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星の光が届く頃  作者: 美月
第二章
16/36

藤堂平助と千代

 鈴音と藤堂が試衛館に行くと、もう一つの事件の話題で持ちきりだった。

「団子屋が潰れるらしいぞ」

 道場に入ってきた二人の姿を見ると、原田とアヤが飛んできた。

「団子屋って?」

「ほら、あそこだよ。玄武館の近くの、お千代さんがいる……」

「あ」

 思い出した。前にアヤと行った時に偶然、原田と会ったことがある。あの団子屋だ。

「でもどうしてですか?あんなに繁盛してたのに……」

 千代目当ての男性客が多かったが、団子の味も良く、潰れるとは考えられない。

「噂じゃ、店の旦那が騙されて借金こさえたって話だぜ」

 原田とアヤが今日、団子を食べに行ったところ、店に借金取りが押し掛けていたらしい。

「原田さん。じゃあお店の人たちは……」

 何故か藤堂が顔色をなくしている。

「さあ……。お千代さんは身売りするって話は聞いたが……」

「ゴメン原田さん。今日は鈴ちゃんのこと頼むよ」

「お?おう……」

 原田の返事を聞くや否や、藤堂は道場を出て行ってしまった。

「平助さん!」

 鈴音が後を追うが、道場の外に出た時には既に藤堂の姿は見えなくなっていた。

「藤堂さん、どうしたのかしら」

 アヤが首を傾げる。

「平助はもともと玄武館の門弟だったから。お千代さんとも顔見知りだったのかもな」

 原田が言った。

「顔見知りってだけであんなに慌てる?」

 すると後ろから永倉新八が話に入ってきた。

「ありゃ、昔何かあったな」

 永倉は原田と同じ試衛館の食客で、神道無念流の免許皆伝だ。原田と気が合うようで、しょっちゅう一緒にいる。

「何かって……?」

 道場の中に戻った鈴音が永倉に尋ねる。

「何かって、そりゃ昔の恋人とか」

「えっ……」

 藤堂と千代、考えもしなかった二人の繋がりに鈴音は言葉を失った。

「玄武館ってお月謝高いんでしょ?藤堂さんってお坊っちゃんなのかしら」

 アヤが言う。

(そういえば私、平助さんのこと何も知らない……)

 アヤたちの話す声を聞きながら、鈴音はぼんやりと空を見つめた。



 ☆


 それから3日、藤堂は診療所にも試衛館にも姿を見せなかった。

「珍しいな。平助が顔を出さないなんて」

 原田が言った。

 いつものように鈴音が試衛館に行くと、原田と永倉、沖田が道場内で座って休憩しているところだった。

「そうでもないでしょう。平助はもともと山南さんの縁でここに来るようになっただけだし。今までだって気まぐれでここに来たり来なかったりで」

 沖田が言う。

 山南は藤堂の兄弟子で、北辰一刀流を修めたあと、近藤の人柄に惹かれて天然理心流に弟子入りした変わり者だ。その山南を追って、藤堂は試衛館に出入りするようになったらしい。

「じゃあ、平助さんは今は玄武館に?」

「違うだろ。あいつ、もともとは玄武館に行っていたが、今は神田の伊東道場の預かり弟子だぞ」

 永倉が言った。

「えっ」

「なんだ。聞いてねぇのか?」

 永倉は意外そうな顔をする。最近、鈴音と藤堂は一緒にいることが多いので、てっきり聞いていると思っていたらしい。

「……平助さん、そういう話は全然しないから……」

 本当に、自分は藤堂のことを何も知らないのだと思い知って、鈴音は落ち込む。

「鈴音ちゃん。いいこと教えてあげる。立ってみて」

「……は……?」

 突然の沖田の言葉に、鈴音だけでなく原田と永倉も戸惑う。

「いいから、立って」

 鈴音が立ち上がると、沖田が背後から羽交い締めにし、竹刀を鈴音の首もとに当てる。

「おい総司、何するつもりだ」

 原田と永倉がぎょっとして止めに入るが、沖田は気にしていない。

「さて、問題です。この状態から逃げ出すにはどうしたらいいでしょう?」

「えっ……」

 こんな状態になったら、もう殺されるしかないような気がする。

「例えば鈴音ちゃんが人質になったとして。原田さんと永倉さんは助けたくても手が出せないとしたら?」

「……ふぅん。なるほど、面白いな」

 永倉が顎に手を当ててニヤリと笑う。

「鈴音。難しく考えなくていい。総司を一瞬怯ませることが出来ればいいんだ」

 永倉の助言に鈴音は必死に頭を働かせる。

(この状態から、怯ませる……)

 頭突きを考えたが、そのためには一度頭を前に出さなければいけない。ここでそれをすると、喉を切られる。手は使えない。

(そうすると、足……?)

(すね)!脛を蹴る!」

 脛は弁慶の泣き所。女の力でも怯ませることくらいは出来るはず。

「惜しい。確かに脛も攻撃対象だけど、相手がすね当てをしていた場合はそれが効かない。鍛えることも出来ず、武装していても無防備なところがあるんだ」

(……無防備……?)

 甲冑(かっちゅう)に身を包んだ人を想像した。

「……あっ」

「わかったみたいだね」

 沖田が微笑み、鈴音を解放する。

「せっかく剣術習ってるんだからさ、いざという時に自分の身くらい守れるようになってた方が良いと思うよ」

 沖田は言うと3人を残して道場を出て行った。

「総司は総司でお前を元気付けようとしたんだろ」

「あいつ、剣術バカだからなー。こんな方法しかわからねぇんだよ」

 原田と永倉が苦笑いする。

「……でも、気持ちは嬉しいです」

 鈴音も笑う。

「原田さん、永倉さん。今日、練習日じゃないですけど、付き合ってもらえますか?」

 鈴音は竹刀を手に取った。

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