第3話 Dクラス
ヴァールとの出会いから3ヶ月が過ぎる。
その間、ヴァールは良く遊びに来た。手土産と共に。
ある日はこのラーネン都市の一番有名名称、中立チェルシアン魔法学園のその付近で人気だというケーキだったり、時には高そうなチョコレート、クッキーと女性と子供受けしそうなお菓子を持ってくる。
最初っから好印象であるキャロルは嬉しそうにするが、土産の大本命であるクレアとアルスにはどうやら不評であった。
「はぁ…俺嫌われてんな…」
「そうだろうね、初対面であんな殺気や怒りを向けられたんだ、私の孫たちじゃなければお前が来た瞬間、泣き叫び外に逃げ出している」
「そんなにかよ…」
現在、用があるために依頼を受けていないマーレが店番を任されており、店主であるキャロルは昼頃から出かけていた。
店の事はマーレとクレア、アルスの三人で手分けしてやっていたのだが、それから約二時間後に変ったお面を付けたヴァールが遊びにきた事により二人は早々と今やっていた作業を終わらせ二階へと逃げられ、現在、ヴァールはレジ台に伏せ項垂れており、それを怪訝そうにマーレが見ていた。
「今日は、お客は来なさそうだな…」
「というか、毎日ガハッ!!」
飛んできた雑巾を顔面でキャッチというより仮面の上に乗せたまま「酷い!!本当の事じゃないか」と叫ぶ。
「お前みたいな不審者こと貧乏神がいるせいでこの店の売り上げが最悪なんだよ。気づいているか?」
「そこまで言うか!?確かに俺は混血ながらも神族だがそこまでの力は無いぞ!!」
「本当にあたらこっちが困る」
ヴぁーレの反応に真顔で返され、「何をぉ!!」と叫ばれるも、マーレは取り合う気は無いというように再び外へと視線を向ける。
だが、何かを思いだす。
「そう言えばお前、結構ここに来るが仕事は良いのか?」
「ん?あー大丈夫、大丈夫」
質問に答えるがその答えはどこか投げありうであった。
「というか、お前何の仕事しているんだ?」
「雛ちゃん達の教育だよ」
「…ッッ教師だと?ここで教師といったらチェルシアン魔法学園か!!というよりお前、人に教えられたのか!!」
「酷くない?これでも賢いのよ俺」
「嫌、そんな見た目のせいで…忘れてしまっていた…」
「何それ…人を見た目で判断しちゃダメっていうだろう?これでも優秀な教師で通ってるんだから」
ジト目でマーレを見るが、マーレもまたヴァールの事を信じられないような視線を向ける。
「じゃぁ、そんな優秀な先生様が何でこんな時間にこんな場所にいるんでしょうか?」
「それは俺のクラスの子は優秀だからほっといていても大丈夫」
自信満々に言うその言葉に「あぁ、あいつのクラスの生徒は可愛そうに」と生徒たちに同情の言葉を贈る。
「というのは建前で本当は理事長がいないせいであんまり授業が出来ないんだよねぇ」
「はぁ?」
ぼやくように呟いた言葉はマーレの耳にまでしっかりと届く。
「なんだそれは?」
「俺って結構、理事長以外の上の人と揉めまくったせいで今年からDクラスの担任にされたわけ」
「Dクラス?そういえば最近出来たクラスだと…」
「そう、理事長がいないのを良い事に今の校長が好き勝手にやってくれてねぇ…今年の新入生のクラス分けのときに気に食わない奴をそこに詰め込んだわけ」
「で、嫌われ者のお前がそこの教師にと」
「そう、全教科を俺が教えないといけないのはまぁいい。けどな実技の場所が中々取れなくてさぁ…なかなか実技ができないわけさ」
「大変そうだな」
「そうそう、これでも俺、真面目に頑張ってるんだよ」
話だけ聞けば、理事長がいないだけでここまで酷くなるのかと少し考える。そう言えばここ最近、チェルシアンの学生の態度が酷いという話は良く聞く。
一番はやはり、他種族嫌悪で引き起こす暴動。
学園内でもそこそこ喧嘩があるとは噂されていたが、戦争が始まってから人族と獣族の中は悪化する一方であったが、理事長がそれらを抑えていたおかげか小さい小競り合いが数度あるだけで済んでいたが、理事長が用事で学園を離れたことによって、それらは酷くなった。
小競り合いは学園内だけではなくこのラーネン都市内でもちらほらと見れた。
例えばとある料理店で食事をし、その料理が作っていたのが獣族だとか人族だと知り、いちゃもんを付けあげくの果てには魔法を使用し店を半壊したというのも聞いたことがあった。
「理事長がいなくなっただけでこれとは…
「はぁ…そうなんだよなぁ…早く理事長が帰ってこないと俺も俺で滅入る」
「でも逃げ出さないだろう?」
「そりゃそうさ…俺の生徒をおいて逃げるわけにいかねぇしな」
その答えにマーレは笑う。
「というより、俺が逃げ出したらあいつら三人だけになっちまう」
「はぁっ!?」
