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星の光が届く頃  作者: 美月
第二章
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誘拐

 鈴音は深いため息をついた。

 藤堂と千代はどこかへ出掛けて行った。ゆっくり話が出来るところへ行ったのだと思う。

 千代はとても素敵な女性で、鈴音なんかとても敵いっこない。鈴音の気持ちはすっかり沈んでいた。

 夕暮れ前に家に着くようにと早めに試衛館を後にした。少し、一人になりたかった。

 鈴音が歩くと、帯に付けた藤堂から貰った根付けが揺れる。それを感じるたびに胸が痛くなった。


「…………!」


 途中まで気づかなかったが、後ろに人の気配がする。鈴音が早足になると早足に、ゆっくり歩くとゆっくりになり、一定の距離を空けてついてくる。

(一人……ううん、二人……?)

 早く帰りたくて、近いが人気(ひとけ)のない裏道を選んだことを後悔した。一人で歩くなら、少しでも人通りのある道にするべきだった。運の悪いことに、今、ここには誰もいない。

 もう少し歩けば人通りのある通りに出る。そしてそこには粕谷診療所がある。

 鈴音は尾行に気付いたことを気付かれないように注意しながら歩く。

 あと少しで通りに出るというところで、後ろの気配が動いた。今までは一定の距離を取っていたのが急に早足になり、距離を詰められる。

(……追い付かれる!)

 鈴音も走り出すが、相手の方が足が速い。

(殺気……!?)

 鈴音が左に避けると同時に木刀が降り下ろされた。避けなければ頭を打たれていた……。鈴音はゾッとした。

 振り向くと男が二人。鈴音が避けたことに驚いたようだ。その隙をついて再度走るが、今度は帯を捕まれて体が前につんのめる。

「誰かーー……うっ」

 大声で叫ぼうとしたが口を塞がれた。そしてもう一人の男に鳩尾(みぞおち)を殴られ、鈴音は意識が遠退いて行った。


 ☆


 藤堂は千代を家に送り届けたあと、試衛館に戻ろうと裏道に入った。

 話を聞くと、千代の父親は騙されて借金を作ったようだ。その借金のために千代が身売りする……。その騙した男を捕まえれば何とかなりそうだが。

「……ん?」

 女物の草履(ぞうり)が落ちている。しかも汚れている。争ったあとか?

 そういえば少し前に、この辺りで斬られた娘の遺体が見つかり、粕谷が検死をしたと聞いたことがあった。しかし、この草履はその時の物ではないだろう。

「……これは……」

 草履が落ちていた先に、鈴の付いた根付けが落ちているのを見つけた。

「鈴ちゃん……?」

 藤堂が前に鈴音にあげたものとよく似ている。

「平助!」

 前から土方がやって来た。

「お前、鈴音と一緒だったか?」

「……いえ。今日は俺、別の用事で……。どうしたんですか?」

「暗くなっても家に帰ってねえんだと。で、今、試衛館に行ってきたんだが、疾うに帰ったと」

 土方の話を聞き、嫌な予感がだんだん現実味を帯びてくるのを感じた。

「…………土方さん。これ……」

 草履と根付けを土方に見せると、土方の顔色も変わった。


大作兄(だいにい)!この前検死したっていう辻斬りのこと、詳しく教えてくれ!」

 土方と藤堂が粕谷診療所に飛び込んできた。

「なんだ、藪から棒に!?」

 粕谷が驚いて出迎える。

「ゆっくり話してる余裕はないんです!お願いします」

 粕谷は二人に掴みかかられて目を白黒させた。


 ☆


 殴られた腹に痛みを感じて、鈴音は身を起こした。体は縛られていない。

(どこ?ここ……)

 暗闇に目が慣れると、だだっ広い場所に閉じ込められていることが分かった。

「起きたな」

 男の声がした。

「お前は、藤堂と一緒にいた女だな」

「……あ」

 後藤二郎だ。そして後ろにはあの時も一緒だった男二人もいる。

「……私をどうするんですか」

 つい、声が震えた。

「そうだなぁ。楽しんでから試し斬りっつーのも飽きてきたし……」

 後藤がしゃがみ込んで鈴音を舐め回すように見る。

「お前を(おとり)に藤堂を呼び出すのも面白いかもな」

 後藤の口ぶりから、最初から鈴音を狙った訳ではないようだ。本当に、あの場所にいたことが悔やまれる。

「平助さんを呼び出して、どうするんですか」

「アイツには借りがあるからな」

 後藤は自らの左腕を擦った。

「あなたの自業自得じゃないですか」

 鈴音が言った瞬間、頬を(したた)かに殴られ、体が横に吹っ飛んだ。

「う……」

 柱に頭をぶつけて鈴音は呻いた。

「女の癖に生意気な口をきくからだ」

 後藤が冷ややかな目で鈴音を見下ろす。そして男二人に

「こいつはお前らが好きにしていい。顔を見られたんだ、最後は斬って捨てろ」

 言い捨てると出て行った。

「……」

 残された男たちは鈴音を見るとゴクリと喉を鳴らして近づいて来る。鈴音はジリジリと後ずさるが、やがて壁際に追い詰められた。

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