第4話 二次成長
「アルス!!ふざけてるのか!!」
「ふざけてない!!」
2階の自室にてチェルシアン魔法学園の入試に向けて勉強を開始する僕ら。
だが現在、入試まで5ヶ月を迎えた神無月(10月)の半ばだが、アルスへと向ける怒声が後を絶たず、
「もう泣くよ…」
本日、何枚目かとなる神学の問題用紙に書かれているアルスの解答にくじけそうにもなりつつあった。
たかが神学、されども神学。そこの宗教の教えを暗記すれば何とかなると思っていた頃の自分を殴りたい、そう思いながら問題の解答場所へと目を向ける。
ラディース教は、全ては主神の加護を受けていると説いているが、そういった宗教関連に詳しくも無い為にまとめれば、自分達が考えた神様は全ての根源だと信者を増やしている。
「何か敬ってますとか、それっぽく書いていたら良いってヴァールさんも言っていたんだから」
「…いもしない神を敬うのは難しい…」
さきほどから怒られ続けているアルスの耳も尻尾も項垂れていた。
「僕達は曲がり無しに加護持ちだ。だから、僕らの神を差し置いて人の口先だけで語られている神を信用しろとは言わない。でも、マーレやキャロルにいろいろ迷惑をかけているんだ。受からなかったではすまないんだよ」
「分かってる…」
夏の間にさらに成長したアルスの身長は170近くまで伸び体もそれなりに大きくなっており、二次成長がまだ来ていない僕は150後半の手前で止まってしまい、アルスとの身長の差が開いているが、現状怒られ続けているせいかアルスの体が丸く小さくなっていた。
「少し休憩にしようか…」
ため息交じりに吐いた言葉に先ほどまでしょぼくれていたはずのアルスはパッと顔を上げ、キラキラとした視線を僕へと向ける。
「…何を期待しているか分からないけど…僕はキャロルに配達物頼まれているから構ってあげれないよ」
「俺も!!」
「ダーメ!!アルスは留守番」
「何で!?」
立ち上がろうとする僕の足にしがみつき犬の様に何で、何でと瞳で語りかけ、流されそうになるが、マーレによって鍛えられた精神力で耐えながら、足にしがみつくアルスを振りほどき部屋を出る。
扉越しからキュゥゥンと切なげな泣き声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。
+*+*+*+*+*
「あら、クーちゃん。アッ君の勉強はもう良いの?」
「今は休憩中。朝に頼まれていた配達物を届けに行きたいんだけど」
ヴァールにつけたあだ名を気に入ったキャロルは僕らをそのあだ名で呼ぶ。
相手が相手な為に強く否定できないままに、とうとうこのあだ名が回りに広まり知らない人にまで呼ばれる始末だった
「あらあら、そうだったわね」
思い出し、配達の荷物をどこにしまったかしらとレジ台の棚を漁るキャロルに、物忘れが多くなったなと思いながらも配達物が見つかるのを待つ。
「合った、合った!!この商品をお願い」
真新しい茶色の包みに包装された包みを一つを渡される。
「何の荷物?」
「聞いて驚きなさい。なんとお客さんがAランクの魔石を用意して下さってね。最高の装飾品なのよ」
「Aランク!?」
僕の驚きっぷりにキャロルは「やっぱり驚くわね」と笑う。
魔石は、様々な魔道具に使用されているが、魔石にもランクがありS~Eランクまであり、Eランクは一回使用すればすぐに壊れてしまう為、値段は銀貨二枚。Bランクの魔石となれば一つの物を収容する事が可能になり値段もEランクよりも高く金貨3枚からの値段になる。Sランクとなればもう貴族にしか手が届かない品である。つまりSランクの下となるがAランクの魔石となればそれなりの地位の人である。
「え、貴族だったりしないの?」
「貴族は貴族でも大丈夫!!身なりを気にしないはずだから」
「いやいや、ここはキャロルが行くんじゃ?」
