第2話 懐かしき来客
「はい、掃除をお願いね」
1階に下りて来た僕とアルスにキャロルさんは笑みを浮かべながら僕らに一本の箒を差し出す。
キャロルさんの唐突な発言にキョトンとしていれば僕の横から出てきた腕がキャロルさんが持っていた箒を掴んでいた。
「表の通りを軽く掃いてくれば良いの?」
「えぇ、お願いね。じゃぁ、クレアは私と一緒に店内の掃除でもしましょう」
「え・・・あ、はい」
どんどん進む会話に付いて行けずに、もうどうにでもなれと内心思いつつ、1階に置いてある掃除道具を取りに行く為に店内の奥にある作業部屋に向かう。
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「ねぇ、キャロル。マーレは帰り遅くなるって言ってた?」
「今日はギルド協会に顔を出すだけって言っていたからすぐ戻ってくるはずよ」
「マーレに何かようでもあったの?」そう尋ねてくるキャロルが口を開いた時、掃除道具を取りに行っていたクレアが「新しい雑巾どこにあるか知ってます?」と扉から少し顔を覗かせながら声をかけた事によってその会話は続かずキャロルは「ちょっとまってね」とクレアの方へと向かったから俺は外へと向かう。
扉を動かせばカランっと少し重たげな鈴の音を響かせつつ外に出る。
外は室内より明るく、自然と視線を空へと向ける。
「今日も良い天気だな…」
雲ひとつ無い晴天に思わず目を細める。
「おや、アルス君。今日もお店の手伝いかね」
「…おはよ、ございます…」
「あらあら、今日は一人なのね」
「クレアは中で掃除してます」
表を掃いていれば道行く人に声をかけられる。
この町に来てからクレア達以外と話す機会が増えた。
その理由は少なからず、住処を提供してくれているキャロルの影響だろうなと箒を動かしながら思う。
このラーネン都市に来てからもう7年が経つけど、この町で知り合った多くの人のほとんどがキャロルの
仕事の人達や友達、ご近所や、マーレのチームの人達や依頼者達、二人の交友関係のおかけが、俺たちに話しかけられることが多いが俺はあまり他人と話すことには慣れてないせいでほとんどはクレアが受け答えしている。
クレアは見た目は人族で俺も獣族に間違えられているらしく、ちまたでは人族と獣族の子供がつるんでいると奇妙な視線を向け、言葉を漏らす。
理由は知っている。二カ国、エンビディア国とパシオン国の戦が原因。
旅商人たちの噂話によると、
国境の戦いの敗北からエンビディア国はじわじわとパシオン国に領土を奪われていると。
戦争は今も続いており、その戦争のせいでただでさえ犬猿の仲であった人族と獣族はその仲をさらに悪化させ、現在両国の国に互いの種族を入国禁止、なお既に入国している種族については捕縛、一箇所に収容、最悪、奴隷市で売られるか何かしらの罪を押付け死罪にしているのだと。
その影響は旅商人たちにも出ており、商品の仕入れが難しくなると各々愚痴をこぼしていた。
「・・・あと少しかな・・・」
シュピーレン地区の大通りは真ん中が人や馬車が通れるように開けている。
その両端、建物から人3人分距離を開けた所に木が植えられその木は一定の間隔を開け、植えられている。
その木は店の前にも植えられており、店の前には葉や枝が店前に落ちる。
集めた葉を見ればまだ青々とした色をさせていた。
「そういえば皐月(五月)かぁ・・・」
春の陽気さを実感しながらポツリと言葉を漏らす。
そういえば、クレアが男達に襲われたのが卯月(四月)の半ば、もう半月が過ぎていた。
「本当に何で、俺はあそこにいたんだ?」
クレアが連れて行かれた後、必死に探しても全て空振りだった。
あの時、俺はクレアの事で頭がいっぱいだった。
早くそばに行かないと
そう強く思った時、右手首、クレアと交えた契約の印が熱くなったと思えば、次に感じたのは浮遊感、浮遊感が収まったと思えば目の前にはあの光景が広がっていた。
あの時は、気が動転して気にする暇もなかったが、落ち着いた後、何で自分は一瞬であの場に移動していたのか、何故印が反応したのかそれが気になりマーレに聞こうとするもマーレもまた依頼などですれ違いが多くその事を聞けてなかった。
「…そう言えば…あまり契約の事聞いてない」
右手首に視線を向ける。
この大陸ではあまりしられていないだろうが、もし知っている者がいれば危険な魔法だからとマーレに、隠していなさいと言われ、俺は布切れを右手首に巻き、クレアはチョーカーで隠している。
「今のうちに契約の事、聞いておかないと…」
次また同じことにあってもすぐに駆けつけれるように、嫌、そんな事を起こさない為にも少しでもこの力を知りたい。
「そこの少年」
「?」
右横からかけられた声に、自然と視線を声が聞こえた方に向ければ、
「え、あ、ッッッ!?」
思わず絶句してしまった。
話しかけてきた人物は明らかに、確実に変人、または不審者に該当してもおかしくない姿をしていた。
「ここにマーレって人が暮らしている宿を知らないかな?」
それはくちばしの様に口元が尖っている仮面をし、着ている服は下からきらきらしているせいか、それに反射し元よりキラキラ光っているのか分からない派手な服を着た男の人。
その男の人はどこか楽しげそうに雰囲気を醸し出していた。
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「で、何でこうなっているのかな?」
普通に、平常心で、目の前の不審者と間違えてもおかしくないだろう男に尋ねる。
「嫌々、君がこの地区にいるって風の噂を聞いてね。それで久しぶりに会いに来たのだけど誰に聞いても逃げられたり襲われたり…
それで、そこのえーと…白髪のワンちゃん君に話しかけたら、また理不尽に攻撃されちゃって、その後になぜか黒髪の子が出てきたと思ったら相手が二人になっちゃって…」
今の言葉を聞けば、悪いのはアルスとクレアなのだろうと私とて思う。
何せ建物はそう被害は無いものの、路面や木の幹や葉が所々、燃えた後や凍っている痕、明らかにそこで何かしらの戦闘をした痕跡が残っていた。
私達から離れた場所、店の入り口に、クレアやアルスは立っていたが二人の表情はどこか不安そうであったが、よく見ればアルスの服は汚れたり、頬に怪我をしたのであろう血を流した痕跡はあったが怪我は跡形もなかった。
逆にクレアはアルス同様、服が汚れており頬や足にかすり傷を負っているのが見て取れた。
その怪我は私と一緒に止めに入ったキャロルが傷の手当をしてくれていた。
「遊んじゃった、ごめんねマーレ」
「ふざけるなよ、ヴァール?」
ゴスッと音をたてたのは氷の矢であり、その刃先は先程ほどまでイラつかせる男性、ヴァールがいた所に突き刺さすように発動すれば、「あ・・・危ないな・・・マーレは」と表情はうさんくさいお面で隠れている為にわからないが、がその声音が僅かながら震えている事に何かしらの危機でも感じたのであろう。
「そんな不審者のような格好をするお前の自業自得だ!!よくも私の子共達を怪我させてくれた」
「ヒドイッ!!て、待て待て!!俺ただはじき返しただけで、俺から攻撃してないって!!」
「うるさい‼はじき返している時点で攻撃だろう‼当たってやるのが大人の役目だろう」
「ひどい‼」
「そ、そろそろ家の中に入りましょうか」
キャロルの声によって、意味のない言い争いに終止符が打たれる。
それと同時に。このやり取りが多くの者に見られていることに気づいた。
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2019.02.04 修正・追加




