第5話 入学式
弥生(3月)に月日が入りかけるこの時期からラーネン都市の玄関口であるシュピーレン地区は一気に賑わい出す。
さしずめ、チェルシアン魔法学園の受験生の家族達とそういった家族を狙う商人達が一斉にここに集まる為にこの時期は人の数が増加。
そうなれば犯罪率も増加し、ギルド協会から見回りの依頼や貴族の護衛の依頼などがひっきりなしに舞い込んでいるそうだ。
「おぉ!!クーちゃんにアッ君また買出しかい?」
「そのあだ名やめてください…」
「おやそうかい?可愛いのにねぇ」
ちゃかすように言われるいつものやり取りの後に頼まれた物を買う。「またよろしくたのむよ」と店長の声を聞きながら僕らは歩き出す。
「これで買出しは終了だよね」
「あぁ、メモに書かれているのはこれで全部」
持っているメモを確認しながら書かれている品々を確認し、僕の方へと視線を向ける。
「それにしても本当に人が多いね」
「そろそろ受験日だからな」
視線を通りの真ん中に向ければ、複数の馬車の為に広げられた大通りが移る。
もうすでに幾百の馬車がこの道を通ってチェルシアン魔法学園付近の地区へと向かって行く。
「確か、ヘラウス地区とゲーエン地区の宿屋はもう満室だってマーレから聞いた」
「後、ここを入れて三地区の宿屋のみか」
ラーネン都市は六つの地区によって構成されている。
ラーネン都市は湖に沿っており、その湖にチェルシアン魔法学園が孤立している陸に建設され、そのチェルシアン魔法学園を中心に半円のような扇の形なっている。
内側の地区、北からヘラウス地区、ゲーエン地区。外側の地区にデックング地区、シュピーレン地区、ラッヘン地区であり、内側の地区二つの宿屋がもうすでに満席となれば次に貴族が目をつけるのはここシュピーレン地区であった。
「これ以上増えて欲しくないなぁ…」
「そうだなぁ…推薦だって言うけど俺達はただの町民だしな」
「そうそう、僕等はか弱い町民だよね」
余談だが、この場にヴァールが入れば「こんな町民いてたまるか」と発言し二人に威圧されるだろう。
カラン
「あら、おかえり」
レジ台で清算していたキャロルが気づけば、目の前にいた女性客もそちらへ視線を向け「まぁ」と頬赤く染める。その視線は明らかにアルスだった。
「ふふふ、クーちゃんにアッ君。買出しありがとうね」
「あ…うん。作業部屋に置いとくね」
僕の反応に長年一緒にいるキャロルさんは僕の小さな反応に気づき、小さく笑みをこぼす。
それに気が付いた僕は罰の悪い表情を浮かべ、アルスが持っていた荷物をひったくるように持ちながら「先に戻ってて」と言えば、少しキョトンとしながらも僕の言葉に頷き、二階へと向かう。
それに対し、女性は「あ」と残念そうな声が聞こえ内心で「ざまあみろ」と悪態をつきながらも作業部屋に荷物を置きすぐさま自室へと向かった。
+*+*+*+*+*
「あ、あの今の人達は?」
「あの子達かい?可愛いでしょう」
キャロルの発言に
「た、確かに今の女の子は可愛かったでしょうけど胸が絶壁ですし胸のある私のほうが先ほどの…」
「あらあら、お嬢さん。アッ君に一目惚れなのかい?」
「っっっ!!」
赤面させた顔を見ればそれはYESといってるのと同じであった。
見た目は、クレアたちと同じで15か16ぐらいである女性にしては胸もあり、黒髪のショートヘアーは毛先が内に跳ねており、その耳が尖っている事により髪の色が黒なのは魔力のせいと考えればその女性の種族が魔族なことに一目瞭然であった。
「わ、私…受験するからしばらくここに、いるから」
と切れど切れの言葉にキャロルは驚きながら
「あの子達も、今年受験するのよ」
「え!?」
キャロルの言葉に女性は嬉しそうに目を見開く。
「運がよければ同じクラスに!!」
「それは無いねぇ」
「何で!?」
嬉々とした表情を一気に崩し違う意味の赤でその表情を変える。
「い、嫌、あの子達、Dクラスの先生から推薦貰ってるから入るとしたらDクラスだからね」
「Dクラス!?何で、あそこは落ち零れがなるクラスなんでしょう!!」
その声は大きく間違いなく上にまで聞こえたなと思いつつも「この店もよくその子達来るけれど落ち零れには見えないよ」と答えれば、さきほど包装された商品を躊躇う事も無くキャロルへと投げつける。
「こんなの入らないわ!!こんなの買ったら私まで落ち零れになっちゃうわ」
「え、ちょ!?お金!!」
キャロルの静止も聴かずに女性は叩きつけるように扉を開けながら「そんなお金要らないわ」と怒鳴りつけ帰っていく。
「あらあら…」
「どうしたの今の?」
「凄い落としたよ…」
ひょこっと階段から顔を覗かせた二人が、先ほどの騒ぎを尋ねてきた事に、キャロルは苦笑を浮かべ、
「私の商品がお気に入らなかったようでね。商品を返品されちゃったのよ」
