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紡ぐ物語 -FUTURE-  作者: 稀世
03.動き出す物語
39/47

1-3





「町の者からの喧嘩を止めてくれという報告で来たけれど」


コツコツと靴音を鳴らし鳴らしながらマオの前に立つ。


「こんな街中で暴れるなんてどういう神経をしているのかな?」


笑顔のまま振り上げられた足は何のためらいも無くマオの腹を蹴り上げる。

「がぁっっ」と醜い声をを上げ身を丸くしながらも、自身に攻撃を仕掛けてきた者を睨みつけるも地面にっ転がるその姿に、マオの目の前に立つ者の眉間に皺が寄る。


「神族の、純血の癖して、先ほどの攻撃を避けきれず、ましてやまだ、回復も出来ていないと見れば貴様の力もたいした事も無さそうだ」

「っっっ!!」


もう、マオに興味が無いといわんばかりに「おい、貴様たちがこれの連れか?」と先ほどの態度のまま少し離れた場所にいる蛍達に話しかけ始める。



「おうおう、戦闘モードじゃないか」

「街中であんなマーレ見るなんて驚愕だわ」

「エーデルさんにカメーリエさん」


怒れるマーレに遅れるように到着した二人は現状の状態に苦笑を浮かべていた。

二人から少し送れてヴァルトも到着するも、同じく今の現状に怪訝そうな表情を浮かべる。


「止めなくていいんですか?」

「そうね、その役はリーダーであるエーデルに任せましょう」

「俺!?」


カメーリエからの指名に嫌そうな表情を浮かべながらも、「なら、この場はお前達に任せるからな」とそう残し重い足取りでマーレへと向かい、


「さて、何でこの場所で喧嘩をしていたのか、お姉さんに言いなさい。Dクラスの子達」


そう視線を向ける先には罰が悪そうな表情を浮かべるテーゼから初め、その場にいる者達に向けられる。


「うぅ、すいません。私があの人達とぶつかってアイスを落としちゃって、そのテーゼちゃんが私の代わりに怒ってくれたんですけど…」

「あぁ、食べ物の恨みは怖いわね。だけど、こんな街中で喧嘩しちゃ駄目でしょう」

「違うよ!!あの人達が人の迷惑考えずに中央を堂々と歩いて、尚且つぶつかって謝罪も無いんだよ」

「だからと言って喧嘩は、まぁそちらの獣族の方々の意見は?」

「え、嘘だろう…」

「はぁ?」


状況確認をする為に相応から話を聞こうとしたが、獣族の面々がヴァルトを、嫌、マーレの登場から様子が可笑しかったが、話を振られた時の挙動不審、声の上ずり方に拍車をかける。


「あ、貴方方はまさか、ラオフェンの方々では!!」

「え、あ、うん。それが何?質問に答えてくれないかな?」


ヴァルトの言葉そっちのけで獣族の面々は「うわぁ!!俺ファンだったんだよ」「ここで会えるなんて、夢か!!」などと言葉を漏らす。


「うわぁ、何これ、可笑しな連中?」

「違うわ、きっと熱烈なファンの方々よ」


戦闘が終了したと判断したグーテは結界を解くと同時に元の姿に戻ってしまうも、その減らず口は閉ざす事無く、その言葉に珍しくレレスが同意するのであった。


「まぁ、そうね。最近はかなり有名になってきたからそうじゃないかしら?」


「お姉さんは最近のことはわからないわ」と言葉を漏らすカメーリエに対し、Dクラスもまたギルド関連の事には疎かった。

何せ、ラオフェンに頼めば何でもこなしてもらえるし、クレアとアルスのおかげかマーレが身内優先主義である為に必ず受けてくれるので、他のギルドを知る必要など無かったのであった。





