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紡ぐ物語 -FUTURE-  作者: 稀世
03.動き出す物語
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1-4





「では、Sクラスの実力を見てもらうために団体戦の練習試合を行いましょう」


不穏な空気を漂わせている事に全く気がつかない校長と


「まぁ、それは嬉しいですわ。ぜひとも蛍様達のお役に立つでしょう」

「それならば私の部隊から数名お貸ししましょう」


その言葉に賛同する、勇者の付き添いできたエンビディア国第一王女であるセノン・リュゼ・アーデルとその護衛である円卓の騎士、第二位、ルフト・フェアゲッセンであった。

ルフトの言葉に校長は「ぜひぜひ、お相手お願いします」と嬉しそうに言うが、当の本人達、並びにその他の者達はDクラスとその新入生、特に神族の一人であるマオとの間に不穏な気配を漂わせているも前にいる者達は気づいていなかった。



そしてその集団が現在、いる場所は第一グラウンドであった。



「ではSクラスとルフト様の部隊からの数名の兵での練習試合を行わせていただく」


校長の「初め」の合図に向かい合う五名の二年Sクラスのメンバーと五名の護衛兵が動き出す。



校長の右側に座るは第一王女、セノン。

セノンの隣に護衛であるルフトが、そして、その逆、左側には副校長であるリヒター・マルールが座っていた。


去年の入学当初と同様、否、ソレよりも深い隈を目の下にこさえ、不健康さがより一層にじみ出ていた。

そしてその横に二年Sクラスの担任の教師が座る。

Sクラスの教師は「生徒達の良い、経験になります」と隊の隊長であるルフトに笑顔でそう口にする。


そして前から三番目の列に、新入生である蛍、境、マオ、一つ席が開き、リーベ、蓮となっており、その席列から少し離れた場所、前から五番から六番辺りの席にDクラスの面々が座る。


「先生、僕等って何する為にここに来たんですか?」


練習試合を見ながらテトは右隣に座るヴァールへと問いかける。


「本来ならあっちの端っこ側に座っている二人の男女の生徒を回収するだけだったんだ」


ぼやくように言われた言葉。

つまり「お姫様と校長が突発的に始めた、この練習試合が終わるまで帰れない」という事であった。


「暇じゃないんだがなぁ、俺」


もう少しで入学式であり、ソレに向けた警備や何からしないといけないと前々からぼやいていたヴァールに、「後で女将さんに差し入れ頼んでおくです」とニーアは同情交じりの微笑みを向ける。





練習試合は開始から三十分辺りでルフトの終了の合図によって鳴り響いていた音が鳴り止む。


結果は、引き分けに近いが、実質上、ルフトの部隊の勝利であった。

理由は明確、Sクラスの殆どが終了の合図と共に地に崩れ落ちるのに対し、護衛の者達は少しの息の乱れはあるも、しっかりと両の足で地面の上に立っていた。


「いやぁ、中々の者だったよ。さすがはアインツ家のご子息です」

「いえ、こちらこそありがとうございます」


近くの護衛の一人が唯一、立っていられているフェアに話しかける。


「どんどん鍛えれば、ホウセイ様のような立派な騎士になれますな」

「あぁ、こんな他種族ばかりで貴方の本来の力も発揮できないでしょう。帰られた時には優秀な訓練生と共に、もう一度お手合わせお願いしたいですな」


フェアにかける言葉は、本人に対しては褒めているつもりでも、チームメイト、人族ではない四名に対して「お前達ではこの人の強さは引き出せない」とそういった含みが見え隠れさせていた。

