「えぇぇぇ、金貨何て持ってないよ…」
僕が言ったプレゼント発言に藤井は「金貨…どうやって稼げば?やっぱり冒険者??」と頭を悩ませる藤井をニヤニヤしながら見つめていれば、
「おい!!教皇様達がお見えになるぞ!!」
遠くから聞こえてきた声に、僕等は声がした方へと視線を向ける。
教皇とやらは視認は出来なかったが、前方に出来ている人だまりが視認で来た。
「教皇?この町いる教団としたらラディース教団?」
「そうなんだろうね…じゃぁ、あの集団は信者達かな…」
興奮したような音や歓声のような音がその集団から聞こえてくる。
「…邪魔にならないように僕等も端に寄ろう」
大通りの真ん中にいた僕らは大通りの端へと避難する。
避難してから数分たらずに先ほど僕等がいた場所は信者達で溢れていた。
教皇までの距離はかなりあるというのに熱心なものだ。
「こんなにもいたんだ…」
ボソリと零れた藤井の言葉に確かにと思いながらその人だかりに視線を向ける。
どこから沸いてきたかと思いたくなるほどの人の群れ。まるで蟻の巣を突っついた時に逃げ出す時の蟻みたいだと思ってしまった。
そんなことを考えながら人の群れを見ていれば、
「あ、クレア、さん?それっ?!」
「んぁ?」
唐突に向けられた言葉と視線。
藤井の視線の先に気づくよりも前に隣にいたアルスに引き寄せられ、アルスの腕の中へと立ち位置が落ち着く。
アルスの行動に、訳が分からずアルスへと視線を向ければ、アルスは自身の服から覗かせる右の鎖骨あたりを指さした。
その行動に一瞬呆けてしまうも、その場所が自分の加護の印が浮かぶことを思い出す。
自分では見ることができないために再度アルスへと視線を向ければ、それを固定するようにうなずかれた。
「…月が出てるわけでも…」
今は午後の三時辺り。
確かに、日が昇っているときも月が出ていることもあるが、今は月など出ていない。
ふと、今だ戻ってこないリーベの事が気になった。
「アルス、リーベの気配を探れる?」
「…やってみる」
僕の頼みにアルスはリーベの気配を探る為に意識を集中させる。
僕らの唐突な行動に藤井は驚き「え?どうしたの??」と体を左右に揺らしていた。
「…リーベを迎えに行った方がいいかもしれない」
その言葉に藤井は揺らしていた体を止めて「は?」と意味が分からないという表情をさせていた。
+*+*+*+*+*+*+*+*
「これで、よしと」
教会から出た勇者の監視という役目。
その役目の為に協会から出ることになった私に、私と血が繋がっているお父様が出発する前日に餞別にとお父様から久しぶりに贈り物貰った。
一切の飾りも加工もされていない透明なAランクの魔石。
その魔石へと先ほど貰ったフラッグを仕舞い込んだ為に、透明だった魔石は、私の魔力の色へと、茶色と黄色が混じった色となった。
その色は、
「私みたい…」
何も加工されていない魔石、黄色に混じるような茶色。
血の繋がっているお父様から何ももらえない私。
純血の癖に完璧ではない私。
先輩である二方、血が繋がっているだろうクレアさんとマーレさんのやり取りに、愛されている事が傍目からでも分かった。
そのやり取りに私はおこがましく嫉妬してしまった。羨ましかった。
私も誰かの愛情が、家族からの愛情が欲しい、そう思ってしまった。
他者に当たり前に与えられるモノは、私にとって当たり前ではない。
それは私が出来損ないのせいなのだと理解しても、諦めることは難しかった。
なぜなら、私は一時だけお父様からも、私を生んでくれたお母様から愛されていたことがあるから。
お母様が私を生んで、数か月後に亡くなってしまったけれども、その間、私をとてもかわいがってくれていた。
お母様が亡くなった後も、第一次成長期がくるまではお父様は私を愛してくれていた。
けれども、再婚して新しい義母様が来てからお父様は私を愛してくださらなくなってしまった。