その言葉に思わず声を荒げるマーレに、ヴぁーレは不思議そうに、「ん、どうしたマーレ?」と尋ねられる。
「嫌ちょっと待て、お前の生徒は三人しかいないのか!!」
「あー…そりゃそうか」
仮面の頬当たりを掻きながら「そりゃ少ないよな」とこぼす。
「クラスで唯一の女の子がさ、試験官だった校長の顔に魔法をぶつけて、怒った校長が女の子に殴りかかろうとしたのを二人の男の子が止めたら反感を買ったわけさ」
「何だ…その校長の怪我でも酷かったのか?」
「嫌…その女の子の水属性だったおかけで怪我一つ無かったんだが、保護者達の前に立つからって張り切って着てきた一張羅を台無されて激怒…はやくやめてくんねぇかな…」
「…私ならば間違えて氷付けまでは行かなくても一週間ぐらい寝込ませる程度まで冷やしてしまうかもしれないな」
「おっかねぇなぁ…」
自分のことかのように両肩を抱き震えてみせるヴァールに「なんなんらやってやろうか」と視線が向けられれば「遠慮します」と丁重に断りの言葉がこぼされる。
そんな、くだらないやり取りに二人は何を感じたのか楽しそうに笑みをこぼす。
だが、そんな和やかな雰囲気は長くは続かず
「すいません!!」
ドンドンと強く叩かれた扉に切羽詰まっているような声に、和やかだった雰囲気は消し飛ぶ。マーレは外にいるものに「どうぞ」と返事を返せば、扉が壊れるのではないかと思うほど強く開かれた扉から流れ込むかのように3人の少年少女が転げ込む。
「やっぱり、お前等だったか…」
「せ、先生!!本当にここにいたんですね!!」
転げる三人のうち一番上にいる体格が良く尚且つぽっちゃりな少年がヴァールの存在に気づき声をかける。
先程扉を叩いたのはこの少年だなとマーレは思っていれば、その少年の下にいるもう一人の少年、髪色と同じ耳がピンと立たせた獣族の少年が怒りを含んでいる声で「テト!!早く下りろ重い!!」と震えながらも言葉を紡ぐ。その少年の下から、「はわはわ!!アルマさん頑張ってです!!」と少し青ざめる精霊族の少女が下敷きになっているも、どうやら獣族の少年が少女をつぶさないようにと両腕で何とか支えている状態であった。
だが限界なのかその両腕が危うく、震えているのが遠く離れているマーレからでも分かった。
下の少女も声でようやく現状を理解したぽっちゃり少年、テトが「うわぁぁぁ!!ごめんなさい二人とも!!」と悲鳴ににた声をあげ、上から降りる。
先ほどの声のせいもあり、開け放たれたドアから町の者がその様子をコソコソと覗きささやきあっている様子にマーレは
「三人共、中に入るなら早く入ってくれるとお店的に助かるのだけれども、なおかつ早急に扉を閉めてくれたら助かるんだけれども」
「ひゃぁぁ、すいません、すいません」
マーレの声によってようやく現状を理解した三人は慌てながら降り、店へと入り開け放たれていた扉を閉めるなか、今日は本当に客が来ないなと、本日の売り上げが最悪な事を容易く思い浮かべられた。
「何、騒いでるのって…何この状況…」
「…痴情のもつれ…?」
騒ぎを聞きつけたのか二階にいたクレアとアルスが一一階に下りてくれば、一階で繰り広げられる光景にそう言葉を漏らす。
「アルス…どこでそんな言葉を覚えてきた…」
だがマーレはこの様子を見て「痴情のもつれ」と言葉にしたアルスに聞けば「この前、こんな光景を繰り広げていた男女がいた時にクレアが教えてくれた」と正直に答えればマーレの視線は次にクレアに向けられるも、
「それよりもこの状況何とかしないで良いの?」
「…」
とワザとらしく話題を変えるクレアにマーレはため息をこぼしたかったが、それよりも目の前の光景にそのため息はより一層深いものに変わった。
+*+*+*+*+*
「た、大変なんです先生」
「うん…それは分かったからその内容をね、教えてくれないかなニーアちゃん?」
さっきまでもみくちゃにされていたマーレの知り合いのヴァールさん。
ようやく少し落ち着いたのか、嫌、何か思い出したのか人族の黒髪の男の子とたぶん髪の色が青から水色、綺麗にグラデーションになって、耳がとがっているこれは確か精霊族の特徴をしている女の子が「大変」という言葉を何度も口にしているなぁと僕らは見ていた。
そんな状況にしびれを切らしたのか
「ヴァール…これ以上、長引くのなら帰ってもけれどいいかな?」
「ちょっ、待てよマーレ!!こんな状況で帰らせるなんて鬼畜か?」
「鬼畜って?」
「あ、うん…あとで教える」
ヴァールさんが口にした言葉の意味が分からなかったアルスは僕へと視線を向ける。
たいていアルスはわからないことがあれば僕に聞いてくる。多分僕が、他の子供以上にモノを知っているからだろうってことだと思うんだけれども、しょうがないよね、前の人生は本とお友達だった時もあるからいろいろ知ってるんだよ。