その言葉に、ハクレン、クーア、ウンファルの瞳に不機嫌の色がにじむも、直ぐにそれを隠す。

何せ、向けた相手は円卓の騎士が率いる部隊である。

イラつかせる三人に対し、もうすでに興味が無くしたのかアンシュの場合は欠伸を隠す事も無く零していた。


「さすがはルフト様の部隊。我がSクラスの面々の良い経験になったでしょう」

「こちらこそ、様々な種族で構成されているメンバーですが、やはり二年一緒にいるだけあってそれなりのチームワークがなされていました」


練習試合が終わり「さぁ、ここから二手に分かれて学園、最後に寮へと案内させていただきます」と今後の予定を口ずさむリヒター。

リヒターの言葉に学園側の者達は次の移動の為に席を立つも、その行動にセノンは、


「あら、もう練習試合はおしまいなの?」

「え、あ、はい。もうSクラスのメンバーも先ほどの試合で全力を出しつくしております」

「Sクラスの方々の練習試合ではありませんわ。確かに、もう一度みたいですが、この場にもう一クラスがいるのではないですか」


誰しもが固まる中で、ゴンッと大きな音が響く。

そちらへと視線を向けば、先ほどセノンが話しに上がったクラスの委員長であるテトが見事に前の席の背もたれにぶつかっていた。


「セ、セノン様、そのあちらのクラスは」

「何か不都合でもあるのですか?あちらのクラスは蓮様とリーベさんが入られるクラスなので、Sクラス同様、一度先の練習試合を見たいのです」


Dクラスについて何も知らないのかセノンは笑顔で答える。

セノンの隣にいるルフトはDクラスの噂話を知っている為か苦笑を浮かべる。


わたくしも見てみたいですわ」


セノンに加勢するは、その後ろに座っていたマオである。

マオの言葉につられるように


「オレも見たい、てか、さっきの見てたら俺も体動かしたくなってきた」

「それは同意です。今の自分の力がどこまで通用するのか試したいわ」


同意し始める蛍と境にセノンは嬉しそうに


「三人がこういっておりますので、対戦はぜひとも蛍様、境様、マオにお願いします」


平然と言ってしまうその言葉にその場にいた者は開いた口がらなかった。





+*+*+*+*+*





「早く、帰りたい」


そう愚痴を零すクレアに対し、アルスは苦笑を漏らす。


「お二人は練習試合に出ないからいいじゃないですか!!」


声を上げて反論するニーア。


ニーアの言う通り、練習試合に出るのは二年生であるテト、ニーア、アルマの三人であった。

相手も三人だからという理由で校長がそうヴァールに小言と共に言ったのだ。


「うぅぅ、どうしよう、失敗しそう」

「大丈夫、怪我を負っても直ぐに治療できるように俺がスタンバイしてるから」


緊張を解す為に言ったヴァールの言葉に「で、実際どれぐらいの傷なら治せるの?」というクレアの問いに「軽傷までさ」と自信満々に答えに不安しかなかった。


「ヴァール先生が危険と判断した時は僕等が止めに入りますので」

「…クーちゃん」


タメ息をこぼしながらクレアが言えば「私、信じてる!!」とニーアがクレアの胸板に顔を押付けながら叫ぶ。


「う、うん。緊張は取れないけど、言い敬虔だと思って、ねぇ、アルマ」

「あぁ、国境奪還を成功させた相手にどれだけ通じるかいい機会だ」


アルマもまた目の前の強敵に嬉々とし腕を鳴らす。


「ならアルス、アルマに武器貸してやれ」


アルスとアルマの武器は同じ両剣。


ヴェールの言葉にアルスは魔石に収納している両剣を取り出し、アルマへと渡す。


「安物の剣だから折っても気にしない」

「そうか、ならば遠慮なく使わせてもらう」


受け取ったその両剣は確かによく武器屋に見られるものである。



本来、その魔石に収納されていたクラス対抗戦で使用していたアルス本来の武器、黒い刃の両剣ではなく普通の両剣をそちらに収納し始めた当初、Dクラス全員、並びにSクラスとの合同授業でのSクラスからの驚愕と黒い刃の両剣をどこにやったとアルスを囲うように質問攻めが起こった。