義母様と一緒に私を「出来損ない」と言い出し、私を嫌った。
妹ができた時、それは一層強まり、そして私の居場所は家にも、教会にもなかった。
それでも私は、一生懸命にがんあばってきた。
「また愛してほしいから…」
自然と口から零れてしまった言葉。
「愛して欲しい?」
返って来ないと、誰もいないと思っていたのに、帰ってきた言葉に、下がっていた視線を上げ、声がした方へと視線を向ければ私は驚愕してしまった。
私の目の前にいたのは絶対にお会いすることなんてないだろうお方だから。
「あ、貴方様は…!!」
太陽の光を反射させキラキラと輝かせる白銀の髪。
その髪の合間から覗かせる金の瞳の少女の様で少年のような目の前の人物は、背についている八枚羽を静かに羽ばたかせる。
驚きのあまり私は無様に口を開けたまま固まってしまっていた。
「リーベ・ディ・フォリー」
「っっ?!私の、名前、知って?」
「どうして?」「何故?」と疑問しか浮かばなく、そんな焦っている私を見て、目の前のお方は、
「知ってるよ。だって君は特別だから」
「と、くべつ?」
いわれた言葉の意味が理解できなかった。
特別?誰が?自分が?そんな事を脳内で自問自答を繰り返していれば、「分からないの?」と人形めいたその顔が微笑みを浮かべる。
その笑みに誰しもが魅力されることを知っているし、私もその中の一人だった。
だけれども今はその微笑みが何故か怖かった。
こんなこと今まで一度だってなかったのに。
無意識に後退してしまっていたのか、目の前の方が自然と私との距離を詰めてくる。
「あ」
壁に背がついた。
もう後に下がることが出来ない事を知り、前へと視線を向ける。
向けたと同時に、思った以上に距離は無く、ゆっくりと私へと手が伸びてくるのを視界にとらえる。
その手は、ゆっくりと私の頬に、首筋に、胸に、腹にと撫でる。
その行動にか、布越しから伝わる体温の冷たさに無意識に震えてしまう。
きっと相手は私の反応に気づいているけど、手の動きを止めてはくれない。
その手が腹の下に触れた時、ズキリッとそこが痛み、声が漏れる。
「可哀想に、まだ不完全だから傷むんだね」
「っぁ、な、んで」
腹の下、子宮辺りを撫でられるたびに痛みが強くなる。
「自分はね、未来が見えるんだ」
その話は教団にいた時から知っていた。
だからか、私を見る金の瞳が、全てを見透かしているようで怖くて、膝から崩れ落ちそうになってしまうのをぐっと耐えてる。
「自分が君の力を目覚めさせてあげる」
「そうすれば楽になるよ」そう言葉を発した口は迷う事無く、私の口を塞ぐ。
「っぅはぁ、んぅぁ?!」
唐突な行為に、一瞬固まってしまうけれどもすぐに我に返り、相手の肩を押し返そうと、流し込まれる唾液を吐き出そうと、飲み込まず耐えて見るけれども、初めての行為に思うように行動がとれずにいた。
それでも諦めずに抵抗すれば、相手は私の舌を噛んできた。
それに驚愕し思わず口内にため込んでいたつばを飲み込んでしまった。
その事にショックし同時に何故か、先ほど痛んでいた場所が、この都市に来てから薄っすらと浮かんでいた痣の場所が熱くなり始めて、思わず膝から崩れ落ちてしまう。
その拍子に離された唇。
だが、先ほどから熱を持った場所が再び痛む。
「うっ、な、何をしたんですか!!」
不快感を抱いたままに吐いた言葉。
その対応に目の前の方は不快に思うこともなく、相変わらず笑みを浮かべながら、「ふふ、教えない」と口にした後、私に向けられていた視線が外されたことに気づき私もまた、外地らへと視線を向ける。
「君のお迎えも来たようだよ」
目の前の人物が言った通り、少し離れた場所で、驚愕に目を見開く蓮さんと警戒しているクレアさんとアルスさんが立っていた事に私は、今のやり取りを見られてしまったのではと恐怖してしまった。
+*+*+*+*+*
「リーベ…?」
静寂を壊したのは蓮であった。
その表情は今だ驚愕で目を見開いたままであった。
