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「これは何の騒ぎだ・・・?」
「え!?あ・・・」
ザワザワと騒ぎ立つ群集へと視線を向けながら近くにいた精霊族の女性へと声をかける。
女性は唐突な呼びかけにすっとんきょんな声を上げながらも「詳しくは分からないんですけど・・・」と声の主へと視線を向けた瞬間、女性の頬を赤く染まる。女性曰く「子供が柄の悪い男達に追われている」という話だった。
「子供・・・」
「見た目は分からないですけれど・・・でも先ほどから聞こえてきた話では珍しい組み合わせのようです」
「珍しい」
「はい。獣族の子供と人族の子供だって」
その言葉に男性、マーレはふと頭に過ぎるは今は亡き愛娘が残した子供と養子とした子供であった。
「私は用を思い出したのでこれで失礼する」
「あぁ・・・」
お礼の言葉を女性に送りその場を離れるマーレに対し女性は引き止めたかったのか腕を伸ばすがその手は触れる事はなく、その後姿を見送っていた。
+*+*+*+*+*
「まだ付いてくる」
後ろを振り返りまだ自分達を追っている男達を確認する。その言葉にもうすでに限界を迎えて、嫌もうすでに限界を超えている僕にはアルスの問いかけに答える気力がなかった。
「もう・・・あいつら、凍らせよう・・・」
「怒られる、それマーレさんにばれたら説教される」
生気の失われた目で言い放たれた言葉はどこか本気染みていた。
否、自分を散々蹴ったり殴ったり、あまつさえ服を駄目にされたという恨みが今に一気に来ていた。
「どうしよう・・・もうこの辺炎の海にして・・・あ・・・」
物騒な事を口に出すもふと見知った気配を察知したアルスは足を止めた。そう、急停止をしてしまう。そんな止まり方をしてしまえば引っ張ってもらっていた者がどうなるか。
そう僕は止まる事ができずにそのまま前方へとスライディングしてしまった。アルスがその事に気づいたのは時既に遅く「アルス!!」と親を殺された兵士の視線で睨むもどうやら当たり所が悪かったみたいで鼻血が出てしまう。
「ごめんクレア!!」
「ごめんですまない!!何で急停止したんだ!!」
「あぅ、その・・・」
「ようやく観念したかガキ共!!」
せっかく開いていた間も無駄に、男3人に追いつかれてしまった。
「このクソガキ共が良くもッッ」
「せっかくセットした髪型が無駄になったじゃないか!!」
ぎゃぁぎゃぁ騒ぐ男達に「そっちの方がお似合いじゃないか」と爆発頭となった髪型を指差し笑う。
「それにここで事を起こしてみなよ。後々面倒事になるよ」
周りに集まっている野次馬達の事を告げるも。「へぇ、それが怖くてこんなことできるか」とすぐ近くにいるアルスへと腕を掴もうとするもサッとその手を交わし僕のもとまで下がる。
「この獣が!!」
「ざんねん」
逃げられた事に腹を立て再び捕まえようと腕を伸ばす、だがその手は
「私の子供達に何か御用で?」
「なぁっ!?」
「マーレ⁈」
いつの間にかそばにいたマーレに捕まれ、目的の者を掴む事はできなかった。
「なぁ!?」
「嘘こくな!!どうみても似てねぇーぞ!!」
すぐ後ろにいた男が殴りかかるがその手を上へと流し開いた腹に先ほど腕を掴んだ男を叩きつける。そうすれば、2人はあっけなく地面へと倒れこむ。
「てめぇ!!」
リーダーらしき男は顔を歪めマーレを睨みつけるが、そんな睨みはマーレにとって小動物に威嚇程度の可愛いものだった。嫌、小動物並の弱さだが、その様子は小動物のようなかわいらしさは微塵も無い為、虫並と言っていたほうが良いかもしれない。
「ここで退散してくれれば私はこれ以上の深追いはしない。だけれども、君達が反撃とするのならば私は私の守りたい者を守る為に眠ってもらうよ」
浮かべられる笑み。そして、春の温かみがあったはずなのに急に冷え出した気温に周りにいた者達は体を震わす。
「お、覚えていやがれよっっ!!」
リーダーらしき男は恐怖を感じたのか尻尾を巻いて来た道を引き返していった。
「・・・忘れていかれたな・・・」
「・・・」
今だ先ほどの衝撃で失われた意識は浮上していない二人は見事にリーダーらしき男に見捨てられ道の端ですやすやとお休みしていた。
「二人とも大丈夫か?」
「俺は平気・・・でもクレアが・・・」
「あぁ、さっきの急停止のおかげで僕の鼻は大惨事だ」
まだ鼻血が出ているらしく鼻の部分を押さえながら血が服に付かない様に立ち上がる。
「何で二人とも追われていたんだ?」
「・・・」
聞かれた質問に押し黙るも
「クレアがそこの奴らに襲われかけたから死なない程度に燃やしたんだけどうまく気絶しなく」
「追われた」とアルスは理由を話す。理由を聞き終わるごろには周りが真冬ではないかと言いたくなるほど寒くなり、薄着の物が多い群集は我慢の限界を迎えたようでその場を退散し先ほどの群衆が嘘のように人の数が一気に消えた。嫌、この通り人がいなくなった。
そして、この原因を作り出したマーレへと2人は視線を向ける。
「ほぉ・・・それは由々しき事態だ。ふむ、このような事を二度としないように両手か両足を軽く凍傷にでも追い込んでやろうか」
「すいませんですからそんな事をしないであげてください」
何か僕も似たようなことを言ったような気がするけれどもこんなにひどくはなかった。
「はぁ・・・まぁ、2人が反撃しなかった理由は分かりやすいけど・・・まぁ・・・」
ふわりと包まれた匂いと温かさに2人はマーレに抱きしめられているのだと感じた。そして耳元から聞こえてきた
「無事でよかった」
その言葉に2人はホッと息を零し、無意識ながらもマーレの背に手を回していた。
その後、3人仲良く帰宅すれば出入り口となっている装飾屋のレジで二人の帰りを心配しながら待っていたキャロルさんがボロボロの僕を見て何事だとだと騒ぎ出すのは言うまでもなかった。
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