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紡ぐ物語 -FUTURE-  作者: 稀世
02:中立チェルシアン学園
23/47

5-3






チェルシアン魔法学園が所有する講堂は約1000人が収容可能の大きさであり外見は二階建てとなっているが中は地下一階分か二階分の深さを使用し、奥にはステージがある。

そのステージの大きさは10人のアイドルがゆうに踊れる広さがあり、ステージ下にある座席は地下一階まで、なだらかな上り坂となっており、その席で約300人そして地下一階部分で途中通路が挟まれ再び地下一階から一階までに200人の座席がある。

ステージを中心に椅子は扇状として展開され、そして二階席は残り500人を収容する為に半円に近い扇状となる形で座席が設置されるも、そこからステージまでの距離がありそこから人の顔を見るのは一苦労であった。


そんな講堂は現在、9時45分の時点で、約800人以上を収容させ、地下二階から一階までの座席は全て埋まっており、そこの席に座っている殆どが煌びやかな衣装に身を包み、明らかに貴族かその護衛の者、教師達が主であり二階席は身分の低い者が座っていた。そして、講堂の中心であるステージは様々な花や赤い絨毯が引かれていた。


「うわぁ…どこもかしこも人、人、人」

「…うるさいし、臭い…」


遅れながらも、10分前には会場の中に入れたものの丁度良い座席が見つからず最終的は座席の一番後ろ、柵にもたれる形で僕等はステージへと視線を向ける。

だが、会場内の喧騒や香水の匂いに聴覚と嗅覚の鋭いアルスにとってそれらは不快にしかならず、会場に入った現在もその眉間には皺がよっていた。


「音はどうしようもないけど、ほらこれで鼻ぐらい押さえてたら匂いは少しはまともになるはずだよ」

「…ありがとう」


ローブの内ポケットから取り出したハンカチをアルスに渡し、アルスは言われたとおりに鼻をハンカチで押さえる。


現在僕等はチェルシアン魔法学園の制服を着込んでいる。

僕の制服はローブの制服を普段着の上から羽織り、アルスはブレザーの制服を上着の代わりに着ているが慣れない袖の長さにちょくちょく腕を動かしている。


時刻10時になると同時にステージ脇から微かにふらつきながら出てきた茶髪の人族の教師であった。


[静粛に]


その教師の言葉に先ほどまで聞こえてきた雑談などが一斉に静まり、講堂内が一気に静まり返る。


[只今より第101回チェルシアン魔法学園の入学式を始めます]


教師の言葉によって始まる開式の言葉。次に[来賓者の紹介]へと移り変わる時、ふと加護の印が一瞬、熱くなったように感じた。

その意味が分からず、互いに見合わせ首をかしげ再びステージへと視線を向ける。

ステージには既に豪華なドレスを着込んだ女性とその女性の護衛だと分かるような白い騎士服を着た眼帯の女性が後ろを歩いていた。


[エンビディア国第一王女であります。セノン・リュゼ・アーデル様と円卓の騎士、第六位であらせられます、クリム・アクスト様でございます]


エンビディア国の第一皇女であるセノンは人族の王族の証である金髪を照明の光によってキラキラと輝かせながらステージ中央に置かれている壇上まで歩き出、


[皆様、ご入学誠におめでとうございます。私、セノン・リュゼ・アーデルは皆様の夢の一歩である今日この日を祝福いたします]


自国と獣族が今だ、戦争状態だと言うのにセノンの表情にはそういった緊張感も無く、ただただ笑顔であり、言葉通りにこの場に入る全ての者に対しての祝福の言葉通りであった。

そしてセノンの後ろで見守っている円卓の騎士の一人、クリムはセノンを眩しそうに見ていた。


[ありがとうございます。では次の来賓者でございます]


