5-2
卯月(3月)に入って二日が経過する。
「そう言えばそろそろじゃないか?1週間経つの」
「…そういえば」
ようやく受験戦争を終え、店の手伝いを行うなか、ふと思い出す。
「マーレの昔なじみの仕立て屋ってことは神族だったり?」
「まぁ、こっちの大陸に来たのは今回が初めてだって言ってたからね」
あまり知らないマーレの知人関係や島の事、自分からあまり言おうとはしないけど僕らが尋ねればマーレは普通に話すために隠したりはしてないのだと知る。
「ヴァールさんなら何か知ってそうだよね」
「次、来た時に聞く?」
「それまでには着そうだろうけど」
「仕立て屋の人」と言葉にしたと同時に聞きなれた鈴の音と扉の開く音が聞こえ扉へと視線を向ける。
「なぁっ!?」
「でかぁ…」
入ってきたのは推定190cmぐらいの男性だった。
「失礼します」
「あ、はい」
さすがにこの店の扉の入り口の高さは、アルスの身長の170cm位でギリギリなその扉の高さはその男性にとってかなり身をかがませながら店内へと入ってきた。
店内はそれなりの高さな筈なのにやはりその男性が背を伸ばせば天井に届きそうだった。店内に入った男性は玄関近くに置かれている棚の商品に視線が行き「これはこれは」や「凄い丁寧ですね」と言葉を漏らしながら商品を見ていたために
「お客さん…?」
「そうみたいだけど…ここの地区の人じゃないみたいだね…」
金髪の髪は腰の位置まで伸ばされ、所々を三つ網がされていた。
細目な為か瞳の色は見え無いもののその胡散臭い笑顔はどうしようもなく警戒心をくすぐられ、何よりもその男性が着ている茶色のローブから覗かせる服は世に言う執事服であった。だが、少なからず改造している為、僕の知っている室地覆ではなかった。
そして右手に持たれた旅行鞄。その鞄の大きさは子供一人を入れられる大きさ、それらを見て、都市外の人だと僕らは思考する。
「あのー」
「あ、はい!!」
商品を見終わったのか男性が僕らに声をかけてきた。
「この商品を作られた方は?」
「あぁ、今、席を外していますがあと少しで戻ってきます」
「それは、それは、ぜひとも一度この素晴らしい装飾品を作られた方にお会いしたい」
「特にこの商品の美しさは」と語り出す男性に引きつつも早く帰ってきて欲しいと願う。現在、キャロルはマーレと共に出かけてもう2時間が経過しそろそろ帰ってくるだろうと思っていた。
「それにしても、むむむ。貴方達のその装飾品も良いですね」
その男性の視線の先に映ったのは合格祝いにキャロルから貰った装飾品であった。
「このネックレスとチョーカーのデザインはシンプルに仕上げられながらも一つ一つの細工が美しい。何よりこの太陽の形など―」
一気に詰められた距離に笑顔が引きつるも、男性の話を聞く。
確かに、キャロルの作った装飾品は繊細で美しいけれども、材料一つでその商品の顔が変るだとかという専門の人あるいはそちら方面の人にしか知らない事を言われても話についていけなかった。
「そのピアスは…」
先ほどは違う声音のせいかその言葉がはっきりと僕の耳に届く。
「あ…これは母の形見のピアスなんですよ」
「…そうですか。そうなんですか…母の形見なんですか」
質問された答えに目の前の男性は少し黙り、細められた瞳から覗かせられた赤い瞳が僕を捉える。
「そうですか。貴方様がケイル様の息子様でございますか」
「え?」
突然言われた母親の名前に自然と目の前の男性に視線が釘付けになる。
「名乗るのが遅れました。私は、ウンボイクザーム工房の一人、ファーデン・ディ・シュナイダーでございます。マーレ様を始め、レジストロ家の方々には大変お世話になっております」
「ウンボイクザーム工房!?」
「はい、洋服の一式から装飾品までを取り扱っており、ここではない大陸に本部を置きそこを中心に現在、諸点を増やしております」