「それがあちらさんからのご指名なのよね」
「指名…」
「商品を届けるさいには人族の方の少年に配達をお願いしますって…まぁ、クーちゃんたちって意外に隠れ有名人だから」
「何それ!?初耳!!」
今から遅くないからアルスを連れて行こうかと思ったけれども、そんな暇もくれず「さぁ、配達お願いね!!」と背中を押され強制的に配達へと出された。
この時ほど、キャロルの考えるより行動という精神を恨めしく感じたことは無かった。
+*+*+*+*+*
「はぁ…」
無事に配達物を届けられたのは良かった、だが依頼主に思わぬ精神的被害を受け、尚且つ約1時間引き止められたせいでもうくたくたであった。それに先ほどから感じる疲労感や眠気に何かしらの危機感を覚えていた。
「…疲労のせい?」
ここから自宅まで1時間かかるも、一刻も早く家に帰りたいがために少し早歩きで歩く。
だけれども背後から「クーちゃん」と聞き覚えのある女性の声に振り返ったのが運の付きか、
「助けて!!クーちゃん」
「ニーアさんっっ!?」
4、5人の男子生徒に追われているニーアさんがこちらに走ってきていた。
「匿って!!」
「なっっ!?」
言うが早しと僕の背後に隠れるニーアさんに文句の一つを口をしようとするもニーアさんを追って来た男子生徒の怒声によって
「あーもう!!」
ニーアさんの腕を引き、人のいない場所、身を隠す事のできる路地へと入る。
+*+*+*+*+*
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「今の所は追っては来てないな…」
あたりを確認しつつ、後方にいるニーアさんへと視線を向ける。
「すいませんでした。巻き込んでしまって」
「…そう思うなら巻き込まないで欲しかったですよ」
タメ息をこぼしながら言った言葉。
さっきまで走っていた時までは感じなかったが、こうやって立ち止まったようやく気が付く自分の体調。
とてもだるく、何よりも眠たい。
そんな状態にニーアさんは気が付いたのか「具合が悪いんですか!?」と僕の顔を自分の方へと向かせ、熱を測る為か手の平をおでこにあてる。あてられた手のひらは少し暖かく感じられた。
「嫌…ちが、少し眠たいだけ…」
「徹夜で勉強していますからね…」
少し考え、「すいません、寝不足な方を走らせるなんて…」とそういいながらしぶしぶと僕から離れる。ニーアさんに声をかけようとするが、遠くから聞こえてきた声で僕らの間に緊張感が生まれる。
「おーい、ニーアちゃんどこ行ったのかなぁ」
「お兄さんたちと遊ぼうぜ」
その声に混じるいくつもの笑い声。
「先輩方ですか?」
「うん…二年生でね、またやらかしちゃって…」
ニーアさんのまたはもうすでに出会った頃から数十回に及んでいる事を僕は店に遊びに来るテトやヴァールさんから話を聞いていた。
「今度は何したんですか…」
「えへへ、今回は押し倒しちゃった」
苦笑を浮かべながらも頬掻くその姿は愛らしいのだろうが、残念な事にこの現状ではそんな風には思えず、逆に憎たらしく見えながらもニーアさんの服装がいつもと違うことに気が付く。
「それ制服?」
「うん、可愛いでしょう」
何を思ったのか、それともこれを話題に出した僕が悪かったのか、制服に気がついた事にえへへと立ち上がる時に近場にあったゴミを踏みつけ大きな音をさせすっころんだ。
そうすれば必然的に、
「あっちだ!!」
「行くぞ」
「ニーアさん!!」
「えへへ、ごめんね」
見つかり、鬼ごっこの再開となった。
「あ、クーちゃん。私が着ている制服はローブなんだけどね、後一つね後ろの生徒のようにねブレザーの制服があるの。でもね、やっぱりローブの方が可愛いと思わない?」
