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紡ぐ物語 -FUTURE-  作者: 稀世
01:出会いと別れ
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第0話 2回目の人生



第0話 2回目の人生




ゆらりゆらり―・・・



最初に感じたのは温もり。次に感じたのは暗闇だった。

ただその暗闇を怖いとは思わない。ただただ懐かしいと感じた。この温もりもこの暗さも、全部含めて懐かしいと感じた。


どこで?思い出そうとするもののすぐにどうでも良く思った。そう、今はこの温もりをもうしばらく味わっていたいと感じてしまったのだから。





この空間は温かいけれども暗くそして静か。嫌、ときおり音が聞こえてくる。

だがその音の意味は理解できずそのまま流していた。だけれどもその音に不快感は無く、逆にもっと聞きたいと感じた。

優しい高い音と低い音。

それは唯一の楽しみだと思えていた。

だけれども、ときおり聞こえてくる冷たく甲高い音は耳を塞ぎたかったが、腕が動かず耳を塞ぐ事はかなわないが。

だけれどもその音の後には必ず優しい高い音が聞こえてきた。それが嬉しく感じた。



そして、いつ頃か夢を見始めた。

それが夢なのかどうか分からない。どうも現実味があり感触を感じた。


その夢の景色の空はいつも夜。星は無くただただ黒く塗りつぶした空にポツリと光り輝く月だけが自分を照らす。そして自分を包みプカプカと浮かべさせてくれる、どこまで続くか分からない空と同じ色の水。黒く、波1つ立てない水。だけどもそれが怖いと感じたことは無かった。逆に、気持ちが良かった。

月と水と自分しかいないこの空間にずっといたい、この夢を見始めた頃からずっと思っていた。


だけれどもこの空間に誰かがやって来た。


それはいつもと変らずプカプカと水の中を浮んでいながら優しく自分を照らす月を眺めながらこの空間が終わるのを待っていた時、事は起こった。


風が吹いたのだった。


最初は優しく、温かな風だった。だけれどもその風は次第に強くなり嵐となった。嵐は水を巻き込み大時化(しけ)となり自分を巻き込んだ。



空気を求めもがく。地上に出たと思えば、次の大波が向かえ自分を飲み込む。そして水の中に沈める。

水中は地上よりも穏やかだけれどもずっと水中にいるわけにはいかなかった。だって水中には空気が無い。空気が無ければ溺れてしまう。だから荒れ狂う地上を目指して泳ぐしかなかった。


苦しい。寒い。つらい。


もう諦めたい。このまま流されたら楽になれるんじゃ

そんな思いが過ぎる。


気持ちはそんな事を思いながらも体は正直に生を掴もうとする。もがいて、もがいて。いつ終わるかも分からないこの荒波を乗り越えようと無様に抗う。


あぁ 死にたくないんだな・・・


そう思えば後の祭り。水をかく腕に力を込め上に上がる。


ザバァッ


肺一杯に取り込む空気。そして自身のあれた呼吸を落ちつかせる為に何度も、何度も繰り返す。

そしてようやく嵐が過ぎ去った事に気がついた。

ドッと溢れ出る疲労に目蓋が重くなった。ようやく夢が終わる。

長く、長く感じたこの夢が終わる。そう思った時、不意に影が差し込んだ。

月の光によってキラキラ輝くそれはとても美しかった。



――“ようやく会えた 我の愛し子”――


――“あぁ こんなに疲労して可愛そうに”――



頬に温かいものが触れた。それはすぐに離れたと思えば左の首の付け根辺りに移動した。その時に微かに香ったスギの香りに体に入っていた力が抜けるのを感じた。



――“でも もう少し頑張って頂戴”――


――“今から愛し子に寵愛の証を授けるのだから”――



その音と同時に触れられていた場所が激しく痛み出す。

その痛みに耐える為に手足をバタつかせ痛みを逃がそうと暴れだす。



――“その痛みは我の寵愛 加護を授ける時に生じる痛み”――


――“大丈夫 時期に収まるわ”――



ぼやける視界に移る目の前の女性。その女性のはっきりとした容姿は確認できなかったけれども自身を見つめる金の瞳だけはっきりと目に焼き付けながら目蓋を閉ざす。



――“さぁ おやすみなさい”――


――“誕生の日まで”――



最後に聞こえた音の意味が理解できずに意識を暗闇へと落とす。





そしてそれから数ヵ月後 その言葉通り

新しい生を受け二回目の人生の歯車が回りだした。







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