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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説

侵略者は死んでね

作者: きらと

やるなら、とことん捏造しましょう。物語の神は作者だからだ!

 そこは地球と同じ地形だが、見知らぬ星々の煌めく惑星で異世界だった。地球ではソヴィエト連邦の崩壊で冷戦は終わりアメリカ合衆国の一人勝ちと言えたが、ここでは封建制度が未だに存在し王を神の代行者として信奉していた。王様と貴族が支配する世界である!

 権力を握ると特権意識の増大と腐敗を生む。2015年、アルギニン最古の王朝であるバーシア王国が日章旗の旗の下に屈服した。特権階層に虐げられた民衆が解放されたと歴史には記述される。

 白い尾を引き蒼空を駆け抜けるラファール戦闘機の編隊があった。翼に描かれた真っ赤なミートボールを忌々しげに見つめていた民衆は視線を通りに戻す。地響きをあげて王都の大通りを行進するのは、環境に優しい10式多脚戦車や機動戦闘車、各種装甲車、極めつけが軍靴の足音を響かせる超日本帝國軍サイボーグ兵士の隊列だ。

 この式典は支配の象徴である力の誇示だった。

 主を代えた王宮。総督府の広場に設けられた観閲台で、群衆の歓声に手を振る黒髪の青年がいた。そこに居る民衆の全員が彼を支持している訳ではない。くそったれな偽善者と内心で罵られて居ようとも彼は笑顔を浮かべている。

 超日本帝國から派遣されたアルギニン解放軍を統べる17歳の若き指導者、第3代総督の廣瀬勝海少将。公爵家の生まれで次期宰相とも噂される。若年者は侮られ易いが宮中政治も取り巻きと上手くやり、王政を掲げた国々を平定した手腕は国家代表に相応しい。彼によって新しい歴史が作られる。

 この世界との接触は勝海が物心つく前から始まっていた。1999年、日本は異世界へ繋がるワームホールが開き、以後約15年間に渡る戦争に勝利して惑星全土を支配した。バーシア王国がこれまで放置されていた方が奇跡と言える。




 15年前に突如としてバーシア王国の沖合いに現れたワームホール。その先は弧状列島に繋がっていた。そこは新天地ではなく、アルギニン諸国を遥かに越えた高度な文明と軍事力を持つ帝國が存在する。その名を超日本帝國と呼ぶ。

 嵐の夜に、突如としてバーシアの沖に出現した未知の島国。その存在は宮廷を揺るがした。

「日本と言ったか」

 拿捕した漁船の乗員を賢者が尋問した結果、日本の事を知ったバーシア王国の貴族達は、他の国に征服される前に領有しようとした。

「やりましょう! これは神が与えた好機です」

 即断即決と、異例の早さで遠征が決まった。

「今なら他所より早く動けます!」

 国内の不協和音を外征で意思統一すべく宰相チョッチョチーナは動いた。貴族の野心とチョッチョチーナの思惑が交差した。ワームホールが開通して五日目の事だった。

 超日本帝國帝都名古屋には皇帝の居城である名古屋城がある。この城は100年以上前の皇帝が、神から授かった力で設計し有事に海老フライ型のシェルターに変形すると伝えられていた。

 その名古屋城に近い国会議事堂で皇帝の代理人として執政を行う内閣総理大臣松葉聡公爵に、正体不明の敵と交戦したとの知らせが入った。この時まで日本側はワームホールの存在にすら気が付いていなかった。

「海上保安庁の巡視船が、領海に侵入した不審船と交戦したとの事です」

 第九管区海上保安本部に所属するあそ型巡視船「あっそう」が相手にしたのは木造船舶だったが、攻撃して来たため反撃し沈めた。武器使用基準の判断は適正だったと言う事にほっとしながら、「相手はどこだ?」と尋ねる松葉公爵に返ってきた言葉は意外な言葉だった。

「アルギニンのバーシア王国だそうです」万能翻訳機ほんやくんのお陰で捕虜の尋問はスラスラ行った。

 松葉は国際情勢には明るい方だと自負していた。だが見知らぬ地名と国名に「何処だったか」としばし考えた。偽証して捜査の目を眩まして混乱を狙い、その間に本格的な侵略が始まる可能性も考えられた。ともかくは総理大臣の権限を持って、帝國全軍に甲1種待機を命じた。



「何だこれは」

 早期警戒管制機のレーダーに次々と数を増して現れる飛行物体があった。視認距離で確認したのは空気中のエーテルとバラムツの油脂を燃料とした空中艦隊である。ワームホールの存在を初めて確認した瞬間である。