ウンボイクザーム工房。神族を中心に様々な種族が所属しているもその数は20人以下の小さい工房。だけれども、他の工房とは違い自分の足で魔物を狩り素材を入手する為に他の工房よりも安くなによりも良い素材を使用している為にそこの工房に依頼したい者は多かった。だが、この工房は一見さんはお断りであり、尚且つ諸点も少ない為にこの工房は幻として語られていた。
カラン
「ただいま…ってあれ、もう来たのかい」
「これは、これは、お久しぶりでございます」
話を遮る様に聞こえた声の方に視線を向ければ、二つの買い物袋を抱えたマーレが店の入り口に立っていた。
その後ろから「誰かきているの?」とキャロルの声が聞こえた事によって、入り口で立ち止まっていたマーレは中へと入りようやくキャロルも店内へと足を進める。
「あらーこれはまた見事なペッピンさんね」
「ありがとうございます。これでも神族の端くれですので」
キャロルは少し驚きつつ「あらあら、そうなの」と笑う。
キャロルには僕が二次成長の迎えた時の説明をするも驚きはするも、以前と変わらずに普通に接してくれ、尚且つ加護についても知られてるために現状、ほとんど隠し事が無い状態である。
それから少しの雑談をしつつ三階へと移動、ファーデンの指示通りに僕らの採寸を図る。その慣れた手つきで採寸され思った以上には時間はかからなかった。
「後、服の希望はあるでしょうか?」
「動きやすくて丈夫な服?」
「僕も同じく」
「ふむふむ、何かこういう服が良いとかは?」
「それは特に無いかな…」
質問し、その回答をメモに書き込むを繰り返し、
「それでは、質問は以上です。ありがとうございました」
メモを閉じ、ローブへとしまいこみ、代わりに一枚の名刺を取り出す。
「キャロル様、貴方様の作品をぜひとも私達工房でも使用させてください」
「まぁ、そんな、嬉しいわ」
突然のオファーにキャロルは嬉しそうに名刺を受け取りそのオファーを受けていた。
「でも、装飾品作っているの私だけだからそれほどの装飾品は受け入れない事だけは了承してね」
「そこは大丈夫です。全てのお客様はお得意様しか受け入れておりませんの大丈夫です」
「そうなの」
商談を開始している二人についていけない僕ら
「というよりもマーレがウンボイクザーム工房の人と知り合いなんて初めて知った…」
「まぁ、私の父さんの頃と言うより昔からお世話になっているんだよ」
「昔から?」
「えぇ、マーレ様のお父様、いえ、レジストロ家には工房の初期から資金援助や材料の援助などでお世話になっています」
話を終えたファーデンが話しに入ってきた。
「え、そうなの!?」
「そうだね。素材集めも一応、ちょくちょく手伝っているおかげで元値よりはいくらか安くしてもらっているんだよ」
「えぇ、その説はありがとうございます。クレア様もアルス様もこれから先長いお付き合いになると思いますがよろしくおねがいします」
「あ、はい」
「うぇ、あ、はい」
「では、私は早速製作に取り始めさせていただきます」と帰られれるファーデンと「私も一階まで見送りします」とキャロルは一階へと下りていき、こうしてこの日はお開きとなった。
それか卯月(4月)の間中、ファーデンにはいろいろとお世話になりつつも皐月(5月)の上旬、入学式の一週間前には僕らの服が完成、そしてそれから四日後に、
「二人とも行ってきます」
「ちょくちょく戻ってくる」
全寮制であるチェルシアン魔法学園は入学から卒業までは敷地内にある寮生活となる。
「うぅ…近いのは分かっているのに…やっぱり二人がいなくなると寂しいわ」
「頑張って勉強してきなよ」
キャロルとマーレに見送られつつ僕らは新しい衣装に身を包み歩き出す。
クレアの新しい衣装は全体的に黒色をベースに使用されており翼を出す時の為にあけられた背中のせいで露出する肩、二の腕辺りから装着している手袋は指無。腰辺りにコルセットを付けているせいか体のラインといよりも腰にかけてのラインが分かってしまう。