だが、当の本人はケロッと「クレアに預けた」とその答えしか返さなかった。

その為に、名前のあげられたクレアへと矛先を変え質問する。

「どこにあるのか」や「貴方も使うのか」など様々な質問をされるも適当な返答しか帰ってこず、いつしかその質問もなりを潜めていった。



「んじゃ、三人ともいってらっしゃい」


ヴァールによっての見送りの言葉によって三人は下へと、グラウンドへと降りていく。

三人と入れ替わるように先ほど練習試合をしていた者達が観客席に姿を見せる。


「あれ、二人は出ないのか?」


ヴァールと一緒に観客席に残っていた二人にフェアが尋ねる。


「えぇ、相手が三人ということでこちらも三人、先輩方に花を持たせたという所です」

「はぁ、なに面白い事を言っているんですか?」

「あの方々が、貴様たちのような最下位のクラス等と同等の扱いをしないで欲しい」


Sクラスの後方にいた、ルフトの部隊の兵達が嘲笑うかのように口にする。

「それともなんだ?負けた時のいいわけをしやすいようにしているのか」と笑う。


「と、言われてますが、担任であるヴァール教師は言い返す言葉はありますか?」

「え?俺に振る!?いや、まぁ、事実だし?というか負けたら負けたで次の授業での課題にするだけだし…」

「という事ですので」


茶化す様な言葉に兵士達の精神を逆なでさせる。

結果的に一人の男が一歩、前へ進み出るも「止めろ、隊長が見ている」ともう1人の兵に止められ乱闘騒ぎは起こらなかったも、兵士達からの怒りの篭った視線に二人は肩をすくめ、ヴァールはタメ息を零すのであった。


「まぁ、僕達はいわゆるストッパー役。いざという時、身を挺して止めに入る役」


「この中で早く防御魔法を展開できるので」とヴァールに言われた理由を答え、「ちなみにアッ君は僕がいないとヤル気を出してくれない為に一緒にお留守番」とふざけた回答を口にする。


実際の理由は手加減が出来ないという事であった。

相手側に重症など負わせてしまえばこの場にいる校長がうるさいだろうし、何せ、セノンやルフトが黙っていない。


クレアの言葉にSクラス(アンシュを覗く)は何となしに理解した。





+*+*+*+*+*





「はぁ」

「テト、そろそろ、ふん切れ」

「そうです。こっちまで憂鬱になりです」


何度目かのテトのタメ息に後ろを付いていっている二人から注意を受ける。


「やるからには全力です!!」

「あぁ、手加減していたらこっちが大変な目にあう」


一応はヴァールから手加減するようにと言われているも、相手の実力は強大。


「そうだよね。僕も頑張って二人をサポートするから」


少し青いもテトの表情が少し和らぐ。


長い通路が終わりようやく外が見えた。

外にはもうすでにスタンバイしている対戦相手がいた。


「お、三人。全員で来てくれても良かったのに」

「そうですが、まぁ、それでも楽しませてくださるのなら何だってよろしいわ」

「ふん、わたくしはあの不敬である者の身内のあれとお相手したかったのですが、残念ね」


上から蛍、境、マオの順に口を開き、最後のマオに対してはあの町での暴動時、マーレに一方的にやられたことをまだ根に持っているようで、あの時、抱きしめられていたクレアをこの練習試合にて自身が気がすむまでの一方的の攻撃をしようと思っていたがそれが叶わない事が分かると、その整っている顔を歪めさせる。


「わぁ、何だろう。相手側の人達、不服そうに見える」

「何ですか!!私わたし達では役不足と言いたいんですか!!」


相手側のヤル気に対し、正直な感想を口にする二人に、「なら、俺達の力、示してやろう」とアルマが二人の肩を軽くたたきながら呟けば、「それもそうです!!見てなさい、私と水のマナの団結を」とニーアは胸を張る。


「うん、後輩たちの前で、無様な姿だけは見せないようにしないとね」


テトは笑いながら腰のホルダーに締まっていた本を取り出し、ニーアもまた髪飾りの魔石から杖を取り出しながら定位置につく。


Dクラスの準備が整ったことによって不機嫌丸出しながらも校長は「では、両者始め」と開始の言葉を叫べば、両者は一斉に動き出す。

その時、ふとヴァールはとある気配を感じ「もう、か…」と呟きを零すも、それは誰の耳にも届くことは無かった。





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2019.11.11:本編修正・追加

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