「ほら、マーレ威圧的態度はそこまでにし時な」

「エーデル、か」


肩に感じる重みと声音で話しかけて来た相手の名を呼ぶもその表情は変わらず歪めていた。


「そう怒るな、ほら自分の身内でも抱きしめて落ち着いてな」


少し離れた場所にいたクレアは何故急に自分に話を振るのかと思いながら、エーデルに「ほら、こっち、こっち」と手招きされた事によって、クレアからマーレへと近づく。


「ん、そういえばクレア坊ちゃん今日は、また、可笑しな姿になって、いや、坊ちゃんたち数人…」


ここでようやく、見慣れた容姿が変っている一部に気がつく二人。

そして直ぐに「どうせヴァールの可笑しな授業中なのだろ」とクレアの頭についている獣耳に触れながら言う。


「まぁ、それは置いといてこっちを終わらせるか。嬢ちゃん立てられるかい?」


エーデルが目の前に転がっているマオに手を差し出すも、種族のプライドか「触るな、この下種が」と手を叩けば、直ぐ近場から感じる殺気に引きつった声を漏らす。


「そう殺気立てるな、マーレ。この嬢ちゃんの連れで回復魔法使える奴はいるか?」


視線を前方に向ければ、連れである三人が一斉にもう一人の神族の子に視線を向けるも、その子も何かしら体調不良に見えた。


「あ、今は使えない、ねぇ、どうしよっかね」


現状、回復が使える可能性があるとしたら光属性であるマーレかテーゼである。アルスもまた可能性はあるが現在はその欠片は一切ない。


「私は嫌だよ。というか、光属性を持っているけど、残念な事にそっちの才能は一切ないんだ」


その言葉は長年一緒にいるエーデルには嘘ではなく真実である事を理解する。


「というよりも、放置していても時期治る」

「あ、そうなんだろうけどさぁ、こう、見ていて痛々しくてさぁ」


先ほどよりは痛みが無くなったのかしっかりと両肩を使って息をしている事が見て取れるも先ほどの氷属性のダメージは今だ、その足に残っていた。


「後のことはこちらで何とかします」


ようやく向こう側、境がエーデルへと近づき頭を下げ「騒ぎを起こしてすいませんでした」と謝罪の言葉を口にする。

急な対応だった事に、エーデルは呆然とするも、境は流れるようにマオをお姫様抱っこすれば、その場にいた者は一瞬驚愕の色を見せる。


何せ、境の体格からして女性をお姫様抱っこが出来るとは到底思えなかった。

だが、目の前で起こったことが事実である。


「それでは私達はこれで失礼いたします」


もう一度、頭を下げ境はマオを抱えたまま先ほどの位置、蛍の隣へと戻る。


「最近の嬢ちゃんはたくましいなぁ」


エーデルはその光景を見ながら言葉をこぼすのだった。




「もう、しわけございません。本当は、この様な見っとも無い姿…」


境に抱えられている事、無様に敗北した事によってマオの心中は押しつぶされそうであった。


「そんな事気にしない。学園にいくのはマオが治ってからいけばいいし、その間はこの都市を堪能しようぜ」

「そうね、ここは私達がいた世界の物や他の国の物も集まっていると聞くから」

「蛍様、境様…」


二人の言葉に感動するかのように一瞬だけ上げられた瞳には涙が溜まっていた。


「それにしてもあの金髪の男性、一撃でマオに大ダメージ与えるなんて、一回戦ってみたいもんだねぇ」


ふと思い出したかのように蛍は呟けば、


「そうね、私達とあまり変らない子達もそれなりに連携していたから何かのギルドに入っているのかしら?」


境も先ほどの戦闘での感想を口にする。

二人の口から出る言葉に、マオの胸を無自覚に抉っていく。


その後方で、


「ねぇ、リーベ。お腹、大丈夫?」

「あ、はい。先ほどよりましに…」


そうは言いながらも痛みの代わりに何か別の違和感が子宮辺りに感じ始めていた。


「何か病院とか行った方が」

「それは大丈夫です。私もまた時間はかかりますが治癒能力は高い方なので」