「…リーベさん、その人は知り合いで、いいのかな?」
蓮の次に口を開き、リーベに問えば、聞かれた本人は肩を跳ねさせ、視線を合わせようとはしなかった。
その反応に息を零し、視線をその隣に向ける。
「貴方から説明を求めても?」
「ふふふ、良いよ」
微笑みながら返事をする。
ふと視線に入った銀のような白い八枚の翼。
通常、純血の神族の髪色は金髪で、翼の色は白色が一般であり、混血は両方が黒色となる。
だが目の前の人物は髪も翼も白銀。
ならば、違う種族ではないかと考えてしまうが、そんな案など最初っからなかった。
目の前の人物は容姿は違ってはいるが神族なのだと何となく感じていた。
警戒を緩めず相手を観察すれば、相手はそれに気が付いたのか、それとも気が付いていたのかゆっくり微笑むだけだった。
事情の知らない物ならその微笑の虜になるのだろうが、この場にいる者はその微笑みが不気味だと感じた。
「自分はこの子が所属している所、ラーディス教団の一人、ペルレ」
その言葉に何か言いたいのかリーベは口を開けようとするもペルレの視線に制され、発言できなかったがその瞳には明らかに不安の色を浮べ、蓮へと向け、次にこの場を打開してくれるだろう僕とアルスへと視線を向けられる。
蓮は気が付かなかったが、僕らはその視線に気が付き苦笑を浮かぶ。
「ふふふ、安心してよ。今日はこの近場に用があってたまたま、可笑しな気配をさせてたこの子を見つけただけだから。でも…」
言葉を途中で切り視線を、僕、アルス、リーベと順に向け、「美味しいそうな気配をさせる子達ばかりで濡れそうだ」とウットリとした瞳で言うから、思わず顔をしかめてしまう。
そう思ったのは僕だけじゃなく、蓮やここまで一切の、嫌悪しか示していなかったアルスまで表情を歪めていた。
「怖い、怖い、大丈夫、自分はこの後用事があるから長居はしないよ」
そう言うも、足先はこちらへ向けられ、近づいてくる。
ペルレが僕らの前をを通り過ぎようとした時、
「だけど、いづれ自分のモノにしたいなぁ」
おもちゃを見つけた子供のような、とろけるような表情に思わずゾっとしてしまった。
完全にペルレの気配が遠ざかるまで、僕等、四人の肩の力は抜けず、遠ざかった気配を感じ、思わず息を吐くと共に体の力が抜けた。
「な、なんだったんだ今の人…凄い服だったし…色気?とかも凄かった…」
緊張を紛らわす為にか口を動かす蓮の言葉に、確かにと思った。
一応は全体を包むようなローブを着ていたが、動く時に見えたローブの下の服はハダ率が高かった。
「す、すいません…」
申し訳なさそうに近づいてきたリーベに対し蓮は「あ、うん、だ、大丈夫!!うん、大丈夫」と最後の言葉はきっと自分自身に言い聞かせる為に言ったんだろう。
多分蓮はリーベの事が好きだと思っている。
だから先程のキス行為が答えているようだった。
「さっきの人」
「はい…教団の、教皇様と同等の地位の者です」
その言葉に思わず蓮が変な声を漏らす。
「え?!そんな人いたの?」
「えぇ、ですがあの方がどのような地位にいるかは上の方以外は知りません」
その言葉で、リーベがラーディス教団内で、地位の低いことが理解できた。
「なんでそんな人が…?」
「…今年の入学式は異世界から来た勇者達の為に様々な所が来ているよ」
蓮の疑問に答えながら「君もその話題の一人だからね」と言えば
「え?!何で!!だって僕は巻き込まれただけで、勇者じゃなくて」
「他人はそんな事は知らないよ。知っている事は勇者召喚で二人の勇者と一人の巻き込まれの異世界人が召喚されたって事」
その言葉に蓮の表情は青ざめる中、「それに巻き込まれでも異世界の知識はここで言ったら宝と同等なんだよ」と付け加えればさらに蓮の表情は様々な不安な表情を見せる。
最後に追い討ちをかけたくて、綺麗に笑ってみたら隣から頭を叩かれた。
あれ?アッ君そんなことする子だっけ?
