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紡ぐ物語 -FUTURE-  作者: 稀世
02:中立チェルシアン学園
27/47

第7話 クラス対抗戦Ⅰ








「ほら、ほら、へばって来たか一年!!頑張って走れ」

「あー」

「いー」

「目が、まわっっっ」

「クレア!?」


「ほらそこアッ君。クーちゃんといちゃつかない」という声が第三グラウンドに響き渡る。


「み、皆頑張って!!」

「あぅ、去年の私達もやりましたよね・・・体力づくりって言われて」

「でもそれで、魔力の威力は上がっている」


アルマの言葉に同意するように二人は頷く。


入学式から早、一ヶ月が経過しいよいよどのクラスも本格的に授業をスターとさせる中、Dクラスは第三グラウンドで授業をしていた。

水無月(6月)に入り気温もそれなりに温かく天気も快晴を迎え快適の授業を迎えるも、現在は、一年の授業内容は体力作りという事によりグラウンドを走らされていた。

休憩を入れつつも、もうすでに一時間近く走っておりアルス以外の一年の表情はもうすでに疲労が見えていた。

二年生は、別の課題として魔法の練習をしていた。

なお、同じグラウンドを使用している一年の様子を懐かしむように見ていれば「ほらそこ二年!!見てないで模擬戦を始めろ。ほらテト指示出して」と言う声に向けていた視線を外し、止めていた模擬戦を再開させる。



「そ、それじゃぁ、僕とアルマが最初で、次にアルマとニーアで交代していく形で、あの、お願いします」

「了解したです」

「あぁ」


指示に二人は頷き、ニーアは二人から離れる。


テトとアルマはお互いへと視線を向けつつテトは腰に下げてある本を取り出し、アルマも同じように手に握られていた両剣の模擬刀を構える。

それによって先ほどまで走っていた一年は足を止め模擬戦へと視線を向ける。

一年が足を止めた事に気づくもヴァールは注意することなく「一年一旦休憩、こっち来い」と指示を飛ばせば、一年は各々の速度でヴァールの下へと駆け寄る。



「先生、テト先輩のあの本は何?」

「そうそう、アルマ先輩は模擬刀使ってるのに何で?」

「あぁ、そう言えばテトが魔法を使う所は皆初めてだったね」


それもそのはず、二年生が模擬戦を始めたのは今日からであってそれまでは一年と同じようにランニングや腕立て伏せといった体力づくりを一緒にしていたのだった。


「テトの属性は無属性で魔法を発動させるにはあの本を使用しないとテトは魔法が使えない」

「え、無属性って珍しいんじゃ!?」

「そうだよテーちゃん。でも案外身近にいたりするんだよね」


その言葉が誰に向けて言われているのか双子は気づかなかったがアルスとクレアにはその言葉の意味が理解し呆れながらも、視線を模擬戦へと向ける。



『さぁ、今日もたくさんの物語を僕に見せておくれ』



無属性の魔法は詠唱は各々違い、またその属性も効果も様々でありまだ知られていない魔法もあった。

そして現在、Dクラスの一年生はその一つを目の当たりしていた。


詠唱によって発動した本は独りでに開きパラパラとページが捲れて行くのにも驚くも、その本から微かなる発光、魔力が宿っている事に気がつく。


「先生、あの本は一体?」

「どこで手に入れたかは俺も知らないんだけど、入学当初には既に持ってたんだよね。だけどあれが魔道書であり、尚且つそれが特別な魔道書なのは今見たら一目瞭然だろう?」

「魔道書」


クレアが知っている魔道書は、魔術に関して書かれている本。

まじないや詠唱、魔法陣や禁術などといった昔の人が使用していた魔術が記載され、クレアがこの世界で魔術書を見たことはまだ無い為に現在、テトが持っている魔術書に自然と視線が釘付けになる。

それはクレアだけではなく、グーテやテーゼもまた同じでありその瞳をキラキラと輝かせて見入っていた。


『“灰被り姫シンデレラ”』


呟いた言葉に魔術書がとあるページで止まったのが分かる。

だが、その魔術書から描かれた魔法陣から出現したのは火の球でも、氷の矢でもなく一人の女性。

長髪の金髪をまとめる事も無く腰まで伸ばしているもその髪は繊細で出現時に髪が散らばっても髪は再びまとまり、はね一つ見せず、また彼女が着ている洋服は一見ドレスと見間違いそうにもなるもののその服は剣士のように踊り子のような服であった。

