3-2
「じゃぁ、とりあえずこの子達を紹介しよう」
話を切るようにヴァールさんは後ろにいる三人に視線を向ける。
「ぼ、僕はテトです。その一応…Dクラスの委員長をしてます」
「私はニーア・ネシアです!!可愛いモノが大好きな精霊族の女の子です!!」
「…俺はアルマ・エスターテ…です」
性格も種族も違う目の前の三人。
目の前の三人は短いもそれぞれの性格が垣間見えるような自己紹介。そんな三人をまとめる、ヴァールさんが「三人ともありがとう。次はマーレ達の番ね」とこの場を仕切っていた。
このノリは前の世界で一回だけ参加した合コンの幹事の人みたいだなぁ。
「私はマーレで、後ろにいるのが家族の黒髪がクレアで、白髪がアルスだ」
マーレがまとめて僕らの自己紹介を最低限で終わらせた。
短いせいで僕らは終わった後に同時にお礼する形になったが、ニーアさんから「可愛い」と聞こえて来て、身構えそうになったのは仕方がない。
「ご家族…?」
「どうしたの、アルマ?」
「嫌、マーレさんとクレア君?は一応、見た目で家族なんだと無理やり納得すれば行けが…」
「あぁ、アッ君の事か」
アルマさんが何を言いたいのかは分かった。
それはヴァールさんも同じでマーレへと視線を向ける。
「アルスは養子だけれども立派な私の家族だよ」
「珍しいですね…人族の人が獣族の子供を養子にするなんて」
その質問は本当に何気ない質問であって今の時代、珍しくもない質問。
「まぁ、私はその種族はあまり気にしないたちでね」
「そうそう、昔は気性の荒い魔物をペットだ何だといって周りの人に心配されていたな」
「それはお互い様だと、私は記憶しているよ」
二人の会話が事実なのか嘘なのか分からないけれども、なんとなくだけれども僕らが知っているマーレさんはほんの少しなんだなって、過去の事も知っているヴァールさんをうらやましく思えた。
だが、そんな思考は長くは続かず、玄関に着けられている鈴がカランと扉が開いたことをあたりに知らせ、全員がそちらへと視線を向ける。
「あらあら…これはまた大人数ね」
扉を開けたのは今まで用事で出かけていたキャロルさんだった。
+*+*+*+*+*
「眠たい…」
静かな店内のせいか、はたまた窓から入る暖かい日の光のせいか、僕の瞼がゆっくりと閉じそうになるのを何とか我慢する。
現在の時刻は14時、他の人たちは睡魔の誘いを断りきれずそのまま机とお友達になっている人もいるのだろうなと変なことを考え出す頭を切り替える為に数回頭を振って無理やりにでも思考を切り替える。
そんな時に聞こえてきた鈴の音に、お客だと視線を向ければ、
「こんにちはクーちゃん」
本日3人目の来店客は、苦手な人だった。
自然と寄る眉間、今は店番を任されているせいで、いつものように逃げることができなかった。
「今日は、マーレは依頼でいませんよ」
「うん、前回来た時に聞いてるよ」
相変わらず変なお面を付けているヴァールさんから視線を外す。
「じゃぁ、キャロルさんですか?おあいにくさまにキャロルさんも出かけていますよ」
「そうだね、君が俺の姿を見ても逃げないという事は君しかいないんじゃないかって気づいてるよ」
その物言い、警戒心が強まれば、ヴァールさんは笑いながら「まるで猫科の動物だね」と僕に言ってきた。
「なら、ネコらしく引っかいてあげましょうか?」
「ん、どちらかというとそろそろ懐いてくれたら嬉しいかな」
「手土産」そう言っておしゃれな紙袋を僕に見せる為に持ち上げる。
「懐いて欲しかったら胡散臭い格好をどうにかしてくれれば少しは記憶にとどめておきます」
「んー、この格好は俺の個性であり、最先端のオシャレなのさ」
「…そうですか。そんないつ来るか分からない最先端を先取りするなんて凄いですね」
そんなことを棒読みよろしく言えば「やはり、マーレの身内…対応がそのままだよ」なんて納得していた。
そんなヴァールさんをため息をこぼつつ「用がないなら帰ってくれたらありがたいです」と言えば「冷たいねぇ」と言われたが、
「マーレがヴァールさんにはデレない方がいいといわれました」
「余計な事を…まぁ、今日はクーちゃんとアッ君に用があってきたんだけど…アッ君はもうすぐ帰ってくる?」
「その変なあだ名やめてください…アルスは、キャロルに頼まれた物を配達してるんでいつ帰ってくるか分かりませんよ」
「じゃ、珍しく一人なんだ。寂しくない?」