確かに前から後ろにかけて長くなる裾は足首の位置まであり、動くたびになびく裾から覗く足が女性ならば絶景だろうし、裾の部分と校章にあしらわれている金の糸のデザインもまたチェルシアンならではの味を出していた。
見た感じニーアさんが着ている制服は女子生徒が好みそうな制服であり、また後ろの男子生徒が着ているブレザーの制服も、形状は違うがデザインは似ているもののブレザーの袖の部分は少し長めとなっておりその袖に武器などを隠すのには最適でありそうだなと思った。
だがそれは、数人の男子生徒が魔法を乱発させている状況下にするものではない。
「口より足動かせ!!」
「ひゃぁぃ!!」
あまりの能天気さにもうすでに体力、気力の限界だった為に年上に対しての気遣いもましてや敬語など付けている暇も無く、今違う事に気を逸らせば確実に足をもつれさせる自信があった。
「クーちゃん!!」
「ッッ!!」
走る事に意識をしていたせいで、前方に発動寸前の魔法に気づく事ができずそのまま衝突してしまった。
ゴンッと大きな音が聞こえると同時に視界が眩む。
眩むと同時に足から力が向ける感じがすると同時に、顔全体に感じる冷たさを感じた。
「…クーちゃん大丈夫!?」
「…駄目かも…」
視界にぼんやりとだが移るニーアさんは頭を押さえていた。
体の向きを変えられているのに気が付くも、すぐに「クーちゃん血が!!」とニーアさんの悲鳴が聞こえ自分が血を流している事に気がつく。
だけれども、重たい目蓋ではそれもどうでも良いかと思ってしまう。
「おーや、もう鬼ごっこはおわりでちゅか?ニーアちゃん」
「てか、連れの子血でてんじゃん」
「うわぁ、痛そうぉ」
聞こえてくる言葉。言葉と裏腹に声音はそんな事を一ミリも思っていないことがはっきりと分かった。
「うぅ、クーちゃんごめん」
「っう…」
だんだんと距離を詰められ、もう駄目かとそう思っているニーアから情けない声が聞こえてくる。
「ニーア…少し時間かせいで…」
力を振り絞り、ニーアさんから離れる。
その唐突の行動に頭を傾げられるもすぐに「分かった」と返事が返ってきた。
+*+*+*+*+*
「おやおや、最後の悪あがきですか」
「楽しませてくれよ」
私たちの後方に立ちふさがる私を追いかけてきた男子生徒達はこの状況を楽しんでいるのが伝わる。
「クーちゃんの為にも時間を稼ぎます」
そう意気込み、自分の髪についている髪飾りについている魔石に触れる。
『氷晶の杖 お願い私に力を貸して』
詠唱を唱えると目の前に出現する杖、氷晶をイメージとされたその杖は私が触れた瞬間に魔力が通った事を意味するかのように私の周りに水の塊が漂う。
「さぁ、水のマナちゃん達も力を貸して」
私の言葉に呼応するように水の塊が反応してくれた。
「武器を召喚したどころで俺達が倒せれるかよ」
「そうだ!!これを見越して、上級魔法の氷魔法を使えるレズック先輩に来てもらったんだ!!」
「アッハハ、可愛い後輩の頼みだ。お嬢ちゃんすまないな」
発言と同時に、先ほどみたいに氷魔法の詠唱を唱えるけれども魔法は発動する事はなんてない。
それに対し、リーダー格のレズックさんや男子生徒達も驚愕する姿に私は自然と口角を上げてしまった。
「残念。貴方達も知ってるでしょう精霊族である私にかかれば水魔法系との魔法を、マナ達に頼めば無効にしてもらえるの」
「残念ね」と笑う私に
「このDクラスの分際が!!俺の魔法の邪魔をしやがって!!」
再び唱え出すレズックさんの詠唱を、「無駄です」そう答えるも、その詠唱は水系統の魔法じゃないことに詠唱の途中で気がつきすぐさま防御魔法の詠唱を唱える。
『地の精霊よ 我が拳に宿り この拳に力を貸したまえ 地拳ボーデンフォオスト』
『水の精霊よ 我の盾となり 水盾ヴァッサーシルト』
慌てながら発動させたのは下級魔法。