寂しくはないよ…あの頃は母さん居たし…
過去の事を思い出しながら、マーレの言葉によって目の前の膠着状態が動き出す。
「すまない…許容範囲以上の出来事で慌てていたんだ…」
この中で一番身長の高い獣族の青年がマーレへと頭を下げる。
その様子に礼儀いいなと子供らしからないことを思うが、
「それは見ていて分かるけど…私はこっちだよ?君もかなり混乱しているね」
マーレの言葉同様、その獣族の青年はマーレの逆サイドを向いて謝罪の言葉を口にしていた。
それに、その場にいた者は引きつった笑みをこぼしつつ「話を戻そうか」とその場の雰囲気を切り替える為か、ヴァールさんは一度咳ばらいをこぼす。
「で、どうしたのかな三人とも?また他クラス、他学年がちょっかいを出してきたのかな?」
「そうなんです…同学年のSクラスの生徒を中心に追いかけて来て…」
「…今回の狙われる理由は?」
「すいましぇん…私がそのリーダーと思わしき人にぶつかって押し倒しちゃった事から始まって、あれやこれやと言われて、私捕まったら処女喪失らしいですぅぅぅ」
「あれやこれも気になるが…今回はまた度が越えて…」
「ですから先生に頼るほか無いと思った僕達は先生が最近入りびたりだって聞くお店に追っ手から逃げながらやってきたんです」
「ちょっと待て…」
最後のテトの言葉に思わず言葉がこぼれる。
「それって追っ手の人もいつかはここに来るのダハァッ!?」
目の前からやって来た柔らかい衝撃。
柔らかくもそれなりの重さのあるそれに、真正面からぶつけられ言いたかった言葉は途中で台無しになってしまった。
なにより、視界に移る白髪に、自分だけじゃなく隣にいたアルスもまたその総劇を受けたのかと思いつつも締め上げられているのか苦しく、なおかつ顔にはやわらかい何かを押し付けてくるために本当に息が苦しくて…
「ちょおぉぉぉ!!はなッッッ」
「…」
締め上げてくる女の子から離れようともがくも「きゃぁー」と黄色い声を上げながら占める力強まる。
そのか細い腕からどうしてこんなにも力強いんだよ?
そう思いながらも押し付けてくる柔らかいもの、人はそれを胸と、目の前の女の子は通常よりも胸が大きく何より、コルセットで強調されているそれに押し付けられて、ゲーム好きの男性ならば、何このラッキースケベはと思うだろうが、僕にとっては凶器にしか思えなかった。
そろそろ軽いトラウマになるんじゃないかと思っていた時に、
「…お嬢さん、息子たちを放してはくれないかな?」
「えぁ…きゃぁ!!ごめんなさい、私つい…」
マーレの言葉でようやく締め付けていた腕の力が緩めば、隣にいるアルスの腕を掴み後ろに後退する。
だが、締め上げられた位置が階段だった為に、後退してもすぐに壁だった為にそんなに距離は開けなかった。
だが言いたい、目の前の女に
「節度を守れ!!」
その言葉を言うとき顔が熱かったから多分顔赤いまま言ってしまったのではと思いつつも、それでもその言葉を言いたかったが、その女には逆効果だったのか「はにゃぁ、かわいいです」と聞こえてきた。
「ニーア…いい加減にしないか。それでどれだけ勘違いされてきた」
「そうだよ。あまり迷惑かけたらだめだよ」
「はぅ、すいません」
一緒に来た二人に注意される女、ニーアという人物。
落ち着いたのだと知っていながらもまたとびかかられるのが嫌で、僕らはマーレのもとレ時代の方へと非難する。
「まぁ、クーちゃんが言いたい事は分かる」
「…その呼び方やめてください」
二度目に来た時につけられたふざけたあだ名。
そのあだ名を呼ばれるために注意するるも、目の前の男は気にすることなく僕の事をクーちゃんと呼ぶ。
ヴァールさんはアルスのことをアッくんと呼ぶが、これについて僕は気に入っている。
「まぁ、安心しろ。こいつらの気配がした時点でもうすでに手は打っている」
「この店にはありがたくないが、人避けの魔法をここにかけている」
そう教えてくれた。
だが魔法が発動した気配もなかったために僕ら二人して「不覚」と答えれば、「次は察知の特訓でもしようか」と僕らの頭を撫でてくれるマーレ。
中身はいい大人だけれども、年をとっても人に撫でられるのはくすぐったいが気持ちがいい。
何か「ニヤケてんぞ、ジジバカ」と聞こえてきたが気にしない。
「だから、ここで30分か1時間ぐらいいればあいつらも諦めて帰るだろう」
「それはつまりお前もそのぐらいまで滞在すると」
「正解!!」
「凍らせるが異論はないな?」
おちゃらけの言葉にマーレの目が細められた。
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2019.02.07 本文 修正・訂正