「寂しくないです。僕らを何だと思っているんですか…」
「一緒にいないと死んじゃう病」と笑顔で答えるヴァールさんに思わず発動させてしまった闇属性の魔法を軽々と回避されてしまう。
「マーレから聞いていたけれど、その影に飲まれたら俺でも出るのは厄介そうだよ」
「…消化不良を起こしそうなんですぐに吐き出します」
「何おう!!俺ほど美味しそうな人物は他にいないぞ!!」
「で、話って?」
無理やりにでも話を逸らせば、ヴァールさんはぶつぶつと文句を言いながらも懐から綺麗に二つ折りされている紙の束が出され、それを僕の前に置いた。
僕はその紙の束を手に取り紙に書かれている内容に目を通す。
「…チェルシアンの入試案内?」
「あぁ、来年の入試案内はこの時期にはもう出されるんだ」
「早いね…」
今の時期は梅雨を抜け夏へと季節が移り始めていた。
この大陸、世界には四季が存在し、中心に位置するラーネン都市はまるで日本と同じような四季をめぐっていることに、この都市に暮らしてから気づく。
話は戻り、チェルシアン魔法学園の入学式は皐月(5月)の上旬で行われ、文月(7月)である現在にはもうすでに入試案内が出されていた。
「大体二ヵ月後ぐらいだと思っていたんだけど」
「まぁ、他の国ではそうだろうが、ここはチェルシアンのお膝元であり、そこの教師である俺がこうやって来ているんだ情報も早いんだぜ」
「職務乱用だね」
再び詳しく入試案内を詳しく読めば、
「…この申込用紙、推薦って書かれているけれど?」
「そりゃそうさ、俺からの推薦としてお前等二人を入学させようと思ってな」
「…まだ、入学するとか言ってないんだけど、第一、マーレの許可も」
「その心配は無い。マーレからの許可は俺がとっておいた」
「…それって普通は僕等が普通、頼むんじゃないのかな?」
「外堀から埋めていくのが俺のやり方だ」
その態度に呆れながらも少し考える。
一応は、僕が暴走した後から少しずつだがマーレからいろいろ教えてもらっているが、やはり学校で学んだ方がより多くの知識が手に入るはず。
マーレの許可が出ているならばなおさら。
「だけれども問題とか無いわけ…ほら、僕とアルスの種族とここの大陸の魔法の発動方法って違うじゃない?」
「あぁ、それなら大丈夫!!詠唱を覚えてもらえばそれで良いし、種族もこちらでかい、変更すれば良いし、何せ二人共の見た目からして人族と獣族だから大丈夫だ」
「それってまぁ、神族や幻獣族みんなそういえるんじゃないの?」
「失礼な!!神族はそうであっても幻獣族は容姿がそれぞれ異なって魔物と間違えられる者だっているんだぞ」
他の幻獣族にあったことが無いからヴァールさんの言葉にではあまり想像もつかなかった。
「まぁ、アルスももしかすれば今後、幻獣族としての特徴が出るかもな」
「特徴?」
「あぁ、今のアイツは人によっているから他の獣族と違って白目だろ?」
「うん」
「で、今は人寄りだが、今後の成長で一気に獣寄り、まぁ、魔物寄りに変化するわけだ」
「可愛いワンちゃんなら良いね」とヴァールさんは言うが、「アルスは犬っぽいけど立派とした狼だよ」と僕が答えれば、見分け付くのと聞かれたから「噛む力が強い」とそう言ってやれば笑われた。
「そんなんで判断するとはな」
「なら、その特徴が出たら分かる話だよ」
そう拗ねるなと子ども扱いされながらも、話は入試へと戻る。
「まぁ、本題はこっちからだ。この学園も一応はそれなりの学力がいる学園なわけで、入試が来年の皐月(5月)に行われる」
「筆記と面接だっけ?」
「あぁ、ちなみに推薦だと面接を免除される。だが、筆記はそれなりの点数は取らないといけない」
「ちなみに何点万点中?」
「ラディース神学、フルスカル史、基本魔術学の3教科で推薦は300点中250点以上取らないといけない」
「神学って…面倒な項目…」
「普通ならラッキー項目なんだがな」
「神に対しての価値観は人それぞれだってこと」
僕の言葉に「一応はそこの教団の援助もうけているから仕方が無い」とヴァールさんは答える。
中立と名乗るには色々と後ろ盾が必要で大変なんだろうなと思った。
ラーディス教団はこの都市に来てからよく聞くようになった。
ラーディス教団は人々にこの世界に存在するマナに対して、神の加護についてを主にした教団。教団のほとんどが人族が多いが、他の国にもラーディス教団は存在し、種族問わずに受け入れているようだった。