「え!?」
キャロルの言葉に二人は驚愕する。何故なら、キャロルの装飾品は一つ一つ手作業で作る為に同じ商品は無い。つまりこの店で売られている商品は正真正銘一点物ばかり。手作業な為に一つ一つ丁寧であり、この地区の貴族達からも良く買ってもらっているほどであった。それを気に入らなかったと言われ驚かないものはいなかった。
「しょうがないわね。こんな事もあるわ」
投げつけられた商品を持ち上げ、包装された面を撫でる。
こんな事を言っているが我が子のように愛情を注いだ物がこのような扱いをされたのだ、誰だって悲しいだろう。
「僕はキャロルの装飾品好きだよ。高値で売られている商品よりもキャロルが作った物の方が綺麗だし暖かみを感じるよ」
「俺も!!」
同情の入ってない言葉に「今日は二人の大好きなご飯作ってあげる」と嬉しそうに微笑みながら言われた言葉に、一瞬にして二人の表情が嬉しそうになる。
長年、キャロルの料理を食べているのだ。二人の好みぐらいたやすく二人の、嫌、3人の胃はもう既にキャロルの掌中の中であった。
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試験当日
試験会場とされるチェルシアン魔法学園の正門、入ってすぐに門の様に二階まで吹き抜けとなっている建物の三階と四階の全教室にて試験が開始される。
一次試験は筆記となり午前にフルスカル史に宛がわれ、午後に基本魔術学、ラディース神学を行い夕方の16時に過ぎに終了となる。
この一次試験に挑んだ約2000人以上の者はこれの200以下に落とされる。
その結果は一次試験から二週間後に合格発表がされ、それから三日後に第二試験である、面接が行われ、それから一週間後にチェルシアン魔法学園に入学できる者が決定される。
これは一般受験者での場合であり、推薦者の場合は、一次試験を受けるまでは一緒だが合格発表の時期が二次試験の試験とされる。
合格発表で合格を受けた者は昼の14時から試験会場とされた建物の三階で今後の流れが説明され、夕方の18時前にようやく終了となる。
「はぁ、疲れた…」
「お疲れ様」
ちらほらと席を立つ合格者とその保護者、御付の人達がいる中、僕は背伸びをする。そうすれば横に座っているアルスが楽しそうに笑う。
「だけれども、無事に合格したね」
「…うん」
僕は自信はあるけど、アルスはラディース神学にて不安を抱きつつ、本日の合格発表まで落ち着けなかった。
そして当日、自分達の番号があった事を確認後、アルスは何を思ったのか傍にいた僕を抱き上げ胴上げする感覚で空に投げ飛ばされた。
その後、受け止めようと広げられ無防備な頭に綺麗に肘鉄をくらい数十秒気絶させたのは余談である。
「さて、僕らも帰ろうか」
「そうだね。今日は俺達の為に腕を振るってくれるってキャロルさんが言っていた」
今日の朝、まだ合格なのか分からないのに「今日は二人の祝いの日だから腕によりをかけるわ」と楽しそうに言いながら見送り出したキャロルの姿を思い出す。
「でも、僕等が合格するんだって思ってくれる何て嬉しいよね」
「本当に良い人だよね、キャロルさん」
合意と言うように僕らは頷き、動き出す。
「ただいま」
僕らが帰宅したのはそれから20時過ぎであった。
いつもの鈴の音を響かせながら扉を開ければ、室内から漂ってくる匂いに思わお腹が鳴らす。
「これは…うん」
「お腹減った…」
先ほどまではそんなに感じていなかった空腹感や疲労感が一気に押し寄せる。三階に向けて動かす足は重く感じながらも階段を上っていく。
「あら、お帰りなさい二人とも」
「おかえり、手を洗ってから二人は席で座っていていいから」
室内に入れば豪勢な料理を机に運んでいるキャロルとマーレが出迎えてくれた。
マーレの言う通りに手を洗い、いつもの定位置の席に座って数分後にようやく二人が向かい側の定位置に座った事によって先ほどまで慌しかったのが嘘のように静かになった。
「二人とも、この一ヶ月良く頑張ったね」
「おめでとう二人とも」
二人の口から出る祝福の言葉に「まだ結果言ってないよ!?」と驚くもマーレが申し訳なさそうに笑いながら「とある人から三日前から教えてもらってね」とマーレが白状する。
それに便乗するようにキャロルもまた笑いながら「だから当日にお祝いできたのよ」と笑う。
「わー、誰に聞いたのか心当たりがある」
「うん」
マーレのある人に僕らは一人の人物像を思い浮かぶ。
「まぁ、料理が冷めないうちに食べよう」
「そうね。料理は温かいうちがおいしいのよ」
その言葉にようやく僕らは「いただきます」と食事を始める。
本日の食事は普段の食事よりも品が多く、パイ生地包みのカボチャのスープにこのラーネン都市で取られた魚介類の刺身や揚げ物、色鮮やかな具材で彩られたすし飯。