「時期に治まります」とそう笑顔を見せる彼女の笑みはどこか無理をしているように蓮には映った。





+*+*+*+*+*





あの騒動から数ヶ月、入学式まで四日前となった現在、寮へと入寮する為に新入生 達が続々、チェルシアン魔法学園にやってくる。


ある者は親と見送りに付いてきた警護の者達に橋のところで見送られ、またある者は泣きながら一緒に橋を渡った後に抱き合ったりと見ていて飽きない者達が多かった。


そして本日は、エンビディア国からビックな新入生が来るという事で学園内は大慌て。

何せその知らせは急であり、一週間前に入ってきたせいもあった。

その為、この一週間、教師陣や学園に雇われている者達は至急に護衛兵の準備、敷地内、学園内の点検、食材等のチェックなどで大忙しであった。

その余波はしっかりと在校生や新入生にも及び、在校生は部屋に怪しい物がないかの点検、学園内の掃除などをさせられた。

人族は自身の国が関連しているからまだしも他の種族の者はたまったものではない。


そして、ビック新入生のご登校の当日。

到着の予定時刻より一時間前には橋の前、門の前に教師陣が並び、ピシッと制服を着こなす二年Sクラスの上位成績者五名、またDクラスもSクラス同様に制服を着用し、テトを先頭にニーア、アルマ、クレア、アルス、五名の生徒が並ばされた。


「何で僕等もここにいなくてはいけないのさ」


ボソリと呟く言葉はDクラス誰しもが思っていた。


「しょうがない、しょうがないんだ、クーちゃん。俺も何も聞かされてなくてそっちから五名選べとしか言われてないんだ」

「先輩方なら分かりますが、何で僕等?レレスとか双子とかでも良かったじゃないですか?」


「特に双子は喜んでじゃないですか?」と付け加えれば、普段より大人しいお面から除かせる口元が引きつっていた。


「まぁ、まぁ、そうカリカリしない」


隣、Sクラスの先頭の方から声をかけられた。


二年Sクラスとはクラス対抗戦以降から関わり(合同授業)が増え、何故か一方的(クラス対抗戦に出ていた者)に気に入られ、クラス対抗戦に出ていないクラスメイトから不審がられていた。


「まぁ、貴方様はレレスがいたほうが良かったのではないでしょうか」

「なぁっっ?」


そしてこの男、フェアは人族でありながら他種族であるレレスにほの字ではないかとDクラスとSクラスの一部に気づかれているも、当の本人と思い人であるレレスは気づいていない。


「何でその女が出てくんだよ?」


後方、僕の少し後ろにいたアンシュが声を発した時、前方から聞こえてきた高らかの笛の音に全員の視線がそちらへと向けられる。


煌びやかないくつモノ馬車。

その馬車の周りを邪魔しないように歩くはエンビディア国の騎士達。

その厳重さにもしかすれば王族の親戚、もしくは去年の入学式で顔を見せたお姫様または王族の誰かではないだろうか。


誰もがその光景に呆けている中、


「ッッ、アルス!!」

「あぁ」


右側の首元に走る痛みと熱。

それは以前感じた痛みと同じ、一瞬で痛みはなくなるも熱だけは一向にさめることは無く、この熱はクレアだけではなくアルスもまた感じていた。


現在、制服によって印の場所は見えないが、こういった反応の時のみ消えている印は浮かび上がる。


一瞬、強い眩暈と共に感じた強烈な薔薇の香り。


「ッッここは!?」


一瞬にして変る景色。


あたり一面に様々な色の薔薇を咲かし、感じる水の気配。

そして前方にはフランスなど西洋の庭園によく見かけるフォリーが薔薇の中に立っていた。


「っあ!?アルス!!」


唐突に肩にかかる体重と肌に触れる髪に自然と肩が跳ねながらもそちらへと視線を向ければ「うぅぅ、臭い、鼻が…」と薔薇の香りを拒絶する為にか、肩口に押し付けられるたびに触れてくる髪質や耳がこそばゆく現状の現象について考えられずにいた。