だけれども噂では、教団には何人か様々な神からの加護を持つ者、神族や幻獣族もまた入信していると。
なお教団は加護者は力の暴発や悪用されないようにと教団で保護すると掲げており、ほかの信者たちに見かけたら保護するようにと言っているようだった。
「加護の力を持っている者を保護してるってのも信用無いけどね」
「学園に入ったらそう言うこと言うなよ…そこの信者も学園にいる。だからお前達の加護の印もバレれば保護と名目で連れていかれるぞ」
忠告を受けるも、ここで気づく、僕らが加護者だって言っていないことに。
それが表情に出ていたのか「マーレから聞いている」と教えられる。見た目は不審者だが、マーレはヴァールさんを信頼に値すると考えているのだと理解した。
「僕はいろいろ知りたし、この力も早く自在に使いたい…だから学園の入試を受けれるなら僕はありがたく受けるよ。でもアルスは知らないよ」
「それならば聞いてみれば良いだろう」
そう言ってヴァールさんは僕の首を指させば、その意味がようやく理解した。
「教えられたんですか?それとも知っているんですか?」
「さてな、俺はこれでもマーレとは違って頭脳派だからな」
「まるで逆だね」
そう、マーレが頭脳派でヴァールさんが行動派だと見た目から思えるのに、この二人のやり取りを見るようになって見た目で判断してはいけないのだと改め思いながら、僕は契約印へと意識を集中させる。
あの日、ヴァールさんと出会った日。
マーレはヴァールさんを見送った後、僕らの部屋で血の契約が何かを教えてくれた。
「大分時間が経ってしまったが、お前達に血の契約の事を話しておく」
聞かされた血の契約は、この大陸で主(買い手)が一方的に奴隷と結ぶ契約があり、その元となる契約であった。
だからと言って二人が交わしている血の契約がそうであるのかといわれれば少し違うようで、形式上は主従契約に位置付けられるも、血の契約は簡易的な契約とは違い、より強く結ばれる契約。
両者の了承、並びに第三者を交えて行われる契約。
そして簡易は奴隷に魔石が付いた装飾品、一般的な物は首輪が多く、その魔石に主人の血を垂らす事によって契約は結ばれる。
だが、これは一方的なために主人は奴隷を言葉に無理やり従わせることしか出来ないが、血の契約は名の通り、互いの血を使用して行われる。
互いの血を体内に取り込むことで魂と魂が繋がる、ある意味一蓮托生の契約である。
契約が無事に結ばれたのならば契約印が摂取した部位に現れる。
「その時に主の方が何かしらの代償を支払っているんだけどアルスは何か代わったことはない?」
「え…あ…特に?」
「嫌、あるでしょう?」
アルスは自分が支払った代償について考えるも思いあたることがないようで返事の代わりに尻尾がうなだれていた。
「主はそこで代償を支払う事によってメリットが生まれるんだ」
「狗の僕が普通、支払うんじゃ無くて?」
「まぁ、クレアには契約後に色々あってね」
契約後、精神感応、互いの元に瞬間移動が可能、魔力の譲渡が可能になり、主側は簡易と同じに、自身の言葉に従わせられる。狗に傷を引き渡す事も可能。
狗側は、再生能力、身体能力の上昇、バーサーカーモードが存在した。
「アルスが気づいた時、クレアの場所にいたのは無意識で契約を発動させたからだろう」
それが、マーレから教えてもらった血の契約の内容だった。知ったからと言って別段、文句を言うわけも無く、今後この契約を使用して何かしらの戦闘があっても、使用できるようにと僕らは色々と試していた。
「アルスも入学したいみたいです」
「やっぱりね」
精神感応で聞き終えた回答にヴァールさんは的中と言うような言葉に、
「…分かっていたような言い方はですね」
「やぁー、だってクーちゃんとアッ君って何気にずっと一緒にいるからさ、クーちゃんが行くって言えばアッ君も来ると思ってさ」
「考える事が別れることだって普通にあります」
そう文句を言うもヴァールさんは僕らに伝えたいことは伝えたのか「今日はそれだけだから次来るまでにそれ書いといて」と嵐のように店から出て行った。
そして店内は静かになった。
「本当に、嵐みたいな人」
そうボソリと呟きながら精神感応で早く帰ると言ったアルスを待つ。
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2019.02.07 本文修正・追加




