表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第二話

 妹を見送り、家の用事を全て終わらせた結城はスーツを着込んで外に出た。まだ五月だというのに日の光が肌を焼きたまらず上着を脱ぐ。さも出勤途中のサラリーマンを演じ堂々と交番の前を通った。何故か書類を書いていた警官が訝しむように結城を睨んできたが、結局は何も言ってこなかった。

 駅で地下鉄の切符を買う時も、電車に乗ってぼんやりとしている時も、感じる視線。彼等は、黒い羊が一匹いる、そんな風に見てくる。自分達が白い羊側だと、当然のように思い込んでる。

 どんなに間違った意見や行動でも、多数の人間が是になり、少数の人間は切り捨てられる。それが怖くて皆多数の側につき、他は変人扱いされるのだ。小数の人は頑張って生きて行く奴と、自分のような犯罪に手を染めるもの、そしてもう一つは――。


「やめだ、くだらねえ」


 電車を降りた結城は吐き捨てるように呟くと、こんな事を考えるしか慰められない自分の脆弱な心を呪った。




★☆★


「おはようございます葉賀さん、少々お待ちください……はい、お待たせ致しました。仕事の依頼は七件来てますね。全てご確認されますか?」


「お願いします」


「それと昇進の話が葉賀さんに来てますが……」


「結構です」


 受付嬢は一瞬だけ顔を歪めたが、すぐに営業スマイルを浮かべる。流石プロだなと結城は思った。心の中では罵詈雑言の嵐だったが。

 適当に選んだ仕事を受付嬢が申請してる間、手持ちぶさたに結城は辺りを観察してみた。携帯片手に忙しなく動き回る者、ソファーに座り何か会話してる者達、受付嬢を口説き、平手打ちをくらって喜んでいる者。誰が信じるだろう。ここにいるのは、裏の業界にどっぷり浸かっている奴らしかいないということを。似たような組織が、世界中に散らばっていることを。


「お待たせ致しました。こちらが今回の仕事内容になります。読み終わったらいつも通り処分してください」


 書類を鞄に突っ込んだ結城はすぐに自動ドアを抜け、なんの変哲もない会社にみえるビルを足早に出た。人が多く、欲望に満ち溢れた所。そんな場所に居るのは耐えられなかった、正直二度と来たくない。しかし法に触れ危険と隣り合わせの仕事だが金にはなる。奴から妹を引き離すためにも、羊に紛れ込めない自分が大金を集めるためにも、俺にはここしかない。

 そう、思い込む。小さい奴。心が弱い。まるで小悪党。

 正義の味方の物語なら、真っ先にやられるタイプだろう。いや、存在すら認識されないかもしれない。誰にも気付かれず、ひっそりと物語から消えていく、そんな役。


「この世に正義の味方なんていない」


 人混みの雑踏の中、小さく呟く。

 もし正義の味方がいれば、世界は変わっていただろうか。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