「全部上げろ、出し惜しみは無しだ」

 超日本帝國空軍北部航空方面隊第3航空団第8飛行隊に所属するラファール戦闘機が迎撃に向かったが相手の数が多過ぎる。高価なミサイルで木材で出来た空中艦を落とす。費用効果が悪すぎた。新田原、三沢、百里の飛行隊も駆けつけるが射ち漏らした艦は佐渡島に兵を降ろした。

「敵の主攻は佐渡島に向かっており、本州への脅威は無いと判断できます。陽動も無しに佐渡島まっしぐら、これでは猿でも丸分かりですね」

 帝國軍からの報告に松葉公爵は顔を歪める。

「しかし佐渡島が危険に晒されている事には変わらん」帝國臣民である佐渡島の住民を見捨てる事は論外だった。現実的に速やかな反撃と安全確保が望まれる。



 佐渡島沖合いに超日本帝國海軍の双胴航空護衛艦「翔鶴」「瑞鶴」「瑞鳳」「翔鳳」を中核とした神聖聯合艦隊が展開していた。三段の飛行甲板はマルビナス解放戦争で有用性が広まり、世界的な空母の標準仕様である。空母機動部隊が佐渡島周辺の航空優勢を確保し、上陸が始まった。

 AS-532多用途ヘリコプターから帝國海軍海兵隊偵察中隊の熟練したサイボーグ兵が飛び降り周囲を確保すると、多田海水浴場にLCACが上陸し戦闘車輌を吐き出した。航空優勢を確保し、上空にはラファール戦闘機とトーネード戦闘爆撃機が飛び回っていた。真野湾と両津湾を封鎖した護衛艦が都市部を制圧する敵地上部隊に砲撃と巡航ミサイルの攻撃を行っている。牽引砲や自走砲、多連装等の砲兵を持ち込む必要が全く無い。

 敵が多数待ち受ける中で上陸するのは第二次世界大戦までだ。帝國軍海兵隊1個連隊が先行し橋頭堡を拡大する。敵の盲点を衝いてがら空きだった。あゝ、さすがは精強な海兵隊である!

 海兵隊が上陸開始から二時間が経過した。航空優勢と言う事もあって、後続の陸軍が上陸し南の沿岸部は帝國軍の勢力圏となっている。上陸部隊を指揮する金田拓也海兵隊大佐と田中一成陸軍少将は笑顔で指揮所にいた。

「ここまで予定通りだと、わざわざ遠回りしなくても良かったかも知れませんね」

 兵士の数だけなら敵の方が多い。だが高度に機械化されたサイボーグ兵士は、常人の100や1000人は倒せるだけの能力が備わっていた。敵を過大評価し過ぎていたと田中は内心で認める。

「そうだな。敵の抵抗は軽微だ」そう言うと金田大佐と笑みを交わした。

 揚陸は予定通り進行し、内陸部に進撃を開始したが敵は散発的に抵抗するだけで降伏するか逃げ出している状況だった。

「こんなにバーシア軍が脆いとはな」

 田中の言葉に幕僚が答える。

「火器が発展途上の軍隊ですから、ゲームでLv最大値のキャラクターと初期値のキャラクターが戦う様な物ですよ」戦車や装甲車を持たない相手では脆い。

「確かにそうだな」

 日本側の空気は極めて明るい。

 佐渡空港に残っていた敵の航空戦力は地上撃破されている為に脱出の手段は残っていない。だが空港周辺の田畑には全島の兵力をかき集ねて配備していた。これに対して帝國軍の進攻は素早かった。帝國軍は10式多脚戦車と機動戦闘車の機動力で佐渡島市街に侵入した。衛星だけではなく、現地に隠れていた住民の協力による情報提供やUAVのRQ-14ドラゴンアイにより正確な情報があった。

 障害があれば展開する艦隊から航空支援と火力支援が行われ、すぐに排除される。火力で勝る帝國軍を相手に戦闘したバーシア軍は、手痛い損害受けて無謀と勇気の違いを学んだ。




