7-3
一号館の一階に設けられている食堂にはもうすでに多くの生徒によって利用されており食堂に設置されている多くの席が埋まっていた。
ガチャァ
開かれる扉の音に多くの者は気にせず食事や雑談を続け、約少数の者はその音に反応し出入り口へと視線を向ける。
そしてその少数が、口を揃えて「Dクラスが来たぞ」と言葉を発し、その言葉は同じ席、隣の席の者へと広め、少数だった視線は数を増やし多くの者の視線が入口へと向けられる。
「本当によく来られるよな」
「自分達の立場を考えろって言うの」
「てか、今日は何か人数増えてないか?」
普段、食堂利用するのは前を歩くニーア、グーテにテーゼ、真ん中にいるテト、アルマ、そして後ろで付いて歩くように今回初の食堂利用の為に不思議そうに、観察するように食堂を見渡しながら歩く僕とアルスであった。
いつもより多い人数に気がついた者達は「もしかして全員集合?」、「はぁ?何で他種族同士でと仲良くしてんの?きもくない?」という騒ぎ声が聞こえてくる。
「陰口なら聞こえないように、本人のいない場所で言って欲しい」
「聞かれたいんじゃない?」
「そうか…」とぼやきながら陰口が聞こえてきた方へと視線を向ければその者達はすぐに視線を逸らす。
あたかも自分ではないといわんばかりの態度をとるが、その態度もどこかぎこちなく見えた。
「クーちゃんにアッ君。早く座りましょう」
いつの間にか空いた席を見つけ、なおかつ僕ら以外の全員座っていた為に、僕らも開いている座席へと腰を下ろす。
ニーア達が見つけた席四人席が二つ。
入り口に近い方にニーアとテト、グーテにテーゼが座り、その隣の奥にレレスにアルマ、アルスと僕が座る。
「二人は何を注文されます?」
「あー、僕らは弁当作ってもらっているから注文しないよ」
そう答え、持ってきた弁当箱を机にのせる。
「これは何人分ですの?」
「嫌、実際は二人分。隣の奴が大飯だからこうなったんだ」
そう言えば「クレアもよく食べる」と隣からボソッと聞こえてきたが知らない。
「…なら、デザートだけでも頼めば良い」
「デザート!!」
アルマの言葉にアルスは犬のようにその尻尾を振る。
振られている尻尾は隣に座っている僕を叩くが、フワフワな尻尾の為に気にすることはないが、くすぐったい。
「ここの食堂は以外にもデザートが豊富で、俺はそれを目当てにここに来ている」
デザートが無ければ食堂など来ないと答えるアルマに、その隣に座っているレレスが「まぁ」と驚きの声を上げればアルマは「何か問題でもあるのか?」とどこが五浦相な態度で答えたのだった。
「クレア、俺」
「分かった。分かったからそんな切なそうな瞳で僕を見ないでくれ。僕がいじめたみたいじゃないか」
切ない泣き声が聞こえてきそうな表情をさせるアルスに対し苦笑を漏らす。
「本当に仲がよろしい事で」
呆れ交じりで聞こえてきたその言葉に頷きながらもメニューへと視線を向ける。
食堂のメニューは洋食に似た料理が多く、したがってデザートも洋食に似たものが多かった。
「アルスは何が食べたい?」
「ん、ボリュームがあるのかな」
アルスの答えに「どれだけ食べる」と言葉を漏らしつつもアルスの注文通りにボリュームがありそうなデザートを探す。
そして全員が注文し、料理が全員の前に届き、料理を食べ始めた時、事件は起こった。
扉の開く音が聞こえた一拍後に、きゃぁぁぁと聞こえてきた黄色い声。
その声に驚き一年生組は持っていたフォークやスプーンを落としてしまった。
二年生は慣れているのか持っていたスプーンやフォークは落とさなかったがそれでも突然の大声にその肩が跳ねていた。
「あ、もうそんな時間か…」
「本当に相変わらずうるさいです」
「あははは、相変わらずの人気者だね」
二年生組はこの黄色い声の発生原因を知っている為か眉間に皺が寄っていた。