話し終わったセノンは用意された椅子へと着席すれば、次の来賓者がステージ横から登場する。

黒髪だが、右側の前髪は赤色が混ざっている魔族の青年を先頭に次に現れたのは茶髪をベースに毛先が黒髪である一見すれば獣族に見える犬の男性がその後ろを付いて歩く。

何も知らない者はざわめき出し、知っている者は驚愕で開いた口が塞がっていない。


[デセオ国第一王子であります、レーゲン・ヴィス・クリミネル様と現魔王の直属、六花の闇の一輪でありますノア様でございます]


デセオ国の第一王子であるレーゲンは黒の正装をきっちりと着こなし、装飾もセノンよりも少なく本当に必要最低限の装飾しかしていないがその雰囲気は確かに王族の者だと講堂内の者は理解し、何よりも後ろに付いているノアの雰囲気に誰もが飲まれ先ほどまでざわめいていた筈の室内はいつの間にか静まり返る。

現在、講堂に響いているのは二人の足音だけだった。


[今日は皆様の記念しがたいこの日に呼んでいただいた事、誠にありがとうございます。ご紹介に在りました私はデセオ国第一王子、レーゲン・ヴィス・クリミネルでございます]


その雰囲気を壊すように喋り出すレーゲンに、講堂内のほとんどの種族の視線がレーゲンへと向けられるも、もうすでに慣れているのかようにすらすらといわれる言葉と動作に、見た目以上の貫禄を与える。

後ろに立つノアは細められた目は不気味であり、何よりも恐怖を感じ無意識に殺気立つ者や怯える者も講堂内にはいた。


[ありがとうございます。では次が最後の来賓者でございます]


セノンと同じ流れで、セノンの横に用意されている椅子に着席し、ノアはクリムの左隣へと立つ。そして最後の来客者である外はねの金髪である獣族の青年と護衛の者が出てきた。

この護衛もまた変わっており、魔族か精霊族にしかいないはずの竜族の特徴をさせた者であった。


[パシオン国第一王子であります、ウラガン・キューン・ブリュンダラー様と四天王の一人でありますアインマーシュ・ホフヌング様でございます]


パシオン国の第一王子は獅子をイメージさせるウラガンはチベットの民族衣装に似ているが動きやすいようにか、露出度の高い衣装での登場に講堂内の貴婦人や女子生徒が驚愕の声を漏らす。

何せ鍛えられた褐色の肌を惜しみなく露出させているのだ、非難の声を上げる者も入るがその者達の視界は確実に釘付けである。その後ろを付いているアインマーシュは中国系の民族衣装を着ており、ウラガンとは逆に白い肌から覗かせ、髪色と同じ水色の鱗や衣装から伸びる竜の尾の美しさにそういったマニアには咽から手を出したくなるのだろう。


[今日はお招き感謝いたします。まぁ、さきほど紹介されたから自己紹介はしないが、俺を楽しませてくれる者が出る事を待っているぞ]


前者、二人と確実に酷い挨拶に講堂内の半分を呆れさせる。なによりもその後方に立っているアインマーシュもまた呆れたようにタメ息を一つ零していた。


[以上で、来賓者の紹介は終わります]


個性がある来賓者の紹介に、呆れを抱く程から黙っているアルスへと視線を向ける。


「アルス…どうした?」

「…あれ」


声に答えるようにアルスの視線が示しているのは魔族の護衛であるノアだった。


「俺と同じ匂いが…嫌、死の匂い?」


アルスの言葉に「どういう意味」と聞き返せばアルスは無表情のまま


「あのノアって人、もしかしたら俺と同じ幻獣族だと思う」

「その根拠は?」

「普通の獣族とは違う匂いがする。何だろう…血?死?」

「…アルスが言うならそうなんだろうね。僕には匂いとか分からないからね。まぁ、自分と近しい者が近くにいたら何となく分かるって言うし」

「?」


分かってないような表情をさせるアルスにまたクレアも苦笑を浮べ返す。





+*+*+*+*+*





「どうしたノア?」


少し後方へと視線を動かしたレーゲンは先ほどから微かながらも体を動かしていたノアへと話しかける。


「何、面白い匂いがしてな…それに先ほど“あれ”が一瞬だけでも反応したんだよ」

「まさかっ!?」


目を見開き驚愕を表す。レーゲンの表情にノアは少し口角を上げ「でも、この講堂が臭過ぎて分からないんだよ」と皮肉を零す。


「何を話されているんですか?」

「あぁ、王女様」


右隣に座っているセノンが、小声で話していた二人の会話が気になったのか声をかけるも、「なんでもないです。まだ話は続いてますよ」とステージ前でもうすでに10分ぐらい中身の無い祝辞を言っている校長へと矛先を変える。