だが、それよりも生気を感じさせない青い瞳はまるで作り物の人形のように感じられた。


「灰被り姫って、まさか、ね…」


テトの言葉にクレアは自然と、前世の時にみた童話のお姫様を思い出す。


「は、始めるよ」

「あぁ、いつでも来い」


にらみ合いは終わりだというように動き出した両者。

アルマは模擬刀をテトへと振り下ろすも、隣にたたずんでいた灰被り姫の蹴りによって攻撃は防がれる。


「うわぁ、あんな細い足で止めちゃった」

「私は絶対無理」

「まぁ、魔法で強化されているし、痛いかどうかは彼女しか分からない」


ヴァールの言葉通りに灰被り姫は苦痛一つ見せないまま、踊り出すようにその場でステップを踏み始める。


「本当に、お前の召喚って不思議だ」

「そ、それは僕もおんなじなんだけど、痛くなかったかな」

「…変らないな」


ふと口角を上げ、アルマは模擬刀を握り直し、灰被り姫へと攻撃を仕掛ける。

最初は均等しあっていたが、灰被り姫の動きが鈍りだしたことによって、アルマの刃が灰被り姫を抜けテトへと通る。

だがテトも再び魔導書をを構え


『“眠り姫”』


再び短い詠唱を唱え終わると同時に動き出す魔術書。

そして目当てのページまで開くまでにかかった時間は5秒。それまでに二人の距離は縮むも魔法陣が出現が出現する。


一年も次に召喚される”物語”に目を輝かせ、登場を心待ちにするも


「あれ?」


魔法陣までは出現したが、目当ての人物はその魔法陣から出現しなかった。

否、せっかく召喚に成功していた灰被り姫もまたその魔法発動時にその姿を消していた。


それはつまり


「あぁ…二体召喚はまだ、早かったな」

「あ、ははは、うまく行くと思ったんだけどな」


失敗であった。

それによってこの勝負はアルマの勝利で幕を閉じる。


「ねぇねぇ、何で失敗したの?」

「そうだよ。魔法陣まで発動したのに!!」


これに対し一年も思うところがあり一緒に見ていたヴァールへと質問が飛ぶ。


「ん、そうだね。丁度良いから説明しようか。何で俺が君達に体力づくりを授業が始まってからずっとやらせていると思う?」

「え?他に教えれないから?」

「というより、教え方が分からない」

「準備していない?」

「そもそもやる気がない」


一年生の回答に「ちょっと!?テーちゃんとグーちゃんはともかく、嫌、ともかくじゃないけどクーちゃん達は絶対分かってるだろう!?」と言う発言にクレアは肩をすくめアルスは視線を逸らす。


「違うよ?これもいっぱしとした魔法の授業。というよりも体を鍛えてない貧弱な体で魔法を使用しても体が無意識に抑制、つまり体が壊れないようにその体が耐えれるだけの魔法の威力しか魔法が発動しない」


つまり、貧弱な者と鍛えた者が同じ魔法を使用してもその威力は違う。

それは肉体面だけではなく精神面も同じであり両者を鍛えれば発動できる魔法の威力は通常よりも最大で発動可能となる。

だが、肉体面で鍛えたとしても精神面がまだまだ未熟であるテトは一体での召喚は可能となったが、現段階では同時召喚が出来ない。


「つまりテト先輩が同時召喚を可能にさせるには更なる体作りかあの性格をどうにかしないといけない、と言う事ですね」

「そうだよ。てか、知ってるじゃないか」


クレアの回答に全員がおーとなるもののヴァールのみもの言いたげな声音で反応を示すも、クレアは一歳気にするそぶり無くまた、興味がなくなったかのようにテト達へと視線を向ける。


「じゃぁ、次は私とアルマの番です!!」

「女性でも手加減はしない」

「合点承知の輔です!!」

「二人とも怪我だけはしないでね、痛いからね」


次の模擬戦へと移りはじめ、先ほどテトがいた場所にニーアが、そして先ほどのスタート地点へとアルマは戻り、模擬刀を構える。


「じゃぁ、初めてください」


テトの合図によって模擬戦は開始される。



二回戦の模擬戦であるアルマ対ニーアはアルマの勝利で終わった。

というよりも、この模擬戦はある意味忍耐力の勝負でもあったかのように感じられた。

何せ攻撃型のアルマに対しニーアは防御型特化の、というよりも防御とサポート魔法しか使用できない為に攻撃は物理。

しかしどんくさいニーアの打撃などアルマに当たることはなく、だからといってアルマの攻撃がニーアに当たる事も無かった。


精霊族の一部だけが持つ特性である空気中に漂う自身が持つ属性であるマナの姿が見え、話せる者が現れる特殊な種族であった。

ニーアもまたその特性を持っているが、まだそちらの力が未熟な為に普段、水のマナの姿や会話は出来ないが、危機を教えてくれる為にこのクラスで一年間平穏に暮らせられていた。