レズックさんが発動させたのは中級魔法。基本なら私が発動させた下級である防御魔法なんてすぐに壊されてしまうけれども、精霊族の特性、マナからの助けのおかげで私の防御魔法が強化されたおかげで、レズックさんの攻撃魔法とぶつかっても一瞬で破壊されることはなかったけれども、それでも防御魔法は破壊されてしまった。
「っっ!!」
次の行動をしないといけない、分かっているけれども目の前に迫る恐怖に思わず強く目蓋を閉ざしてしまった。
だけれども、後方から聞こえてきた声、そして待っても待っても訪れない衝撃。
おそるおそる、瞳を開ける。
そうすれば、先ほどまでここにはいなかったその人が私の目の前に立っており、思わず
「アッ君、どこからやって来たんですか!?」
声を大にして言ってしまう。
+*+*+*+*+*
「キャロルさん…クレアの配達、こんなに時間かかるの?」
日が暮れ始めても帰ってこないクレアを心配になる、作業部屋にこもっているキョロルさんへと声をかける。
「アッ君、もうクーちゃんが配達に行ってからそんなに時間が経っているの?」
「もう二時間ぐらい経ってる」
「あら…あちらの方でお茶でもご馳走になってるのかしら?」
「何それ…」
キャロルさんの言葉に自然と眉間に皺が寄る。
「アッ君、弟を取られた顔してるわ」
そうキャロルさんが笑いながら言った言葉。
しっかりしているクレアだが実年齢は俺の方が上。だからよくキャロルさんが俺の事を兄と呼ぶことがあった。
「今回の配達はあちらさんからのご指名なの」
「指名?」
「そうなのよ。珍しいでしょう?」
暢気に言われる言葉にあらぬ事が頭をよぎり、思わず「俺、外出てくる」と玄関へと向かう時、右手首の契約の印が発動したことに気づく。
急に動きを止めた事に「アッ君どうしたの?」とキャロルさんが声をかけてくるも「大丈夫、行ってくる」そう言葉を残し外へ出る。
そしてすぐに近くの路地へと入り意識を手首の契約印へと集中させる。
―ア・・・・・・ア、ルス!!―
切羽詰った声で呼ばれたことで、相手であるクレアが危険な状態なのではと思い内容を聞く前に契約を行使し、自分が向かいたい場所へ飛ぶ。
契約で発動した転移魔法で飛ばされた場所に、目の前の光景に目を見開く。
目の前にいるクレアは額から血を流し少し青ざめて座り込んでいた。声をかけようと口を開くよりも先に
「アルス、お願い!!ニーアさんを助けて」
「っっ!!」
クレアを助けたく来た筈なのに、目の前の人からのお願いに、足を動かす。
本当はどうでもいい、早く助けたいけど、お願いを無視したら怒られるだろうなぁ、ここ最近怒らせてばかりだから。
先ほどまで防御魔法とぶつかり、一瞬の均衡が崩れたさいに出来た隙を狙い男の溝へと蹴りを叩きこむ時に聞こえた背後からの言葉に「アッ君どこからやって来たんですか!?」と言う発言に思わず爪を噛む。
―アルス‼―
頭に響く言葉にクレアへと視線を向ける。
もうすでに体が地面に崩れ落ちそうになりながらも両腕で何とか支えているがそれも危うくなっている状態だった。
「分かってる。すぐ終わらせる」
その言葉に目の前の、ようやく痛みを堪え立ち上がった目の前の他よりもガタイのいい奴は怒っていた。
「よく言いやがる、この獣風情が!!」
「人間様に跪けや!!」
取り出されたナイフの刃先を俺へと向けながら罵声を向けてくるもだから何としか思えなかった。ガタイのいい男の後方の男達との距離を一瞬で距離を詰め一人、また一人と沈める。
「なぁっっ!!こいつ!!」
「先輩!!」
残り二人となったところで、ガタイのいい奴から聞こえてきた詠唱の言葉。
最後まで唱えようとするがそいつの顎下を殴りつける。
顎下から走る衝撃で揺さぶられた脳は一瞬で目の前の男の意識を刈り取るのに効果があり、目の間の男は豪快な音を立て倒れる。
「ひぃっ!!」