 夕日が地平線に沈んだ午後18時。帝國軍の夜間攻撃が始まった。暗視装備の充実した帝國軍は、昼夜を問わず攻撃する姿勢だ。

 バーシア軍の前哨から見て帝國軍の動きは異状だった。

「あいつら、俺たちを寝かさないつもりか」

 石弓、投石機、僅かな砲兵を投入するがバーシア軍の攻撃などどこ吹く風と言った感じに、戦闘車両の群れが煌々と灯をつけて前進してくる。

「持てる者の余裕か……」

 前哨陣地で警戒していた歩哨はこちらに向かってくる飛翔体を捉えた。昼間に散々目撃したミサイルで、警報の声をあげようとした

 HAD攻撃ヘリコプターのTrigat-LR(第3世代・対戦車長距離ミサイル)により、前哨の兵士は吹き飛んだ。夜でも関係が無い。

 遠征軍司令部で公爵は被害の大きさに頭を抱えていた。相手の戦力を見くびって戦争を始めてしまった。その事を悔いたが失ったものは戻ってこない。シマムラ騎士隊、アオヤマ騎士隊の精兵。シューマッハ、パンチョと言った有力貴族がかの地で討ち取られ、王軍の威信は低下した。

「閣下。このまま座して死を待つつもりですか?」参謀の一人である若い貴族が、遠征軍司令官に詰め寄った。

「分かっている。だが、明らかに火力で劣っている」

 それが兵器で魔法ではない事も理解している。

「我々にも貴族の意地があります」

 残された兵力は大隊にも満たない騎兵と歩兵だけであった。それでも戦わねばならない。それが貴族の務めだった。

 持久戦を考えていた司令官だが、部下の貴族は華々しい突撃を求めた。戦果拡張に繋がらない突撃は無謀でしかない。

「我々は誇り高きバーシア軍として敵に一矢報い、最期を迎える。死を怖れるな、今こそ王家の御恩に報いる時だ」

 王都の方角に向かい、女王陛下万歳とバーシア王国万歳を三唱し、ケインズ公爵の号令で各員が飛竜や騎馬に搭乗する。

 徴兵された平民の兵士達にとっては傍迷惑な貴族の誇り。見栄の為に降伏を許されない。バーシア軍は砲弾と爆弾の雨が降る中、帝國軍目指して突撃を開始した。見る見る内に痩せ細る戦力。

(エレーヌ、先に逝く事を許してくれ)

 心の中で妻に詫びながらもケインズ公爵は、憑き物が取れたように晴々とした笑顔を浮かべていた。もちろん自己満足に過ぎない。



 佐渡島でバーシア王国の遠征軍を殲滅し、圧倒的な力を持つと知らしめた超日本帝國。戦時賠償としてバーシア王国の沿岸部を99年間租借した。そして思想的侵略はアルギニン全土を巻き込んだ。

 帝國では農奴解放と権利が保証されていると言う事で、扇動された平民達が暴徒となって王や貴族を襲った。王への忠誠や神聖化と言っても土壇場になれば人間の醜悪さが見えてくる。

「私達が何をしたと言うのよ!」

 使用人や農奴に襲われる貴族の姿があった。貴族の矜持か、卑屈な態度を微塵も見せないのは天晴れだが、この場合は逆効果だ。

「お前ら貴族は存在自体が罪なんだよ」 そう言って女は性のはけ口として陵辱され、男は殺戮された。血に酔った平民達の暴虐は尽きることを知らず、貴族と言うだけで老人や年端も行かない子供達さえ殺戮し犠牲となった。

 その後は、平和維持として超日本帝國から派遣された治安部隊が秩序を回復すると言うルーチンワークだ。

 2015年、遂にバーシア王国で革命が起きた。日本人の手引きがあった事は明白だ。王都は制圧され、主権は日本に渡された。面白くないのは既得権益を奪われて没落する貴族達で、生き残った王党派の貴族達は日本の間接侵略を批難してバーシア王国の解放戦争を始めたが、近代兵器で武装した日本を相手では勝ち目が無かった。

 手を振る勝海に後ろから声をかける者が居た。

「エルクーナの処刑は滞りなく行われました」エルクーナとは旧バーシア王国最後の王女だ。

「ご苦労」勝海は満足気に答えると総督の執務室として与えられた王の間に戻った。プリントされた報告書を確認すると、手を置き窓の外に目を向ける。

 眼下に広がるのは王都の市街。市内の建物は多くが戦禍によって崩れ、再建の途上だ。エルクーナと言う精神的指導者を失ったバーシア残党の匪賊は活動を低下させると考えられた。

 遠くで光の反射で光る物があった。

(狙撃手のスコープ? いや、警備か)

 勝海が気付いた時、頭が吹き飛んだ。

「総督!」

「総督が撃たれたぞ!」

 将来を嘱望された勝海の最後は呆気ない物であったが、遺体は本国に送られ名誉の殉職として国葬される事となった。

 次の総督がゲリラ狩りを苛烈に行う事だけは間違いない。前任者と比べられ、目に見える成果を求められるからだ。

 権力者は死んでも代わりが居る。椅子を求める者が尽きない。

 次の瞬間に椅子を失ってるかも知れない。

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