やはり様々な種族がいるおかげか、様々な情報がここに集まるためにエンビディア国で召喚された歴代の異世界の者から教えられた料理が多かった。
「そういえば、クレア、アルス」
「何?」
「ふぁい(はい)?」
唐突に話しかけられたせいで料理を口に含みながら答えるけど、隣で食べているアルスの口一杯に詰められている為に間抜けな応対に呆れてしまった。
「アルス…そんなに口に入れなくても料理は逃げないよ」
「逃げると言うか…独り占め?」
「アホ…」
美味しい料理を独り占めしたいという願望でそういった行動をとっていた事を知って思わず呟いてしまった。そんな光景にマーレは苦笑を浮べ、キャロルは「それ分かるわ!!」とアルスに同意していた。
ようやくアルスの口の中を空にしてから、ようやくマーレは話を再開する。
「二人に入学祝をしようと思って、まず最初にこれ」
「これって…」
「わぁ…!!」
マーレから渡された二つの装飾品。一つは見覚えのある黄緑色の魔石の付いたピアス、もう一つは真新しいのが分かるまだ何色にも染まっていない透明な魔石の付いたネックレスだった。
「ネックレスはアルスに、この魔石は武器の収容が可能の魔石でね、この前受けた魔物の討伐の依頼時に発見した長剣を譲り受けてね。アルスに使ってもらいたくてね、帰ってくる前に自室に置いてきたから、戻ってから収容してくれ」
「新しい剣!!」
本当は魔石に入れずとも剣召喚時の魔法陣に突っ込めば召喚時の時に使用できるが何か一本だけでも持っていれば、魔力が空になった場合、剣召喚で出した剣全て魔法陣へと戻ってしまうが魔石に収容すればそういったこと危険な状況下でも身が守れる。
「そのネックレスの細工は私がやったのよ。大事に身につけてね」
「この形って!!」
受け取ったネックレスは金の細工で太陽をモチーフにされ、その中心部に透明の魔石が埋まっているがその太陽の形はアルスの加護の印と似ていた。
「隠しているのは分かっていたんだけどね…でも、アッ君には似合うと思ってね」
「マーレから許可取っているから」と笑いながら言うものだからアルスもその言葉に頷き早速首にネックレスをつけだす。
「クレアはお下がりで悪いけれどもどうしても使って欲しくてね…」
マーレから受け取ったピアス。
それはケイルが身につけていた頃のように輝いてはいないもののそれが確かにケイルが身につけていたピアスなのだと理解した。
「うん…大丈夫…これで良いよ」
しっかりと握り締める手の平の中に懐かしい気配が収まる。
「一度、その武器を使用しているから受け入れやすくなっている筈。その魔石に魔力を込めつつ、それ様の詠唱を唱えれば使用可能になる」
「まぁ、通常ならこんな簡単にはいかないけどね」と付け出しながらもう一つ、渡された。
「チョーカー?」
「こっちが本命みたいなもの、かな」
受け取ったチョーカーは普段使っている布ではなく黒い薄皮を使用され、真ん中に青い石が中心についている月が垂れ下がっていた。
「このデザインは私が考えた一点ものよ」
胸を張って言うその言葉に「キャロルが作る装飾品はどれも一点物でしょう」と笑いながら答えれば、
「違うわよ、他の装飾品は同じ構図から違う材料で作っているけれど、そのデザインは正真正銘にそれのみよ」
「アルスのも一点物だからね。無くさないでね」とネックレスをいじっていたアルスに釘を刺すようにいえばビックと肩を震わせながら返事をする。
それもそのはずアルスは物を壊す常習犯であり、キャロルから貰った装飾品を短くて三日、長くて半年で無くす。
「後もう一つ、早くて一週間後ぐらいにお前達に新しい服を新調するから」
「え?」
「何で?」
服の新調に今の服でも良いのにという表情をする僕らに対し
「良い年頃なんだ、身だしなみを少しは気にしてもらいたい」
僕らの服はそれなりに大事に着ているがやはり長く着ていればよれている部分やほつれている部分などもある。尚且つ、もうすでに服が合っておらずぱっつんな部分もあった。
「そうね、学園に入学するんだからぱぁっと立派な洋服を作ってもらって、私も腕によりをかけた装飾品を何点か作ってあげるわ!!」
「嫌、仕事に支障が出て…」
「大丈夫!!大事な子達の為ですもの仕事よりも先に優先するわ!!」
「うわぁぁぁ…」
もうすでに「どんな装飾品が良いかしら」と頭の中で構図を建て出すキャロルにもうそれ以上は言い出せなかった。
まぁ、逃げればいいかなとそう考えれば、「私の知り合いの仕立て屋にもうすでに連絡しているから、逃げても無駄だからな」と僕の考えを呼んでいたかのように笑いながら「逃がさないからね」と笑った
.
2019.04.10:本編修正・追加