そしてロング丈である前後の裾の長さは違い前は膝より少しした。後ろは地面すれすれの長さ。なによりも何の指示も無かったせいか、ズボンは短パンであり、そしてロングブーツはヒールな為に当初これを見せられた時「これ女性用?」とファーデンに尋ねるも「いいえ、クレア様用です」としっかりと答えられた。
せっかく作ってもらったし、自分も何も意見をしなかったのが悪かったので早くこの服に慣れようと思った。
黒の服の為に白い肌は良く目立ち、様々な人種の目線を釘付けにさせる。
アルスの新しい衣装はクレアとは逆に白をベースにされた衣装だった。
襟付きの上着は一見、半袖に見られるが、付け袖によって七分袖と調整が出来、上着の袖はクレア同様、嫌、こちらの方は前の丈は股間辺りで後ろの丈は足首より少し長めというクレアよりは短めである。上着の下は黒の袖のないインナーシャツとなり白のズボン、靴は黒のロングブーツサンダルである。
かかとの部分は少し高めに設定されているもが、以前と似ている靴の為か底まで動きにくさは無かった。以前まで、首に巻いていた赤い布をファーデンに頼み右手首に巻いてもおかしくないように改良してもらい、現在右手首に巻いていた。褐色の肌に白の服はやはり目立ち、目立つ二人が街中にいれば町民の視線を独り占めとなる。
現在、入学式の前日に来日されるだろう3ヵ国の王様を歓迎する為に様々な準備をしているこの大通りは人通りも通常も多く、その人の数だけ僕らへと向いてくるのに意識し、チェルシアン魔法学園の正門にたどり着くころには、
「あれ、何でだろう?前来たとき以上に疲れた…」
「荷物持とうか?」
額に薄っすらと浮かぶ汗を拭いながら言った言葉にアルスは右手に持っていた自分の荷物を左手に持ち替え左側に立っている僕へと手を差し出すが、「大丈夫だよ。てか、アルスはどれだけ僕がひ弱に見えるのさ」と断る。
「…俺よりも体力無いよね」
「お前と一緒にしないでいただけたい…」
出てきた回答に不満しか抱けず、アルスを置いてチェルシアン魔法学園に続く橋を渡る。
チェルシアン魔法学園は湖の上に建てられた人工的孤島であり、そこへ行く為に正門にかけられた橋を渡らないと徒歩ではいけない。
正門にたどり着き、試験会場となった建物の吹き抜けとなっている左側の壁に事務室の窓口があり、その窓口を数度叩けば「はいよ」と事務室の人が反応し窓を開けた。
「おやまぁ、えらいべっぴんさんでまぁ、新入生?」
「はい、書類の提出と寮がどちらなのか教えていただくて」
「そうかい」
事務の人に二人分の書類を提出する時に「隣のお兄さんお姉さんのコレかい?」と親指を立てられた際、二人は首を傾げるがすぐにその指の意味を思い出し、慌てて「違います!!と言う前に僕は男です!!」と事務の人の言葉を訂正する。
「こりゃぁ、すまないねぇ」
「本当に思っていますか?」
ケラケラ笑いながら頭を各事務の人をジト目で見つめれば、「そう言えば寮の場所だったね」と話を逸らされた。
「二人のクラスは?」
「僕等は二人ともDクラスです」
「Dクラスだって!?」
「え、うん」
クラスを聴いた事務の人は眉を下げ「そうかい…この三年間頑張ってね」と同情するような言葉を漏らした。
確かにこの学園はDクラスへの仕打ちは悪いと言っても良い。何せ、現校町が理事長がいない事を良い事に気に食わないものを生徒と教師を一箇所にまとめる為に作ったのがDクラスなのだ、他の教師も自分の身可愛さに校長に逆らう事したく無い為にDクラスを邪険に扱いあたかもその制度が正しいようにしていた。
「Dクラスの寮はね、他のクラスと違う場所に建っていてね。グラウンドの奥の森の中に建てられているんだよ」
「そうなんですか」
言われたグラウンドの方へと視線を向ける。正門から右手、南東の方向であった。
「結構距離あるね」
「うっ」
その言葉に思わず情けない声を漏らす。
何せこの敷地内は思った以上に距離がある。家からチェルシアン魔法学園まで来るのにも相当歩いているのにさらに歩かないといけないとなり体力の少ない僕にとって苦痛でだった。