前世は平凡だったけど、今はケイルとマーレのおかげで美形の分類に入ると自負している。
なぜ自分が叩かれたのか悩んでいれば。
「話は戻すが、リーベは教団にいた時にあれを見たことは?」
「数度、だけです…だからといってあのような行為をするような間柄では!!」
「そうであったとしても、そうじゃなくても俺とクレアは一切興味無い」
考え事をしている間にアルスがリーベと話をしていたが、アルスの言葉にいつの間にか僕まで入っていたことに驚きだ。
まぁ、僕も僕で他人の恋愛はあまり興味ないし、巻き込まれたくもない。
ふと、あることを思い出し、リーベに問う。
「あの人って何かしらの加護とか持ってる?」
「加護?」
加護について考え出すリーベと同じく蓮もまた「加護?え?二人もそういった宗教に入って」と不名誉な勘違していた。
「…知らないって言わないよね?」
「え、あ、ちょっと待ってください!!思い出します!!」
その対応に「こいつ、馬鹿だ」と失礼ながらも思ってしまったのだが、
「ねぇ、加護って何?」
と蓮の質問に思わずため息をついてしまった。
「加護は神族、幻獣族のごく稀に持っている力?固有スキル?特別スキルみたいなものだよ」
「スキル!!それならわかる」
蓮の理解と同時に、リーベもそれは知っていた様子でうなずいていた。
「…あ、あのその加護と私がどういった関係で?」
「言ったとおり、これは神族と幻獣族しか与えられないスキル。リーベ、ここ最近、変な形の痣ができていない?」
思い当たる事があったのかリーベは視線を彷徨わせる。
「無言を固定と取るよ。それが、加護の印、君達、教団が保護だなんだと自身の監視下に置こうとしている特徴の一つ」
「それは…選ばれた者がなるもので、私なんかがなれるモノでは…」
少しひきつったような笑みを浮かべながら、しゃべるリーベに呆れながら、「それを決めるのは僕等じゃない。加護を与える者達だ」と言葉を続ける。
「もし、自分が選ばれるのが可笑しいなら自身の神に問えば良いし、それに、君が所属するラーディス教団に保護してもらえばいいさ。本当に保護ならばいいけどね」
その言葉の裏を返せば、保護ではなく、何かしらの別の用途に使用されるのではないのか、本当は保護ではなく監視ではないのか。
「そ、そもそも私が加護を持っていたとしても貴方達には関係ないでしょ!!」
混乱しているのか、嫌、さきほどからずっと混乱していたのをさらに混乱させてしまっていた。
ここ最近のリーベしか知らないが声を荒げることなど無かったが、今現在は、声を荒げさせていた。
「もう、聞きたくない!!」
そう言うように両耳を塞ぎ、拒否の反応を取ると同時に、リーベの意思に反応してかリーベの足元を中心に浮かぶ魔法陣。
「アルス」
「わかってる」
言いたい事を瞬時に理解してくれたアルスが結界を張り、今から起こるであろう出来事から周りの建物を守る為、外野に気づかれないよう。
だが、相変わらず強度はいまいちな為に、内側を氷の壁で補強する中、唐突な事態のせいか蓮はただただ右往左往していた。
「あああぁぁぁああぁぁぁ!!」
リーベの絶叫後に発動された魔法。
リーベが、望んで発動させたのか、それとも無理やり発動したかわからないが、その魔法の発動の仕方は暴走の一歩手前に近い状態であった。