最後の一人には意識の無くなったその胸元を掴み上げそのまま投げつける。
着弾時にえげつない音が聞こえてきたが、当の本人は気にすることも無かった。
「アッ君!!クーちゃん具合が!!」
ニーアさんに抱えられているクレアはもうすでに意識が無かった。
「…大丈夫。後は俺がやるからニーアさんはこいつ等が起きる前に学園に帰って」
「でも…」
会話をしながら近づき、ニーアさんの腕の中にいるクレアを抱き上げる。姿を見ながらも容態が気になって中々、動こうとしないニーアさんに
「明日には元気になってる」
「本当?」
「あぁ」
その言葉に少なからず安心したのか、「じゃぁ、明日キャロルさんの家に行くね」と言葉を残しようやくこの場から去ってくれた。
「…行った?」
「あぁ」
ニーアさんが去った事を確認し、目を開けるクレアに頷き返す。
「アルスごめん。重いでしょ、歩くよって…ちょぉっっ‼」
「大丈夫、クレア軽いし。それにまだ魔力をちゃんと回復してないんだからこの方が良い」
言うがよろしくクレアの首元を擦り寄るも、嫌がるそぶりもなく、しょうがないとため息をこぼしながら髪を撫でてくれた。
「でも、お姫様抱っこはやめて欲しい」
「こっちの方が楽」
少し顔を赤面させながらそのまま黙り込み、「移動する」そう答え、場所を移動する。
あれから10分でたどり着いた場所はあそこから北に進んだ森だった。
ラーネン都市は一応は町周辺をそれなりの高さの城壁で囲っているも、その城壁には見張りはいないためにその城壁を足場に、都市の外へと飛び出す。
人の気配が無い場所を探し、ようやく立ち止まった場所は、日も沈みかけてるせいで森の中はもうすでに薄暗い。
「クレアここでいい?」
聞きながら、クレアをゆっくりと地面に下ろし、契約を発動させ、鎖を具現化させる。具現化したことで俺達が契約印が浮かんでいる場所に赤い鎖が巻き付きその鎖の片端は繋がっているために、腕を動かせば釣らせるようにクレアの首を中心に引っ張られる。
「アルス、契約で縛られている僕の魔力を一時的に解放してくれれば二次成長が始めるはずだから」
「了解」
言われたとおりに契約に魔力を集中させる。
『アルスの名において、魔力開放を許可する』
詠唱によって枷を外せば、
「あ、っっ」
苦痛の声と共に出現したクレアの羽。だが、普段のクレアは四枚羽だが、現在は契約によって封印を解き本来の魔力量に戻ったためか、本来の、あの一次成長の時に見せた六枚羽に戻っていた。
羽の出現から数秒後にクレアを包むかのように闇が隠す。
その異様な光景に無意識に、
「…クレア…」
全てを飲み込むその影に取られるんじゃないかと不安が募る。
今だ俺とクレアを繋げる赤い鎖が視界にうつることによってあの闇へ向かいたい気持ちを何とか抑えられていた。
これがある限り、自分からクレアを取り上げる事はできないのだから。
「だから、早く…」
姿が見たい。強く握られる鎖は鎖同士がふれあうたびにジャラッと音を鳴らす。
そして、何の予兆もなく、
バッッ
闇が弾ける。
その中には包まれる前の幼いクレアではなく、俺と同じくらいに成長したクレアが立っていた。
だが、地に足をついたと同時に膝から崩れ落ちたその体を抱きとめる。
「クレア」
「…う、ん?」
「戻ってきた」
そうつぶやいた言葉にクレアは笑いながら「戻ってくるよ」と答えながら「何せこんなゴツイ紐が付いているんだからね」と笑ういつつ、俺の方へと体重を思いっきりかけながら「ご主人様」とワザとらしくそう俺を呼ぶ。
「うん、俺が主人。だから逃がさないよ」
強く抱きしめればより成長していることを実感する。
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2019.04.09:本編修正・追加