「困った事があればいつでもここに来なさい。少しは力になるから」
「あ、ありがとうございます」
苦笑を浮かべながら「エンビディア国で売られている飴を幾つかあげるから元気だしな」と六個の飴玉を貰う。
「何これ?」
「知らないかいアンちゃん。これはねぇ、エンビディア国が勇者を召喚した時に勇者が持っていたお菓子なんだよ」
「へぇー、うわぁ!?何これ甘い」
「そうだろう、そうだろう。昔は生産方法が難しくて貴族しか食えなかったんだけどな、5年前ぐらいから大量生産に成功して俺達見たい町民でも食べれるようになったのさ」
透明の包みに入った赤い飴玉。大きさはビー玉より少し小さいぐらいの大きさであり少し歪な丸であるもののその味は確かに甘く懐かしい味だった。
「でも、これってここ当たりじゃ見ないですよね」
「あぁ、そりゃ裏商店街で売られているからな」
「裏商店街?」
聞き覚えの無い言葉に首をかしげる僕らに「あぁ、南の地区のゲーテン地区にあるんだ」と教えてくれた。
「裏商店街は珍しい商品とか売っていたりして面白いからクラスの先輩に連れて行ってもらいな」
「分かりました。では、僕等はそろそろ失礼します」
「おう!!長い道のり頑張れよ」
事務の人に見送られながら南東を目指し歩き出す。
道のりは簡単、先ほどの建物、管理棟を抜ければ目の前は噴水のある中庭に辿り着く。
この中庭はこのチェルシアン魔法学園の敷地の中心のようなものでここを通れば分かりやすく目的地に着く。北にある講堂、それから北北東に位置するは禁書や様々な魔法書や歴史書のある図書館、東は教育棟である一号館~三号館、南西には温水プールなどの設備のある体育館、そして南東には先ほど話しにあったグラウンドがあり、グラウンドもまた一番から三番まであり、そしてこの敷地内を囲むように木々が植えられ東に行くほど木々は増え森となっていた。
そして寮は一般生徒と職員達は教育棟、図書館のすぐそばにあり、Dクラスの寮はグラウンドの奥、湖の近くに建てられていた。
「遠い…」
「さすがに遠いね」
森へと入るまでは体力は持ったが、そこから目的地まで着くまでには体力は持ってはくれずに最終的、結局は
「よいしょっと」
「ご、ごめん」
目的地までアルスにお姫様抱っこで運ばれることになった。
悪いと感じ、アルスの荷物も一緒に落ちないように抱え込む。
それからは早く、アルスの速度で3、5分ぐらいで目的地である寮へとたどり着く。
.
「お、じゃまします…」
ギィィ
木造の建物の為、木造特有の音をさせながら扉が開く。
「結構広いね…」
「うん、木の匂いがする」
木造なのだから当たり前と思いつつも、少しあたりを見渡せば奥に二つの扉に左側に二つ、そして右側に一つと先ほど事務室と同じ窓口がありそこが、ここの寮の寮母か寮父が入るのだろうと思い先ほどと同じくガラスを叩くも反応が無かった。
「いないのかな?」
「…中から気配もしないし居留守でもないな」
「職務怠慢はさすがにしないでしょう…」
そう言いつつ、今からどうしようかと考えた時、奥側の右側の扉の方から話し声が聞こえ僕らはそちらの扉へと歩き、
「失礼します…」
扉を数回叩き、扉を開ける。
開ける時に中から「ちょっと待って!!開けないで!!」と声が聞こえたがもうすでに遅く
「ああぁぁぁああぁぁぁ!!」
中の様子をばっちりと確認、静かに扉を閉める。
「僕は何も見ていない…それで良いねアルス」
「あぁ、俺達は何も見ていない。中で3人の女性が下着姿だったという光景は」
バンッと大きな音を立て「見てんじゃないか!!この変態!!」と僕等の頬を叩く音が建物に響き渡った。
「…痛い」
「…最悪」
「ふん」
あの後、僕らの頬を叩いた獣族であり鳥の半獣の下着姿の女性は頬叩くのでは終わらず、その鳥のように鋭いかぎ爪で攻撃を仕掛けてきた。