[であるからして、現在私は理事長の代わりとしてこの学園を任されている。なので、理事長がいない今こそこの学園をより良くし何よりもどこの学校よりも優れ―…]


中身の無い話や理事長がいなくとも自分がこの学園にいればこの学園はより輝くだと下克上の話ばかり。生徒達や保護者の表情には明らかなる疲れや、呆れの色を見せており、そもそも酷い者は校長の話などもうすでに聞かずに隣の者と話していた。


「…飽きましたわ」


少し向けていた視線をすぐにレーゲンへと戻す。それに対してレーゲンは苦笑を漏らす。


「まぁ、敵国と同じ意見ってのは気に食わねぇが、俺も飽きてきたぜ」

「…ウラガン様」


護衛であり何よりもお目付け役でもあるアインマーシュの反応にウラガンは笑って流す。

アインマーシュはタメ息を零しながら、片眼鏡を持ち上げる。


「ですが、まぁ、この話の内容の無さの話を聞くのは確かに時間の無駄ですね」

「おやぁ、珍しいね。お堅い貴方がそんな事を言うなんて」

「うるさい、魔族の犬などに話しかけられたくはない」

「へぇー…」


不穏な空気を漂わせるノアとアインマーシュ。レーゲンが見ていれないと口を開いた時、事件は起きた。

ガシャァンと講堂に響くパイプ椅子の倒れる音。

その音によって校長の話は中断、講堂内の視線は全て音のした方を向く。


[何をしている、ヴァール・ペルツ!!]


キーンと講堂内に響き渡る放送音にお前が何をしていると心の中で叫ぶも、それを代弁するように「校長先生、マイク持って叫ばないでくださいよぉ」と今日は入学式の為か落ち着いた服装だが、相変わらず顔には変ったお面をつけていた。


[貴様が私の話を中断させるからだろうが!!]

「俺の話し聞いてた?てか、校長先生。中身の無い話を一体いつまでするんですか?もう20分近く経っているんですが?」


ヴァールの言葉に否「中身の無い」と言う言葉に校長は顔を赤面させる。普通ならばこの様な行動は許されないだろうが、この男、ヴェールは許されていた。


[貴様が理事長の血縁者だからとこの様な無礼な発言も、行為も見過ごしていたが今日という今日は我慢できん!!]

「何々?とうとう俺、クビ?」


どこか楽しげな声音で言うその言葉に更に校長の怒りを煽る。

現状、目の前で繰り広げられている光景に生徒や保護者は先ほどの内容の無い話を聞くよりはマシだと思いつつもやはり、他者が怒られている光景を見て不快、高揚と様々な感情を沸き起こらせる。

ステージ上にいる6名も目の前で繰り広げる殺伐とした光景に驚愕する者、楽しんでる者で分かれていた。


「クリム…あれは止めないといけないのでわ?」

「そうですね。ですがそれは私達がやらなくても大丈夫でしょう」


「わぁ、3ヵ国の王子王女がこの場にいるの忘れてる?」

「嫌、だからだろう。まぁ、だからと言ってこのまま見ていて気分は良くないな」


「アハッ、修羅場」

「ウラガン様…そう玩具を見つけたような目をしないでください…はぁ…」


三者三様、三国三様のような有様。

だが、この事件を唐突に起きれば、終わりもまた唐突。


「だが、まぁ。お前の権限で俺をクビにする事は出来ないぜ。したいなら理事長を連れてきな!!」

[なぁぁぁ!!]