「ふはっ、アルス、取り合えず、あそこまで、行こうよ」


フォリーの方を示せば一応は反応が返ってきた事にホッとし、僕らはそちらへと歩き出す。

アルスほどではないが、むせ返るほどの薔薇の香りに思わず手の甲で鼻を押さえる。



そしてようやくたどり着いたフォリー。

その中に一人の女性が横たわっていた。

金の髪は身長より長い事がゆうに分かるほど彼女の髪はフォリーの床一面に散らばっており何よりも横向き、こちら側に向けられている胸は着用している服から零れ落ちんばかりのものであり、向けていた足先をフォリー内に踏み入れようか否か迷ってしまった。


だけれども、


「あらあら、寝てしまったわ」


気配に気がついたのか、その女性はゆっくりとだか上半身を起こす。


「あらあら、ようやく誰かが来てくださったと思えば可愛らしいお客様ね」


ニコニコ笑いながら言うその女性。

楽しげに体を揺するたびに香ってくる薔薇の匂いに無意識に距離をとろうとするも、「逃げないで」といつの間に動いたのか目の前の女性は僕の両頬をはさむ。


「私はただただ、お願いをしたくてお前達を呼んだの」


「嫌、私の呼び声にお前達が反応してくれたの」と口にする。


その意味を僕らは理解できず、


「僕等は貴方の呼び声なんて聞こえてないし、反応した覚えも無い」

「あら?可笑しいわね。だったら私の園にこれるはずないわ」


近づけられる顔。

それは髪からなのか、それともこの女性そのものからなのか強烈に香ってくる薔薇の香りに目が眩みそうになる。


「戯れはそれまでだ」


聞こえてきた声と同時に後方に体が引っ張られ、彼女との間に一線の白い炎が走る。一瞬、隣にいるアルスがやったのかと思ったが、直ぐに違うと気づくも、柔らかい懐かしい気配をさせた誰かに受け止められ思考が停止する。


「あ、貴方達は、そうね、そう言うこと。ならば、無意識に反応しちゃうわ。そうでしょ?月神ルーナ太陽神ソル


「今代ではお早いお揃いで」とどこか皮肉めいた言葉に対し、二人は、二柱は


「そうせかすな、美の神」

「あぁ、ここで一つ遊んでも良よいが、今のお主の力では我々を相手にするのは辛いじゃろう」


月神と呼ばれた女性は、重力など関係ないといわんばかりに長髪の黒髪を空中に、自身の体を浮かせる。

一歩、その月神の隣にいるのが力強い太陽の光のような金髪を腰まで伸ばした褐色肌の太陽神であった。

その二柱の腕の中にそれぞれ腕の中に閉じ込めていた。


「ここは私の園、この私の世界で勝てるとお思い?!」


目の前の彼女、美の神もまた目の前の二柱に対し好戦的であり、彼女が腕を動かせばフォリーの近場の咲いている薔薇達の茨が一斉に襲いかかってきた。


「この我がいるのじゃ、そんなちっぽけな攻撃容易い」


そう言うが早く、太陽神を中心に出現した黄色のような白い炎。

その炎を感じる前に月神が空中へと避難したおかげで僕には被害は無かったが白い炎による影響は尋常ではなかった。


広大に咲いていた薔薇はものの一瞬で灰も残らず消えてしまった。


「可哀想に、再びあのような光景に戻すのにさぞや力を消費するだろうな」


耳元から聞こえてきた声音に自然と目線は自身を抱えて宙に浮ぶ、月神へと写る。


「ようやっとお前に会えた」


「もうしばらく先のことだと思っていたが、これに対して美の神には感謝しなければな」と嬉しそうに目元を細める月神に思わず赤面させながらもその金の瞳から目が逸らす事ができなかった。