だが、さすがにそれに当たれば流血沙汰になってしまう為に何とか弁明しようとするが攻撃のせいでうまく弁明も出来ず防御に徹するが、ようやく自身の服を着たニーアの制止によってその女性を止めると同時にその女性が今だ下着姿でありニーアよりも劣るもその立派な胸や裸体を晒している事に気がつき攻撃が止まり、そこで弁明をしようとするも、再び逆の頬を叩かれた。
室内へと戻り自分の服を着用、もう一人が服を着た事を確認後、僕らはようやくその部屋に入る事を許されたが、不可抗力で見てしまった1回目のビンタは確認不足というか返事を聞かずに開けてしまった事もあり甘んじて受けたが二回目のビンタは大層不服だった。
「あ、あははは、ごめんね。クーちゃん、アッ君。まだ食事まで時間が合ったから昨日買った服を着ていたの」
「でも、君達も扉閉めるかな?こんなスタイル良い女性の下着姿だよ。じっくり見るでしょう?」
ベースは白髪だが毛先が黒髪であり尚且つ左側にしか羊のような角がない魔族の少女はこの世界では珍しいオッドアイの瞳を細めて笑う。
少女の言葉に顔を赤く染めるニーアさんに対し、獣族の女性は、「そんな事をしていたら確実に息の根を止めてやる」と睨みつけながら言う。
「というか、スタイルの良い女性って一人しかいなかったような…」
「ッッアルス!?」
唐突のその言葉に僕は青ざめる。
「え、え!?アッ君は誰がスタイル良いと思ったの!?」
「…攻撃してきた人」
初対面の人にあだ名で呼ばれるのは釈然としないが今はそんな所ではなかった。隣に座っているアルスが獣族の女性を指をさす為に顔を青ざめる。
さされた女性は「なぁっ!?」と驚愕の言葉を漏らし、周りの者は「そうだよね。レレスちゃんってスタイル良いお姉さんだよね」とニーアさんは微笑み、「まぁ実質、私達より年上だもんね」と少女は答える。二人の言葉に獣族の女性、レレスは頬さらに赤く染め、「うるさい!!」と反論するもその反応からして嬉しいのだろう。
「…ねぇ、ニーアさん。寮母かな寮父がどこにいるか知ってる?」
「ん、女将さん?」
「女将さん?」
「あ、私達、というかテトとアルマと私が女将さんってシュピッツェさんの事をそう呼んでいるの」
ニーア曰く「今、管理棟に行ってるの」と教えてもらえた。
「女将さんに用事でもあるの?」
「今日から入寮だから部屋とかどうすれば良いのか聞きたいんだよ」
僕の言葉に「なぁんだ、そんな事だったの」と反応を返す。
「女将さんに聞かなくてもテトやアルマに聞けば分かるんです」
指をビシッと立てながら自分のことのように喋るニーアさんに対し
「というかここって空き部屋が多いから好きな部屋使っているようなものだよね」
「そうね…私は三階を使わせてもらっているわ」
二人の言葉にそんなにフリーダムなのかと思った。と言うよりも男女一つ屋根の下なのだから何かしらの区別はあるのかと思っていたのにこの感じを見る限りないのではと思ったが、
「あ、でもちゃんと男性と女性とで一応は区別しているから!!三階は女性階で二階が男性階です」
「へぇ」
普通は女性が二階なのではと尋ねれば「三階は部屋数が少ない分、二階より幾分か広いんですよ」と答える。
「あと、部屋は二人部屋となるのでクーちゃんとアッ君は同じ部屋を使って下さいね」
「了解」
「うん」
説明を聞き、頷く僕らに対し、少女が「質問ですニーアちゃん先輩」と手を上げる。「はい、なんでしょうか、テーゼちゃん?」と少女、テーゼへと視線を向ける。
「三人は知り合いなんですか。というか知り合い以上だったりするの!?」
「知り合い以上!?そんなぁぁ、私には好きな人があわあわ」
テーゼの「知り合い以上」に予想を上回る反応に何を考えたのか分かりつつも
「まぁ、Dクラスの教師と僕らの保護者が知り合いでその流れでその教師の教え子の先輩方と知り合いなだけ…ということでそろそろ寮の案内とかしてもらえれば嬉しいんですが?」
「あ」
「もうそろそろ夕食になるし、寮を案内しつつ部屋も決めれば良い時間帯になりますね」