その言葉に校長は叫ぶ。


「よし、校長祝辞はおしまいで次へ行こうか。ねぇ、リヒター先生」

「はぁ…」

[お前どっちの味方だ!!]

「…まだ喋りますか?」

[クソッ、次へ行け!!]


リヒターの態度か、講堂内の全ての視線に耐え切れなかったのか校長は赤面のままステージ横へと引っ込む。

それを確認し、リヒターはヴァールへと軽くお辞儀を返し、次の項目へと移る。とうのヴァールはステージ上にいる王子、王女へとお詫びのつもりか一礼しそのまま着席をしようとするが何かを思い出したのかついでなのか「Dクラスの皆は入学式終わったら一年生は噴水前に集合」と叫び着席する。

リヒターが発言するも講堂内はザワザワと雑音が響き、[静粛に]と言われるも静粛になる事は無かった。それはステージ上にいる6人もまた同じだった。


「Dクラス?」

「去年出来た新しいクラスです。確か落ち零れの集まりだとか…一説では校長の機嫌を損ねさせた者が入れられているとか…」

「わぁ、理事長がいなくて好き放題しているって話本当なんだね」

「人族はやはり蛮族の集まりですね」

「貴様…我が姫をも愚弄するきか…」

「そうなりますね」

「殺す」


「ねぇ、俺を挟んで殺気立てるのやめよう?怖くてお兄さん泣きそう」


両隣からの殺気に対して怖くて無きそうと言いつつもその表情は明らかに笑っていた。ノアの言葉に興をそがれたのか


「その君の悪い笑顔やめてもらっても?見ていて不愉快になります」

「敵国と同意見なのは不愉快だが、そうね、今すぐにそのクビを切り落としたくなるわ」

「わぁ、俺の笑顔って罪作り」

「そうだね、俺もあまりその笑顔は気持ち悪いと思ってる」

「王子様もひっどいね」


「俺泣いちゃう」と言いつつもその表情を変える気は一切ないようだった。それに呆れてか、話を逸らす為か、


「それにしてもこの後あの人達はなにするんだろうね」

「歓迎会でもするんでしょうね。何せ今日は入学式ですから」

「なぁ、アインマーシュ」

「駄目です」


まだ、何も言っていないのに拒否られた事にウラガンは「何も言っていない」と牙を見せるがアインマーシュは


「貴方が言いたいことは分かっています。どうせ、この式が終わったら噴水に行きたいのでしょう。駄目です。あのような人種に関わったらこちらの品性が疑われます」

「カッタいなー、もういいよ俺一人で行くから」

「なぁっ!?馬鹿なんですか貴方は!!」


隣で繰り広げる会話。


「なぁ、ノア。お前も行きたいのか?」

「そうだねぇ。あの人から面白そうな匂いがしたからねぇ」

「どんな?」


レーゲンの問いに笑う。





+*+*+*+*+*





「何しているのさ、あの人…」

「さぁ?」


ヴァールが起こした騒ぎは長たらしい校長の話を切り上げてくれたのは感謝だけれども、その後のDクラス並びに一年生へのメッセージ。それに対してか、先ほどから座席から聞こえてくる雑談は「俺達も行ってみようぜ」や「今年のカワイ子ちゃんいないか確認しようぜ」などと面白がって、今後のいじりの対象の確認など。


「ねぇ、クレア見て。ステージ上の王族たちが凄いよ」

「ん」


そう言うように視線を向ければ、ステージ上もステージ上で賑やかにやっていた。これに気がついているのは自分達だけじゃないだろうが王族をましてや護衛がいる前で容易く注意など出来ず放置しているのだろう。


「はぁ、行きたくない」

「でも、行かないと後で嫌がらせしてくる」

「…知ってる」


ヴァールの性格上、それもあるし絶対に根に持たれるだろうな想像しながらも聞こえてくる雑音と放送音に耳を傾けた。





2019.04.10:本編修正・追加

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