魔法陣から出現したのは幾多の茨。
その茨の太さは様々であり一見すれば大樹ぐらいあるだろう太さから子供の腕の太さまで様々な太さの茨が溢れ出ていた。
先に張った結界のおかげで結界内でせき止められるもやはり魔法陣から無造作に溢れかえる茨は直ぐに結界内を満たそうとするも、
「燃えろ」
アルスが振り払うように動かした右手の動きにつられるように茨の先を、途中を、炎が燃やしていく。
「うわぁぁぁ!!」
「おっとと」
両者からのとばっちりを避けるために蓮を小脇に抱え上空へと退避するも怒涛な展開についていけてない蓮が少し暴れるもんだから、危うく落としかけそうになるも何とか耐えて見せる。
「と、飛んで、うぇぇぇ!?」
「あぁ、ちょ、動かないでよ…」
身動きとる蓮に合わせてバランスを取っていれば「翼?」という声に、そういえば伝えていなかったなと思いだす。
「君達にとってそんな珍しい事じゃないはずなんだけどな…」
固まった蓮に対しそうぼやきながらも、こちらへと矛先を向ける茨を凍らせ砕く。
「このままの発動を続ければ暴走させる」
そうなればアルスが張った結界は直ぐに壊れてしまう。
今のリーベの状況は、多分だがペルレに何かされ、今までせき止められていた魔力の枷が外れてしまった。
その為、魔法を発動させたが普段以上の魔力が溢れ、それを制御する以前に、感情が爆発、起爆となり制御することができてない状態だろう。
ただでさえ発動時に激しい苦痛を感じ、今も魔力回路は悲鳴を上げ、これ以上魔法を発動させ続ければ魔力回路に何かしらの不具合が出てしまうのではないだろうか。
種族特性の回復力が魔力回路に対しても効くかは分からないが、暴走前の今の状況に手を打ちたい。
『アルス、何か案ある?』
『…また塞き止める?』
『それじゃ意味が無い…』
魔力回路にはこの後も負担はかかってしまうも、今後はその量に慣れてもらわなければいけない。
『あ』
ふと思いついた案。
それは本当に簡単で、でも成功するかわ分からない方法。
『いいんじゃないか』
『じゃ、やってみようか』
アルスからの後押しもあり、僕は先ほど思いついた案を実行させる。
「蓮」
「うぇ?!」
先ほどまで静かだった蓮からすっとんきょんな返事が返ってきたが気にすることなく話を続ける。
「リーベを助けたい?」
唐突な質問に蓮は頷く。
「どうやって助けたい?」
その質問に蓮は少し迷いながらも「リーベを助けてくれ」と蓮は口にするも、すぐに「いや違う?」と再び悩む。
悩み続ける蓮に、
「蓮はリーベのことは好き?嫌い?」
「え、えぇぇぇ!?急に何を?」
蓮の顔をが赤面する。
「き、嫌いじゃないけど!!す、好きなんて!!」
「今はその二択だけ、どっち?」
それ以外の答えは認めないという風な態度を示せば「す、好き」と小さな声で帰ってきた。
本当は堂々と大声で言ってほしかったけれども、「なら、約束だ」そう言いながら問答無用でリーベの真上で蓮を連れていき、
「彼女を愛してあげてね」
そう言いながら僕は蓮を落とすのだった。
その後、簡潔に言えば暴走前でリーベを止める事はできたが、代わりに流血沙汰になってしまった。
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2020.06.27 本編修正・追加