+*+*+*+*+*





パチパチと土の上に残った白い炎が音を立てながら燃えているのを俺はただただ眺めていた。


一瞬にして全ての薔薇を、香りを燃やし尽くしたあの光景、あの力を、俺にも出来ないのかと脳裏に過った。


「安心せい、お主が自身の力を理解すればおのずと使用できる」


頭上から聞こえてきた言葉に思わず、視線を向ければ、その視界にうつった太陽神の口角がにやりと上がっていた。


「何を話している?」

「おぉ、ルーナ」

「ルーナ?」


声と共に舞い降りた月神に対し太陽神が呼んだ名前に首を傾げれば「あぁ、我の名前だ」とクレアを抱きしめている月神がそう答えた。


「そやつは我の弟のソルだ」


月神、ルーナが「ついでにあそこで半べその奴は美の神、ベヌスだ。性格がクソだから気をつけろよ」と酷い紹介をしたもので、


「何がクソよ!!そち等、双子の横暴よりまだマシよ!!」


半べそをかきながら「私の可愛い薔薇達が、一瞬で」と地面に膝を付け、露出している両肩を震わせていた。


「で、それよりも我が愛し子を呼びつけた理由をそろそろ吐け」

「無ければ、帰らせるぞ」

「そち等の登場で話が脱線してるのよ!!」


三人の会話を聞いていれば、その三人の力関係が自然と見えてきた。


「まぁ、良いわ。この薔薇園を元に戻してと言いたいけれども、それよりも私の愛し子のことよ」


声音は震えているが、それより優先したいことがあるようだ。


「何だ?お前の愛し子も一緒なのか?」

「えぇ、おあいにくさまに、ですが何がいけないのか、私の加護を受け取ってくれていないの」


「もうすでに三次成長も終わっているというのに、今だ、完全なる開花まで到らないの」


ベヌスの言葉に、


「その子って神族なんだ」

「えぇ、純血の子よ。だけれども環境のせいか愛を受けずに今を生きているせいか、本来の力も発揮できてない可哀想な私の愛し子。私の加護を最も受け取れるのは愛し、愛されること」


「一方通行の愛では意味が無いわ」そう答えるベヌスの表情は自身の愛し子に対しての哀れみを浮かべていた。


「だけれどもこの前、多分お前達のおかげでしょうね。感化によって無理にこじ開けてくれたおかげで私がこうやって干渉する事ができたのよ」


その後に続く言葉になにやら面倒ごとの予感を感じたがもう遅かった、


「私の愛し子に恋人を作る協力をお願いするわ」

「はぁ!?」

「恋人?」

「えぇえぇ、恋人です。嫌、あまつさえすっぽりとやってくれればそれはソレで私の加護も強まるというモノです」


どうやら目の前の神、美と愛と性を司る女神であるようだ。


「恋は人を輝かせる。性もまた同じ!!二人には私の愛し子の協力をお願いします」


「拒否権は聞きません」と横暴な返答と共に感じた浮遊感。


「では、後はよろしくお願いします」


その声を最後に俺達の意識はブラックアウトするのであった。





+*+*+*+*+*





「何て横暴な奴」


その一言に、前に並ぶアルマが驚愕を示しながら「どうした?」と僕の方へと視線を向ける。


「あ、嫌、何も…アルマ先輩こそどうしたんですか?」


急に鼻を動かすアルマに、


「嫌、微かに薔薇の匂いが…」


その言葉に背後にいるアルスへと視線を向ければアルスもまた首を傾げた。

それに「気のせいみたいだ」と視線を前へと戻す。

つられるように視線をそちらへと向ければ、馬車はようやく門にたどり着いたところであった。


――私の愛し子に恋人を作る協力をお願いするわ――


脳内で再生されるベヌスの言葉。


「(協力も、何も美の神の愛し子なんて…)」


現在、分かっているのは神族の純血で女性。

自分とアルスが会った事のある純血の神族の女性。


男性の神族ならば二人なら知っているが女性の神族とは…


「あ」


脳裏に浮かんだのは数ヶ月前の町で騒ぎを起こした時に後から乱入してきたグループに神族の二人の純血の女性がいた。



『アルス、美の神の愛し子に目星は付いた』

『本当?』


精神感応でアルスに、思い出した事を話す。


『あの二人の女性のどっちかが…』


そう思ったのもつかの間、


「こちらがエンビディア国、王から直直に推薦された生徒達だ」

「うわぁ」

「あうっ」

「…はぁ」

「はぁっ!?」

「わぁ、驚きだ」


今現在目の前にいるのは数ヶ月前に最悪な出会いをした神族二人、人族三名の集団であった。





2019.11.11:本編修正・追加

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