この現象が初めてであった僕等は目を白黒させながらそれぞれの机に座っている二年生へと視線を向ける。
「Sクラスの連中が来たんだ」
「Sクラスが?何でSクラスが着ただけでこの様な騒ぎが?」
アルマがため息を漏らしながらその説明を口にする。
曰く、Sクラスはその学年のもっとも優秀な生徒が所属できるクラスであり二十人いるクラス内で五位までの生徒は他の者から憧れ、好意といった感情が向けられる。
つまり各学年の五位までの生徒はアイドルのようなものであった。
「まぁ、今、来たのは声の大きさからして二年か三年のどっちかだろう」
やはり獣族でありその聴覚が優れている為にアルス同様にアルマもその黄色い声が煩わしく感じたのか普段以上に眉間に皺がよっていた。
「キャァァァッ、フェア様」
「ハイレンちゃんこっち向いてぇぇ」
「クーアちゃん、いつも可愛いよ!!」
「ウンファルさん、今日もお疲れ様です」
「アンシュさん抱いてぇぇ」
ようやく、黄色い声から聞こえてきた人名とその人に対しての称賛の声が聞こえてきた時、二年生組は天を仰いでいた。
「まさか、めんどくさい方々が来たです」
「もう、僕らの事は気づかずにいて欲しい。気づかないで本当に…」
「…チッ」
各々、何かしら苦い記憶があるのか三人の目から光が消えていた。
それに対しうずうずと気になりだしたのか体を揺らし始める双子。
その態度は明らかに二年の態度の変化の理由であった。
だが、近づいてくる黄色い声に双子も質問するよりも視線をそちらへと向け、二年生組もあきらかなる諦めの瞳を浮かべて、そして、
「やぁ、君達も来ていたんだね」
五人の男女が通路側に立っていた。
最初に声をかけて来たのは人族には珍しい銀髪の青年だった。その青年は明らかにSクラスのリーダー感があった。
「あらあら、ニーアちゃん。よく食べるのにあまり成長して無いようで、あぁ、胸の方はさらにでかくなっているわ」
「ぐぅっ…」
ニーアへと悪態を付くはその青年の後方、後ろに同じ赤髪の少女を引き連れ、見事な赤髪に金の瞳の女性だった。
人族での光属性は王族の見にしかなくなればその女性は必然的に精霊族か神族かのどちらかになる。
「ハイレンお姉さま…」
「あらあらクーア、どうされたのかしらそんなに拗ねて」
後方にいた少女、クーアが自身の姉であるハイレンが他の女性に話している事にやきもちを焼いてかハイレンが羽織っているロープの裾を引っ張り自分へと視線を向けさせるような可愛らしい行動にハイレンは微笑みながらクーアの唇にキスを落とす。
その行動に周りの生徒は先ほどとは比べ者にならないほどの歓声を上げれば、獣族の者達はその歓声に耳を傷める。
「ハイレン、クーア。人前で止めろ」
「あら?ウンファルもやって欲しいの?でもごめんなさいね私女性にしか興味が無いの」
「と言うよりも魔族なんかとしたら穢れちゃうわ」と見下すようにショートツウブロックという黒髪に黒よりの青の瞳を細目、ハイレンへと怒りを見せれば「汚い視線をハイレンお姉さまに向けないで」とクーアがハイレンとウンファルの間へと体を滑り込ませ、ハイレンを守る形へと取り数秒睨み合う。
だが、先頭にいる青年に「三人ともここは食堂だ、共同スペースで問題を起こして他の生徒達に迷惑をかけてしまうだろう」とどこか棘のあるような言い方に3人、クーアとウンファルのにらみ合いはそこで終了するも、その雰囲気は悪かった。
「おいおい、もう少し見せてやれよフェア様よ」
「アンシュ…君、昨日とは違う女性を引き連れているようだけど、」
「おうおう、騎士様の息子様は真面目だねぇ。まぁ、そうだねぇ。昨日とは違うカワイ子ちゃんですぜぇ」
下品な笑い声を漏らしながら両隣に立つ女子生徒の胸を触る。
その行動に、リーダであるフェアだけではなくその周りの者達はアンフシュを汚いモノを見るような視線を向けていた。