話は戻り、現在はその特性を成長、鍛える為に特別な武器であるニーアが使用している杖によってその特性を強化させており、したがって水のマナによる協力の下、現在のニーアの防御力は群を抜いて高い。

なら、何故アルマはニーアに対して勝てたかというと、ただただニーアのドジであった。水魔法によってぬかるんだ地面で足を捕られそのまま顔面からずしゃりとすべり顔面強打。

それによってニーアは戦闘不能となりアルマの勝利となった。


「…勝った気がしない」

「まぁ、まぁ、とりあえずニーアを運ぼう?」


ぶつくさと文句を言うアルマをテトがなだめながら気絶し、間抜け面を晒すニーア二人かかりで日陰へと運ぶ。


「何だろう、この気持ち」

「うん、テーゼが何言いたいか、僕分かってる」


遠くで見ていた一年生、ヴァールの気持ちを代弁するかのように口にする双子。


「ニーアはドジがなくなれば結構優秀なんだがな。防御面だけだがな」


ヴァールの言葉にレレスが「それは結局優秀なんですか?」と反論するもある事を思い出すように質問する。


「そう言えばアルマ先輩は使役獣を使役してるのかしら?」

「使役獣?」

「なにそれ?」


質問に双子は首をかしげる。


「あら、使役獣は獣族が使役できる使い魔みたいなものよ。こういう風に」


そう言ってレレスが「歌鳥かちょう来なさい」と呼べば、その言葉に答えるようにキューという高音の泣き声と共にレレスの右肩にいつの間にか止まっている黄緑と白の小鳥が止まっていた。

その容姿からメジロを思わせるが、その鳥はメジロよりも少し大きく何よりもその小鳥が羽を動かすたびに微かに香ってくる花の香りはどこか気持ちを落ち着かせる。


「この子は私の使役獣の歌鳥。私の一族と縁のある動物よ」

「わぁ!!可愛い」

「この鳥って何が出来るの?」

「そうね」


グーテの言葉に少し考え


「この子の泣き声を聞けば軽傷ならばすぐに治してくれわ。それにこの子の香りにはリラックス効果もあるのよ」

「わぁー」

「いい香り」


人懐っこい小鳥なのかそれともレレスの指示なのか歌鳥は二人の目の前で羽を数度羽ばたかせてそのにおいを嗅がせていた。


「そちらのお三方も試してみるかしら?」

「僕は良いよ」

「俺も」

「じゃぁ、俺に嗅がせてもらおうかな」


言うが早くレレスの歌鳥の前に行くもその歌鳥は双子の時とは違いすぐにレレスの肩、後ろ髪へと隠れてしまう。


「あちゃぁ、逃げられちゃった」

「あらあら、どうしたのかしら?」


どこか面白げに、どこか寂しそうな声音で残念がる。


「そういえばアルマの使役獣だよねぇ」

「え、ぁ、はい」

「彼はまだだよ。というか、このクラスで使役獣をちゃんと使役してるのは今の所レーちゃんだけだよ」

「それじゃぁアッ君もまだなんだ」

「皆、使役してるのかと思った」


残念がる双子に対し別段、そう思っていないアルス。と言う前にアルスは獣であっても獣族ではない幻獣族の為に使役獣を使役できない。

だが、現在は獣族で登録されている為にそれに対して否定をすることができず沈黙を続けるのであった。





遠くの方、一年と先生の王から聞こえ来る音にアルマは耳を傾けていた。


「そんなにあっちの話が気になる?」

「…いや」


アルマの態度にようやく気づいたテトがその視線の先を見て苦笑を漏らす。


「大丈夫だよ」

「…どういうことだ?」

「何って…だって、アルマ、不安そうな表情してたよ?」


顔に手を這わせように触れてくるテトに最初は体をびくつかせるもすぐに慣れ、テトへと向ける目線がきつくなる。


「あわわ、そんな怖い目で見ないでよ、怖いよ…」

「…はぁ、お前もその性格をどうにかしろ」

「無理だよぉ。だって怖いんだもん」


言葉通りに体を震わせるテトに対しアルマは情けないとため息をつく。


「ですがですが、私はそんなテトが好きですよ」

「ニーア!?」


木の根に寝かされていたニーアがいつの間にか目を覚まし、二人の会話へと混ざる。


「ですが、大事な場面で逃げないでくださいですよ」

「そうだな、そろそろクラス対抗戦の時期だ。去年みたいな逃げはゴメンだ」

「え、えぇ、だって…」


3人の言うクラス対抗戦はチェルシアン魔法学園の二大イベントの一つであった。

そしてそのイベントがもうじき開催されるのだった。








2019.09.16:本編修正・追加

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