「…なら、私は先に自室に失礼するわ」
「えー、一緒に行かないの?」
「私にもやりたい事あるのでテーゼも荷物ぐらい部屋に戻しなさい」
そう言うように先ほどまで試着していたのだろういくつモノ服を乱雑に入れられている服がいくつもあった。
「わ!!そうだった。じゃぁ、案内はニーちゃん先輩に任せて、私達は荷物を部屋に戻しておくね」
「ありがとうございます。じゃぁ、まずはここの部屋は食堂で朝の7時に朝食、昼の13時に昼食、夜の19時に夜食になりますので遅れないように気をつけてくださいね」
「用事とかある場合は女将さんに言ったら作り置きしてもらえるので安心して下さい」と付け出しながら、食堂を出、次にその左隣の部屋に案内され、
「ここはお風呂です。女性が先で男性は21時から23時までの間に入ってくださいね!!まぁ、19時前だったら女将さんに言えば風呂掃除と引き換えにシャワーが浴びれます」
「へぇ、結構広いね」
「はい、元々は職員用の寮でしたけど新しい寮が作られたので職員はそちらを使われて、私達Dクラスがここを使用する事になりました」
「次、行きましょう」と案内が進む。というよりも主な説明の必要な場所は前半で行われた為に後は流すような感じで案内をされる。
一階、寮に入ったすぐ左側にあ二つの扉は女性用と男性用のトイレ、食堂の右側にある通路を進めば二階に上がる階段があり先ほど説明されたとおり二階は男子生徒、三階は女子生徒であり、男子生徒は用がない限り三階には上がらないようにと言われる。
「クーちゃんとアッ君のお部屋ですが…ちょっと待ってくださいよ」
そう答え、ニーアさんは右へと曲がり奥の部屋の扉へに入り、すぐに「お二人とも来てください」と顔をのぞかせる。
僕らは荷物を持ち、ニーアさんが入った部屋を覗く。
その部屋は案の定、テトさんとアルマさんの部屋であった。室内に置かれている家具は二段ベッド、二台の机、そして様々な書籍が置かれている本棚があり、その本棚には魔法書や歴史書、武器関係や体術に関する本が置いてあった。
部屋へと入れば、テトは入ってすぐの机の前に置かれている椅子に座り、アルマは二段ベッドの下のベッドに腰をかけていた。
「二人とも久しぶり、凄く大きくなってるね」
「お久しぶりです。これからお世話になります」
「よろしくお願いします」
微笑むテトさんにお辞儀を返す。
「一応、この部屋は僕とアルマで、向かいの奥から二番目の部屋に君達と同じ新入生が一人いるから仲良くしてね」
「ちなみに、今年の新入生はクーちゃんとアッ君を合わせて五人だよ!!」
「お友達がたくさんできるね」と楽しそうなニーアさんに対し、内心で一体何をして現校長の機嫌を損ねDクラスに入れられたのかと思ってしまう。
「部屋は開いている部屋ならどこでも良いけど決まったら僕に教えてね。」
「私は少し話があるので二人とはここでお別れです。後ほど食堂で会いましょう」
少しの雑談を交わし僕らは、ニーアさんと別れ、再び廊下へと移動する。
「さて、どこの部屋が良い?人がいる部屋の近くかいない奥の部屋か」
「…俺は人がいない奥が良い」
「理由は?」
「うるさくなさそう」
ドヤッとさせながら発言する声に一瞬、噴出しそうになるのをグッと我慢し「なら、奥にするか」とアルスの意見を取り入れそちらへと歩く。
奥の部屋へと辿りつき、室内に入れば中は先ほどテトさん達の部屋と同じ配置で置かれている二段ベッドと二台の机が置かれていた。ただ、人が住んでいないということで物が置かれていない分、殺風景に見えた。
「よしアッ君。僕らの新しい生活が始まるね」
「そうだねクーちゃん、気をつけないといけないことはあるが、目的の為に楽しく暮らそうか」
「あぁ」
それはあの日、全てを奪われた時に交わした約束に少しでも近づく為に。
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2019.04.10:本編修正・追加