その容姿は獣族のようで豚の垂れた耳に鼻、テト以上に太っているその体系に髪型はショートモヒカンの黒よりの茶髪に茶色の瞳。
豚に真珠とはこういうことであろうとアンシュへと見ながら僕は思う。
「チッ、幻獣族じゃなければこのクラスに入れないはずれ者が…」
ボソッと呟かれた言葉を隣にいるアルスが聞こえていたようで、。
「アイツが幻獣族…?」
「はぁっ!?」
ぼそっと呟いたアルスの言葉に一年組である僕らは驚きの声を上げる。
「なぁっ!?幻獣族ってそんな、ありえないわ!!」
「うぇうぇ、何それ」
「うわぁ、僕らの知ってる幻獣族とは間逆なタイプ」
レレスは驚きのあまり口を塞ぐもその瞳はこの世ならざる者を見るように見開かれる。
僕らは入学式の時に第一王子の護衛役であるノアを思い浮かべ、次にアンシュへと視線を向け、怪訝そうに顔を歪める。
「何々?俺のこと気になっちゃう?女の子だったらいつでも俺のベッドに歓迎だよ」
下品に笑いながら言われた言葉に女性陣は顔をしかめる。
「というか、ニーアちゃん意外に今年の新入生にはあたりが多いみたいだな…」
アンシュはそう言いながら「三人か」と答えた時、Dクラスのメンバーは首をかしげる。
Sクラスの者達は構わず口を開き、
「そうねぇ、女性となら私はクラス関係なく仲良くしたいわ」
「ハイレンお姉さま…」
「あらあら、一番はクーアだけよ。安心して頂戴」
「まぁ、そうですね。他種族に興味は無いですが人族ならば私も」
そういってフェアの視線が向いたのは明らかなる僕であった。
その事実に気がついたDクラスは撃沈した。
「ア、アハハハハ、クーちゃんが女の子にッッ」
「やめて、やめてあげて。僕の腹筋はもうああぁぁぁ」
「あぅ、スタイル良いですもんね、勘違いされるですよね」
「あぁ、皆、そんなに笑ったら…」
「テト、体が震えているぞ?」
「…女の子のお洋服でも着ますか?」
Dクラスの態度にSクラス、その周りの生徒は不愉快そうに顔をしかめる。
だが、この中で一番不愉快に感じているのは、
「…はぁ?」
「クレア…」
この僕だ。
沸騰しそうな怒りを、隣にいるアルスが苦笑を浮かべながら抑えてくれていた。
だからこの空気を打破する為に口を開くも先に爆弾は落とされた。
「なんなら俺の女にでもなるか?」
「夜のな」と付け加えられた単語と共にバギッと手のひらから聞こえてきた。
「…怒ってる?」
「うわぁぁぁ…」
「これはいじり過ぎちゃった…」
もうすでにそういったネタでいじればお怒るという事を、歓迎会を共にした者達は知っていた筈なのになぁと思いながらあ、
「まだ、まだ知らない人ならば我慢してやる…が、僕の性別を知ってなお弄ってくれば我慢なんてできないって話で」
立ち上がりながらDクラスメンバー(アルス以外)に視線を向け、
「この後の授業、覚えていて下さいね」
自分でも今のはうまく笑えた気がしながら、次にSクラスへと視線を向け、
「Sクラスの先輩方、僕は男なので性別に関してもう二度と間違えないでください」
向けていた視線を目の前にいるSクラスとくにアンシュへと向ける。
のちにその光景を見ていたDクラスメンバーは、マジで怖かったと僕に苦情を言ってきたのは次の日のお話である。
座って食べ直す気分ではないのでそのまま教室へと戻ってしまおうと思ったが、やはり豚。
「ちょっと待てよ」
「何?」
前を塞ぐ巨体、またいアンシュが僕の行く道を塞ぐ。
尚且つ横を避けようにも女子生徒がいる為に通れず、迂回するしかないかとため息をこぼす。
「なぁ、今から俺と一緒にあそばねぇ?」
「はぁ?」
怒りで片方だけ口角が上がり、きっと今の表情は明らかなる機嫌の悪さを示しているだろう。
なのに、アンシュはそれに気づいてないのか右肩に手を乗せてきた。
制服が間に挟んでいる為にじかで触れられていないが、布越しで伝わってくる、湿った、生暖かい感触に肌が粟立つ。
「ベッドの上で肌と肌がぶつかり合う遊びを」
明らかに下心丸出しの視線。
舐めるように見てこられ、なおかつ肩に置かれていた筈の手の平が上へ動かされる。
その様子を見ていたSクラスは呆れ、汚い者を見る視線。
何アンシュに絡まれる事に対しての哀れみが向けられるもDクラスは違った。
確かにアンシュへと向けられる汚い者を見る視線は同じだが、その瞳には同情もまた含まれていた。
「あーあ、あの豚さん。可哀想だね、グーテ」
「でも、自業自得だよ。テーゼ」
唐突に言われた言葉にハイレンは「どういうこと」と尋ねる前にそれは起こる。
「がぁあああぁぁぁッッ!?」
アンシュから聞こえてきた悲鳴。
Sクラスの者達は慌て、視線を戻せば先ほどまではいなかった第三者である、アルスがそこにいた。
アルスは迷うことなくアンシュの右腕にフォークを突き刺しており、柔らかいその腕に簡単に突き刺さっていた。
その突き刺された場所から少量ながらも血が流れており、痛そうだなぁと客観的に思った。
「この野郎、よくもやりやがったな!!」
アンシュは右腕の痛みを堪えるかのように怒鳴り上げ左腕を振り上げる。
「アルス」
「分かっている」
頷きアルスは振り下ろされた腕を最小の動きでかわし、アンシュの腹へと迷わず蹴りを叩き込む。
腹の分厚さで衝撃は緩和されるもそれでもアルスの蹴りによって後方、食堂の壁近くまで蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばされたアンシュはうめき声を上げながら目を回し、尚且つアンシュの真横にいた女子生徒にまで先ほどの余波は来ていたようで見事にその近くの席の者の上に、机の上に倒れていた。
「君、こんな事をして分かっているのか!?」
「何が?」
「何がって!?お前ッッ‼」
慌ててこちらへと近づいてくるフェアの言葉にアルスは笑顔を貼り付けたまま返す。
その答えにフェアはオウム返しのように繰り返しながらもアルスの胸ぐらを掴む。
「上級生に、Sクラスの生徒に手を上げたんだ!!それなりの処罰が待っているぞ」
「あぁ、そうなったらあの先輩はこの先、最弱クラスのアルスの蹴り一つで気を失うほど弱い最強のSクラスの生徒だって言われるんですね」
あえてSクラスの頭に最強をつけ、尚且つそこを強調させながら答える。
もし、言葉通りならば、Sクラスの実力が揺らぎ、尚且つ教師、校長からの信頼が揺らいでしまう。
そう考えてしまうフェアはその後の言葉を口にする事ができず黙っているばかり。
その空気に飽きた僕らは食堂の入り口へと歩き出す。
+*+*+*+*+*
「クソッ!!」
フェアの悪態の言葉にざわつき始めた食堂は再び水を打ったように静かになる。
静まった食堂に響く足音。
「クラス対抗戦で覚えていろ」
「去年みたいに逃がさないからな」テトへと睨むように告げ、フェアもまた食堂を後にする。
「あーあ、せっかくの食事だったのに」
「なら、二人だけでも食べましょう。ハイレンお姉さま」
「かわいい事を言ってくれるわね」
姉妹は当初の目的どおり食堂での食事をする為に目的地であった席へと向かう。
ウンファルもまた食事をする為に歩き出した。
結局の所、Sクラスは同じクラスメイトであるアンシュを助ける人はいなかった。それは周りに入る生徒もしかりである。
「うっ、お腹が痛い…」
「テト、大丈夫です?!」
ようやく去った問題、再び降りかかった問題に対しテトの胃はストレスによって強い痛みを知らせ始めた。
なお、午後の授業はクラスの実力を知るための模擬戦となっており、クレアはしょっぱなから本気を出し相手を氷付けにさせ、ヴァールに怒られていたのであった。
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2019.09.16:本編修正・追加




